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【レビュー】必然の積み重ね - 2021 J1 第29節 浦和レッズ vs セレッソ大阪


この記事でわかること

  • 凝縮された開始10秒
  • 相手に合わせて背後でフリーマンを作る
  • シン・0トップとWGの関係
  • タッチダウンパスの仕組み
  • 確率論的サッカー

好調を維持して迎えたC大阪戦は2−0の勝利でした。

無失点も継続、内容的にも試合を支配した完勝と感じた方も多かったのではないでしょうか。

ではなぜ、浦和がゴールを奪えて、良い内容と感じる試合運びをすることができたのか。

9月に入って向上している、得点に繋がる戦術的な仕組みについて解説します。

背後でフリーマンを作る

C大阪の守り方は、数字で表すなら4−2−4のイメージでした。

SHをなるべくFWと同じ高さからスタートさせ、両ボランチも前に接近させることでコンパクトな陣形を維持し、前線でボールを奪うことを目指していたのだと思います。

それに対して浦和は、やはりボールを持ってこれをひっくり返していくことが最大の狙いでした。

凝縮された開始10秒

これは試合開始10秒に凝縮されていて、西川まで戻す浦和と、ボランチを前に上げて奪いにいくC大阪の構図に。

SHをなるべく高い位置に置くということは、その裏が空きやすいということ。

ひとつ目のプレーから平野を使い、C大阪のSH裏・ボランチ横を使ったプレス回避ができたことは、この試合を象徴する場面でした。

このように、相手のやり方に合わせ、立ち位置で相手を引き出して、背後にフリーマンを作る動作を「相手にダメージを与える」ように遂行していくことがリカルドサッカーの基本であり原則であり、最大の狙いです。

この試合では存分に発揮することができ、しかも10分で得点に結びつきました。

先制点 - 今季のベストゴール

先制点は8:50のシーンから。中央を狭くしてSHを前に上げたいC大阪に対して、浦和は平野がCB間の降ります。すると、CBが大きく開くことができるので乾の立ち位置をやや開き気味にすることができます。

こうして開いたコースに平野がパスを通すわけですが、乾が前に出ることで空くスペースに関根が入れています。

また、平野が降りて最終ラインが3枚になっており、ここにこれ以上の人員は不要です。酒井はこの状況判断で前線の幅取り役となっており、相手のSBを関根に向かわせないように牽制することができています。

フリーマンとなった関根のターン、それを見越して裏へと走った2トップへのパスが通って江坂のゴール。


立ち位置によって相手の背後にフリーマンを創出するという、ポジショナルプレーの基本的な考え方を加味すれば、今季のベストゴールと言っても過言ではないと感じます。

今季の前半はこういった場面でも、相手背後に人を置ききれずにサポートに降りてしまう場面が多かったですが、最近は相手の3つのライン(FW、MF、DF)背後にしっかり人を残せるようになってきました。

後方でボールを扱える新加入選手の貢献や、チーム全体として立ち位置の取り方が成長し、ビルドアップを必要最低限のリソースで余裕を持てるようになったことが大きいと思います。

特に相手MF背後に安定して5枚、つまり5レーンを埋める立ち位置を取れるようになっている浦和は、相手のやり方や、相手を引き出した結果として空く場所にフリーマンを作るという、ポジショナルプレーの基本を何度も再現できるようになってきています。

ただし、C大阪の視点から見れば、SHを前に上げるならばそこにボールを誘導したいはずで、その場合は平野へのプレスのかけ方があまりに直線的すぎたと思います。

SHを前に上げるなら、一番通されてはいけない場所に通されてしまったと言えるでしょう。

目的は変わらず、方法は変える

リカルドのサッカーにおいて「相手を見る」ことは重要な考え方ですが、42:00の浦和の攻撃を見ればそれも表現できていることが確認できます。

この場面では、乾の位置が低いところからスタートしたため、浦和は違うパターンで相手の背後に侵入します。

最近の試合でパターンとして追加されている、酒井が最終ラインに入って左肩上がりになるパターンでのビルドアップから。

先制点の時に関根が取った場所には小泉がいますが、ここへのパスコースは塞がれています。

そのため、酒井へとボールを流すわけですが、このタイミングで大外の関根が降りることで相手のSBを引き出し、相手の最終ラインを手薄にします。

これを見て裏へと反転した小泉と江坂へ酒井がボールを供給し、相手の背後を奪うことに成功しました。

ノータッチで流しながら正確なボールを送り、そのままオーバーラップする酒井はさすがとしか言いようがありませんが、「相手の背後でフリーマンを作る」という狙いを、相手の出方によって場所を変えてできた場面でした。

必然的な追加点

さて、この「左肩上がり」のパターンはもうひとつのメリットをもたらします。

岩波の立ち位置が中央になる回数が増えるので、彼の最大の武器である長距離レンジのパスを発射するチャンスが増えることになります。

これまでは敦樹が最終ラインの左側に落ちることが多かったため、岩波はどちらかというと右へ開いて運ぶ役割を担うことが多かったです。

この仕組みを実現するうえでは、中央で360度囲まれてもボールを捌ける平野や、左から持ち運べるショルツ、ビルドアップにおけるCB的・WG的役割を高レベルで担える酒井の加入が大きいと思います。

