この記事でわかること
- 攻守ともにに後手に回ってしまった理由
- 浦和の修正と必要だった大胆さ
- 勝機はあったトランジション
- 相性の悪さ
五輪中断期間を経て迎えた約1ヶ月振りの公式戦。大型補強を敢行した浦和は否応なしに期待が高まっていましたが、結果は2-1の敗戦でした。
その内容も事前の期待からすると落胆を感じるものだったと思います。
正直なところ、コンディションの問題もあったと思います。しかし、札幌のビルドアップに対する嵌め方、マンツーマンディフェンスに対するボールの進め方など、事前に準備したであろうことが機能せずに劣勢に立たされた面もあったと思います。
その中でも、浦和は飲水タイムやハーフタイムで修正を加えています。なぜ劣勢となったのか、どのような戦術的な修正を加えたのか、振り返っていきます。
前半 - 構造的に後手に回った浦和
捕まってしまったビルドアップ
浦和サポーターもよく知るミシャが率いる札幌ですが、守備では特徴的なマンツーマンディフェンスを敷いてきます。
組織を敷いてスペースを管理しながら人を捕まえに行くのでははなく、前線から人を順番に捕まえ、担当者を決めていくような流れです。
今節では、小柏とチャナティップが岩波と槙野+西川をマークすることを起点にしていました。
浦和の狙いとしては、人に付いてくるならそのまま前に来てもらい、札幌の後方にスペースを作ろうとしていたと思います。
スペースがあったとしても、札幌は人がべったりとマークしてくるので完全にフリーになれるわけではありませんが、そういった状況でもボールを収めることができれば良いわけです。
興梠や明本が前線で起用された理由もここにあると思っていて、いわゆる「背負って受ける」状況でも仕事ができる人選でした。
しかし結果としては、そこに至る過程で苦しくなってしまう場面が多くなりました。
基本的には岩波や槙野、西川からボール保持がスタートします。
ただし、パスの出し先ではマークにつかれているので「良い状態」で受けられそうな味方はいません。
その分、落としのパスやコースを作ってひっくり返すことは狙っていたと思いますが、降りてくる選手にパスを出したところで詰まってしまいました。
良いボールの運びができないと、良いボールの失い方ができません。すると、ボールの再回収を敢行する準備が整えられず、札幌にボールが渡る時間が長くなりました。
嵌められなかったビルドアップ
札幌もボールを持って試合を進めたいチームですので、意図的な守備を実現してボールを取り返す必要があります。
札幌は基本的には5枚が前線に残って5レーンを埋め、ビルドアップではGKの菅野も積極的に参加。両CBは大きくサイドに開いてSB化し、中央のCBとボランチの駒井と深井が中央を担当するお馴染みのミシャ式です。
これに対して浦和は引くのではなく、前から嵌めようとする姿勢を見せました。4−4−2の初期配置から興梠と江坂が中央のアンカー的な駒井or深井、GK菅野を担当し、SHの関根と明本を前に出してCBの宮澤らにプレッシャーをかけるやり方でした。
開始直後の1:15では前にずれたSH裏を敦樹が詰めて回収することに成功したものの、札幌のビルドアップに対する数的不利を解消する追い込み方ができず、前線4枚の背後、主にSH裏を逃げ場として使われて前進を許す場面が増えました。
前にズレたSHの裏を逃げ場として使われないためにも、敦樹と柴戸がカバーする必要があります。しかし、この2人の背後には1トップ2シャドーが控えており、まずはここを封鎖しなければいけません。
そういったタスクをこなしながらですので、遠い場所である田中と福森へのプレッシャーはどうしても遅れる場面が目立ちました。
先制点もその形で、前から追い込みをかけたところを明本の裏を使われ、撤退を余儀なくされます。4−4−2の形で撤退すると5レーンを埋めるミシャ式との相性は悪く、大外のサイドに振られてクロスを許し、CKを獲得されて失点しました。
飲水タイムでの修正
飲水タイムを迎えた浦和は守備の追い方に修正を加えます。SHが前から行くことは変わりませんが、最初の立ち位置を4−3−3気味に変更し、敦樹と柴戸のタスクに江坂が加わります。
興梠が中央をケアしながら、その横をSHが追う形にし、SHの背後を江坂を加えた3人がカバーできる体制を整えました。
それでも29:00では、これまでと同じように田中を逃げ場に使われてしまう場面もありました。
敦樹が前に行くように指示が出ていたところを見ると、前から追い込む方法を落とし込もうとしていたことは事実ですが、やり切れない場面が続きました。
また、江坂をIHの位置に下げたことにより、撤退した際の守備にも改善が見られます。
中盤に5枚が並ぶ形になり、興梠の脇から縦のパスを刺された際のコースを狭くすることができました。
38:55では浦和MFラインの背後に刺そうとしたパスをカットすることに成功しますが、残念ながらカウンターに繋げ切ることができませんでした。
後半 - 重心を前に、決め切りたかった決定機
後半、浦和はさらに前から追い込むための修正を加えます。
興梠がGKまで行った時の背後のスペースに対して、柴戸がより積極的に前にズレるようになりました。
開始直後の47:50ではこれが奏功し、駒井からボールを奪って決定的な場面を作ることに成功。
興梠のループシュートが不発に終わりましたが、相手が浦和の修正を認識する前に、その修正で決定機まで繋げることはできました。
