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リカルドが目指した攻撃の構築 - 2021年 浦和レッズ シーズンレビュー

コラム・考察

KM
KM

2021.12.28


この記事でわかること

  • リカルドが何を目指していたのか
  • 浦和の「攻撃」の進化過程
  • 直面した課題と解決の流れ
  • 大幅な補強が必要だった理由
  • 残った課題と、来季への展望

浦和レッズの戦術を解説するレビュー。今回はシーズンの振り返り、攻撃の構築編です。

今季は3年計画の2年目、リカルド・ロドリゲスが監督に就任しました。

リーグは6位、ルヴァン杯は準決勝まで進み、最後は劇的な天皇杯優勝で目標であったACL出場権を獲得しました。

最上の、理想的な結果ではないけれど、良いシーズンだったと思います。

昨年からやってはいたものの、本格的にボールを持って主導権を握るサッカーを目指し始めたシーズンでもありました。

開幕の頃から考えると大幅な選手入れ替えも断行され、内容が向上しては課題にぶつかり、また試行錯誤してという紆余曲折があったなという印象です。

個人的にも8割ぐらいの試合を文章で残した1年間でもありましたし、昨年から刷新されたフロントはこれまでの浦和らしくない、論理的かつ計画的なアプローチを遂行中です。

外から見ることしかできないサポーターでも、チームのサッカーを理解してサポートに活かす、という目的のために、シーズンの振り返りを記してみたいと思います。

リカルド・ロドリゲスという監督

さて、リカルドは勝つことと同時に、サポーターが楽しめる攻撃的なサッカーを見せたいと頻繁に発信していました。

就任会見では以下のように語っています。

攻撃的に、私のスタイルを知っている方ならご存知かもしれないですが、相手をとにかく押し込んでいって攻撃的にいって、常に見てくれる方々が楽しんでくれるような、そういったサッカーを展開していけるように日々取り組んでいければと思います。

サッカーの文脈における「攻撃的」という言葉はかなり抽象的なものです。

ボールを保持しながらパスを回してゴールに迫っていくサッカーも攻撃的ですし、前線からのプレスや、縦に速い鋭いカウンターも攻撃的と言えます。

当然、目的は(継続的かつ安定的に)勝つことですが、そのアプローチ方法は様々です。

このアプローチ方法が共有できていないと、目指しているサッカーによって「良いプレー」と「悪いプレー」が変わるこの競技において、振り返りや進捗度合いを正しく確認することができません。

まずはリカルドがどんなチームを目指したのかを明確にしておきましょう。

例えば開幕前のトレーニングマッチ、相模原戦を控えた会見では下記のように答えています。

「しっかりボールを持ちながらゲームをコントロールして、相手陣内に押し込んでプレーすることを求めたいと思っています。もちろん高い強度のプレー、前線からのプレスも可能な範囲内でお見せしたいと思っています。」

今季のチームにおける「攻撃的」の意味は、なるべくボールを持って主導権を握り、相手を押し込んで攻撃していくことにありました。

恐れずに後方から繋いでいく。ボールを早く取り戻すために前からのプレスでボールを奪い、押し込んだ状態で攻撃をして、ボールを失ったら即時奪回して再び攻撃に移る。

そういったサッカーを目指してキャンプから練習を積んできたのでしょう。

また、常に攻撃的、つまりボールを持っている時間を長くするためには、同じぐらい切り替えの守備が重要になります。

それには「ゲームをコントロールして」という部分が大切になりますが、これは別で振り返りたいと思います。

最終目標からの逆算

攻撃の最終目標はゴールを奪うことです。

そのためには、シュートを打つ選手に、ゴールになる確率が高い場所で、十分なスペースと時間的余裕を提供する必要があります。

つまり、基本的にはペナルティエリア内にボールを届ける必要があります。

ボールを保持して相手を押し込むことを主な方法として採用する場合、シュートを打つ選手にボールを届ける過程は、自陣のGK・DFラインから相手のFW・MF・DFのラインを越えていくこと、になるでしょう。

構築順序の仮説

こうした過程を考えると、リカルドが目指す攻撃的なサッカーを実現するためには、必然的にGK・DFラインから始まるビルドアップから重点的に着手する必要があったと推察しています。