このユニットが基本となってきたルヴァン杯川崎戦あたりから、解説・戸田さんの言う「タッチダウンパス」を岩波が発射する回数が増えたことは、仕組みを考えれば偶然ではなく必然の事象でしょう。

0トップ&WG、役割の流動性

また、先述の通り、相手の背後に人を残せるようになったこともあります。

江坂・小泉の2トップは相手の間で受けることを得意とするユニットで、ユンカー起用時に比べると頻繁に立ち位置を降ろすことになりますが、その分、深さを確保しているのはサイドの選手です。

相手のCBが間で受ける江坂と小泉にアプローチしたくても、大外で関根や汰木、ローテーションによっては酒井や明本が深さを保っているわけで、ラインを上げることが難しい状況に追い込むことができます。

6:05はその象徴的な場面で、相手の急所となるボランチ横で受けようとする江坂と小泉、最終ラインを押し下げる関根と汰木、という構図。

ショルツのパスから関根の裏抜けを狙った、2得点目と左右反転したような形で、チームとして狙いを持っていることがわかります。

その2得点目はどちらかというと攻→守、守→攻の移行が連続的に発生した流れではありましたが、結果としては岩波のタッチダウンパス、裏に抜けるSHの汰木という、最近の仕組み上起こり得るであろう形から奪うことができました。


間で受けるために降りる選手に加えて別の場所で深さを取ると、相手に前後の選択肢を突きつけられるので、より効果的です。

4月も同じように武藤の0トップと評されましたが、その時よりも深さを取ることに関する成長が見られると思います。

もちろん、この仕組み一辺倒というわけではなく、CBが大きく開くこともあり、岩波が運ぶ場面も存分にあります。

浦和は各自がポジションを入れ替わりながらも正しい立ち位置を取ることで相手の守備者に複数の選択肢を突きつけ、相手を引き出し、空く場所を創出することを、様々なパターンから行えるようになってきていると思います。

リカルドを助ける手札の豊富さ

2点リードを得た浦和は、試合状況に合わせた選手交代で危なげなく時計の針を進めます。

前半飲水タイムあたりからC大阪は浦和のSB-CB間のランニングを増やしてきましたが、敦樹が入ってからはより蓋をすることができました。

また、時間が経過するにつれて攻守ともに前がかりなったC大阪。前線4枚を中央に入れてSBを高い位置に上げることが多くなったため、カウンターで裏を取れる回数も増えました。

そのスピードをや強度を担保する交代、大久保や田中を投入しつつ、前からくる相手をいなすボール運びもできていた浦和は、難なく試合をクローズして2−0の勝利を収めました。

まとめ - 必然の積み重ね

個人的に、リカルドのサッカーは確率論的なサッカーだと考えています。

サッカーには必ず相手がいるので、相手を見て、相手がもっともダメージを受けるサッカーを行う。

その再現性高める、つまり意図して繰り返し行えるようになることで、10回戦ったら8割9割は勝てるよね、という内容を目指しているのだと思います。

今季1度目のC大阪戦でレビューしたように、そういうサッカーをするんだということを確信した相手でもありました。

この時はセットプレーから失点して敗戦しましたが、内容的にはこの方向性で良いのだと思っていたので、今回はしっかり結果を残せてとても良かったです。

苦悩のセレッソ

一方で、C大阪がACLから中2日であったことや、ロティーナ監督からクルピ監督への移行失敗、その再建の最中にあることは差し引く必要があると思います。

本文中でも言及しましたが、C大阪の守備はどこに追い込むのか、追い込むための誘導のやり方など、怪しい部分があったのは事実だと思います。

その状況で前に出てくる相手というのは、浦和としては、やりたい事がやりやすい相手でもあります。

また、C大阪の攻撃においても、チームとして同じ方向を向けているかというと微妙なところも多く、それは攻守の移行、トランジション局面にも影響がありました。

昨年までのロティーナ体制時では、ほぼ穴が開かなかった部分だと思うので、1年経たずにこうなるというサッカーの恐ろしさも感じました。

"痺れる"終盤へ

ですが、前進のパターンを増やしながらゴールを奪いましたし、江坂・小泉の規制・誘導から始まるプレス、全体的な切り替えの速さには磨きがかかっています。

欲を言えば3点目、4点目を奪って得失点差を稼ぎ、試合を終わらせたかったですが、内容的には会心の勝利でした。

ここからシーズン最終盤に向けて、ACL出場権獲得のための痺れる試合が始まります。

その目標達成もそうですが、来季以降に向けて「勝負どころ」の試合を経験できること、その試合を勝ちにいける準備は整ってきている気がします。

まさに完勝で連勝、クリーンシートを達成した今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!



浦和レッズについて考えたこと

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