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三年計画の定点観測(2021年9月度月報)

コラム・考察

ゆうき
ゆうき

2021.10.14


本記事はゆうきさんがご自身のnoteで連載中の記事になります。

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◆前書き

昨年はリーグ戦の試合の直後にアンケートを取って、自分の評価と比較しつつ三年計画のプレーコンセプトが表現できていたのかをまとめていました。ですが、協力してくれた方もアンケートの項目が多くて面倒だったんじゃないかとか色々自分なりに考えて、今年は試合ごとの記事はその試合の内容によってピックアップする事象を変えた雑感として出しつつ、月の終わりに月報のような形で三年計画のプレーコンセプトについての定点観測をしようと思います

◆9月の戦績

9/1 (Wed) ルヴァン QF 1stLeg (H) vs 川崎 △1-1
9/5 (Sun) ルヴァン QF 2ndLeg (A) vs 川崎 △3-3
9/11 (Sat) J1 第28節 (A) vs 横浜FC ○2-0
9/18 (Sat) J1 第29節 (H) vs C大阪 ○2-0
9/25 (Sat) J1 第25節 (A) vs FC東京 ○2-1
※リーグ戦 3勝0分0敗 6得点1失点(+5)
※ルヴァン杯 0勝2分0敗 4得点4失点(0)

結果、内容ともに充実のものとなった9月の5試合は江坂、小泉の2シャドーと汰木、関根、明本の3人が内外のポジションを流動的に入れ替わって相手のプレッシングの背中を取ったり、最終ラインを留めたり、相手に脅威を与え続けるポジショニングからスムーズにボールを前進させるシーンがかなり増えました。全体で適切な配置を取ることでボールを失ってもすぐに相手に襲い掛かって奪回する場面が随所に見られました。

また、それだけでなく非保持での江坂、小泉から始まるプレッシングは相手のボール前進経路の規制を巧みに制限しており、相手にボールを持たれても時間をかけずに回収することが出来ており、ネガトラでの即時奪回と合わせて浦和がボール持たない時間が少なくなり、4局面の循環は基本的に浦和の保持からスタートすることが出来ていました。


8月の試合でも見られたように相手のプレッシング隊にハマる人数でビルドアップを開始することで相手を前に出させつつも、横浜FC戦では5-2-3でプレッシングする相手のシャドーの背中(CHの脇)、C大阪戦では、4-4-2からSHが縦スライドした背中(これもCHの脇)、FC東京戦では4-4-2からSHとSBが連動して縦スライドするのでその間やSBの背中、といった具合に相手の脇や背後にきちんとポジションを取ることで相手の矢印を利用するというのがしっかりと見られました。

そうしたポジションを取れる、そこへボールを出せるというのは岩波、ショルツに加えて平野、時には柴戸が出来るだけ早く、相手から距離を取った状態で前を向いてボールを持つことが出来ているからということになります。

春先のビルドアップに苦戦していた時は相手から距離を取れていない状態からスタートしていたため、パスが渡る間に相手のプレッシングが間に合ってしまい、前方向が塞がれた状態でボールを持つ、そこから次にボールを出せる場所は横あるいは後ろとなり、そこへボールを出せばさらに相手のプレッシングを受けてしまうという悪循環でした。

それが特に岩波については6月の柏戦や福岡戦でそこについての成長が見えていて、相手から離れてボールを受ける、ボールを受けたら前が開けた状態になれるという回数が増えてきていましたし、柴戸がアンカー役として中央で縦にも横にもターンしてボールを捌けるようになっていき、西がそれを助ける巧みなポジショニングによって主に右側からのビルドアップのスムーズさが高まっていきました。

ただ、ビルドアップ隊の左側については槙野が左足でのプレー回数が少ないこともあって、左側で開いてボールを受けてもパスコースが狭くなってしまったり、そのためにCHを1枚(主に敦樹)が槙野の左脇に下りてオープンな角度を作ってボールを受けるようにすることでボールを前向きに持てる選手を作ることは出来るものの、ピッチの中央から1枚減らしてしまうことでネガトラのフィルターが利きにくくなるというデメリットも発生していました。これは5月の福岡戦の時に作った図です。

ここで浦和のビルドアップ隊の救世主となっているのがショルツですね。彼は右利きでありながら左足でのプレーも不自由なくこなすだけでなく、前向きにボールを受けるためにポジションを取るのがとても早いです。GKまでボールが下がった時には一目散に同じ高さまで下りながら相手から距離を取っており、横パスをもらうときにはボールの移動中に前を向いて相手のプレッシングを観察する余裕があります。そのためボールをもらった時にあたふたする場面がほとんどないように見えます。

これは2月のキャンプの段階でリカルドが落とし込もうとしていた「手前に深さを作る」という動きになります。こういうプレーを標準装備している選手をきっちりと補強した強化部は好判断でしたね。

沖縄トレーニングキャンプ 5日目 宇賀神友弥コメント

(リカルド監督のもとでポジショニングなど新しいことを言われていると思うが、選手として新たな発見はあるか?)