ボールを持って相手ゴールへ迫る順序を考えると、出発点から転けていてはいつまでも進まないからです。

もちろん、他のことを全くやらないというわけではないのですが。

ビルドアップはシーズンを通してもっとも苦労が見えたところでもあるし、選手補強を含めてもっとも成長が見られた局面でもありました。

一方で、「重点的に取り組む局面」が最後の崩しの局面には到達しなかったと考えています。

今回は攻撃の構築において、リカルドの理想とするサッカーから構築順序の仮説を立て(外から見ている以上、仮説の検証はできませんが)、それに基づいた進捗や補強の必然性を時系列で振り返りたいと思います。

前提:立ち位置の優位

ボールを前へと運ぶために、リカルドは「相手を見て」、「立ち位置で優位を得る」という考え方を持っています。

これはシーズン前の田中達也のインタビューなどからも伺えることで、詳しくは後述しますが、浦和がビルドアップをスムーズに行えるかどうかは、各選手の立ち位置と密接に関係しています。

ボールスキルももちろん大切ですが、ボールを持っている選手が余裕を持てる立ち位置を取れているか、ボールの受け手が良いパスの出し先になる位置にいるかは、選手に求められるとても重要な戦術理解でした。

たとえば西川がボールを持った時に、岩波や槙野が大きく開くポジションを取っていたことは印象的だったと思います。

人数と小泉が必要だった序盤

キャンプからビルドアップの仕込みを行っていたと思いますが、そもそもボールを繋ぐこと自体に苦労したとリカルドがどこかで話していたと思います。(たしかマルカ紙でリカルドが連載しているコラムだったような・・・)

また、後方からの繋ぎにトライしたと思われる、キャンプ最終盤のトレーニングマッチではマンマークを採用する札幌に完敗。

2月の開幕から3月にかけては、繋ぐことにトライはしつつも理想とはほど遠いボールの前進だったと思います。

具体的にはボールを運ぶために、ビルドアップに多くの人員を割くか、前線がスタート位置である小泉がヘルプに下がってくる必要がありました。

相手のラインの越え方

最後の目標である、「シュートを打つ選手に余裕を与える」ためには3つの相手ラインの「越え方」が重要です。

人よりボールの方が速く動くので、極端な話、相手のFWラインとMFラインを越えるために10人使ってしまっては、その先に人がいなくなるからです。

いわゆる、ゴール前に人がいない状況。この解決には、相手の各ラインを越える過程を必要最低限の人数で完結させ、前線にリソースを残しておく必要があります。

この時期の進捗としては、着手したビルドアップにトライしながらも、 攻撃の最初の局面に、人数や特定の選手を前線から「借りる」必要がありました。

3月は毎週ミッドウィークに試合があり、改善のためのトレーニングが組めなかったのも難しかった要因だと思います。

そのため、流れの中からの得点がほとんど生まれなかったのは、チームの進捗具合を振り返れば当然の帰結でした。

リアリストの一面

この時期で興味深かったのは札幌戦。ここでリカルドはリアリストの一面を覗かせます。

当時のチーム状況やビルドアップの成熟度と、札幌のマンツーマンディフェンスやトレーニングマッチでの結果を踏まえ、シンプルに前線の健勇を使う選択をしました。

理想のサッカーを持ちながらも、状況や彼我の力量差を織り込んでゲームプランを構築する。

これは最終盤の横浜F・マリノス戦や、天皇杯準決勝以降のスタメン選定でも垣間見えました。

理想と現実を見据えられるバランス感覚の持ち主であることがわかったと思います。

柴戸の劇的な成長と西大伍の存在

3月末に1週間のブレイクを得ることができました。また、同時期に開催されたエリートリーグを経ると、陣容が一気に変化します。

柴戸をアンカーに据えた4−3−3に変更。さらに怪我から復帰した新加入の西が右SBに入ることで前線から人を借りていたビルドアップが改善します。

相手の背後

これまでのボランチは阿部と敦樹が中心でしたが、どちらかが最終ラインのヘルプを行う際、いわゆるアンカーの立ち位置、相手FW背後に誰もいないという課題がありました。

最終ラインのヘルプはかなり流動性が高い形でしたが、特定の誰かではなくても、誰かが正しい位置にいる、という狙いをこの流動性の中では出せなかったのが現実でした。

士別れて三日、即ち更に刮目して相待すべし

相手のFWが背後を意識する必要がないので、安心して岩波や槙野にプレッシャーをかけられていましたが、柴戸が起用された4月はこの位置に定位することが増え、この課題解決の目処が立ち始めます。

