約1か月ぶりに浦和の試合が帰ってきましたが、8/6の定例会見でリカルドが話していたように思うようなトレーニングが出来なかったことが伝わってきてしてしまう内容でしたかね。
(中断期間に選手1名に新型コロナウイルス感染症PCR検査で陽性判定が出たということでトレーニングを積み上げることも大変だったと思うが、中断期間に特に積み上げてきたことは?)
「オリンピック期間中はオリンピック代表に招集されている選手が不在でしたし、違和感などを抱えてトレーニングができなかった選手もいたりしましたので、私が期待したほど積み上げることができませんでした。新型コロナウイルスの影響で二部練習ができないこともありました。攻撃で押し込んだ形のトレーニングなど、できたこともありましたが、満足のいく形にはなりませんでした」
「違和感などを抱えてトレーニングができなかった選手」というのは、天皇杯で負傷した山中は勿論ですが、小泉や田中なんかもそうだったのかもしれません。また、コロナで陽性が出た選手も発熱等があったようなので、誰がという情報は出ていませんが、その選手は回復するまでは当然トレーニングに参加できないわけで、そういう諸々を踏まえると、これまで代表ウィークなどしっかりトレーニングの時間が取れた次の試合でチームの成長が見られたこれまでとは違う形になってしまったのかなと。
ましてや、今回の相手である札幌はJ1の中で最もはっきりしたマンマークでビルドアップから潰しに来るチームで、○-○-○でセットした状態というのは存在しないため、ここまで積み上げてきたもの(相手の立ち位置を基準にしたポジショニング)で対処することが難しいというのもあったと思います。
自分たちの守備スタイルと大きく違うということは、普段のトレーニングではその方法への対処の仕方を積み上げにくいので、3月に対戦した時に近しい現象がちょこちょこ出てしまったと思います。むしろ、前回は割り切って中盤を飛ばすことも辞さなかった訳で、正面からぶつかろうとしたところを外せなかった分、観ている側のがっかり感が強くなってしまったのかなと。
札幌の守備での捕まえ方はこの図のようなイメージだったと思いますが、基本的にはマーク対象が自分の縦方向に近いところにいるようにポジションを取って、そこへボールが入ったら真っ直ぐ矢印を出していく動きになります。
そのため、浦和のボール保持者は簡単には前を向けない状態になり、サポートのために下りてきた選手に預けようとしても、その選手に対しても札幌側は背中からついて行くのでボールを受けたときにターンすることが難しくなるという展開が頻発。20'10~の小柏のシュートがポストに当たった場面も、2失点目の場面もそうしたところで柴戸が潰されてボールを奪われたところからでした。3月に小泉が深井に何度も潰されたことを思い出してしまいます。
ただ、言ってもFPは10人なので、浦和は西川を上手くビルドアップに組み込めた時には11vs10になって相手の矢印が向かない選手を作れたり、あるいは相手の矢印を出させて意図的に誰かが空くように仕向けたりすることは可能です。
32'30~の場面では岩波からのパスを受けた西川に対して槙野担当の小柏がついているので槙野が空いていましたが、西川からのパスを受けた柴戸は槙野ではなく元々ボールが来たサイドで下りてきた関根にパスを付けています。かろうじて相手より先にボールを触れることが連続して密集を抜け出しかけましたが、この場面で言えば柴戸が左足で槙野へボールを出せれば相手の1stプレスを外せて前進できそうな場面でした。
縦パスに対して正対しながらボールを受けた柴戸は右利きなので、後ろからプレッシャーを受けた状態でボールをはたくなら得意な方の足を選択するのが自然ではあります。ただ、札幌の各選手が誰を主担当にしているのかを把握しておいて、主担当と別の選手に対して矢印を向けているということが認知することが出来れば、ここで柴戸は空いている槙野を使えなかったかなと。
これと似た形が40'50~も起きます。バックパスを受けた槙野が西川へパス。槙野担当の小柏が槙野、西川へと二度追いしていったので、西川がボールを受けたときに槙野が空きました。今度はここで西川から敦樹を経由して槙野に戻すことで矢印を外すことに成功しています。
理想を言えば、西川からパスを受けた敦樹は左足でワンタッチで槙野へパスを付けてしまって、小柏が出来るだけ遠くにいる間に、よりフリーなボール保持者を作れても良かったかなと思います。勿論、利き足と逆でワンタッチで強く正確なボールを入れることの難易度は高いですが。
この場面は槙野にボールが入ったときに宇賀神がライン際から下りて近づいてしまったため、オープンにボールを持てた槙野が運んでいくスペースが小さくなっていたのはもったいなかったかなと。宇賀神が近づくことで宇賀神担当のルーカスフェルナンデスが槙野も同時に睨めるようにな状況になってしまって、結局そこから前進できませんでした。
また、相手がマンマークで守備をしている場合、何も考えずにパス交換で打開しようとしてもパスの出し先は常に捕まえられた状態になってしまいます。そのため、パスの受け手はボールを受ける時の事前動作で相手の矢印を操作するか、受けた時に縦方向に出てくる相手の矢印とは違う方向へトラップやドリブルをすることで外すかが求められるのかなと。雑な図ですがこんなイメージでしょうか。
欧州のサッカーを見ている時にJリーグとの違いを感じるのはパスを受けた選手が横方向にドリブルして相手のプレッシングの矢印を外しにかかる動きがあることです。数メートル中方向へボールをドリブルで動かすことで相手のプレッシングを外して誰が誰を対応するのかというところをずらしにかかったり、その間に周りの選手がポジションを取り直して相手のマークから少しでも外れたり、という場面を見かけるかと思います。
