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ポジションではなく役割 - 2021 J1 第38節 名古屋グランパス vs 浦和レッズ


この記事でわかること

  • 前節からの改善
  • 金子の躍動と"あの頃"の関根
  • 今のチームはポジションではなく役割分担で見る
  • 役割の中でのポジション争い
  • この試合の勝敗以外の要素

浦和レッズの戦術を分析して試合を振り返るマッチレビュー。今回はJ1第38節、名古屋グランパス戦です。

リーグでのACL出場権獲得が不可能となった浦和は、怪我明けの選手たちの調整や金子のスタメン起用など、翌週に控える天皇杯も見据えた戦いをしました。

また、清水戦で課題となった、相手のブロックの外を回るボール回しについても改善。

ここまで出場機会が少なかった金子が活躍した要因や、トレーニングから改善した中盤のボール回しについて解説していきます。

改善は反省と復習から

前半は浦和ペースで試合を進めることができました。安定してボールを保持し、中央を使いながら相手の背後へと侵入。

良いボールの前進ができれば、ボールを失う場所も相手の背後になるため、攻→守の切り替え守備が機能して即時奪回も行えました。

試合のコントロール権は握れていたと感じたと思います。

金子の起用

スタメン出場した金子の貢献も大きかったです。

今季湘南から加入したものの、リカルドのサッカーにおけるボランチのタスクに苦労していました。

しかし、この試合では違った役割が与えられており、それが効果的に作用。

浦和が前半、試合を支配できた要因を役割分担から見ていきましょう。

"ポジション"ではなく"役割"