ただ立つだけではなく、相手のFWの動きに合わせた立ち位置の取り方、囲まれた状況でのボールの扱いや逃し方など、ちょっと見ない間に別人になりました?と言いたくなるぐらいプレースタイルの変化と成長がありました。

西大伍の絶妙さ

さらに西の立ち位置やボールの運びも秀逸でした。西が最終ラインのヘルプに入るのですが、たいてい、相手のFWラインと同じ高さでボールを受けます。

手前で受けたとしても、前方に相手がいなければドリブルをしてボールを運びます。

最終ラインの選手でありながら、立ち位置とボールの運びで、味方のヘルプを必要とせずに相手のFWのラインを自分で越える。

もはや隣の岩波に、プレーしながら指導してるようにすら見えました。

これにより、それまでの課題であった「相手FWラインの越え方」に改善の兆しが見え始めます。西のプレーで前線に残しておける選手の数が増えるからです。

相手MFライン周辺で躍動

さらに、相手の間と背後で受けることが得意な選手が小泉一人から武田と武藤の3人に増えました。

西と柴戸が入ったことで、それまでより少ない人数で相手のFWラインを越えることができるようになり、MF周辺で中央の3人を中心に流動性を持ったボールの出し入れが可能になりました。

また、柴戸がCB間に落ちた際に小泉と武田が降りてくる3-2のビルドアップもスムーズさがあった印象です。

回数自体は多くなかったものの、最後はサイドに入った明本と関根が相手の最終ラインを破っていくサッカーが機能。

初見殺しの感は若干ありましたが、鹿島戦を皮切りに良い流れが生まれました。

相手にダメージを与える

今季、リカルドが繰り返し発信していた攻撃のキーワードに「相手にダメージを与える」というものがあります。

これはボールを進めるために、人数を増やして突破していくのではなく、選手が立っている位置によって優位を獲得しようとするものです。

「位置的優位」などと呼称されますが、主に相手の陣形の間や背後に立って自分たちが有利になることだと考えてもらえれば良いと思います。

相手選手が「あっちにアプローチに行かないとまずいけど、行ったら行ったで別の場所が空いてしまう」と困ってもらうイメージです。

経験値の蓄積と応用

一方で、浦和の選手が立つべき場所は、相手の守備のやり方や陣形に依存します。

相手を見て、相手がもっとも困ることをやるので、「これ」という決まったものがある訳ではありません。

そのため、精度は上げていくには、「こういう相手にはここが空く」といったように、経験を積んで蓄積していくことが必要だろうと考えていました。

ですので、もっともオーソドックスな4−4−2からスタートする陣形の相手に対しては理想の片鱗を見せることができたと思います。

特に、前から守備をしたいけどそこまで成熟していない、というチームは背後や間が空きやすくなります。

この時期の鹿島、清水、C大阪はこれに該当したチームで、これらの試合では良い試合ができたという感覚も持てたのではないでしょうか。

一方で、負けている時や得点が入らない時に90分間続けられますか?という点に関してはYESとは言い切れなかったのもこの時期の特徴。

ビハインドの展開になったC大阪戦や5月頭の福岡戦ではその課題が出ていたと思います。

待望のユンカーで稼いだ得点と補強

4月にひとつステップアップした一方で、FWに入った武藤も間受けをこなしながら最後のフィニッシュに到達するタスクは難しく、本来は夏までかかると言われた怪我から早期復帰した興梠も本調子でありませんでした。

C大阪戦など、「あとは決めるだけ」の状況に持っていける試合があっても、決まらずに敗戦という試合もありましたが、5月に入って入国の問題やコロナ隔離期間を経たユンカーがチームに合流。

