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【レビュー】流動と固定 - 2021 J1 第13節 浦和レッズ vs ベガルタ仙台


この記事でわかること

  • 前半の役割分担と閉塞要因
  • 崩しの実験
  • ハーフタイムの修正内容
  • 役割の固定とローテーション

5月1回目の連戦も最後になりました。相性の良い仙台を迎えた今節はユンカーがルヴァン杯に引き続きスタメン。そしてサプライズとなったのが彩艶の抜擢でした。

一方で柴戸は福岡戦で負った怪我が回復せず、メンバー外となりました。

結果は2−0の勝利。試合内容としては前半は苦戦し、後半にペースを取り戻した印象だったと思います。

前半は4月の好調を支えた方法とは別の方法を採用していました。その結果苦戦しましたが、後半は役割をある程度固定化してクオリティを取り戻し、勝利を引き寄せました。

前半と後半の違い、ハーフタイムにリカルドが施した修正について解説していきます。

流動的な役割と崩しの"実験"

今節もボールを持った浦和はいつも通り「相手がどうするか」次第ですが、仙台は4−4−2を初期配置としながら、SHを3枚目として前に出すことを狙っていたと思います。

また、中盤でセットした場合は横に狭く守ってくる形で、効果的なビルドアップができなかった浦和の攻撃もあって前半は苦労する形になりました。

その苦労した要因ですが、4月にうまくいっていた形とは別の方法を試していたようにも思います。武田と柴戸が負傷離脱している側面もありますが、うまくいっていた事とは違うことをやっているのは興味深い事実です。

その「うまくいっていたとき」というのは、中盤の選手が最終ラインには降りず、西が絶妙な場所を取ってサポートすることで、前線へ人を残していた時でした。

柴戸が2トップの背後を定位置として相手を引きつけ、その脇で西が起点になる。相手中盤の背後かつ間から小泉らが顔を出し、SHやFWが相手ライン間や背後でプレーしていたのが4月の3連勝時だったと思います。

今節の前半がどうだったかというと、まず西があまりビルドアップに顔を出しませんでした。

この試合では敦樹と阿部がダブルボランチを組みましたが、CBとボランチ2人が流動的に役割を入れ替えながらの前進を試みていて、西は大外で受け手として待っている場面が多かったです。

つまり、4月にうまく回っていた仕組みを敢えて採用しなかったことになります。

リカルドが何を狙っていたかは分かりませんが、無意味に論理から外れたことをやる監督ではないので、何か考えがあってのことです。

正解が何かは、リカルドが語らない限り知り得ることはありませんが、少し予想をしてみたいと思います。

まず、今節前の定例会見から探ると、相手にダメージを与えるために別の方法も模索していることが伺えます。

4/7 リカルド監督 定例会見

「まずボールをポゼッションしながら相手にダメージを与えるためには、ファイナルサードでのプレーが必要になってきますので、とても複雑な部分ではあります。時間も必要だと思います。レッズがボールを持って支配することは相手チームも分かっていますし、その対策もしてきますので、押し込む前のゾーン2、もしくはゾーン1のところでうまくプレーしながらスペースを見つけることが必要だと思います。
私のアイデアを今ここで全て晒せば相手チームに伝わっていまいますので、全てを言えなくて申し訳ないですが、今言えることは、より多くのバリエーションを持って、ポゼッションしながら押し込みますが、それだけではないプレーをしなければいけないと思います」

クリーンにボール運び、相手を押し込んでセットした攻撃を行えていたことは事実ですが、そこからゴールに繋げることに苦労していたのもまた事実です。

その課題に対するアプローチとして、得点を取る方法のバリエーションを増やしたいと言及しています。その中の「押し込む以外のプレーが必要」という観点から探ってみます。

西がビルドアップに参加せずに大外へ出たことで頻発していたのが、早いタイミングで関根がハーフスペースの奥を狙う動きです。

このハーフスペースの奥を取ってラストパスを出すことは、開幕前から継続して狙っていることは明らかです。

サッカーにおいて最も効果的な場所のひとつであり、ポジショナルプレーを採用するチームが頻繁に狙う場所でもあります。

これまでの浦和は、相手を押し込んだ後に3人程度のローテーションで相手の最終ラインをブレイクしてこのスペースを取ることを狙っていましたが、成果を残しきれなかったことは事実だと思います。

押し込む前の相手SHの後ろ、ゾーン2(中盤)で西がボールを受けた瞬間に関根が全速力で裏抜けを狙う動作は、崩しのひとつのバリエーションだったのかもしれません。1:29、33:00、40:20、42:30など、複数回同じようなシーンがありました。

左サイドは右サイドほど固定ではありませんでしたが、ローテーションの流れの中から小泉が大外から出し手となり、明本が裏を狙う、関根と同じような動きが複数回ありました。

