この記事でわかること
- 浦和の2つの可変システム
- 広島を分断させる3バック
- 広島の攻撃を封じるタスク割
- 現実的な逃げ切り策
中断期間のコロナウイルス、怪我人、連戦と、厳しい条件の中で迎えたホーム広島戦。
天候もかなり蒸し暑く、時間の経過とともに運動量が落ちてしまうのは仕方ない試合でもあったと思います。
その中でも浦和は広島の特徴を捉えたうえで「可変システム」を採用。最後はしっかり逃げ切って大きな勝ち点3を獲得しました。
常日頃からリカルドが発信している、「相手にダメージを与える」ためのサッカーを攻守ともに展開できていたのではと思います。
この試合に向けて準備した浦和の戦術と、逃げ切りのために施した手当てを中心に振り返っていきます。
弱点を突く可変システム
リカルドのサッカーを見るうえで、フォーメーションの数字ありきで認識することはあまり現実に即さないと思いますが、便宜上記載すると、4-4-2でショルツが左SBに入るような布陣でした。
これまでの試合ではここから移動して立ち位置を取っていた浦和ですが、この試合においては少し違うシステムでした。
攻撃の時は岩波・槙野・ショルツが3バック気味となり、守備の時は関根がSHとWB的な役割を兼任することが特徴的でした。
なぜこの形だったのかというのは、相手を見る必要があります。
広島の守備の特徴
まずは広島がどう守ってくるか、という点に着目します。
どちらかというと人についていく意識が高いチームで、3-4-3のような配置を採用しています。
特に中央の1トップ2シャドーが前からプレスをかけ始め、ボランチもそれに追従します。
これは前回対戦時と比べてもさほど変化はありませんでした。
浦和が狙った場所
これに対して浦和は岩波・槙野・ショルツで3バック気味の布陣を敷き、ボランチの平野と敦樹も容易に最終ラインに落ちませんでした。
相手の1トップ2シャドー、追従するボランチに対してあえて嵌るような枚数を揃えますが、これによって狙ったのは、相手を引き出すことと、間を使うこと。
最終ラインがしっかりと幅を取ることで相手のFWラインを広げて間を作り、そのスペースを平野と敦樹が出入りします。
前線のユンカーと明本は対照的に、最前線に留まって広島DFラインを牽制。
広島のボランチが前がかりになれば、MFとDFの間、広島ボランチの周囲にスペースが生まれやすくなり、そこを江坂が使っていくことを狙っていたと思います。
広島の最終ラインを晒すこともできるので、ユンカーと明本の裏抜けや強さを活かすための長いボールも利用。
前回対戦時に1トップ2シャドーの横で西をフリーにしたように、外側の酒井を使うこともありました。
これらの前進方法は試合開始直後から表現することができていました。
人に向かって前に出たい広島の狙いをそのまま利用し、あえて前に出させ、その裏を使う。
相手が狙うことを誘発し、その弱点を突いていくという「相手にダメージを与える」攻撃は試合開始直後から成功しました。
ショルツと敦樹のバックステップ
良い試合の入りをした浦和は13:50に先制点。この時はショルツがよりSB的に幅を取り、関根が内側に入っていました。
相手のボールを回収してボール保持に移行した浦和は、平野が最終ラインに近づいてボールを引き受けます。
この時、平野が最終ラインの3枚目となっているので、ショルツはサイドへ大きく幅を取るためにバックステップ。
これに対して広島の浅野がショルツを気にする立ち位置を取ろうとしています。
その結果、浅野の内側のコースが開通。今度はそれを見た敦樹が、ボールを背後で受けられるようにバックステップ。
平野のパスで相手のFWラインを越え、狙っていたボランチ周りで敦樹がターンに成功すると、あとは最終ラインとの駆け引きでした。
この時、ボールの移動と共にショルツが前へと移動している点も素晴らしく、敦樹が運ぶ選択をした際の幅取り役になっていたはずです。
駆け引きに勝利した関根が裏を取ることに成功し、先制点を生み出しました。
人に強く意識が向く相手には、こちらのポジションをズラすことで混乱を生み出しやすくなります。
少し形は違いますが、7:40にも敦樹が左に降りてショルツがSB化し、関根が内側に入るローテーションを見せていたので、そういった文脈でも良い攻撃でした。
3バックの利点
今回の3−2ビルドアップを見ていると、相手が同じシステムを採用していた中断前の大分戦でもこれをやりたかったのかな、と少し感じました。
2枚のCBへの+1としてボランチの片方が降りる場合、適切な幅と高さを取るためには移動の時間が必要ですし、残ったボランチが1枚で枚数が不足しがちになる問題があったと思います。
大分戦では今節ほど最終ラインの幅が取れず、1トップ2シャドーに完全に嵌ってしまい、どうにも前進できませんでした。
この試合では、ショルツ加入による3バックの可能性について記した記事でも言及した通り、「元からその位置にいる」という利点を活かせていたのかもしれません。
前回対戦時でも柴戸が最終ラインの3枚目になり、小泉がボランチの位置に降りる変化のやり方も見せていましたが、今節では元から「3−2」の形を作るための3バック可変だったのではないでしょうか。
フォーメーションの数字上では4バックから3バックに「可変」していますが、3バックと2ボランチが元の位置からさほど動いておらず、それ故に良い立ち位置を取れていたという見方も持てると思います。
広島の修正