4−4−2で平野・柴戸がコンビを組んでいる時、ボランチはビルドアップのスタートに、ボール保持者として深く関わることが求められていました。

名古屋のような2トップの守備組織に対する時は、どちらか一方が最終ラインを助け、一方が2トップ背後のアンカー的役割を実行。

この役割に金子を当て嵌めた場合、十分にタスクをこなせていたかというと微妙なところでした。

その結果、ベンチにも入らない日々が続いていましたが、横浜F・マリノス戦から導入されたインサイドハーフ的な役割で金子は躍動します。

金子のダイナミズムが活きる役割

この試合では柴戸をアンカーの役割にほぼ固定。相手2トップに対する最終ラインの+1には、酒井がCB化するような形を作りました。

その分金子は、前に出ようとする相馬の背後に立ち位置を取って、出口になる役割を遂行。

大外の関根に吉田が出れば、その裏を取りに行くなど、相手の動きを見てその背中を取るタスクを豊富な運動量で遂行しました。

さらにボールが中盤を越えれば積極的に前へと進み、いわゆる5レーンのハーフスペース、吉田豊の内側に侵入していく役割も与えられていました。

ビルドアップのフェーズでは相馬や吉田の動きを見ながら背後を取り、中盤を越えれば相手最終ラインのハーフスペースを強襲。

攻守の切り替えや非保持守備では、柴戸と並ぶ位置で元来の守備力を発揮する。

立ち位置を前後に繰り返し変えていくことが求められる役割でしたが、金子のダイナミズムが活かされるものでした。

"あの頃"が戻ってきた関根の役割

それに連鎖して、直近と役割が変化したのは関根。

リカルドのサッカーに適応する中で内側でのプレー精度が向上し、新たな境地を開いてました。

しかしこの試合では元来の特長、大外からドリブルで仕掛けるシーンが目立ちました。

吉田豊に勝負を仕掛けてクロスを上げる。慣れ親しんだ姿の裏には、この日の右サイドにおける、それぞれの特長を活かした役割分担があります。

ゾーン2(中盤)における内側でのボールの出し入れ先や、相手最終ラインのハーフスペースを襲う役割は金子が担っており、酒井も大外ではなくCB的な役割でした。

その結果、右サイドの大外をスタート位置とするのは関根の役回りになり、"あの頃"の関根の姿が見られました。

吉田に対して複数回ドリブルで勝利するなど、質的優位を発揮できていました。

単純な競争じゃないポジション争い

リカルドのサッカーを遂行するうえで、中盤・中央の選手としてアンカー的役割や、ビルドアップの第一段階にボール保持者として関わる能力は求められはするでしょう。

一方で同じポジションであっても、別の役割で真価を発揮する選手層があることは、オプションを幅広く持つためには重要なことだと思います。

ボランチというポジションに課せられた、固定された役割の中での競争より、役割のバリエーションの中からポジション争いが生まれる。

これは相手の特徴に合わせてやり方を変えていく今のチームにとって、ポジティブなことかなと感じます。

例えばサイドハーフのメンバーを見ても、関根・汰木・田中・大久保はそれぞれ得意な役割が違います。

マリノス戦では相手の弱点を突くためにサイドハーフに求めたい役割が、大久保と田中の特長と合致しました。

こういうオプションの持ち方は来季に向けて仕込みたいはず。その可能性も感じた金子の抜擢でした。

「復習」トレーニングの成果

清水戦ではビルドアップの出口として中央に刺して収縮させたり、割っていくことができずに外回りが続きました。

つまりゾーン2、中盤でのボールの出し入れについては前節の課題でしたので、トレーニングもそこを重点的に修正したようです。

清水戦でビルドアップがうまくいっていませんでした。特にゾーン2(中盤の辺り)でのプレーがあまりよくありませんでしたので、久しぶりにその部分に時間を割いてトレーニングしました。押し込んだ状態でのトレーニングは最近もやっていましたが、ゾーン2は久しぶりだったので忘れているところがあるのなら、そこを復習するという意味で行いました。

今節は相手のボランチ周りの「間」を使う狙いが向上していたと思います。

金子や汰木、小泉が顔を出していわゆる交通整理の役を行なっていました。

また、汰木を中心に相手のライン間から顔を出し、前を向いている味方にレイオフ(落としのパス)する場面も多かったです。

前後に出入りする金子も絡みながら中央での出口を作りつつ、名古屋の組織を動かして最終的に背後を取ってゴールに迫る狙いでした。

2トップの脇から運んでいく意識も健在。やはりショルツの運びが目立ちましたが、運んでいる時は汰木と明本がそれに合わせて、相手の背後の位置をキープできていました。

原則の浸透具合

清水戦でできなかったことは、秋頃にはできていたことでした。リカルドも復習的なトレーニングだったと話しています。

今のサッカーは固定化されたパターンを仕込んでいるわけではなく、原則という判断基準の浸透を目指しているはずです。

その具体例として、パターンを提示してあげる。その練習を繰り返すことで、判断の経験を貯めていく。

しかし、トレーニングから時間が空くことで、忘れてしまうような形で実行できない時がある。

今季の段階ではここまでだったかなと思います。

おそらく(後方という意味での)ボトムアップでチームを作っていて、ゾーン1(自陣)から前進していくこと、ゾーン1からゾーン2(中盤)へ必要最低限のリソースで前進すること、ゾーン2の出し入れで相手の組織を動かすこと、相手の背後にフリーマンを作ること、あたりまでは形になりつつあるのが現状かなと感じています。

良いボール保持が良い切り替えに繋がる

役割分担と「復習」で浦和は前半、名古屋を押し込むことに成功します。

名古屋はサイドハーフに大外の幅をカバーする役割を課しており、これが堅守を支えるひとつの要素です。

しかし、浦和がスムーズに前進し、相手中盤の背後以降でボールを失うことができていたので切り替えの守備が機能。

マテウスと相馬という、名古屋のカウンターの脅威を低い位置にそのまま閉じ込めることができました。

名古屋の事情

非保持の守備では、ユンカーと小泉による誘導・規制、それに追従するサイドハーフというこれまで積み上げてきた守備を浦和は実行。

名古屋はこういったとき、前線へのロングボールで回避する術を持っていますが、今節はシュヴィルツォクが欠場していました。

1トップの位置には前田直輝が入っていましたが、ポストプレーに特長を持つ選手ではないので、SBの裏に流れていくプレーが目立ち、仮にそこに通っても代わりに中央に選手がいないという状況。

