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「悪くない」ではなく「素晴らしい」になるために(2021/12/4 名古屋vs浦和)

マッチレビュー

ゆうき
ゆうき

2021.12.07


本記事はゆうきさんがご自身のnoteで連載中の記事になります。

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不本意ではあるものの、前節の敗戦によってチームとしては何も懸からない状況で迎えた最終節となりました。その事実に対する残念さはあったものの、だからこそ天皇杯に向けて負傷明けの明本とユンカーが前半に、今季限りで退団する宇賀神、槙野、阿部がプレー時間こそ違えどそれぞれ後半に出場機会が作れたことは良かったかなと思います。

宇賀神がピッチに入る前にいつも通りエンブレムをぎゅっと握って飛び出していく姿や、終了間際にFKを勝ち取った槙野のキープや、キムミンテのクリアボールをヘディングで繋いで小泉のシュートまでの流れを作った阿部らしい黒子の働きなど、それぞれが「らしさ」のあるプレーを表現してくれたことに胸が熱くなりました。

また、87'45~の名古屋の素早いリスタートに対して斎藤学のシュートをスライディングでカットし、再び斎藤にボールが入ったところも体を入れてボールを奪いきった関根の力強さに横浜FM戦でも溢れていた彼が果たすべき責任を見た気がします。

DAZNで試合を観るときはノートに「0'39 R 19ハーフレーン裏を狙う」みたいな感じで、気になった場面とか後で観返したいと思った場面は時間、チーム名のアルファベット1文字(R=浦和)、選手は背番号で表記した一言メモをするのですが、この場面は「87'50 R 41最高」とだけ書きました。試合の1プレーを見て涙まで出たのは初めてかもしれません。


前節の停滞感を受けてということもあると思いますが、火曜の公開TRではゾーン2からの前進をトレーニングしていて、それも名古屋対策ということよりも自分たちの原則を再確認、復習するという意味合いで行ったとリカルドは定例会見で話しています。

(メディアにトレーニングが公開された今週火曜日は、オフ明けということもあったかもしれないが、名古屋対策というよりも自分たちのビルドアップ、しっかりとボールを運ぶところをもう一度見直そうというトレーニングをしているようにも見えた。どんな意図があったのか?)
「時間は限られていますので、トレーニングにも優先順位を付けて行っています。その前の清水戦でビルドアップがうまくいっていませんでした。特にゾーン2(中盤の辺り)でのプレーがあまりよくありませんでしたので、久しぶりにその部分に時間を割いてトレーニングしました。押し込んだ状態でのトレーニングは最近もやっていましたが、ゾーン2は久しぶりだったので忘れているところがあるのなら、そこを復習するという意味で行いました。私のサッカーではディテールをつなげていくことが必要ですので、それを行いました。そしておっしゃった通り、相手を想定したわけではなく、浦和レッズのサッカーを改善するためのトレーニングでした」

ファン・サポーターの方々に誇りを感じてもらえるように、しっかりと戦う」リカルド ロドリゲス監督(定例会見 12/3)

選手が出来ることを増やしていく中で、指導者は選手に対して選択肢を示してあげて、最終的に判断するのは選手だというスタンスをリカルドは取っています。

シーズン序盤は特に試合の中で選手が判断に戸惑っているような時には飲水タイムとかハーフタイムに「ここはこうしよう」と選択肢を決めてあげることはありますが、選手たちがいろいろな原則を理解していく中でリカルドが選手に判断を委ねる割合は増えている、選手が判断できるようになってきているというように見えます。

ただ選手は、特に試合の中では、出来るだけプレーを成功させるために自分のできること、自分の得意なことを発揮するような選択を無意識のうちに取ってしまうことはあるでしょうし、それが前節のような「誰が相手のゴールに一番近いところを狙うの?」「誰が1stアクションを起こすの?」という部分が曖昧になったことの要因の一つとしてあっただろうと思います。

なので、上手くいく確率がどうかということではなくて、「やらないといけないのはこういうことだよね」というのを再確認するための1週間を過ごしてきたのかなと思いますし、それがピッチ上で前半から見えていたと思います。個人的には決定機こそ少なかったけど、前節よりはだいぶ中身の違う無得点だったと思っています。