前進の方法に関しては、前半の飲水タイム後から西が中央へズレて相手のマークの基準をズラしたり、SHやSBを前に出して相手を留めながら、中央のスペースへ降りた興梠が受けるなどのパターンで前進すること自体は増えていました。
しかし、ゴールに値するような回数・質があったかと問われると、そうとは言い切れない状況ではありました。
札幌のマンツーマンは担当が決まったらどこまでも付いていく、いわゆるオールコートマンツーマンではありません。マークの受け渡し自体は発生し得るので、その回数を意図的に増やせたら良かったかもしれません。
そのためには縦の動きだけではなく、正面から受けないように横や斜めのポジション移動もより必要だったと思います。
一方で、ポジションの移動はリスクも伴います。2失点目のように、ボールより前に多くの人数を割いている状態ででボールを失うと、カウンターでCBがただ晒される状況になってしまいました。
直後、62分にユンカーを投入すると、ボールを追うところで同サイドに閉じ込めようとする動きはより増えたように思います。
64分には相手のミスからカウンター、CKを獲得した流れから1点を返しました。
しかし、試合の大部分で意図的に札幌のビルドアップを追い込むことができなかった浦和。74分のように、ユンカーが同サイドに追い込んでも後方がサイドに絞り切れておらず、追従できない場面もありました。
勝機はあった札幌のトランジション
試合を通して劣勢で勝てる見込みがなかったかというと、そうではありませんでした。
札幌は保持で大きく可変し、切り替え時はそのままマンツーマンを敢行する特徴上、ボールを失った時のトランジションに弱点を抱えています。
人選でもボールの保持を優先して駒井をボランチに起用しています。
浦和も、前半からその部分を利用すること自体はできていましたが、その割にはシュートまで繋がる場面が少なかったです。
その過程でミスがあったことが原因で、どうもボールが足につかないような場面が散見されました。
このあたりはコンディションの問題があったのかなと思います。
コロナ陽性判定の影響でトレーニングを中断せざるを得なかった事情や、1ヶ月ぶりの公式戦ということで、いわゆるゲーム勘の問題があったのかもしれません。
これらはプロの選手たちにしかわからないことで、外からはわかることではありませんが、リカルドが定例会見で話していた懸念通りになってしまいました。
「試合の感覚も心配しています。長い間、公式戦でプレーしておらず、中断前も(ベガルタ)仙台戦、大分(トリニータ)戦などで選手たちの消耗が見られていました。その消耗を考えると中断することでリフレッシュできたと思います。
ただ、いきなり厳しいゲームが予想される相手との試合でどこまで試合の感覚を取り戻せるかが一つのテーマになると思います。
先ほども言ったように、トレーニングでも最初にプランニングしていたものができなかったということがありますので、心配です」
その中でもトランジションを中心にゴールに迫りうる構図自体は作れていました。
しかし、70分過ぎからは選手交代によってボランチに荒野を配するなど、徐々に強度を補強されてしまい、汰木の突破などがあったものの決め手を欠いて敗戦しました。
まとめ - 相性が悪い相手
リカルドのサッカーは原則的に、位置的優位を中心としてアドバンテージを得て、相手の組織がダメージを受けるような試合運びをすることが狙いです。
つまり、相手の組織の配置や出方を見て、空いている場所を作って利用し、背後や間でフリーマンを作り出すことを狙っています。
しかし、札幌のようにマンツーマンに振り切ったチームの組織にはこういった「背後」や「間」がほぼ存在しません。
たとえば通常、表記が3-4-3であれば相手のボランチ脇や前に出てきたWBの裏に立ち位置を取り、「誰が見るのか?」という選択肢を突きつけることで、優位を得ることが浦和側の基本的な狙いになります。
しかし、札幌を相手にするときは相手の組織の穴になりそうな立ち位置を取った選手がいても、人がべったりとついてきます。
札幌は自身の持ち場を離れることを問題としていないので、基本的にはパスを出す先がマークに付かれている状況になります。
浦和側の問題も大きかったとはいえ、キャンプ中の練習試合も含めた対戦成績から考えても、札幌は相性の悪い相手だったかもしれません。
であれば、人に付いてくる特性を利用し、自分が動くことで相手を動かす、その人に負けない味方を活かすことなどを狙うことになります。
今節では興梠や明本がそう言った選手に該当したとは思いますが、チームとして十分に見せることはできませんでした。
今季の対戦はもうないとは思いますが、来季以降、札幌戦は特別な対策が必要になる相手になるのではないでしょうか。
久しぶりの公式戦で感覚を取り戻せなかった今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!
📝【戦術分析レビュー】
— KM | 浦和戦術分析 (@maybe_km) August 12, 2021
コンディションと相性の悪さ - J1 第22節 #コンサドーレ札幌 vs #浦和レッズ
⏰読了まで:約5分
◆後手に回った理由
◆修正と必要だった横と斜め
◆勝機はあった
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