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論理を補修しながら物理で勝つ(2021/8/21 徳島vs浦和)

マッチレビュー

ゆうき
ゆうき

2021.08.25


本記事はゆうきさんがご自身のnoteで連載中の記事になります。

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五輪の中断開けからここまでまだ一度もリアルタイムで試合が観られず、今節も2日遅れの月曜夜に観て、火曜に感想をまとめています。リアルタイムで観るのと結果を知ってから観るのとでは感じた印象も違うとは思いますし、レビューとして考えたときには鮮度が落ちている話なので興味が薄い方も多いかもしれませんね。

ただ、自分の今のスタンスとしてはレビューというよりは自分が試合を観て感じたことを整理しておくことで後から振り返るときに役に立つかなというものなので、出すのが遅くなったことは気にしないでください。


さて、4月の対戦時ではまだポヤトス監督が合流できておらず河本コーチが代行で指揮をしていて、リカルドの残り香というか、2020年までリカルドが積み上げてきたものが色濃く見えた印象があります。

そこから徳島の方はポヤトス監督がきちんとチームを見られるようになり、この試合でもそうでしたが非保持は4バック、保持は右SBの岸本を上げてジエゴを残す3枚がベース。ボランチに入る岩尾、チマ、鈴木、小西あたりはなるべく後ろに下りず、最後尾の3枚で運んで前進していくことを目指しているように思います。

その結果、相手に構えられたときには運んでいく先でなかなかスペースが生まれず、保持率は上がるけどもシュートまで行けないという内容が多いのかなと。

ただ、この試合の浦和はリカルドの試合後コメントにもあったように積極的に3枚のビルドアップ隊に向かって人を縦に出していこうとする意図があったように思いますが、前半は右SHの田中が縦スライドしていくことでその背中に生まれるスペースを徳島は的確に突いてきたと思います。西谷、宮代がこのスペースに入ってきて、福岡が田中の頭上や平野ー田中のゲートを使ってそこへボールを届けていました。

6'15はジエゴのトラップが流れてしまいましたが、田中が最終ラインに下りた岩尾に向かって縦スライドしようと動いたところでその頭上から田中の空けたスペースへ入ったジエゴへ届けたり、26'05は右から来たボールを左足で縦スライドした田中のいないスペースへ入った西谷に届けたりと、福岡の配球の良さが見えるシーンが度々ありました。


逆サイドはというと、汰木はボールがジエゴ→福岡→カカと渡っていくリサイクルの流れの時には元のサイドへ押し返そうと縦スライドしていく動きもありましたが、基本的にはポジションに留まりつつ外に開く岸本の動きに合わせているような感じでした。

4月の対戦時はこのポジションが明本で、同じように岸本について行っていたものの、リカルドが「アキー!アキー!」と叫んでいたように、あの試合では左SHが幅を取る相手について行くのはNGだったのだろうと思います。

ただ、この試合ではそのような声掛けは聞こえなかったので(中継のマイクが拾ってなかっただけという可能性もありますが)、左右のSHでは異なる役割があったのだろうと思います。徳島の右上がりのポジション移動と同じ方向で浦和の守備陣形も回していくというイメージでしょうか。


また、2トップもユンカーと関根が縦並びに近い配置でスタートして、関根がピボットの位置に入る岩尾へのコースをふさいで徳島のビルドアップの初手が外回りになるようにして、どちらかのサイドにボールが出たらユンカーが横から追って元のサイドに戻させないようにする。この時にユンカーから相手のボール保持者が遠ければ関根が中央から斜めの角度で出て行ったりすることもありました。

リカルドとしては徳島のストロングポイントは昨年まで自分も大きな信頼を寄せていた右SBの岸本にあると踏んで、なるべく徳島の左側にボールを寄せて、そこへ田中を押し出して詰まらせたい、というのが目論見だったのかなと。

ただ、下の図のように浦和がやろうとしてた守備に対して、徳島の選手たちが上手くポジションを取れていたというのが前半の徳島保持vs浦和非保持の構図だったと思います。

で、前半の浦和保持vs徳島非保持はというと、浦和がここのところ2CB+2CHで3-1を作る傾向が強くなってきたことに対する徳島の準備を感じました。数字の並びにすると4-5-1のような状態で構えて中央の垣田、宮代、チマ、岩尾の4人が◇のような並びで浦和の3-1と噛み合うように動いていたように見えます。

