main logo
Cover Image for 【レビュー】問われた柔軟性 - 2021 J1 第22節 大分トリニータ vs 浦和レッズ

【レビュー】問われた柔軟性 - 2021 J1 第22節 大分トリニータ vs 浦和レッズ


この記事でわかること

  • 大分の前ズレ守備
  • 完全に"嵌った"前半
  • 後半に主導権を取り返した要因
  • 幅を拡げるために

五輪中断前最後の試合となった大分戦。残留争いの最中にある相手でしたので勝ちたいところでしたが、1−0で敗戦してしまいました。

特に前半は全くと言っていいほど、上手くいかなかったと感じていると思います。

修正を加えて後半開始直後から試合を握りましたが、得点までには至りませんでした。

前半の失敗、後半の改善など、試合の構造や要因を解説していきます。

正面からぶつかってしまった前半

完全に大分ペースで進んだ前半を紐解くために、まずは大分の守備のやり方から見ていきます。

5-4-1のように表記はされますが、縦のコンパクトネスを維持しながら、前の5人が積極的に前にズレてアプローチ。その裏もCBが前にズレて埋め、大外はWBが単独気味でカバーしています。

幅はWBに任せながら狭い陣形を組み、連動して自分のポジションを捨てて前に出て、さらにその背後も後方部隊が前に出て埋めるような守り方でした。

相手を見て効果的な配置を取ることとが今季の原則である浦和。相手が前に来るならそれを利用したり、前に出づらくなるような配置で攻めていきたいところです。

しかし、前半は大分の守備に完全に嵌ってしまいました。

4月はアンカーシステムを採用していたこともありましたが、最近は2ボランチを採用しています。

また、西がビルドアップを助けることも減っていて、流動的に3−1の形になることが多く、SBを大外に出そうという意図も見えます。

この配置が大分の守り方に正面からぶつかってしまいました。

先陣を切るのは1トップ2シャドーですが、中央の密度が高く、大分はアンカーを消しながら追い込みます。

その追い込む幅が、浦和のボランチが降りる3−1の「3」にがっつりぶつかる構造になりました。

最終ラインの立ち位置、特に幅の取り方が甘いなと思う場面もありましたが、流動的に3枚になる今のやり方はポジション移動の都合上、そうなりやすい側面もあります。

ちなみに、天皇杯・相模原戦では金子を最初から3枚目として真ん中に落としましたが、ボールを失った時に切り替えのプレスが効きにくいというリスクもあります。

大事な体の向き

また、大分は何でもかんでも前向きに追うのではありません。コンパクトな陣形を組んで密度を高めながら、相手の体の向きが悪くなりそうと見たら連動して襲いかかります。

これにより、岩波や槙野らの体の向きが不利な状態に追い込まれ、角度を確保できず。相手のプレッシャーの裏へパスを出す、という姿勢を取ることは許されませんでした。

浦和としてはかなり苦労し、今季最も上手くいかなかったと言っても過言ではなかったと思います。

結果的に、大分のやりたい守備に真正面から嵌ってしまい、苦しい体勢からボールを失ってカウンターを受ける場面が何度も発生しました。

11分にそのうちのひとつで失点。一方で、大分のカウンターやシュートの精度に助けられた側面もありました。前半のうちに追加点を奪われて試合が終わっていた可能性もあったぐらいの劣勢でした。

飲水タイムの修正

試合前に仕込んだものが外れてもピッチ上で相手のやり方を見て、柔軟にやり方を変えていければ良いのですが、欧州のトップレベルでやっと見られる攻防だと思うので、机上で論じているよりもずっと難しいことです。

過密日程かつ1年目の半分を過ぎたところなので、個人的には仕方ないというか、そんなもんだよねとは思います。ただし、ACLを目指すためにはここからステップアップする必要もあります。

ということで、飲水タイムを迎えてまず1回目の修正を加える浦和。

汰木の立ち位置

中継に声が入っていたので注目は集めたと思いますが、ビルドアップが詰まっていると相手のブロック手前に降りてきてしまう汰木に対し、背後で我慢するように指示が飛んでいました。

先述の通り、前にズレて守備をする大分。MF背後にいればCBが食いついてくるので、その裏をユンカーが使えるからという狙いでした。

前に強く意識が向いている相手ならその裏を使う。試合開始直後は相手のDF裏を狙う動きはありましたが、ビルドアップが完全に嵌ってしまってからは少なくなっていたところをもう一度補強したのだと思います。

