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連続しない矢印なら外せる(2021/10/22 浦和vs柏)

マッチレビュー

ゆうき
ゆうき

2021.10.24


本記事はゆうきさんがご自身のnoteで連載中の記事になります。

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試合終了後に全方位のスタンドに向かって礼をした「柏の19番」に対する大きな拍手や、何人もの人が「浦和の9番」のユニフォームを彼に対して掲げる光景を見て胸が熱くなりました。本当に彼はもう浦和の選手ではなくなってしまったんですね。どのチームに残留してほしいとかそういう感情はあまりないのですが、また来年も彼が埼スタでプレーする機会が訪れて欲しいですし、その時にはもっと多くの観客が入って、精一杯の声を出して、彼にブーイングを浴びせることが出来たら良いなと思います。


さて、昨年からMDPをweb上に無料掲載してくれているので、ホームゲームの日は昼頃にありがたく読んでいますが、この試合に向けてのリカルドが書いていた「勝てなかったことで必要以上にナーバスになったり、焦ったりすることは禁物です。」「勝敗は重要な要素ですが、パフォーマンスが右肩上がりになっていくことはさらに重要です。良くない結果にとらわれて、パフォーマンスの向上が妨げられるのが一番良くありません。」というのは、特に1試合ごとの結果で自分たちの未来が大きく左右されるこの時期だからこそ心に留めておきたい言葉です。


試合の冒頭は柏が椎橋、ヒシャルジソンのどちらかが最終ラインに落ちて、もう片方が江坂、ユンカーの間を取るという浦和のビルドアップのそれと同じような動き方から入ってボール保持の時間が続きました。それに加えて、柏のSB、SHはどちらも外外で縦関係になることも辞さず、SBの三丸も川口も縦にボールを当ててそのまま追い越していく動きであったり、自分で浦和のSHをターンやドリブルで外して前進する上手さがあって何度も外から前進を成功していました。

浦和は外方向にどんどんプレーエリアを狭めて行くプレッシングが多い中、相手がこうして外、外に人が並んで真っすぐ前進すると上手くボールを拾えなくなるというのは例えば9月の横浜FC戦でもそうした現象はあって、柏はSB、SHに加えて2トップのクリスティアーノとマテウス・サヴィオがボールのあるサイドにどんどん流れてきました。


そもそもCBのサントスにしろ古賀にしろ自分の前にスペースがあれば運んできましたし、特に古賀は左右どちらの足でも精度の高いボールが蹴れる選手なので厄介でしたが、柏が外外ではなくそこから中央へ斜めにボールを入れてくれれば平野、柴戸がしっかり挟み込んでボールを奪えるという展開だったかなと思います。

試合の1つの転換点は5'35のユンカーの脇を取ったサントスから柴戸・平野の間にいるサヴィオへの斜めのパスが入った時に平野がしっかり間を絞めてボールを奪い、柴戸が中央のスペースをドリブルで運んで江坂、ユンカーと繋がろうとした場面だったかなと思います。この場面以降にFKが続いて、浦和の保持の時間が増え始めました。


4-4-2でビルドアップする時にCHの片方が後ろに下りて3-1になると中央でボールを奪われた時にネガトラのフィルター役が1枚しかいないのでそのまま前進されやすくなってしまいます。前述の通り、柏は外外に人をかけることを辞さないということは、中央から人がいなくなりやすいということにもなるので、柴戸と平野がピッチ中央を上手く制圧できたように感じるのはこうした構造もあったのではないかと思います。


浦和の先制点は鮮やかな中央からのボール前進でしたが、基本的に守備は噛み合わせを良くして誰が誰を捕まえるのかをはっきりさせるという柏のやり方を上手く利用できたように見えます。

この場面では浦和のCHはどちらも下りずに2トップの背後にいたので、柏のCHはそのまま椎橋が平野、ヒシャルジソンが柴戸へと矢印を出していきますが、ここで江坂がスッと椎橋の矢印の根元を取りに行くことで瞬間的に中央で3vs2になって柏の中盤ラインを越えることに成功します。