いきなり得点を量産します。

「最後のところにボールが届けられるようになれば、得点王を狙える」と西野TDが話していましたが、チームがそのレベルに到達する前に結果を残します。

ビルドアップのスムーズさが増してきたとはいえ、ゴールを奪うという点ではまだまだ十分ではなかった浦和。

5月から五輪中断期間までにカウンターを含め、少ないチャンスでもゴールを奪える「理不尽な」選手が来たことは、勝ち点を積み上げるためにも重要でした。

経験値が少ない5バックの相手

また、対戦のサンプルが少なかった、5バックで守る相手にどうしよう?という試合も増えました。

4月の徳島や、大分、5月以降の広島、湘南など、4−4−2じゃない相手にはどういう配置でダメージを与えようか、という課題があったと思います。

これに対して大久保と田中達也が内側から相手WBの裏を取る仕掛けなどもあり、リカルドの相手に合わせた仕組み作りと選手の起用も垣間見えた時期でした。

最終ラインの限界

また、4バックの相手に対し、押し込んだ後にどうゴールを奪う局面を作ろうか?という点でも、西をWG的に配置するなどの試行錯誤が見られた時期でした。

しかし、5月の仙台戦の後半で西を最終ラインに下げる「いつものやり方」に戻したことに代表されるように、結局のところ最終ラインのビルドアップは西がいないと厳しいです、という結論に帰結しました。

補強の必然性

ボールを持って相手を押し込み、攻撃を行うことを理想とするリカルドのサッカー。

その出発点であり、「最後のシュートに余裕を提供できるかどうか」の鍵を握るビルドアップを行ううえで、最終ラインの正しい立ち位置や、体の向き、ボールの運び方などは内容と結果に繋がる根幹たる部分です。

3年計画以前から在籍している選手たちも前向きに取り組んでおり、実際に成長もしていましたが、ACLや優勝を狙う以上、1年や数年単位で選手の改善を待つことはできません。

そもそも、単なる改善だけではなく、求められる能力においてJリーグトップレベルであることが求められます。

槙野の年齢的な面や、デンの稼働率の問題もあったとは思いますが、西への依存度が高くなっていた最終ラインの補強が敢行されたことは必然でした。

合流は夏になりましたが5月にショルツ、8月には求められる能力を備えている平野を獲得。

結果的に槙野や宇賀神と来季契約を結ばなかったのも、シーズン終了後もビルドアップに大きく関わるポジションの大幅な入れ替えが引き続き進んでいるのも、こういう部分だと推察しています。

「獲れるとは思ってなかった」というサプライズ的な江坂と酒井も含め、その後のショルツと平野による大幅な改善を見れば、フロントもプロフェッショナルに仕事をしている証でもあったと思います。

新戦力による整備と上位陣との差

夏以降に補強した選手が加わると、チームは大きく前進。

アジャスト期間だった8月を経ると、リカルドが求める能力を備えている選手たちを中心に序列が定まり始めます。

ユンカーが怪我で離脱はしたものの、酒井、江坂、ショルツ、平野が揃ってスタメンに定着。

特にショルツは別格の活躍でした。

そもそも人材が市場に少ない左CBで、このサッカーにおける理想的な能力を兼ね備えた選手です。それも、守備のカバーリングや強度も折り紙付きというスーパーさ。

それまでは、槙野の横に敦樹を降ろすという運用も行っていましたが、移動距離が長いうえに敦樹が前線へ参加していくことが難しくなるなどの課題もありました。

正直なところ、槙野の不足していた部分を補うような運用だったと思いますが、ショルツが加入したことで解決します。

ブレーンになった平野

平野の存在も当然大きく、最終ラインのヘルプやアンカーの役回り、相手をギリギリまで引きつけるボールの持ち方などはJ1でも即通用しました。

西川から繋ぐ際に中央でボールを逃す役も難なくこなすことで、さらに繋いでいける環境が整った印象です。

それまで柴戸が担っていたタスクを分担することができましたし、ボールを持ちながら味方を動かすことのできる平野が中央で基準点になってくれたことで、周囲へポジティブな影響も与えたと思います。