カウンターの起点・保持の逃げ所とする攻め手がひとつ足りない事情もありました。

"最後"は来季に期待か

それぞれの特長に合わせた役割分担と、清水戦の反省から積んだトレーニングの成果、名古屋の攻め手不足といった要素が、浦和の支配に繋がったと思います。

一方で、最後の崩しの場面ではまだまだ足りない部分が多かったです。

気になったのは、最後のコンビネーションがほとんど合わなかったこと。

相手の中盤背後から最終ラインを破っていく最後のところで、ユンカー、小泉、内側を取った汰木や金子らの連携が合わなかったり、同じスペースを取ってしまう場面が目立ちました。

ポジショナルプレーのひとつの狙いである「立ち位置によって相手の背後にフリーマンを作る」には十分な人数を置けていましたが、なかなかシュートまで到達できませんでした。

先述しましたが、今季中にここから先を仕込むことは少し難しかったのかなと思っています。

名古屋の修正 - 幅の確保の仕方

後半に入ると、名古屋は5バックに修正。先述した幅の確保を最終ラインで行うことで、相馬とマテウスのポジションを高くする狙いがあったと思います。

その狙いの成果と、相手の形が変わったことへ順応するまでややペースを握られました。

稲垣が1ボランチのような形だったので、その周辺にボールを出し入れしようと試みましたが、ここは左右のCBが前に出てくる迎撃システムや、柿谷のプレスバックで担保されていました。

裏と深さは誰が取るのか

もうひとつ、清水戦の反省から見えた狙いもありました。

66分の関根の決定機にも象徴されるように、ボールホルダーがオープンな状態になれたら相手の裏を積極的に狙う意識です。

0トップ運用時の問題として、手前だけが選択肢になることが多かったですが、江坂や小泉が降りたら代わりに誰かが深さを狙おうね、という仕組みは再度徹底されたと思います。

江坂・小泉は相手の間で顔を出してボールを引き出す分、関根に加えて汰木や金子が最終ラインを押し下げる役割を清水戦より担えていました。

試合は最後まで両チーム決め手を欠き、スコアレスドローに終わりました。

最後は阿部・槙野・宇賀神が同時にピッチに立つ采配も見せてくれました。

まとめ - 今節の勝敗以外のこと

試合前の時点で、現実的には6位か7位になるかどうかの試合でした。

一方で、目下最大の目標は天皇杯制覇です。

この試合はそこに向けて、怪我明けのユンカー・明本・柴戸の試合感を取り戻す調整や、金子起用による別パターンの試験も兼ねていたように思います。

今季の浦和がもっとも多く使った4-4-2の役割分担は、ルヴァン杯での対戦でC大阪に対策されました。それに対する策として、別のオプションを持つ試みでもあったと考えています。

オプションについては、金子が自身の特長を発揮してくれました。

ゴールまではまだ遠い印象でしたが、その手前までは有用なことを示せていたと思います。

カップ戦の駆け引き

シーズンを通した安定が必要なリーグ戦とは違い、一発勝負のカップ戦では事前の戦術的対策をいかに外すかという点も大きく作用します。

C大阪からすれば、浦和がどの人選で、どんな役割分担をした戦術で入ってくるか、確証が持てない状態にはなっているでしょう。

それがハーフタイムまでだったり、飲水タイムまでの20分間、浦和が優位に立つことに繋がる可能性もあるわけですし、単なるターンオーバー以上の効果があった試合だと考えています。

この試合のスコアレスドローという結果以上に、天皇杯制覇に向けての試合として意義あるものにできるよう、必ず勝利して決勝へ進出しましょう。

勝敗以外にも様々な要素が絡み合った最終節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!



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