飲水タイムに入ると広島は修正。浦和が狙った通り、ボランチ周りで浮きやすかった江坂に対し、CBが迎撃に出ることを許容します。
これも前回対戦時と同じ修正で、当時は小泉に対して佐々木が積極的に前に出ることで解決を図ろうとしていました。
浦和はこの修正に対してはやや手こずってしまった印象です。
後方が広島の前線部隊を引きつけることには継続的に成功していました。
しかし、引きつけたあと、背後に生み出したスペースへの縦のパスを広島のCBに潰される場面が目立ち始めます。
後半開始直後の45:30でユンカーが見せたターンなんかができると一気にチャンスになりますが、ユンカーは基本的に、背負ってどうにかするというタイプではありません。
引きつけたあとの縦のパスを奪われる場面は増えてしまったので、怪我の影響で実現はしませんでしたが、小泉と江坂を並べようとしたリカルドの采配はその解決を目指したものだったと思います。
中間点で受けさせるために江坂と小泉佳穂を2人並べたかったのですが、今回は江坂が足を痛めたので交代という形になりました。
蓋をする可変システム
早い時間帯で先制したことや、連戦・気候の影響もあって時間の経過とともに受けに回る場面が増えた印象があると思います。
ですが、失点しそうな場面はほぼなかったと言って良いでしょう。
その裏には広島の攻撃の特徴を封じるために関根が担ったタスクがあり、効果的に機能していたと思います。
広島の攻撃の特徴ですが、基本的には1トップ2シャドー+WBを採用しているチームのオーソドックスなものです。
青山がいない影響もあるかとは思いますが、大外の幅を使い、ハーフスペースの奥を狙っていることは明らかでした。
通常は4バックで守る浦和ですが、4枚では5つのレーンを埋めることはできないため、素直にこの攻撃に対抗するとスライドが頻発します。
その過程でズレが生じる可能性が高まることは、鳥栖戦の失点を見ると明らかであると思います。
その解決のためにこの試合では、関根がSH兼WBのような役割を担い、4バックを基本としながら5バック気味に可変するシステムを採用しました。
まずは4−4−2でセットして前から追い込むことを目指しますが、中盤以降に撤退する場合は関根が相手の大外をカバーします。
最初から最終ラインに吸収されるわけではなく、最後の3分の1あたり、広島が崩しの局面に差し掛かるところで関根が後方に戻っていました。
これにより、ショルツが大外に釣り出されて槙野がスライドを強いられる場面を減らすことができ、城福監督が「ポケット」と呼称する場所を封鎖することが可能になりました。
おそらく一番狙っている場所を使えなかった広島。最終的に外からクロスを入れる場面が増えますが、ここで力を発揮したのは浦和の最終ラインでした。
酒井・岩波・槙野・ショルツと、強度の高いDFラインによる空中戦を中心に、隙を見せずに守れていました。
中央の脅威はジュニオール・サントスに強引に突破されることでしたが、この強度の高い4選手をペナルティエリアの幅からなるべく外に出さないようにしているため、問題なく対応できていました。
そのために汗をかいたのは関根で、この試合における安定的な守備の実現に大きく貢献したと思います。
一方で時間の経過とともに、広島も左右のCBが攻撃に参加する回数も増えてきました。
浦和は疲労からか、前から守備をしていくことは難しくなりましたが、小泉と明本をIHにおいた4-5-1にしてサイドにより蓋をして修正。
最後は5−4−1で逃げ切り体制を固めるとともに、陣地回復が可能な大久保の貢献もあって厳しい環境の中、大きな勝ち点3を獲得しました。
まとめ - 戦術と力技
攻守両面で相手を分析し、相手のやりたいことと弱点を突くためのメンバーとシステムを採用した、リカルドの準備勝ちのような試合でした。
一方で、監督や選手のコメントから察するに、中断明けの試合における戦術的な機能性についてはそこまで手応えは感じていないはずです。
中断期間にコロナによる活動停止期間があったことや、メンバーの大幅な入れ替わりなどがあったので、仕方ない部分ではあります。
ですが、そういうコンディションの中でもしぶとく勝ちを拾っていくこともまた求められます。
特にJリーグにおいては、夏場の試合は過酷を極めますし、ここでどれだけ落ちないかがシーズンの成績にも大きく関わります。
大きいのは、そんな"力技"を可能にする個人の力を補強できていること。
今節は相手に合わせた戦術的な機能がしっかりと嵌りましたが、天皇杯も含めた4連勝には選手たち個々の質も重要でした。
新戦力を十分に使いながら、結果も残している現状に期待が膨らみますが、3位争いのライバルたちも負けていません。
また、浦和はシーズン最終盤にこのライバルや優勝争いをする川崎、横浜FMとの試合を控えています。
久々に「痺れる」試合を演じるためにも、8月・9月はしぶとく勝ちを拾っていく必要があるので、次節もしっかりと勝ち点3を獲得したいですね。
広島を分析した戦術で勝利した今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!
【📝戦術分析レビュー】
— KM | 浦和戦術分析 (@maybe_km) August 27, 2021
相手にダメージを与える可変 - J1 第26節 #浦和レッズ vs #サンフレッチェ広島
⏰読了まで:約5分
◆浦和の攻守の可変
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