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新しい力と改善された動き(2021/8/14 浦和vs鳥栖)

マッチレビュー

ゆうき
ゆうき

2021.08.17


本記事はゆうきさんがご自身のnoteで連載中の記事になります。

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五輪による中断があったので感覚がぼやけていましたが、直近の4試合(6月末の湘南、7月の仙台、大分、再開後の札幌)は1分3敗で得失点差が5点もマイナスしてしまっていて、ACL出場権を争う上位チームが似たように躓いていることであまり差がついていないことは幸いしつつ、チーム状態としてどうなの?というところではありました。

特に7月の仙台戦以降に表出していたのはビルドアップで上手く前進できない点で、仙台と大分には最終ラインは持たせてもらえるが中盤でコンパクトにセットされたところに入っていこうとして押し返されていたり、札幌にはそもそも最終ラインが持つところでかなり詰められて前に出ていけなかったり。

札幌戦もひとくくりにするべきかはちょっと悩ましいですが、特に仙台、大分との試合では手前(ピッチの中盤エリア付近)を使って丁寧に、あるいは上手く進もうとしたことで奥(相手の裏)を狙うことが少なく、それによって相手がどんどん前向きに守備をするような状況が生まれやすくなっていました。

そういった点で、この試合の特に前半は積極果敢な縦方向のプレッシングを志向する鳥栖を裏返すようなボールを送っていく回数が多かったのはポジティブな変化だったと思います。また、第2節で対戦した時とは特に岩波のボールを受ける前のポジショニングがとても良くなっていて、相手を裏返すボールを送れたのはそこも大きかったかなと。

これは第2節での図ですが、ビルドアップ時に岩波がボールを受ける前のポジショニングで相手から十分に距離を取ることが出来ずに上手く前進できなかったというシーンについてのものです。


これを踏まえて16'07~のシーンを見ると岩波が上手くポジションを取れていて、それによってボールを前に出せていることが分かりやすいかなと思います。田中達也と入れ替わりで前に出て行った酒井へボールを発射した場面ですね。

左から敦樹→槙野とパスが渡って、この時岩波は槙野から見て斜め前の位置にいますが、槙野がボールを受けてトラップする間に岩波が槙野と同じ高さまで下がってプレッシングに出てこようとする仙頭から距離を取っています。

距離にするとほんの3メートル程度だとは思いますが、それによって岩波はボールを前向きに置くことが出来、仙頭が寄せ切る前に顔を上げて前方向を確認し、足を振るだけの時間が確保できています。


22'08の中野の背後に抜け出した江坂まで飛ばしたパスも同様で、西川を含めてじっくりボールを持って相手の出方をうかがう中で、西→槙野→西川とパスをしている間に岩波は西川よりも低い位置まで下がって相手から距離を取っています。これは2月のキャンプから取り組んでいる動きですが、確実に相手から距離を取って前向きにボールを持つ状態を作ることで、状況を把握して空いている場所、そこへ動く味方をしっかりと使えています。

パスを受けた江坂もその勢いを使って大畑の背中を通して田中のスピードを活かすスルーパスを出しており、普通であれば決定機になりそうな場面だったと思いますが、鳥栖からすれば残念そこは朴一圭!と言わんばかりの素早い良い対応でしたし、彼が控えているからこそ前へ前へとプレッシングが出来るんだよなという強みを見た場面でもあったと思います。


金明輝監督は「浦和さんが思いのほか、長いボールを多用してきたことでちょっとイレギュラーが起きてしまったりもしました。」とコメントしていましたが、ここまでの試合をスカウティングしていれば浦和が手前のスペースから攻略していこうとするだろうと予測するのは自然なことだと思いますし、だからこそこの試合ではしっかり裏のスペースという意識を出せたというのは相手からしても浦和が良い方向で変化したということだったのだろうと思います。


浦和の先制点についてはそれこそ江坂の個人の能力というか、持っているアイディアが発揮されたものだと思います。スローインのクリアで飛んできたボールを胸で処理するのは良くありますが、あれをその場でトラップするのではなく、胸でそのままスルーパスにしてしまうというのは誰でも出来ることではないと思いますし、だからこそエドゥアルドが虚を突かれたというか。恐らくエドゥアルドは胸トラップで落としたところを突っつきに行こうとして江坂からちょっとだけ距離を取ったのかなと思います。

あそこで足が止まらなかっただけでなく、利き足ではない右足でもしっかり振りぬいてゴールを決めた明本も良かったですね。解説の福田さんも言っていましたが、どこのポジションに入っても及第点以上のプレーをしてくれる明本。走力、体力、当たりの強さは勿論ですが、ボールを扱う基礎技術もより良くなってきていますね。

明本は小泉と一緒に出たyoutubeの企画では試合に出られないよりはSBでも出るがやっぱり前の方が良いというようなことを言っていたかと思いますが、これで2試合連続ゴール+PKゲットと3得点に絡んでおり、さらにリカルドのコメントでも出てきましたが、この試合のプレッシングを牽引したのも明本だったと思います。

