この記事でわかること
- 柏の弱点を突いた浦和
- 3得点に繋がった「同じ構図」
- 次のステップの鍵、関根と汰木
- ハーフタイムを待たずしてできた修正
- ”3年計画以前”の選手たちの成長
浦和レッズの戦術を分析して試合を振り返るマッチレビュー。今回はJ1第33節、柏レイソル戦です。
前節・G大阪戦で痛いドロー。ACL出場権獲得のためにも勝たなければいけない柏戦を迎えた浦和でしたが、前半からゴールラッシュで5−1の大勝を収めました。
前節の反省点である、最後の決めるところが改善したこともありますが、戦術的な観点から見れば、浦和にとって最もやりやすい相手のひとつだったことがあると思います。
人を基準に守っていく柏のやり方と、配置で相手の背後を取っていく浦和のやり方が良い噛み合い方をしたことが要因でした。
ゴールシーンを例に挙げながら振り返ります。
相手の特徴を利用する
柏の守備方法
相手にダメージを与えるサッカーをすることが浦和の狙いですので、今回も「相手がどう守っているか」から確認していきます。
柏は4−4−2の配置を採用し、クリスティアーノとマテウス・サヴィオを2トップに並べました。
ネルシーニョ監督率いる柏は、スペースを守ったり誘導したりするよりは、人への意識が強いチームです。
状況に応じて担当のマーク相手に対してアプローチをかけていくやり方ですが、それが浦和にとっては好都合でした。
定石通りの2トップ脇
浦和は2トップに対し、CBとボランチによる3-1の形を作ってビルドアップをスタートさせます。
ボランチのどちらかがアンカー的立ち位置を取りますが、柏はこれに対して主にサヴィオがマーク。
アンカーへのパスコースを背中で消しながら、最終ラインへプレスを仕掛けるというよりは、アンカーへのマークをしながら、自分の高さに来たらアプローチに出ていくというイメージです。
こうなると空くのは2トップ脇で、浦和としてはその位置に岩波とショルツが立つことでフリーになりやすい構造を作ることができました。
これにはもちろん、山中らが相手のMFラインの背後に立ち位置を取っていることで、柏のMFに影響を与えている要因もあります。
ビルドアップ隊が2トップの脇でボールを持てるようになると、あとはMFの間と背後を使いながら、大外の山中を活かす形も作ることができました。
1得点目 - 噛み合った配置
浦和は14分に先制します。
左サイドでボールを奪ったところからのスタートで、酒井が最終ライン、平野と柴戸は定位置にいたのでちょうど3−2のような形で攻撃をスタートしました。
先述の通り、2トップ脇の酒井は余裕を持てるため、ルックアップして中央の平野へ。
配置がある意味噛み合っている状態の柏は、人を捕まえにいく原則通り、2人のボランチが平野と柴戸にアプローチ。
しかしMF背後で江坂が立ち位置を取っていたこと、直線的なアプローチなのでボールを逃しやすく、難なく相手の中盤背後を陥れることに成功しました。
⚽GOAL PLAYBACK⚽
— 浦和レッズオフィシャル (@REDSOFFICIAL) October 22, 2021
鮮やかなパスワークから先制ゴール❗️#平野佑一 ➡ #柴戸海 ➡ #江坂任 ➡ #キャスパーユンカー ➡ #汰木康也 🔥#AllfortheGlory #ONEHEARTTOGETHER #urawareds #浦和レッズ #wearereds #サッカー #Jリーグ pic.twitter.com/WKO4dxlAan
ユンカーはこういった局面に参加することは少ないですが、いわゆる9番タイプとして最終ラインを押し下げており、中盤背後のスペースを創出する効果もあります。
前を向いた江坂からユンカー、汰木と繋がって先制点を挙げました。
柏の人基準
この時の柏の守備を見ていると、人への意識が垣間見えます。誘導や規制の概念が強ければ、神谷が酒井→関根のコースを切っている時点で、SBの三丸が関根に付いていく必要はないでしょう。
一方で、神谷が外を切っていることがチームとして共有されている狙いであれば、中央をボールの狩り場として、平野と柴戸へ早めのアプローチをしていれば結果は変わったかもしれません。
ですが、チームの特徴としてそういった面よりは人を捕まえにいくことがベースにあるので、配置で相手の動いた場所を取っていく浦和にとってはやりやすさが出た場面でした。
2得点目 - 同じ構図