細かいところで言えば酒井が内向きにボールを持ちなおした時に平野が数歩ステップして椎橋から距離を取っていて、平野にボールが渡る時に柴戸が数歩後ろにステップして平野から距離を作ったことでヒシャルジソンから離れつつ江坂にパスを出すための自分の懐のスペースを作っています。的確なポジションだけでなく微調整も見事な前進でした。


江坂が中央で前向きにボールが持つと、すぐさまユンカーはサントスの背中を取りながら動きます。これはユンカーが左利きなので自分の得意な足にボールを呼び込みやすくなるアクションでしたが、これによってユンカーにボールが入った時にサントスが外を向いてくれるので、汰木が交差するように今度はサントスの内側を取ることが出来ました。古賀が江坂に対応するために前向きに残らなければいけなくなったので、このスペースが埋まらなかったというのもありましたが、汰木がここに上手く入れたのは良かったですね。ユンカーと汰木がお互いに利き足を使いやすい方向に動けました。

柏の方とすれば江坂が椎橋の背中を取りに行った時に古賀がどこまでついて行くの?というのが課題として残りますが、例えば神戸であれば後ろの選手は1列前の選手の前向きな矢印に続いていくので江坂が下りて受けようとしたところで潰しに来たのかもしれません。前線から中盤は噛み合わせよく人を当てて行くので出ていきやすいですが、ここのハマりが悪くなると上手くいかないというのはよく見る形かなと思います。


2点目では、今度は平野が岩波とショルツの間に下りて柴戸と江坂がへその位置に立つことで右のハーフレーンから岩波が前進します。これも些細なことですが平野は岩波の前にあるスペースにボールを送ることで、パスを受けた岩波はそのまま前を向いてプレーすることが出来ています。いわゆる「メッセージ付きのパス」はこういうのを言うのだろうと思います。

ハーフレーンで岩波からの縦パスを密集の中で関根がフリック、汰木から関根に戻して広いスペースが出来た逆サイドまで展開という一連の流れはとても気持ち良いものでしたし、山中からのクロスに対してニアに入って行ったのは柴戸でした。

ビルドアップ段階で江坂が下りてきていた分、前線の人数は減ってしまうのですが、ボールの前進に合わせて空いている場所にしっかり入って行けたのはとても良かったと思います。3点目の起点となった岩波・ショルツの間へ下りたところから外に開いた山中へのフィードも含めて柴戸のアップデートが止まらないですね。

また、言うまでもないのかもしれないですが、1点目のスペースへの動き出しも、2点目の関根のフリックを受けるところも、3点目の山中からのクロスのこぼれ球を拾えるのも、汰木がシャドーのような位置で相手のブロックの中にいるにも関わらず、上手く相手と距離を取りながらプレー出来ていることの証左だと思いますし、リカルドが3月の鳥栖戦であったり5月の名古屋戦であったり汰木を中央付近でプレーさせ続けてきた中で確かな進化を遂げています。柴戸と汰木の伸び率は他の選手よりも頭一つ抜けている気がします。


柏は前半の飲水タイムでサヴィオを右SHに移動させて4-5-1に配置変更しました。浦和が基本的には平野か柴戸のどちらかが下りて3-1を作ることで2トップ脇から前進される、そこからCHが対応しようとすると江坂、汰木、関根がその周辺にいるので後手に回るという状況が続いていたので、であれば中央を2枚から3枚にしてCHの誰かが出てもそのスペースをすぐに埋められるようにしたということだろうと思います。

左IHの位置に入った戸嶋が積極的にクリスティアーノの横まで出ていくことでプレッシングの人数は確保しつつ、そこを越えられればすぐに戻って中央を埋めるという動きをしていて、これによって浦和は後方ではボールを持てるけど、序盤ほどは効果的な縦パスが入りにくくなりましたし、42'05のように柏が浦和のビルドアップを上手くハメてボールを奪ってシュートまでという場面も作られました。