リカルドが岩尾を例に出していた、「ブレーンになれる選手」でした。

本当に来た酒井宏樹

また、西がこなしていた役割も難なくこなしながら、守備の強度やピッチ内でのリーダー的な振る舞いもできる酒井もやはり別格でした。

彼らに岩波がプレーしながら「指導」されているような場面もありましたが、その甲斐もあってか成長が促進されたように思います。

昨年から見ても開幕から見ても、ビルドアップに関わる人員は岩波と柴戸以外は総入れ替えの状況になりました。

西野TDが絶賛されましたが、浮き彫りになった足りない部分や、このサッカーに必要な能力など、現場とフロントで認識の共有できてるからこそのスピード補強は非常にポジティブでした。

翻って、サポーターもこの認識を共有できるように理解に努める必要があると思います。

小泉と江坂の0トップ運用

9月に入って陣容が固まると、ユンカーの怪我やコンディションもあって小泉と江坂の0トップ運用が定番に。

この2人は守備のプレッシングにおける、第一守備者としての方向づけと誘導も抜群という副次的な効果も生み出しました。

平野が加入したことで、小泉と江坂が相手MFの間や背後での出口となり、サイドハーフの選手が最終ラインをブレイクする。

こうして書いてみると4月の陣形の亜種のような気もしてきましたが、ビルドアップが整備されるにつれてSBの明本がスタート位置を高くできるようになったなど、よりゴールに近づける人数配分が行えていたと思います。

また、田中達也との競争を経て内側でのプレーをモノにし始めた関根や、下がる0トップの代わりにFWの位置でプレーするようになった汰木の成長も見逃せません。

5レーン+1

ユンカー出場時は特に、受け手が相手のMF背後で5レーンを埋める5人+1人のフリーマン(主に江坂)という配置が基本となりました。

ボールを相手ゴールまで運んでいく過程で、どのエリアにどの程度の人数を必要としていたか、を開幕戦から線で見ると大きな進歩を感じると思います。

この時期のFC東京戦、C大阪戦はベストゲームの候補と言っても良いでしょう。

真実の時間で直面した壁

しかし迎えたシーズン終盤、ACL出場権をかけた強豪との対戦が重なった、リカルドの言う「真実の時間」となった時期に差し掛かると、個人のインテンシティと深さを作れるか、という部分で壁にぶつかりました。

陣形自体を狭くされたり、マンマーク気味にビルドアップが阻害され、狭い局面での強度対決で後手を踏んだのが神戸戦、ルヴァンC大阪戦、川崎戦、鹿島戦あたりでした。

中央の小泉と江坂を出口として使いたい、あるいは彼らの得意なプレーである以上、他の誰かが相手の最終ラインを脅かして深さを作る必要があります。

しかし、ビルドアップが阻害されるとサイドハーフの位置もボールを受けるために下がり気味になってしまいました。

相手の最終ラインの裏を脅かす枚数が足りず、相手陣形のコンパクトネスを助長するような結果になっていたと思います。

求められる異質の存在

特に明本の怪我は大きく、G大阪戦ではその課題を感じてのFW起用だったはずです。

天皇杯準決勝のC大阪戦を振り返れば、手前だけではなく、前線で裏を狙い続けることで相手の最終ラインを押し下げる役割も重要であることは自明です。

このチームにおける、ある種異質な存在の必要性が浮き彫りになりました。

興梠がその役割を担うこともありましたが、年齢やコンディションを考えればプレータイムは限定的。

ユンカーは相手最終ラインに定位はするものの、積極的に動き続けるタイプではありません。

相手が嫌がる間と背後を使って前進していくためにも、相手の陣形を拡げるアクセントが必要になるが、誰がそれをやるのかという課題は来季に向けて残ったと思います。

個人への要求

もうひとつ、そもそも単純に狭い局面で強度で負けない、という個人に求められるいわゆるデュエルの部分についても課題でしょうか。

川崎戦なんかが例ですが、個人がその強度の中でボールを収めたり、反転したりできないとキツイよね、という試合でした。

リカルドのメンバー選出もあったものの、この課題に対する危機意識は天皇杯の準決勝と決勝で垣間見れたと思います。

来季のACLではさらに厳しい強度が求められます。神戸戦や川崎戦、鹿島戦の強度では到底敵わないでしょう。

そもそもそういう局面を避けるために配置を大事にする、という論点もありますが、力が拮抗した相手との戦いではトランジション(攻守の切り替え)での勝負が続くことは往々にしてあります。