浦和はSBが外、SHが内からスタートすることが多かったように思いますが、SBにはSH、SHにはSBと担当をはっきりさせて守備を行っていたように思います。21'00~、22'30~の浦和のビルドアップはいずれもサポートに下りていく田中にジエゴがそのままついていった流れでボールを奪って決定機になっています。

浦和のビルドアップの場面がなかなか訪れずこの2つの場面でようやく出てきたのだと思いますが、そこで立て続けに同じような動きが連続してハマったので準備してきたものだといっても良いのではないでしょうか。

ちょっと札幌に近い感じで一度ロックした相手にはついていく守り方なので、後ろ向きに下がってサポートした時には徳島の選手にそのまま背中から当たられてしまうのにはちょっと苦労したように思います。

42分にようやく下りていく関根、それについていくジエゴと入れ替わるように酒井が前に上がっていき、岩波からのロングフィードでボールを前進させる場面がありました。プレーが切れて酒井がアップで映ったときにおそらく岩波に向かってサムズアップして「ナイス!ナイス!」と声をかけていましたね。相手がついてくるなら、誰かが動いて相手をついてこさせて、空けた場所に人が入っていって、そこへボールを入れるという良い展開だったと思います。


さて、21'00~、22'30~のビルドアップの場面で違和感というか、おや?と思ったのは画面に真っ先に関根がフレームインしてきたことでした。非保持ではユンカーの近くで2トップのように振舞っていたのに、いきなり岩波と酒井の間にサッと下りてきてビックリしました。ただ、これが後半開始時に江坂が投入され、前半に田中が担っていたであろうタスクを関根、関根が担っていたであろうタスクを江坂がやるようになると、この動きの狙いが推測できるようにはなりました。


先述の通り、徳島の守備は中央の4人が◇のように並んで、垣田の脇のスペースを宮代とチマ(便宜上、IHとします)が縦スライドし、幅を取る浦和の両SBに徳島のSHがついていくので、このIHが縦スライドしたことによって空くスペースであったり、縦スライドしなかったとしても浦和のSBが引っ張って空けたIHの外側のスペースであったりを使おうとしていたのだろうと思います。

攻撃時のタスクを図にするとこのような感じだったでしょうか。

相手の矢印を利用したり、空いてる場所を見つけるのは関根より江坂の方が上手ですし、内側で器用にプレーするのは田中より関根の方が上手だとは思います。この辺りは連戦だったのでプレー時間の配分ということもあったかもしれませんし、前半にはもっと田中に強くプレッシングしたり、裏に抜ける動きをしてほしかったのかもしれません。


得点シーンはスローインからでしたが、このスローイン獲得は前半最後の岩波→酒井のロングフィードと似たような構造で、汰木が手前にポジションを取って、それと入れ替わるように明本が前へポジションを取っています。ショルツ→明本のボールを明本が競り勝ってボールを落とすことが出来ました。

先にボールに触れそうだったのは杉森でしたが、後半スタートから雨が強くなった影響もあって滑ってしまい、汰木が杉森にボールを当ててスローインになりましたね。

スローインはフリーの江坂に入れたところから、汰木→江坂→汰木と相手から離れたポジションを取り続けながらのパス交換で抜け出していって、最後もゴール前の空いたスペースに関根が入り込んでゴールに流し込むことが出来ました。江坂、汰木が相手に囲まれてもボールを奪われなかったのも良かったですし、最後までなんとか足を残してゴールを奪った関根も良かったですね。

そして、この場面はユンカーの助演男優賞ばりの振舞いも見逃せませんね。スローインの時には明本に近づいていくことで岩尾を引き連れて江坂をフリーにしつつ明本からのコースを作れており、スローインが入ったらすぐに中央へ戻っていき、汰木がハーフレーンからペナルティエリアに侵入した時にファーサイドに逃げるように(福岡の背中を取るように)動いたことで、ジエゴは関根について行くのをやめています。ゴールが入った瞬間のジャンプしながら両手を上げて喜んでいた可愛さも合わせて最高です。