続く2得点目のPKを獲得シーンでも同じような要素が含まれていました。
やはりアンカーの「人」を捕まえている柏の脇にはスペースがあり、ここから運んでいけるように平野から岩波へとパスが出ます。
相手のFWラインと同等の場所で岩波がボールを持ち、酒井が幅を取って関根が背後にいるので、柏のMFラインがどこかを塞げばどこかが空くという状況に追い込みました。
岩波の能力をもってすれば逆サイドの山中へのサイドチェンジも可能です。選択したのは、酒井へと動いた神谷の横を通す背後へのパス。
そこから山中へ展開すると、クロスから柴戸がPKを得ることに成功しました。
3得点目 - 重要なサイドハーフの得点
3得点目も実質的には同じ構図でほぼ決まったといえますが、浦和の中期的な課題として、サイドハーフが得点を取ることの重要性を見ていきます。
ゴールシーンは22:20のシーンから始まります。ここでもサヴィオがアンカーに入った平野をマークしており、浦和は柏MFラインの背後に6枚を残しているので、柏は前に出られない状況です。
3枚となった最終ラインにはプレスがかからないため、余裕を持った柴戸から大外の山中へ難なくパスが通ります。
この瞬間に汰木がSB-CB間を取る動きを見せるので、柏のSB川口は山中へアプローチすることだけには集中できません。
余裕を持てた山中のクロスの跳ね返りを、汰木がゴールしました。
⚽GOAL PLAYBACK⚽#汰木康也 本日2ゴール⚽⚽
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こぼれ球を拾い、迷わず右足を振りぬいてゴールを射抜いた‼️#AllfortheGlory #ONEHEARTTOGETHER #urawareds #浦和レッズ #wearereds #サッカー #Jリーグ pic.twitter.com/LjebWJ7M7R
現在のチームにおけるサイドハーフの役割
試合前にこんなツイートをしましたが、今の浦和の役割分担から考えると、サイドハーフにゴールを取ることが強く求められていると思います。
次のステップのひとつはサイドハーフが点取れるようになることだと思ってる
— KM | 浦和戦術分析 (@maybe_km) October 22, 2021
少し前までは江坂と小泉、ユンカーが出る場合も江坂か小泉が中央を務めることが多いですが、彼らはどちらかというと相手のMFの間や背後でボールを引き出すことに長けた選手です。
ですので、最終ラインの裏へとランニングして押し下げたて深さを作ったり、最後のスルーパスを受ける役割を担うことは多くはありません。
代わりにそういったFW的な役割を担うことになるのが、サイドハーフの関根や汰木になります。
特にボールを持って攻撃をする際には、2トップという固定的な位置の見方をすれば、江坂より汰木がその位置にいることが多く、山中が起用されている時はより顕著です。
汰木の変貌
汰木が浦和に加入した当初は純粋なワイドのドリブラーというイメージで、シャドーで1度か2度起用された時は、正直厳しいなと感じていました。
しかし、今季は開幕から内側かつ背後でのプレーを役割として課されていて、リカルドの期待と、それに応えて成長を続けていた汰木にやっと結果が出始めました。
今季の目標達成や来季の優勝に向かっていくためには、良い試合をしても最後が決まらない、という試合を減らす必要があります。
チームの戦術や、サイドハーフというポジションの名前よりも課されている役割を見ると、汰木を筆頭としたサイドの選手がゴールを決めることが鍵になってくるでしょう。
そういった意味でも、今節の汰木の2ゴールは大いに価値のあるものでした。
早くなった変化への対応
人で埋める、柏の修正
3失点と厳しい状況に追い込まれた柏は飲水タイムで配置を変更。サヴィオを右サイドに出して4-5-1、実質的にはIHが前に出る4-3-2-1気味に変更しました。
浦和が散々使っていた2トップ脇の経路、ハーフスペースのレーンにIHが最初からいることで蓋をする形に。
「相手にダメージを与える」ためには、相手が変化したら浦和もそれに合わせて変化する必要があります。
それまでのように2トップ脇から進むことは難しくなりますが、その代わりに空く場所はどこなのか?を探す作業が始まります。
ハーフタイムを待たずして