宇賀神「今は特に後ろのパス回しが重要ということで、後ろからしっかり攻撃をつくっていくことを多めにやっていますが、今までやってきた監督の中でも一番『深さを取りなさい』ということを言われています。それは新しい発見です。深さを取ることで相手を誘き出すことと、自分の空間や時間をつくるということは今までもありましたが、自分が思っていた以上に『深くポジションを取って時間をつくりなさい』ということを言われていますので、それは新しい発見だと思います。」

これらの理由から安定したポジショニングでのボール保持からスタートして、奪われてもすぐに奪い返す、奪い返せなくてもすぐに陣形を整えてプレッシングへ移行する、プレッシングからボールを回収して再び安定したボール保持へ移行、という攻守がスムーズに移っていくというのは正にクラブが目指している姿といって良いと思います。

このスムーズな局面移行は前線の4人が誰がどこに入ってもプレーできるという強みがあることが大きいです。江坂、小泉に比べれば汰木と関根はプレッシングの精度は落ちますが、特に問題なくプレー出来るというのはシーズン当初から汰木と関根をセカンドトップとして何度もプレーさせてきた成果とも言えると思います。

「チームとして目標に向かっていきたい」リカルド ロドリゲス監督(定例会見 9/24)

(レッズも好調だが、前線の江坂 任選手、関根貴大選手、汰木康也選手、小泉佳穂選手が続けてユニットを組んでいることで連動性も出ていると思う。この4人の評価やさらに成長してもらいたいところは?)

「今この4人を起用している狙いは、前からプレスをかけるなど強度の高い守備をするためです。自陣のゴールからできるだけ遠いところで守備をするためです。ただ、押し込まれたときもチームが非常にコンパクトに守ることができていますので、非常にいいと思います。
ボールを持ったときもお互いのことを分かってきていて、コンビネーションがたくさん出るようになっていると思います。その中で汰木がゴールを取ったり、江坂がゴールを取ったり、佳穂がアシストをしたり、数字でもチームに貢献しているところに私は満足しています。」

江坂、小泉の横方向のプレッシングによる相手の前進経路の規制はリーグ屈指ですが、これは彼ら2人の保持での役割がFWではなくシャドーであって、SHの汰木や関根がそこを追い越していく動きが共有されているということも繋がっているように思います。

例えばユンカーのようにボールを持った時に相手ゴールに一番近いところにいて欲しい選手を起用するのであればプレッシングで外レーンまで横方向に規制をかけに行ったことでCHが前向きにボールを拾うことが出来たとしても、ゴールに近いところにいるべき選手がゴールから離れた場所にいる状態からスタートしてしまうので、そのままの流れで相手ゴールへ向かって行くよりは自分たちの所定の位置に戻ろうという意識が先に働きやすいのではないかと思います。

その点、江坂や小泉のように相手ゴールに近いところでなくてもOKな選手が外レーンまで流れてプレッシングをしてボールを取れた時には別の選手が出て行けば良いよねとなりますし、ボールを拾った場所の近くに江坂や小泉という素晴らしい預け所がある訳ですから、ボールを奪った後のプレーのスムーズさでもこの「0トップ2シャドー」が大いに機能していると言えそうです。ただ、浦レポで轡田さんが指摘しているように「ストライカーを配置しない弊害」というものもある訳で、9月については結果として0トップの良い面が発揮されやすい相手であったともいうことも留意する必要があるでしょう。

9月についてはFC東京戦の最後の20分間(FC東京が3-5-2に変更してから)のように相手がピッチ中央でガチャガチャした展開を作るようになると自陣でボールを持った時に平野、柴戸、小泉、江坂が横方向にターンをして相手が少ない方へボールを展開する動きを潰される可能性があって、こうした時に相手ゴールに近いところに選手を定位させて裏へのボールの可能性をチラつかせることが出来ないと相手はより一層前がかりのアクションを起こしてくることは想像されます。

とは言え、連戦の中で内容はさておき結果は出してきた8月から、1週間に1試合という日程で腰を据えたトレーニングを行って内容も結果も充実した9月というこの流れは色々なことが決まっていく10月以降に大きな期待を持てる、さらには期待が膨らむような1ヶ月だったのではないでしょうか。