具体的な場面で言えば、0'28に小泉が中央で横ターンしてユンカーにボールを入れた時に、キムミンテが対応するために出てきたスペースへ金子がハーフラインから一気に抜け出そうとしたり、16'45に左のハーフレーンをショルツがオープンに持ち運んだ時に外は明本、内は汰木がそれぞれ裏のスペースへ走り込んでいたり、相手に前向きな矢印を出させないための動きが増えていました。下の図は16'45~の方です。

この場面は明本のトラップ位置が体の中心ではなく左足の前になるとそのままクロスに行けたのかなと思いますが、マテウスも一度汰木への縦パスのコースを塞ぐために体が内向きになったところから切り返してしっかり戻って対応しているので、この辺りのSHの守備意識の高さというか、SBと内外を分担しながら最終ラインが5枚、6枚になることもいとわないような守り方は名古屋らしいなと思いました。


浦和のビルドアップの形が酒井を残して明本を上げる左上がりのような構図だったので、マテウスは明本に合わせてそのまま開きながら低い位置で守備をする回数が多く、そのおかげでショルツの前にスペースが出来るのでそこから前進するというのが最後まで続きました。

22'45にも再びショルツが前田の脇から運んでいって、今度は明本と汰木が内外を入れ替わりながらボールを引き出して汰木がトラップで前を向くと、大外から走り込んだ関根へ向けてクロスを入れます。クロスの精度のせいで決定機にはなりませんでしたが、形としては良かったと思います。


名古屋の保持は基本的には中央ではなく外からの前進を試みる回数が多かったですが、その中でも浦和のSHとSBを引き出したらその背後を使うというアクションは徹底されているように思います。

現象としてはレアケースかもしれませんが、名古屋から見て右から左へボールを動かそうとしたときに関根がキムミンテの方へ出した矢印の根元に相馬が入り込んで、関根の背後のケアのために動いた酒井の背後へ吉田が走り込んだ13'45~の流れはクロスの精度さえよければ1点ものの見事な前進でした。

それでも、浦和は先述の通り相手の背後のスペースに向かって人が走ることで名古屋に前向きな守備アクションを起こさせず、配置バランスも取れた中でボールを動かしているのでボールの失い方が良かったと思います。

18'03はクロスボールが繋がらず宮原に拾われたところに金子、明本、柴戸が次々と立ちふさがった流れでボールを回収したり、32'20にもクロスのこぼれ球を逆サイドでマテウスに拾われるもショルツがすぐに対応してしまったり、名古屋のバックパスに対して小泉がランゲラックに対してCBへのパスコースを切りながら寄せることでボールを捨てさせたり、攻守に切れ目のないスムーズな試合展開を作って浦和ボールの時間を増やせていたと思います。それでもマテウスのゴリゴリ入ってくる恐怖感はあったのですが。


ただ、良い展開、チャンスの蕾は作ることが出来ても結局得点は奪えなかったわけで、そこはあのシーンのあのパスがもっと正確に通っていたら、とか、もっと強いパスを入れて相手を置き去りに出来たら、とか、たらればではあるのですが、そういう個人の質のところでの物足りなさはあったように思います。

18'52にショルツからのパスを稲垣と木本の間で小泉がもらって前を向きますが、おそらく手前にいるユンカーの頭を越してキムミンテの背後に走り込んだ金子を狙ったのかなと思いますが、ボールに高さが出ずに手前のユンカーの腰の当たりに留まってしまったり、40'13にも小泉が稲垣の内側でボールをもらってからターンしてユンカーへスルーパスを出したのが流れてしまったり、惜しいなあ。。という場面が多かったかなと思いました。


ハーフタイムでのユンカー、明本の交代は負傷明けでの試運転だったからと試合後にリカルドは話していたので後半は再び0トップになるのは最初から織り込み済みだったのだろうと思います。

となると、誰が真っ先にゴールに向かって行くのかということを再び問われることになるのですが、60'40に稲垣のシュートをキャッチした西川が素早く酒井にボールを渡したところから始まったカウンターでは中央で小泉がフリーで前を向いた状態でボールをもらいますが、ここですぐに外に流れた江坂へパスを出してカットされています。

小泉は酒井からパスを受けて1トラップですぐに江坂へパスを出したわけですが、そもそもトラップして前を向いた段階で小泉の周辺、特に前方は10m以上のスペースがあって、江坂だけでなく、金子、酒井、関根が背後のスペースを狙えるような状態で走っていたので、この場面では小泉はもっと名古屋のゴールに近い位置に運んでからパスをするなりシュートをするなり、ボールを離す選択をしても良かったかなと思います。