9月ぐらいまでは、こういった修正が必要な際はハーフタイムのリカルドの指示を待つ必要がある試合が多かったですが、この日の浦和は前半のうちにある程度の形を見せることができました。
柏IHが前に出た場所のさらに横で、主に酒井が起点となる立ち位置を取ります。また、IHが前に出るということはその根元が空くわけで、関根や江坂が頻繁にその位置に入ります。
これによって柏のSHは背後と横に気を遣う必要があり、酒井に時間とスペースを提供することができました。
IHが前に出た分、アンカー周りにスペースが生まれやすくなるので、そこへ斜めのパスを入れるシーンが28分以降から複数回ありました。
このように、相手の修正に合わせて変化することは、攻撃的なリアクションサッカーを実現するうえで必要不可欠ですが、それをハーフタイムを待たずに表現できたことはチームが成長している証だったと思います。
そんな中でスローインのリスタートから失点しますが、前半終了間際のユンカーで4点目。前半で試合を決めることができました。
必然のユンカー
柏は試合開始直後から右サイドを起点に浦和のSB裏やSB-CBに斜めのパスをつけることを頻繁に狙っていました。
右SBの川口をなるべく高い位置へ押し出し、右から無理矢理にでもクロスを上げられるクリスティアーノが流れてきて、少しでも前を向けたら、中央に入っている中盤の選手たちが裏へと走るシンプルな攻撃を実行。
選手の特徴に合わせて速めの攻撃を仕掛けるネルシーニョ監督らしい攻撃でしたが、浦和は前線からの誘導で逆サイドへの展開は切れていたので、そこまで苦労することなく防ぐことができていました。
逆に、右肩上がりとなっている裏は浦和にとって狙い目であり、結果的にはゴールキックのカウンターのような形でしたがユンカーがそこを取ってゴールに繋げました。
⚽GOAL PLAYBACK⚽#キャスパーユンカー に待望のゴール❗️❗️#平野佑一 のアシストから得意の形でゴールを陥れた❗️#AllfortheGlory #ONEHEARTTOGETHER #urawareds #浦和レッズ #wearereds #サッカー #Jリーグ pic.twitter.com/Rp0vGmJGf7
— 浦和レッズオフィシャル (@REDSOFFICIAL) October 22, 2021
柏としては講じた策が全て裏目に出たようなものでしたが、浦和としては決め切れずにドローに終わった前節を考えればゴールを奪えて良かったです。
余裕を持てた後半はミッドウィークの天皇杯も見据えて、怪我明けのユンカーや山中らのプレータイム調整、3バックのテスト運用なども行うことができて収穫の多い試合となりました。
まとめ - 次のステップアップ
正直にいうと、飲水タイムまでの柏は浦和にとって最もやりやすいタイプの相手であったと言えます。
ですが、その通りに順当な内容を表現して結果を得たことは重要ですし、浦和が次のステップに向けてサイドハーフに期待されているであろう役割の遂行を見ることができました。
特に左サイドの山中・汰木は開幕時のセットと同じですし、汰木が中央でプレーしてゴールに絡むことが要求されていることも同じです。
元々のプレースタイルから考えれば、内側や背後でのプレーが得意なスタイルではなかった汰木と関根ですが、リカルドの期待に応えようと成長を続けていることがスタメンに名を連ねている要因でしょう。
現在のチームで各ポジションに求められる役割や個人戦術を、論理的な選手補強で強化をしているフロントの手腕も光りますが、「3年計画以前」から在籍する選手たちの成長も見逃せません。
来週の必勝の天皇杯に続き、次節は川崎、鹿島、横浜FMとの負けられないどころか、勝たなければいけない試合が待っています。
このチームがさらに成長するためにも、”痺れる”試合を期待します。
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📝戦術分析レビュー
— KM | 浦和戦術分析 (@maybe_km) October 24, 2021
次のステップへ - 2021 J1 第33節 #浦和レッズ vs #柏レイソル
⏰読了まで:約5分
◆ほぼ同じ構図から3得点
◆ハーフタイムを待たずに変化する
◆”3年計画以前”の選手たち
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