単に山中の調子が落ちているようには感じていますが、もしかしたら、明本起用の狙いもこういったところにあるかもしれません。

よりゴールに迫る、つまり相手にダメージを与えるための方法として、相手DF背後にスペースを残した状態で、ハーフスペースの奥を狙う。

そのための出し手(西・小泉)と受け手(関根・明本)の関係性を確保するために、西や小泉を外に出したのではという考えを持ちました。あくまで筆者の仮説的な話なのですが、前半には前半の、何か別の狙いがあったことは間違いないと思います。

混雑を生んだ流動化

とはいえ、結果として相手にダメージを与えたかというと、ほとんど与えられませんでした。

というのも、西を欠いた最終ラインのビルドアップがうまくいかず、後方で優位の貯蓄を作ってクリーンにボールを前へ運ぶことができなかったからです。

ビルドアップの役割は4人が流動的に担っており、味方の位置・相手の位置・ボールの位置を見ながら、適切な配置をそれぞれがその時に取るという方法だったと思います。

ボランチのどちらかが3枚目になったら片方は中央に残って相手の2トップに影響を与えて前進経路を作り、運んで前進させる。前に出てくるSHの裏や、セットしたSHとボランチの間、大外を効果的に使っていく狙いがあったと思います。

飲水タイム後は、敦樹をCB間に落として固定気味にする時間もありましたが、相手2トップの背後に誰もいない状態になる場面も見受けられました。

相手の2トップに対して貯蓄を作って越えていくシーンが作れず、2トップ背後に誰もいないと相手ボランチへの牽制も効果的に行えません。

仙台のスライドも迷いなく行えるため、相手MF背後へのパスは届きづらく、小泉や関根といった受け手役が下がってきてしまう現象が見られました。

相手のブロック前をボールが移動していること自体が悪いわけではなく、相手に影響を与える・前進経路を作るという作業が伴っていないビルドアップでは、その先の効果が得づらくなるということです。

この状況で縦のパスを入れても相手に簡単に狙われるだけになるのですが、福岡戦の後半でもよく見られた事象です。

また、後方に人数を割きすぎると、縦パスや最後の崩しなど、リスクを伴う攻撃を行う局面で実際にボールを失った際に連動したカウンタープレスをかけることができません。

結果として、前半は仙台がやりたい前向きな守備を許してしまう格好になりました。その中で、彩艶が安定したセーブを見せて無失点に抑えられたことは試合を進めるうえでも大きかったと思います。

西をビルドアップの受け手に回して崩しの出し手にする、ビルドアップ隊は流動的に役割を交換しながら前進する、という分担はうまく回りませんでした。

ビルドアップの役割固定化

今季で一番悪かったのでは、と思える前半を過ごしましたが、試合中に大きく修正を加えられることも今季の浦和の強みです。

後半はいつも通り、西をビルドアップ隊に組み込んで役割をある程度固定化。2CBに西がサポートに入る形で、ボランチの2人はあまりポジションから離れずに2トップ背後で待機しました。

西からの経由地にもなれる場所に敦樹と阿部がいることで相手のボランチを牽制し、その結果として相手のSHが前に出ることも前半よりは難しくなったと思います。

また、受け手側の役割も変化が見られました。大外を関根と明本が担当し、中央のレーンを武藤と小泉が担当。ユンカーは前半同様になるべく前で待つ形に。

練習では一度もやっていなかったということですが、今節のメンバーを適材適所的に役割に当てはめた結果でもあると思います。

先制点もその効果を活かした形で奪えました。

起点は2トップ脇でボールを持った西から。阿部、小泉、武藤、関根が適切なポジションを取っていることで、仙台のSH氣田に複数の選択肢を突きつけることに成功していました。

狭いライン間や局面で仕事ができる武藤と小泉を中央のレーンに配置していたことから生まれた、難易度の高い崩しから最後に待っていられるユンカーが決めて先制ゴール。

これまではワンタッチやフリックで中央を割るというよりは、サイドと中央のポジションをローテーションしながらハーフスペースの奥を取ることを目指した攻撃が多かったと思います。

ですが、先制点最後の局面だけ見れば、関根と明本がWG的に幅を取って1トップ2シャドーが細かいタッチで中央を割っていく、ある意味ではミシャ的であったとも取れます。

しかし、だからといって1トップ2シャドーの細かいタッチや連携で崩す形を継続して練習し、その練度を高めていくということはしないはずです。

それはミシャ時代がそうだったように、固定化した人選に依存することになりますし、前半に採用した戦術を見ても役割と人の固定化は望まないはずだからです。

ただし、シャドー的な選手を多く抱えているわけなので、ゴールを奪える形のひとつとして自信を持っておくことは悪いことではないと思います。

ビルドアップの安定がもたらす効果

ボールの保持を起点としてゲームをコントロールすることを得意とする浦和にとって、ビルドアップの安定は効果的な攻撃と攻⇨守の切り替え(ネガティブ・トランジション)をもたらします。