◆プレーコンセプトは表現出来ていたか

※各項目5点満点
1) 個の能力を最大限に発揮する
 →4点(3月=3点/4月=4点/5月=4点/6月=4点/7月=3点/8月=3点)
2) 前向き、積極的、情熱的なプレーをする
 →5点(3月=2点/4月=4点/5月=4点/6月=5点/7月=4点/8月=4点)
3) 攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをする
 →5点(3月=2点/4月=3点/5月=3点/6月=4点/7月=3点/8月=3点)


1) 個の能力を最大限に発揮する

→ 4点

固定的にスタメン起用されたメンバーについてはそれぞれが能力を発揮してくれたことでチームとして結果を出すことが出来ましたし、だからこそ「良かった選手たちがプレーし続けるのはフェアな判断」というリカルドのコメントにも説得力があります。そんな中で横浜FC戦では大久保についに初ゴールが生まれたり、FC東京戦で試合を絞めるところで西や槙野といった選手たちが持ち味を発揮していることは頼もしいです。

個の能力で言えば十分に発揮している選手も多いですが、まだまだここから発揮してもらいたい選手もいるという伸びしろから4点で止めておきます。

ユンカーがまだトップフォームに戻れていないというのは引き続き気掛かりです。怪我があったり、日本の夏の暑さであったり、来日当初はアドレナリンが出ているというか自分を奮い立たせるものを出しやすいようにも思いますが、少しずつ新しい環境に慣れてフッと落ち着いて周りをゆっくり見られるようになると色々な不安であったり寂しさであったりが沸き出てくるいわゆる五月病のようなものは多かれ少なかれ誰にでもあることだと思いますので、そこから脱してくれるのを待ちたいと思います。

クラブのインスタなどでトレーニングの写真を見ていると興梠がかなりシュッとした見た目になってきていて、7月の負傷以来試合に絡めていない山中も良い表情で写っているものもあるので、彼らが10月の連戦にどれだけ絡んでくるのかも楽しみなところです。


2) 前向き、積極的、情熱的なプレーをする

→ 5点

試合で見えるチーム全体の「姿勢」の面では満点です。

FC東京戦のようにしばらく無失点が続いていたのが試合開始早々に途切れてしまうと、そこで気落ちしてしまって連続失点してしまったり、逆にリバウンドメンタリティを強く出しすぎてしまってバランスを崩してしまったりというのが精神面の制御が未熟なチームに起こりがちなことです。しかし、FC東京戦で見られたのはそんな危惧を吹き飛ばしてくれるような冷静さでした。

ルヴァン杯川崎戦の最後の大どんでん返しや横浜FC戦の2点目のロングカウンターに繋がる自陣ゴール前での攻防もそうですが、いわゆる「球際」のようなボールを奪うか奪われるかの局面、ゴールを奪うか奪われるかの局面では真っ赤な炎のような熱さ、強さを感じる場面が多く出た一方で、いかにボールを前進させるかであったり、相手の前進経路を規制するかであったりの局面では冷静に「やるべきこと」を遂行する青い炎のような秘めたる強さも感じます。

酒井、ショルツ、平野、江坂と夏に移籍してきてくれた選手が9月の試合で多く出場しているので、必ずしもこの三年計画の中で選手が成長しているとは言い切りにくいですが、クラブ全体としてそうした姿勢を示すことが出来る選手を抱えられているという面では非常にポジティブだと思いますし、ショルツの加入によって無風状態が続いていたCBにレギュラー争いが生まれていることで、その中でも試合に出続けられている岩波には攻守両面で自信というか精神的な充実を感じるプレーが多く見えている気がします。


3) 攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをする

→ 5点

攻守の連関は申し分ない5試合だったと思います。3月のリーグ戦ではトランジションで差を見せつけられて大敗した川崎相手に一歩も引くことなく互角な試合を展開していましたし、それ以外の3試合においては常にトランジションで上回ったことで浦和の保持から4局面をスタートして、ボールを失った後の対応の速さ、非保持でボールを奪うまでの再現性の高さによって再びボールを保持して攻勢に転じる流れがスムーズでした。

C大阪戦ではゴールにこそならなかったもののミドルゾーンで構えた状態から小泉のプレッシング、平野がパスカット、そのまま江坂→小泉の展開でゴール前まで侵入という「奪ったら最短距離でゴールまで」というコンセプトが表現できる場面も増えてきました。高い位置で押し込みながら、失っても即時奪回すれば最短距離でゴールまで行けるよねというのは以前書きましたが、それだけでなくミドルゾーンからでも最短距離でゴールまで向かって行けるプレーが増えてきているのは良い兆候です。

常に前方向への展開の優先順位が高く、そこへしっかりボールを出せる平野と、ボールを受けた時にターンで相手を外したり、運んだり、はたいたりといろんな方法でボールを展開できる江坂と小泉、ダイナミックに飛び出して行ける汰木、関根、明本、酒井と各選手の長所がバチっとはまったことでポジトラの迫力が出てきていますね。