もはや本職がどこかわからなくなってきましたが、酒井が入って、西を左SBで使うことが出来ると、明本を前において全体を引っ張り上げてくれる役割を担ってくれるというのもアリですよね。

(今日は明本考浩選手の前からのプレスがチームを前に出す力になったと思う。明本選手が真ん中のFWをやるのはあまり見たことがなかったが、どのような決断だったのか?)
「そこが狙いとしてありました。彼の特長でもあるプレスのところで、前半は非常にうまくいっていたのかなと思います。」

リカルド ロドリゲス監督 鳥栖戦試合後会見

ユンカーと小泉が不在もあってか、ここまでの試合のプレッシングとはちょっと違うパターンが特に先制するまでに見られました。基本配置が4-4-2というのは変わらないと思いますが、ここまでは2トップ脇のスペースは相手に一旦進ませておいてから2トップが横方向に追って中央、逆サイドへは行かせず、そのまま相手の進める方向を縦だけに狭めて誘導していきボランチやSBの位置で奪うのが多かったと思います。

しかし、この場合では相手が後ろに人数をかけて2トップ周辺にパスコースが増えると2トップが縦に並んで壁を作ってもその間や脇を通されて逆サイドへ逃げられてしまうことがありました。

3バックのチーム相手になかなか上手く守備が出来ないのはこれも要因の1つだと思っていて、自分たちが出した矢印と逆方向に逃げられてしまうと、そこからボールが出た方向へ対応するために走らなければいけない距離が長くなります。そもそも人数を減らした場所へボールを持っていかれてしまっていてスピードを上げて対応しなければいけないので、自分たちのバランスを維持したままというのは難しいです。

その結果撤退守備を強いられ、攻勢に出ようとしてもポジトラの位置が低いので相手ゴールへすぐに向かって行くことは難しく、そこから保持へ移行しようとしても押し込まれた状態からスタートするので相手を観察できるポジションを取っている時間が短くて上手く運べないという悪循環が生じます。


そこで、この試合で見られたのは2トップ脇のスペースをSHが縦スライドして対応することでした。特に前半は中継カメラの角度のおかげで大久保の動きが良く見えましたね。鳥栖が朴を使いながらビルドアップするときにはCBが開こうとしますが、そこに対して特に大久保が島川まで出て行く動きが何度も見られました。しかも島川に対して外側で横サポートをしようとする飯野を消すように外側から寄せることで島川の選択肢は縦方向か逆方向に限定されます。

9'30~はこのプレッシングによって島川から中野へのパスを平野がカットし、すぐさま江坂にボールを渡してシュートまで至っています。まさに浦和が目指す奪ってから出来るだけ早くフィニッシュまで持っていくプレーでした。

15'28~は島川に大久保が出て、島川→朴→エドゥアルドとパスが渡ると田中がエドゥアルドまで出て行きます。すぐには取り切れませんが田中が朴まで二度追いして、大久保が島川に再び外から寄せることで島川が飯野を使うために大久保の頭上のパスコースを選択しますが、これが繋がらずスローインという形で相手からボールを取り上げることに成功しています。

このようにSHが相手のビルドアップ隊に対して外を切りながら寄せて相手のプレーエリアを中央3レーンに制限するようなプレッシングは川崎のそれに近いものを感じました。寄せて行く方向は違いますが、これも相手が使える幅を限定してパスの出し先を予測しやすくするというこれまでのプレッシングと同系列のものだと思います。

内側に入ってボールを受ける中野を酒井が潰しにかかれるのも、彼が外の大畑と内の中野をどちらも見られるようなポジションにいるというのもあると思いますが、前線から相手が使えるレーンを狭められていたからこそ出足良く行けていたのではないかと思います。


しかし、このプレッシングは先制点を取った後あたりから回数が減っていってしまいました。40'50~のシーンで負傷した島川に代わって入ったファンソッコが2トップ脇から運んだ時に大久保が外の飯野を切りながら対応しようとしていたので、ボールの前進経路の制限の仕方自体は変えていないのだろうと思いますが、先制点を取って、なおかつ前半も終わりの時間に近付いてきたのでちょっと守りに入ったというか受け身な気持ちになっていたのかもしれません。鳥栖が何かを変えたのかはちょっと分からないです。


こうなってしまうと、先ほど書いた通り相手のビルアップ隊に人数を確保された時に2トップで横から追いかけようとしても外されて逆方向へ逃げられてしまいます。それがまさに鳥栖の同点ゴールの流れでした。

中央に樋口が残り、仙頭が最終ラインの間に下りることで浦和の2トップに対して3-1の状態になります。さらに外の大畑、内の中野がボールに近付くことでボール周辺での数的優位を作ると、仙頭が最終ラインからスッと樋口と同じラインに出てきて、仙頭→中野→樋口で局面を抜け出して逆サイドへ。