ハーフタイムでの修正は非保持でも行われました。前半は右SHの田中を縦スライドさせていましたが、後半は左SHの汰木を内レーンで縦スライドさせています。スタート位置がユンカーの脇のあたりまで出ていたので4-3-3という見方もあるかもしれません。

右SHの江坂は平野の脇から出来るだけ離れず、江坂の脇(外レーン)を使われそうなときは酒井が前に出て対応し、江坂が下がってカバーするという運用になっていて、このおかげで非保持→保持の移動を江坂はほとんどしなくて済みますし、関根、汰木、酒井、明本もトランジションでの移動距離が軽減されたと思います。

縦スライドするSHのスタート位置が高くなったことで、徳島のビルドアップ隊にプレッシングをかける距離は短く済みますし、前半に宮代が使えていた平野の脇(縦スライドした田中の背中)のスペースを江坂が動かずに埋めておいたことは徳島のボール前進を少なくできた要因だっただろうと思います。

徳島が飲水タイムの手前で垣田に代えて渡井を入れて、宮代をCFにしたり、右SBに藤田を入れたりしたのは、浦和の中盤から後ろが前半よりもコンパクトになったので、そこの密集でもプレーできる選手を増やしつつ、密集が出来れば外は広く空きやすいのでそこからボールを入れられる選手も用意するということだったのかなと。

浦和の方も汰木の縦スライドによって岸本にオープンスペースが出来ているのを嫌って大久保を入れて左外の対応を入れたり、最後には宇賀神を右に入れて、4バックを左にスライドさせて5-4-1にしてゴール前を固めたり、両監督の交代カードの切りあいも面白かったと思います。想像込みで整理してみると以下のような感じでしょうか。

~ 後半開始 ~

浦和:前半の不具合解消(守備の縦スライドとビルドアップの不備)で田中→江坂

~ 66分 ~

浦和:プレータイムの配分+広く空きやすい左側で広範囲に守備対応するためショルツ、平野→槙野、敦樹

~ 68分 ~

徳島:左ハーフレーン付近で使えたスペースが埋まっており浦和のブロックがコンパクトになったので大きく動ける垣田を下げて渡井、運動量のリフレッシュで杉森→西野

~ 72分 ~

浦和:運動量のリフレッシュ+左で槍として岸本を押し下げるために汰木→大久保

~ 77分 ~

徳島:浦和がプレッシングに出てこずに中央を固めるようになってきたので外からボールを入れるために福岡、ジエゴ→石井、藤田

※江坂は手前でさばく役割なので岸本を左へ回すことで高い位置にとどめられる

~ 79分 ~

徳島:運動量のリフレッシュ+広くボールを動かすためにチマ→小西

~ 87分 ~

浦和:ゴール前を固めて守りきるために関根→宇賀神(5-4-1へ変更)


試合全体で徳島の方が優勢だったとは思います。それでもゴール前までボールを運ばれた時にはしっかり人数がエリア内まで戻る、簡単にはシュートコースを空けない、せめてどこかのコースを切るということが出来たからこそ徳島の決定機を防げたと思いますし、これは鳥栖戦でもそうでした。

ビルドアップやプレッシングなど試合の大枠としての論理での不具合を少しずつ修正しながらも、そこで補いきれない箇所は半ば力技ででも守り切る、攻め切るということが出来るようになってきていますし、それを可能にする補強をこの夏に出来ていることが証明されつつあると思います。


鳥栖、京都、徳島と論理的な武器を持っている相手に対して、上手くいかないながら3連勝できました。次はちょっと毛色が違う広島が相手になります。最後のところで何とか出来る選手ばかりが揃っていることが強みであることは前回対戦時にも痛感したことです。

この連戦も残りは駒場、平塚、駒場、等々力とすべて首都圏で済むのでスケジュール的な山は越えたのかなと思います。連戦で選手のやりくりも大変だと思いますが、天皇杯もルヴァン杯も勝ち上がっているからこその連戦ですし、やりくりすることによっていろいろな人や役割の組み合わせをトライできると思うのでポジティブに捉えて頑張ってもらいたいと思います。


今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。


浦和レッズについて考えたこと

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