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WyScoutとTFG。浦和フロントが導入した”データ駆動”補強プロセス

コラム・考察

KM
KM

2021.06.08


この記事でわかること

  • 浦和フロントが導入したツール
  • 補強プロセスがどう変わったか
  • 代理人の売り込みとデータ活用

降格の危機も現実的にあった2019シーズンの終わり、浦和レッズはフロントを刷新して新たな強化部を設立。

SDとして土田氏、TDとして西野氏を招聘。浦和レッズのトップチームが体現するコンセプトを定めて3年計画を打ち出しました。

主に西野TDの役割として、コンセプトから具体化した基準や選手の評価などを定量化、つまり数値化などによって組織共通の認識を作って共有することが述べられています。

チームのコンセプトを体現する選手たちを評価する指標、言葉、数値化を行って、それを共有します。そちらでスカウティングに生かしたり、選手編成の材料として、情報の質と量を上げていくことができると考えています。

これまでふわっとしていた言葉の定義や、浦和レッズのサッカー、選手に求めるものを言語化・数値化することによって組織の中で共通認識を持つ。

そのことによって、例えばそれを扱う人や、クラブ・現場・サポーターなどの関係者の間で認識のブレを少なくしようということです。

そして、その手段としてITツールの導入は示唆されていました。

データの活用やITソリューションの活用というものが非常に重要な要素になってくると考えています。そういったサイエンスメント、監督や指導者の経験値とかひらめきとか感覚的なところ、そうしたアートのところを一緒に進行させてアプローチさせていけるチームが強いチームになると考えています。

それから1年以上が経ち、2つのツールから導入事例として浦和レッズの名前が挙がってきたので、それを解説し、現在の浦和がどのようなプロセスで補強を行なっているかを紐解いていきます。

WyScout Scouting Area

まず浦和フロントが導入したツールとして、WyScout Scouting Areaが挙げられます。導入事例記事がこちらに掲載されています。

単体のWyScoutはご存知の方もいるかと思いますが、世界中の試合映像を見ることができるツールです。

WyScout Scouting Areaは日本で浦和が初めて導入したもので、スカウトのレポートとWyScoutの映像などのデータを統合、強化を担当するチームがそれらの情報を一元管理できるものです。

浦和レッズが選手を獲得する際、今までは代理人に頼り切っていたようで西野TDのコメントが掲載されています。

特に外国籍選手を獲得する際、代理人は大きな力を持っています。クラブとしては、その売り込まれた選手が本当に浦和レッズを強くするかどうをか正しく評価できるようにして、最終的な獲得の判断をデータによって支えたいと考えています。

また、現強化部がどのようなプロセスで選手を評価しているかが垣間見えます。

まず初めに、ポジション毎に浦和レッズが求める選手の基準、プロファイルを定めました。そのプロファイルに基に、スカウトがその選手の映像を見たり実際の試合を観たりします。彼らの意見や考え、情報はクラウド上に簡単かつ迅速に共有されます。

コミュニケーションツールでもありますね。スカウティングレポートをWyScount Scouting Areaで作成し、その選手に対しての考えもすぐにチーム内で共有できる。映像が意見の根拠となりますし、チーム内での協議もすぐに始められます。

世界中の試合映像から補強候補の選手のプレー映像を集めてチェック。スカウトが実際に試合を観にいった時も、レポートがすぐにアップされ、意見や考え、情報が即座にチーム内で共有されているようです。

映像などのデータとは別に、WyScout Scouting Areaは強化部というチームが実際にスカウトしていくうえでの情報の集約場所、プラットフォームとしても大きな役割担っているのではないでしょうか。

TwentyFirstGroup

こちらのツールの導入事例にも、浦和レッズの名前があります。

サイトを見るとロンドンに本社を構え、サンフランシスコやシンガポールにも拠点を設けている会社のようです。

ビッグデータ解析を中心に選手の評価やビジネス面の分析などを提供し、サッカーを始めとしたスポーツ組織がより良い決断が行えるようサポートしていると謳われています。

パートナーにはプレミアリーグのトッテナム・ホットスパーの名前もあります。

導入事例では、浦和の選手評価基準モデルの構築とパフォーマンス分析を提供したことで、特に監督の招聘と外国籍選手の評価を手助けしたとアピールされています。

2020シーズンの後半、新監督候補の分析を行ってリカルド招聘の意思決定を支え、在籍していた外国籍選手を2020シーズンで放出すべきかどうかの決断をする際にも寄与したと記載されています。エヴェルトンやマルちゃんが該当するのだと思います。