ボールが広いエリアに出たら一気にスピードを上げるのが鳥栖のパターンで、外の飯野に対応した西の背後には白崎、そのカバーに回る槙野の背後には小屋松、さらにそのカバーに回る岩波の背後には山下、と見事な展開と動きで鳥栖がゴールを陥れました。


さて、この試合では、酒井と平野、最後の数分間でショルツが浦和でのデビューを果たしました。

酒井は五輪の疲れや合流直後でまだ浦和というチームの中でどう振舞うべきかがはっきりとしていないことで「ずっと考えながらプレーをしていました」ということもコメントしていましたが、「それを考えずにプレーができれば疲れないでしょうし」「まだまだ10のうち1~2くらいだと思う」とのことで、一発目から中野にガツンと当たって平然と立ち上がる強さであったり、自陣でボールを拾った時にスペースがあればググっとボールを前に運ぶ推進力など、ここからどれだけチームに貢献してくれるのかかなり楽しみなデビュー戦だったと思います。


平野についてはプレッシングのことで書いた9'30~のようにボールを取った時に前が空いていればすぐにつけようとしていたり、ビルドアップでは前半は2CBを開かせつつ、中央を敦樹、平野が相手の間や背中に立つことでプレッシングに行くのを迷わせるようとするために平野が相手2トップの間に立ちながら、パスコースに顔を出して展開していくというのが見られました。

3'50~、7'38~と鳥栖の2トップ+3MFで作る五角形の中央でボールを受けて、仙頭の背後に顔を出した江坂を使うなど、相手を見たポジショニングとパスの選択が出来ており好印象です。

恐らく本人が思っているよりも早く相手のプレスバックがきてしまってボールを奪われるようなシーンがあったり、後半は敦樹を槙野の脇に下して3-1にしたことで平野からすれば自分より前の選択肢が少なくなってしまって苦しんだようにも見えます。前者については小泉なんかがそうだったようにこれからプレー時間を増やしていく中で慣れて行けば問題ないと思いますし、後者はチームとしての戦術選択の部分で犠牲になってしまったのかなと思います。そうなっても個人で解決できるのではないかというリカルドの期待があったのかもしれませんが。


後半に敦樹を下ろすビルドアップにすることでボールが前進した後のネガトラでは中央のフィルターが単純に1枚減ってしまうので、それも手伝って最初の方はオープンな展開になってしまいました。前半のビルドアップについては決してネガティブだったとは思わなかったので、2-2から3-1に変更したのは意外でした。

ボールを運んでもすぐに押し戻されてしまう、それによって守備ブロックの位置が低くなってSHが縦スライドして出て行くのは遠いし、ゴールに近いとスペースを空けるのが怖いし、それでさらに鳥栖に押し込まれてしまう、という悪循環が後半の間はしばらく続いてしまいました。自分たちのゴールに近い場所でのプレーが増えれば、決定機の回数も増えてしまいますよね。


それをなんとか凌いだ後には再びボールを前に進めらるようになり、73'05はそれまで最終ラインに下りることが増えていた敦樹が西と入れ替わって鳥栖のIHの背後のスペースを使ってCKを獲得したり、鳥栖が何度もファウルをすることでボールを持てる時間が増えました。それによって浦和の最終ラインの高さが回復し、再び前向きなプレッシングが見られるようにもなってきたところで明本がPKを獲得。

それまでの中で小泉慶は2枚目のカードをもらってもおかしくない場面が2度はあったと思いますが、そこで1人少なければ違った展開だったのかもしれませんし、何はともあれ江坂の移籍後初ゴールが決まって久しぶりの勝利。


後半ATに時間稼ぎと後ろのパワー増強を兼ねてショルツがお披露目されました。この夏の新加入選手が続々と起用されましたが、そもそもこの試合のスタメンは西川、槙野、岩波以外は全員が今季新加入でしたね。こんな人数が加わったシーズンもあまり無かったと思いますが、そういう選手たちがしっかりチームとしてプレー出来ているのは強化部もそうですし、リカルドもそうですし、クラブとして同じ絵を描きながらアクションが起こせているのだろうと思います。


試合の内容としては、鳥栖から見れば金明輝監督が「選手たちは90分通して、しっかりとプレーしてくれたと思いますし、勝ちに値するゲームをしてくれたと思います」と言うように、鳥栖に転んでもおかしくなかったと思います。ただ、浦和が負け試合を勝ちにしたのかと言えばそうではないと思います。五分五分寄りはちょっと鳥栖優勢だったかな?という感じでしょうか。

ACL圏内を目指す、来年はリーグ優勝を目指す、となればこういう劣勢の時間が続いた展開の試合で勝ち点1ではなく3にする力も求められますし、ましてやACL圏内にいる相手との直接対決であればなおさらです。ここまで自分たちより上の順位の相手に勝てていませんでしたが、この試合がメンバーもそうですし、プレーの内容も含めて1つの分岐点となるかもしません。

再開初戦こそ躓きましたが、ここから順位も内容もどんどん上げて行ってくれると良いですね。


今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。


浦和レッズについて考えたこと

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