さらに柏はビルドアップでもCHが下りる動きが無くなり、両SBのスタート位置が少し低くなったかなと思います。これによって保持と非保持のポジション移動が減り、柏がトランジションでも球際の局面が作りやすくなったように見えます。

ただ、序盤にボール保持が増えたのは2トップが縦並びになりつつサイドに人数をかけたところにもあって、中央に人数をかけやすい配置に変更すれば外からは人がいなくなるので、クリスティアーノの強さが際立つシーンはあったもののボール保持が良くなったかというと微妙なところだなと思います。それでも、柏はボールを持たない状況から前向きなアクションを起こしていく方が得意ですし、そういう点では飲水タイムの変更によって「らしさ」は取り戻せたと言えそうです。


柏が素早いスローインから1点を返したものの、キムスンギュからのロングボールのこぼれ球を平野が一発でスペースへ蹴り返したところからのユンカーのゴールで試合の決着はついてしまいましたかね。

平野は山中からのボールを受ける間にほんの一瞬首を振って前方を確認しているようにも見えますが、本当に一瞬だけなのでどれくらい状況を目視出来ていたのかは分かりませんが、ボールを持ったら相手ゴールに近い場所から優先的に選べる平野の感覚は素晴らしいですね。そして、そのスペースへしっかり走れるストライカーがいるのはやはり大切だなと言うのも前節の内容を踏まえて改めて感じました。


ハーフタイムでユンカーから小泉に交代して再び0トップになってもゴールを取れたというのは選手の心境的にとてもプラスになるのではないかと思います。ただ、柏の最終ラインが既に4失点していることもあったでしょうし、その内容も裏のスペースへ走られた流れのものがあったので、なかなか前向きに潰しに出て行くアクションを起こせなかったというのはあっただろうと思います。この辺りは引き続き気にしていきたいところです。


後半については水曜日の天皇杯・G大阪戦に向けてのプレータイム調整であったり、リーグがいよいよラスト5試合というところに向かうにあたって「お前たちも必要だぞ」というメッセージも込めた選手交代がありました。

69'25~の自陣でボールを取った後に宇賀神→小泉とボールが渡ると田中達也が裏のスペースめがけてスプリントしていてG大阪戦では物足りないと思っていた動きがあったのは良かったと思います。

また、明本のコンバートや酒井の加入の余波でベンチ入りの回数が減ってきている宇賀神も86'59に岩波からの素晴らしいフィードを受けると一気に前のスペースへボールを運んだ流れからファウルを取ったり、やれることはきちんとこなす彼の良さが出ていたのはポジティブな点でした。


最後に槙野を入れた後は5-3-2に変更するものの、中盤の3は4-4-2での左SHがいなくなったような形で左右非対称でした。リカルドは特に8月の広島戦などで関根が左SH兼左WBのような動きをして右の江坂とは違うタスクにするというように、左右非対称な配置やタスクにすることはあまり気にしていないというか、4-4-2のベースの上にピッチにいる選手が出来ることを上乗せした時にはそれぞれの出来ることによってチームとして出来ることにも変化をつけられるよねというスタンスだと思うので、そういう部分については気にしなくて良いというか、そこは許容した上でプレーをさせているのだろうと思います。


10月はこれでようやく初勝利。次は前節対戦したばかりのG大阪との天皇杯準々決勝になりますが、ルヴァン杯でのC大阪では同様に直近で対戦していて良いイメージが鮮明な分、相手は対策を立てやすくなりますし、目の前の試合にフォーカスして士気を高めやすいカップ戦だからこそ守備で強いアクションが出てきて受けに回ってしまうことも学んでいます。

相手こそ違えど、ルヴァン杯準決勝での課題を克服するチャンスが目の前にあり、こちらはサポーターも含めたクラブ全体が目標として掲げるACLにも繋がる試合なので、しっかり結果を出してもらいたいですね。


今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。


浦和レッズについて考えたこと

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