小泉を出口とする狙い

もうひとつは小泉を出口とするための立ち位置の修正です。

大分は浦和の3枚の最終ラインに対して1トップ2シャドーが前に出ようとしますし、その3人の間はボランチがタイトに締めています。

大外はWBが担当しているので、空きやすいシャドーの裏に小泉が立つようにしました。

ここにCBがアプローチできないように田中達也を前線に配置。27:00や30:00、31:30などでこの狙いを確認できます。

大分の前線部隊は間を狭く保っていますし、積極的に前にズレて捕まえにきます。

ですが、その中を使えた時は逆にその力を利用して背後で優位を取れていたので、こういった出し入れも必要だったかもしれません。

立ち位置的には良くなりましたが、そこに配球する部隊が余裕を確保することができず、チャンスらしいチャンスは作れませんでした。

相手の前への基準をズラす

当然ですが、時間的な面からみても飲水タイムとハーフタイムでは加えられる修正の量や質が違うのでしょう。

後半から柴戸に替えて健勇を投入すると、以下のように配置や役割を変更しました。

  • 小泉をボランチの位置に下げつつ、ややフリーロール
  • 西や明本(汰木)を相手のシャドー周辺に立たせる
  • 田中と汰木(明本)を大外に張らせて相手のWBと対峙させる
  • 背後の要員を確保してWBを孤立させる

右サイドは西が内側の位置で相手のシャドー周りの立ち位置を取り、大外は田中達也が担当します。

左サイドも同様に汰木が大外に出ることが増えましたが、明本と流動的に入れ替わることもありました。

また、ビルドアップに余裕を持たせるという面では、前半は浦和の最終ラインに襲いかかっていた相手のシャドー周辺に、内側にいる西らが立ちます。

大分からすれば、そこを無視して前に出るわけにもいかず、前半は正面にいる相手にアタックしていた基準をズラすことに成功したいたと思います。

小泉で循環させる

ボランチの位置に下げたとはいえ、小泉は擬似的にIHような役割でした。

狭い局面でも相手を引きつけてボールを失わないので、大分の前線部隊の間や中央でボールを経由させることができますし、後方の余裕を見ながら相手のMF背後に潜ってもいけます。

内側の西や明本、健勇らも相手の背後に立ち、左右のCBに影響を与え始めると、大外の田中達也や汰木がタッチラインを背にしながら相手WBと対峙することが増えました。

そうなると大外のWBを孤立させることができるので、相手との純粋な力量差で優位を取る、質的優位を得ることができます。

汰木がドリブルで突破し、田中達也がスピードで裏を取るシーンに繋がるわけです。

こうしてビルドアップ隊に余裕が生まれると、敦樹が前を向いて時間とスペースを得ることも増え、良質なパスがどんどん入るようになります。

前半とはうってかわり、WBの裏側をえぐるような形も増え、複数回の決定機を作ることができました。

立ち位置と役割の変更で、ビルドアップの余裕や中央・背後の人員を確保。相手の大外を孤立させ、選手の特長を活かして質で上回るという改善を見せることができました。

特に後半開始直後から飲水タイムまでは完全に浦和の試合でした。しかし、得点を決めることができず。仙台戦の宿題をクリアすることはできませんでした。

その後、大分は2トップに変更して前から嵌め直しにきました。やはり前からいきたい大分にとっては噛み合わせを良くすることが改善の近道ということで、一定の効果は出されてしまいました。

ビハインドで最後の5分、10分を迎えるとパワープレーをしたり繋ごうとしたりと少しチグハグな面が顔を出します。

結果的に、最後までゴールを奪うことはできず。1−0の敗戦を喫しました。

まとめ - 経験値と柔軟性

大分の守備に真正面から嵌ってしまった前半と、修正が機能して大分の基準を完全にズラしていた後半開始から飲水タイムまでにゴールを奪えなかったことが勝負の分かれ目になりました。

後半の機能性を最初から出せないものか、とも思いますが、天皇杯から九州への移動を含めた中2日であることを考慮すると難しい面もあるのかなと思います。

相手を見て効果的な攻め方をする、これが今季の原則です。一方で試合が始まってすぐに相手を見て形を変えていく、と言うのは簡単ですが、それは机上の空論でしょう。

究極的にはそういうところを目指しているとは思います。しかし、経験の貯まり具合や、ピッチに立っている選手の特徴によって表現の幅はまだ一定のものになっている印象です。

後半開始直後から飲水タイムまでの配置を前半の途中から見つけて変化していけることが理想ですが、そこを求めるにはまだまだ時間が必要なのだと思います。

しかし、その時間がやってきます。五輪中断期間に入り、「相手を見て、効果的な攻め方を行う」、それを実現するためのトレーニング時間が十分に取れます。

昨年も言われていたことですが、中3日・中2日と試合がくる中ではリカバリーと直後の試合への対策だけで時間はなくなります。

新しい積み上げを行う、という面では物理的に不可能でした。その中で、今節のように見えてきた課題、限界のようなものもあります。

そこを新しいメンバーも含めてどう改善していくのか。中断明けを楽しみに待ちたいと思います。

前半の失敗を取り返せなかった今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!



浦和レッズについて考えたこと

ぜひシェアしてください