この試合でそのような動きが見られたのは59'25あたりの明本くらいだったように思います。しかも、この横ドリブルも田中駿汰がしっかりついてきて潰されてしまっています。
横ドリブルでなくてもドリブルで外せればというシーンが特に関根に多く訪れていましたが残念ながらことごとく相手に阻まれたりチャレンジしなかったり。。天皇杯の相模原戦では優位な状態でボールを受けてからだったという要素はあるにせよ積極的にドリブルを仕掛ける姿に興奮しましたが、この試合ではそうはいかなかったようです。
マンマークによって1vs1が強調されやすい分、チームとして何かをするために個人で何が出来るかという部分での物足りなさが出てしまいましたかね。
札幌の攻撃はいつものミシャ式というか、3-4-3をベースにメンバー表記はしつつ、ビルドアップの最後尾は3バック中央の宮澤にボランチの深井と駒井の3人が2-1か3枚横並びになって、左右CBの福森と田中がSB化する4-1-5、あるいは5-0-5と表記できるような並び。ピッチ中央に大きなスペースを空けることで、特にシャドーの選手が大きい動きでそこを使い、守備側に誰がどこまでついて行くの?という問題を引き起こしにかかります。
後ろに人数をかけているし中央には誰もいないしということでボランチの選手が前のプレッシングに加勢すれば、それによって空いたスペースにシャドーの選手が下りてきて今度はCBを引き連れるようにしたり、ボランチが留まったら留まったでWB、左右CBがそれぞれ外レーンに立って浦和のSBとSHに対して2vs2になっているので、シャドーがそこへ加勢して数的優位を作ったり。そして、シャドーが動くと守備側はSBかCBのどちらかはそれに対応しようと動かされてしまってゴールに近いエリアにスペースを作られてしまうという流れですね。
このダイナミックな動きを何年も積み重ねてきたことが、例えば今の浦和では興梠がちょっとボールを受けに下りすぎじゃない?という風に見えてしまう習慣として残っているのかなと思ったりします。余談ですが。
「どこに留まるか(誰に影響を与えるか)」と「どこへ動くか(誰を動かすか)」が選手のポジショニングにおいて重要なことですが、リカルドはより前者を優先的に、ミシャはより後者を優先的に求めているような気がします。静的なものを重視すればクローズドな展開になった方が良いでしょうし、動的なものを重視すればオープンな展開の方が得意なのだろうと思います。
前半は2-1になる札幌のビルドアップに対して興梠か江坂のどちらか(攻撃時にいる場所が江坂と関根で流動的だったので江坂と関根が入れ替わる場面も多々ありましたが)がアンカー的な場所に立つ選手をケアして、もう1人が2の部分を分断してどちらかのサイドに限定しようとするアクションは見えました。サイドへボールが出たときにこの縦並びの2トップが壁になって中央、さらには逆サイドまでは行かせたくないという立ち方だったと思います。
ただ、1失点目のCKに至る流れは菅野→右に開いた田中→中央の駒井のところで江坂が同サイドへ押し返すことが出来ず逆サイドまで振られてしまいます。そこから浦和の選手が斜めに戻って撤退しますが、菅から福森へボールが戻った時に江坂はジョグで戻ってきており、オープンな状態の福森から逆サイドで幅を取っていたルーカスフェルナンデスまでボールを届けられるという展開。
最初の田中→駒井が通ってしまったところは、田中のトラップが浮いたところを取り切れなかったので仕方ないのかもしれませんが、福森からの対角のパスに対しては江坂は早めに戻って福森に対して同サイド、縦方向のみに制限するように強く寄せて欲しかったかなと。
相手を同サイドに押し込む動きは今の浦和ではユンカーと小泉が抜群に上手いですが、興梠と江坂のセットでもやれている場面はあったと思います。ただ、小泉と江坂を併用した時に、守備タスクを考えたときにはプレッシング能力によってどちらがトップ下になるのかが決まりそうかなと思っていて、1失点目のように最初の田中→駒井のところ、撤退した時の福森のところと、江坂の場所で連続して逆サイドに逃がしてしまったのでボール保持が高めにくい相手の時に小泉と江坂を併用するのであれば、今時点ではトップ下は小泉にしておいた方が良いかなと思います。
後半は数字で表すと4-3(江坂、柴戸、敦樹)-2(関根、明本)-1のような並びにして前3枚で札幌のビルドアップを行う3枚をそのまま牽制できるようにしたのも、札幌が幅を使いながら攻めていくところを上手く閉じ込めることが出来なかったからだろうと思います。
また、選手交代では江坂に代わって入るのが汰木ということで、リカルドの頭の中では彼はWGよりも中央の方が良いという感覚に固まってきているように見えます。
それは5月末の名古屋戦で10分間ほどあった武藤をSHにして汰木をトップ下にしたり、中断直前の大分戦でも出来るだけ中央からハーフレーンあたりでプレーさせる時間が長かったりというところからも感じます。もしかすると汰木に江坂のような選手になって欲しいと思って起用してきたがまさか本物が獲れちゃったという感覚かもしれません。そうなると、江坂がチームにフィットして来た時には、小泉×江坂がどうなるかと同じくらい汰木×江坂がどうなるかも気になってきています。
さて、続いても難敵であり、3月の対戦時には大いに苦しめられた鳥栖との試合になります。札幌とは手法こそ違うものの、相手に対して積極的に縦方向のプレッシングをかけていくことは共通しており、そこに対する脆さが見えてしまった分いくらか不安なところもあります。
ただ、積極的にラインを上げてプレッシングをかけるということはその背後のスペースがある訳で、シンプルにユンカーを走らせてそこを使う場面が出てくるかもしれません。どのようなメンバーで、どのようなアプローチをするのか楽しみにしたいと思います。
今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。