本人の性格もあるとは思いますが、こういうところが「上手い選手」だけど「怖い選手」になり切れていないところではないかと思います。小泉が江坂についてリスクを冒せる選手というような評価をしていて、比較すると自分は安全な選択肢を取りがちということも話しています。そういうところで小泉が一つ殻を破れると良いなと見ていて思いました。勿論、隠れずにボールを引き出し続けているからこそ、小泉に注目する回数が増えるのですが。


さて、この小泉について触れた場面でもそうでしたが、久しぶりの先発出場になった金子はビルドアップ時には右ハーフレーンをスタート位置にして名古屋の左サイドの2人、相馬と吉田のどちらかがアクションを起こしたらその背後のスペースへ入り込むことが多かったです。

それによって名古屋の方は木本がカバーリングのために動くことになり、稲垣はマテウスが明本について行くので前田の脇から運んでくるショルツの対応のために出ていくので、名古屋のCH間がスタート位置だった小泉にボールが入る回数も増えたのかなと思います。

少し動きすぎるきらいというか、なかなかビルドアップでへその位置に入った時に上手くさばききれないのが多かった金子ですが、この試合では柴戸がその役割に固定されていたことで、自分のスタート位置からダイナミックに動けていてとても見応えがありましたし、オフサイドで取り消しになったCKに至るまでのボール前進、69'30のゴールキックを酒井に当てたこぼれ球に対して木本の前に体を入れて小泉にボールを繋げて、小泉がキープしている間に吉田の背後のスペースへ走り込んでボールキープする流れはとても良かったと思います。

分かりやすいライバルとして敦樹が同じようなダイナミックに前線に絡んでいく動きをしていますが、金子もしっかりと1年間のトレーニングの中で出来るプレーを増やせているんだなと感じました。来季は流経大から安居の加入が決定していて、CHのポジション争いがどうなっていくのか楽しみです。


例年より4試合多かった2021年のリーグ戦もこれで終了したわけですが、終わってみれば自分たちより上の順位のチーム、川崎、横浜FM、神戸、鹿島、名古屋に対してはなかなか結果を出すことが出来ませんでした。

天皇杯も終わったところで1年間の総括はしたいと思いますが、得点数が38試合で45点というのは優勝を目指す上ではとても少ない気がします。やはり、ボールを上手く持ててもゴールに繋がらなければ相手からすると怖さはないですし、怖くなければ前向きな守備をどんどん起こされてしまいます。ゴールにならないとしても、どれだけ直接ゴールに繋がりそうな場所へボールと人を入れて行けるのか、その回数を増やせるのかというのは大きな課題として残りました。一つ間違うとゴールを奪われる、ボールを奪われるという怖さがまだまだ足りません。

2020年に比べれば「悪くないチーム」になってきたのは間違いないです。ただその上の相手からすると「怖さのあるチーム」「素晴らしいチーム」というところには達していません。使い古された言い方をするなら、ホップ、ステップまでは来たので次はジャンプだね、となると思いますが、ダントツで優勝した川崎とは得点数が36点、2位の横浜FMとは37点も足りません。勝ち点差も川崎とは29、横浜FMとは16も違うわけで、ただのジャンプでは届かないのだろうと思います。

どのような補強をするのか、あるいはさらに退団する選手が出てくるのかは天皇杯の結果、もっと言えばACLに出られるのかどうかで変わってくるのだろうと思います。この辺りの動きがどうなるかはもう少し静観というところでしょうか。


2020シーズンからリーグ戦の試合の後に文章を書くようになって、昨年は32節までは書いたものの最後の2試合は匙を投げてしまいました。今年は何試合かリアルタイムで観られなかったものの、リーグ戦は全試合文章を残し続けることが出来ました。この達成感に意味があるのかは分かりませんが、少なくとも自分が感じたことを吐き出すことで頭の整理をしながら38試合を見守ってきました。

昨年はシーズン終了後にクラブからきちんと総括の文章が出たので今年もそれを期待していますし、そうした時にはまた今年の夏に行ったようなアンケートなんかを行って色んな方の意見を聞いてみたいなと思います。その際にはご協力お願いします。


今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。


浦和レッズについて考えたこと

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