忘却曲線

継続性という観点でも、課題も残りました。特にホーム最終戦の清水戦で延々とブロック外をボールが回ってしまった点は、今季の進捗度を表していると思います。

その後のトレーニングで、中盤でのボールの出し入れを復習的にトレーニングしたとリカルドが話していましたが、トレーニングをしない中で試合を重ねると、できていたことができなくなってしまう、そんな課題も最後の最後で顔を出しました。

まとめ - 課題解決、得点数の向上へ

今季の浦和の得点は47。優勝争いをすることを考えれば、(川崎次第ですが)20得点は上積みが必要なラインでしょう。

サッカーの陣地を自陣・中盤・相手陣の3つのゾーンで分ける考え方がありますが、ホーム最終戦の清水戦なども加味すると、今季の浦和の攻撃はゾーン1(自陣)〜ゾーン2(中盤)における前進の構築までで終わったという感覚です。

つまり、目指すべき攻撃的な姿としてあった「相手を押し込んだ」その先でどう崩していくか、という部分までは到達しなかったのかなと思います。

その進捗度合いを考えれば、得点数が47で落ち着いたのも妥当なラインでしょう。

必然的に続く血の入れ替え

昨年から立ち位置を意識したビルドアップは取り組んでいましたが、リカルドの就任でさらに加速したと思います。

紆余曲折を経たこの1年、もしくは昨年からの2年で各ポジションに必要な個人の能力が外から見ていてる私たちでもわかるぐらい明らかになりました。

そこにアジャストできた選手は生き残っていくし、できない選手は徐々にプレータイムが短くなります。

必要な能力に達していないポジションが明らかになったら、次の主な選択肢はアジャストや成長を待つか、選手を替えるかです。

「3年計画の3年目は優勝」という目標だけが取り沙汰されていますが、同時に掲げられたその先の目標は、浦和が継続的かつ安定的に優勝争いをするチームになることです。

ビッグクラブを目指す以上、待てる時間はわずか。

そのため、必要な能力というプロファイルに適合する選手を連れてくることは理に適っています。

実際にほとんどの補強が成功と言える成果を残したのではないでしょうか。

ゾーン3の仕掛けに入れるか

ということで、浦和の攻撃を、リカルドが理想とするサッカーから、構築順序の仮説を立て、その進捗を時系列で追って振り返ってみました。

来季に向けた展望としては、やはりゴール数の増加が求められます。

構築順序の仮説で考えるならば、ゾーン3(相手陣)での崩しへの本格的な着手、レベルアップは必須になるでしょう。

相手がいることなので、「完成」はないにしても、補強を含めて来季開幕ごろにはゾーン2までのビルドアップはある程度のレベルを担保する目処は立ちそうな予感です。

そして今季はあまり狙いを見せることができなかったその先、つまり相手の最終ラインをどう崩してゴールを奪うかという論点へ。

「相手の最終ラインを破り、最後にシュートを打つ選手に、スペース・時間的余裕と共にボールを届けられるか」というフェーズへと、おそらくキャンプから入っていくことになります。

理想的なイメージとしては、おそらく天皇杯決勝の江坂のゴール。

小泉と関根がやや無理矢理抉った形でしたが、この「ポケットを抉ってマイナスのクロス」を、ポジションのローテーションなどで意図的に何度も再現することが理想なのではないかと予想しています。


こういった仕組みが構築できれば、終盤は得点も減っていたながらもトップレベルのシュート精度を誇るユンカーの爆発も、まさに西野TDが発信していたように期待できるでしょう。

こうして振り返ってみると、確実に成長しながら天皇杯も含めて結果を残したと言えると思います。

「素晴らしい」シーズンでした。

個人的にもうひとつのキーワードとしていた、「ゲームをコントロールする」という点について・・・は書けたら書きます。

今季もレビューを始め、記事を読んでいただきありがとうございました。

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浦和レッズについて考えたこと

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