また、ビルドアップの役割は固定気味にしましたが、そこから先の役割のローテーションはこれまで通り表現できていたと思います。

例えば、小泉が助けに降りた時は前のポジションを敦樹か阿部が埋めるといった交換や、人が配置をローテーションして相手を動かし、スペースを創出することなどです。

67:00のシーンはその具体例で、押し込んだところから右サイドのローテーションで相手を動かし、空いた前のスペースへ阿部が縦にスライド。それについてきた仙台のボランチが空けたスペースを活用し、明本の惜しいチャンスに繋がりました。

ビルドアップは固定気味にしても、崩しの局面では配置をローテーションして相手をズラしていく攻撃ができたシーンだったと思います。

また、このシーンは1得点目の1トップ2シャドーによるワンタッチ連携ではなく、チーム全体が味方と相手の位置を見ながら動き、相手がダメージを被るであろう立ち位置を適切に取れていたからこその決定機でした。

これまでのチームを考えると、このシーンで得点が奪えていたら理想的な点の取り方だったのかもしれません。

続く73:00、もはや職人芸のスローイン処理を興梠が見せて逆サイドへ展開すると、小泉がFKを獲得。阿部の芸術的なFK決まって大きな2得点目を挙げました。

後半のボランチを下げない配置は攻撃への関与と同時に、攻⇨守の切り替え(ネガティブ・トランジション)時の適切な配置にも繋がるため、ボールを失った時の対応も効果的にできていました。

リカルドが持つ試合中の修正能力と、それに応えられる器用な選手たちでゲームのコントロールを取り戻した浦和。

80分ごろからはマルちゃんのショータイムが開演しますが、そこまで危ない場面は作らせずに完封勝利を収めました。

小学5年生から浦和に所属する彩艶のデビュー戦をクリーンシートで締めることでき、素直に嬉しい試合となりました。特にマルちゃんのミドルシュートを片手1本で止めたシーンにはスケールの大きさを感じました。

まとめ - 「なぜ」で深掘り

苦戦した前半でしたが、後半に入ると役割をある程度固定化することで安定を取り戻し、無事に勝利を挙げることができました。

結果は結果として重要ですが、リカルドが何を狙って前半の役割分担を行なったのかという部分に目を向けることも、このチームを見ていくうえでは重要になる気がしています。

西をビルドアップのサポートに回せば質が上がることは、4月の戦いでわかっていたことです。それを敢えてやらなかったことには意味があるはずです。

当然、リカルドが戦術や考えを全て外部に晒すことはありませんが、「前半は悪かったな」で済まさずに「何をやろうとしていたのか」「なぜうまくいかなかったのか」を想像しておくことは、今後の戦いを見据えるうえでも必要なことだと思います。

もしかしたらシーズン後半に、「仙台戦の前半でやろうしていたことはこれだね」と感じる時がくるかもしれません。

そう思わせてくれる監督でもあり、結果以外の楽しみを感じられる部分でもあると思いますので、本コンテンツでもそういった面を引き続き取り上げていきたいと思います。

最後に、本文中ではあまり触れませんでしたが、リーグデビューとなったユンカーに少し触れておきたいと思います。

良い意味で力をセーブして前線で待っていられる選手で、最後のシュートを決め切ってくれる期待感はあります。ですがその分、チームが安定したビルドアップとボール運びでボックス内にボールを届けなければいけません。

このことは、獲得時に西野TDが話していたことで、個人的には現強化部が持つ論理性に対する信頼感がより増しました。

4/1 西野 努テクニカルダイレクター オンライン会見 コメント

「得点を取るためには得点を取る場所にボールを運ぶ、正確なボールを入れるということも併せて必要になってきます。そうした態勢が整ったときにはリーグのトップスコアラーになってくれる可能性がある選手だと思って獲得しています。」

また、ユンカーを狙った早めのクロスが少し増えた印象もあります。確率の低い攻撃は推奨されていないことを考えれば、彼の得意なゴールパターンのひとつなのかもしれません。

コンディションがまだ万全ではなく、90分のプレーはまだ難しそうです。また、北欧から日本の夏に適応することは簡単なことではないと思いますが、すぐに結果が出たことはポジティブなことでした。

連戦が終わり、1週間のブレイクが入ります。再び戦術的な積み上げができる期間が取れるので、次のガンバ戦で何を見せてくれるか楽しみです。

その後はGL突破のかかったルヴァン杯も含め、中2日もある連戦が始まりますので、厳しい戦いが続いていきますが、復帰しつつある怪我人も含めて期待したいと思います。

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