こちらも西野TDのコメントが紹介されていました。

TwentyFirstGroupは「データに基づいたチーム作り」を行うという目的達成を助けてくれています。我々は野心的なクラブで、リーグをリードするクラブになりたいと考えていて、TFGはそれを達成するための良い助けになってくれています。

記事内では我々のアドバイスに従って外国籍選手を放出した、という論調ですが、導入事例記事は自社製品アピールの側面があるので話半分ぐらいで受け取った方が良いかと思います。

実際にどう変わったか

では、これらのツールを活用して浦和の実際の補強プロセスがどう変わったのか。

もちろん、内情はわからないので推測になりますが、導入事例記事に掲載されている西野TDの言葉だけでも見えてくるものがあります。

まず選手編成のベースとなるのは、3年計画で発表された浦和のコンセプト。強化部はコンセプトから落とし込んだ評価軸をポジション毎に「プロファイル」としてセットしています。

実際に補強の必要性が生まれたら、該当ポジションのプロファイルを基に獲得候補の選手を評価します。

本当に浦和レッズのトップチームを強くしてくれるのかどうかを判断するわけですが、従来のスカウトのレポートに加え、WyScoutによる映像データとTFGのデータ解析による客観的かつ定量的な判断材料も加わります。

スカウトのレポートと映像データはWyScout Scouting Areaによって一元管理されていて、チーム内で即座に共有。

候補の選手に対するスカウトや西野TDの意見・考えは映像によって裏付けされており、チーム全体にも同じ情報が共有されているので複数人の意見や考えを基にして協議もできます。

もちろん、監督の意見も取り入れているはずです。

このようなプロセスを経て、浦和レッズのコンセプトから落とし込まれた評価基準を満たしている選手、つまり「本当に浦和レッズを強くしてくれる」選手の獲得に動く。

そこから先は交渉ごとなのでまた別の話ですが、スカウトの目で見たレポートとデータによる裏付けをチームで共有・協議することは、「獲得に動くかどうか」という意思決定の支えになっているのでしょう。

データ駆動だが、データ依存ではない

西野TDのブログの通り、あくまでツールはツール、データはデータです。

全てデータに頼っているわけではなく、例えば選手の性格や人間性も当然考慮しているはずですし、新人選手の将来性は現在のデータからは予測不可能な部分の方が多いはずです。

データによる客観的・定量的な評価と、スカウトによる定性的な評価を組み合わせる。

定義や認識の共通化・共有化を行うことで獲得・放出の意思決定を支える根拠をより強固にしているのが現体制なのだと思います。

土田SD、西野TDが就任した直後からこういった取り組みを行うことが明言されていました。そこから察するに、現体制以前は「客観的・定量的」の部分が足りなかったのだろうと思います。

浦和レッズにとっての「良い選手」の基準、評価軸が曖昧で、組織の共通認識となる物差しがない状態で評価をし、編成を行なっていたのかもしれません。

代理人の売り込みが悪ではない

ポルティモネンセ方面の代理人関連でイメージがついてしまうかもしれませんが、「代理人の売り込み」自体や、「売り込まれた選手を獲得する」ことが悪であるわけではないと思います。

獲得の必要性が出てきたときに、そこにマッチしそうな人材が売り込まれることは当然のようにあるはずです。

これまで問題だったのは、その売り込まれた選手の経歴や名前、売り込み内容とは別に、浦和レッズのトップチームを本当に強化する人材であるかどうかを正しく評価できなかったことにあるのではないでしょうか。

当然、いくら評価軸があってツールを駆使しても期待値から外れることもあるでしょう。しかし、勝利の確率を高めるリカルドのサッカーと同じように、フロントも編成した選手が期待通りの貢献をする「確率」を上げようとしている。その手段として今回のようなツールを導入したということです。

編成はシーズン単位や数年単位での評価になります。しかし現時点では、リカルドの招聘を始め今季獲得した選手の活躍ぶりを見れば、「浦和レッズを本当に強化できる選手を獲得する」という「確率」を高めることに対しては、一定の成果を挙げているのではないでしょうか。

就任時の言葉通り、どうなるかわからないという偶然性をなるべく排除した、再現可能、実現可能、継続可能なアプローチということです。

ですのでTDとしては、いくつかミッションの内の一つとして、このサイエンスを導入して、再現可能、実現可能、継続可能なチームコンセプトをつくっていきたいと考えています。

筆者は現フロントの取り組みを好意的に捉えていますが、みなさんが土田・西野体制の取り組みについてどう考えているか、ぜひシェアしてください。


浦和レッズについて考えたこと

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