◆10月の試合予定

10/2 (Sat) J1 第31節 (A) vs 神戸 (54pt / 15 / 9 / 6 / +16)
10/6 (Wed) ルヴァン SF 1stLeg (H) vs C大阪 (39pt / 10 / 9 / 12 / -1)
10/10 (Sun) ルヴァン SF 2ndLeg (A) vs C大阪 (39pt / 10 / 9 / 12 / -1)
10/16 (Sat) J1 第32節 (H) vs G大阪 (33pt / 9 / 6 / 24 / -10)
10/22 (Fri) J1 第33節 (H) vs 柏 (33pt / 10 / 3 / 17 / -12)
10/27 (Wed) 天皇杯 QF vs G大阪 (33pt / 9 / 6 / 24 / -10)
10/30 (Sat) ルヴァン Final vs 未定

※()内は9月終了時点でのリーグ戦の 勝点/勝/分/負/得失点差
※浦和 (54pt / 16 / 6 / 8 / +8)

10月はリーグ戦は3試合、カップ戦が最大4試合あります。それによって10月の頭で3連戦、その結果次第では下旬の柏戦から11/7の鹿島戦まで5連戦となります。この時期に連戦を迎える大変さはありますが、リーグ戦が詰まっているのではなくカップ戦を勝ち上がっているからこその「名誉ある連戦」ですので、まずはこの日程に対して喜ばしく思います。

そして、ここからはいよいよリカルドが「真実の時間」と銘打った通り、ACL出場権を争うチームとの直接対決が始まり、まずは勝ち点が並んでいる神戸との試合からになります。大迫、武藤という代表レベルの選手に加えてボージャンが加入して前線のタレント力は増したものの、山口、サンペール、大崎が欠場の可能性があるため6月のルヴァン杯での2試合のような高い強度を持ったプレッシングや後ろに人数をかけて安定的にボールを前に運ぼうとするプレーからは変わることが想像されます。

ましてや6月の神戸での試合では菊池のスリップから浦和にゴールが生まれており、神戸側にそのシーンがチラつけば前線のタレントへ早くボールを預けてやりきってしまうようなことを志向する可能性は高くなり、そうすると浦和の土俵である中盤での主導権の取り合いは省略されてしまうかもしれません。8月の湘南戦のように中盤を飛ばされてしまうと浦和の強みであるプレッシング→CH付近で回収→前向きなポジトラでカウンター発動という流れは作りにくくなり、浦和のビルドアップ開始位置が低い位置からになる可能性があります。そうした時に、武藤、大迫など走れる前線の選手が追いかけて後ろの選手が追随する動きを作られてしまうと簡単な試合にはならないなと思います。

チーム全体での設計から個々へ落とし込むというより、お財布の許す限り能力の高い個々がそれぞれの出来ることを集結させてチーム力を上げて行くというのが現在の神戸のスタンスであり、そういう点では個々のモチベーションを高めたり大枠だけ提示して細かい部分は選手に任せる三浦監督のスタンスはこれにマッチしているのだろうと思います。それが当初言われていた「バルサ化」とは違うのだろうと思いますが、それについての話はこの記事の本旨とズレるのでこの程度にしておきます。


続くルヴァン杯の準決勝は代表ウィークに行われるため酒井は不在。9月の試合できっちり勝利を収めたC大阪に対して全く同じオプションは使えないため浦和の方に何かしらの変化が生じますし、神戸→埼玉→大阪という移動がある中での3連戦になるので、例えば前線の4人についてもプレータイムの調整が入ってユンカー、田中、大久保を筆頭に選手の入れ替えもあるでしょう。

G大阪、柏とのリーグ戦でもその後の連戦に向けて色々な選手を起用しつつ見極めを図るのだろうと思いますが、そうは言ってもそこで勝ち点を落としてしまうとACL出場権争いから脱落しかねないという緊張感があるので、リカルドがどうやって選手のやりくりをするのか、そしてここ最近出場機会が減っている選手が「俺だってやれるぞ」という部分を示せるのか、チーム全体を見ても選手個々を見ても見どころ沢山の10月になりそうですね。


10月末には今年最初のタイトル獲得のチャンスがあります。可能性は十分にあります。9/29にクラブは三年計画の最終年である来季、2022シーズンにJ1優勝という目標を改めて宣言しました。そこへ向かうために、確実に成長しているクラブへの自信を強くするために、是非とも勝ち取ってもらいたいですね。クラブのこういうポジティブで熱い気持ちを焚き付ける発信、悪くないですよ。

2021シーズン終盤戦に向けて

10月の振り返りはタイトル獲得の喜びとともに迎えられますように。

今回も駄文にお付き合いいただきありがとうございました。



浦和レッズについて考えたこと

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