鳥栖、福岡に続いて前半戦で敗れた相手に対して見事にリベンジ成功。そしてACL圏内の3位争いの渦中にいるチームは鳥栖が引き分けてそれ以外の名古屋、神戸、鹿島はいずれも勝利と緊張感のある戦いの中にしっかりと踏みとどまることが出来ました。
対セレッソで言うと、4月のアウェーゲームではチャンスを多く作り悪くない前半を過ごしながら得点を奪いきれず、後半に自分たちもオープン志向な相手に合わせてしまったような形で敗れました。あれからセレッソは勝ちから遠ざかり昨年までのロティーナ体制とは対極のフリーダム路線をとっていたクルピ監督を更迭、代わって長らくセレッソの中でコーチを務めて来た小菊監督へと変わってからは少しずつ「チームとして」という枠組みを再構築しようとしているように見えます。
そんな中でのこの試合は金曜の定例会見でこの試合に向けて発したリカルドのコメントを浦和の選手たちがそのまま表現できたと言って良いと思います。
(レッズとC大阪は自分たちにとって気持ちいい試合のテンポが異なると思うが、レッズが気持ちいいテンポで試合を進めるためにはどういうことが大切になるのか?)
「支配したいと思っています。そのためには相手がやろうとしていることよりも、自分たちがやろうとしていること、自分たちのゲームプランが出るようにしなければいけません。しっかりと高いレベルでプレーし、チャンスをゴールに変えながら、いい守備が必要だと思っています。パーフェクトなゲームを全力で目指さなければいけません。攻撃でも守備でもセットプレーでもそれが必要だと思います。J1リーグというレースの最終ストレートに入ったところで、自分たちがボールを持っているとき、相手がボールを持っているときに、自分たちの強度やリズムを発揮しながら、スタイルを貫いていきたいと思っています」
10分の先制点は平野から関根、関根から小泉のスルーを挟んで江坂と大きな斜めのパス2本であっという間にセレッソゴールを陥れたわけですが、平野からのパスについてはキックオフ直後のプレーがその前振りになったように思います。
縦パスが平野に入った時に後ろ向きの平野にとっては斜め前に岩波がいて、左SHの乾はそこへパスが入るだろうと縦スライドしに行きますが、平野はそれを見透かすようにワンタッチで乾の頭上を通してライン際にいる酒井・関根へパスを通しています。
このプレーの直後に解説の戸田氏が「乾の方を少し前に出しながらのプレスを考えているのではないか」とコメントした通り、この試合のセレッソの守備の大枠としては4-4-2というよりは4-2-4のように構えてSHが積極的にビルドアップ隊の中で幅を取る選手へ縦スライドしていくというものでした。
試合開始早々にそれを利用するようなパスを出せたということは浦和の方が共通理解としてセレッソの傾向を把握していたのかもしれませんが、それをパッとやってしまう平野は流石ですね。見返してみるとパスが来る前にチラチラと乾の方を確認していました。ただ、0'56にも同じようにワンタッチで酒井の方へボールを捌きましたが、この時は平野は乾の方を確認できておらず、乾は最初のプレーのことがあったのを受けてなのか前に出るのを自重していてパスが引っ掛かりました。
そして8'56は平野が岩波とショルツの間に下りてセレッソが2トップ+乾でここへプレッシングをかけようとしたところを、平野から乾の背中を取った関根へ、関根はすぐに前を向いてセレッソのCBの間にいる小泉、その延長線上へCB-SB間から裏のスペース走る江坂をめがけたパスが通ります。
DAZNのコメンタリーが同じく下田・戸田コンビだった4月の鹿島戦での明本のゴールのように鮮やかでスピーディな斜めのパス2本であっという間にゴールを奪いました。いやー、見事でした。せっかくなので図にしておきます。
セレッソの攻撃は浦和の2トップに対して数的有利を作りつつ、外で幅を取る選手を確保しようとしてたように思います。前半の飲水タイムまではボランチの1枚が最終ラインに落ちて3-1のような配置を取りますが、浦和の江坂、小泉は中央を埋めてから、そこを背中で消しつつプレッシングをかけることが出来ていて、さらに相手のプレー方向を左か右かどちらかのサイドに限定するように横方向の制限付きのチェックをかけます。
横を消されると縦方向しかパスコースが無いわけですが、セレッソの中央は1枚しかいないのでここが消されやすく、飲水タイムのところでビルドアップ隊を右SBの松田陸を残した3枚+2ボランチとするように変更し、全体の配置としては3-4-3に近い形を作って浦和の守備陣形からズレを作ろうと試みます。
浦和はこれに対して8月以降出てくる回数が増えたSHが縦スライドして2トップ周辺の数的不利を解消しに行きましたが、セレッソは特に左の丸橋、乾あるいは2トップのどちらかが関根の脇と背中を取れており、27'55のように瀬古から関根の内側を通すようなパスが入ります。
SHの背中のスペースを使おうとするというのは両チームに共通したものだったと思いますが、ここでボールを受ける技術、あるいはそこでボールを受けられた時に前を向かせなかったり奪ってしまったりする技術の両方で浦和の方が上回っていたように思います。
さらに解説の戸田氏も度々言及していましたが、浦和の方はボールを失っても足が止まらず、柴戸と平野が特に目立ちましたが高い位置での即時奪回を繰り返しました。
柴戸・平野の組み合わせではビルドアップ時に平野が「へそ」の位置でプレーし、柴戸は平野が最終ラインに下りた時にはそこへ入るものの、基本的には中盤ハーフレーンをスタート位置にしてボールが前に出た時には横や斜め後ろのサポート位置を取り続け、前に出て行こうとしてボールが引っ掛かった時にはネガトラの先鋒隊として相手選手に何度も襲い掛かりました。
前向きにガツガツ奪いに行くのは昨年までも見てきた柴戸の一番の長所だと思いますし、「個の能力を最大限に発揮する」ことがチームのコンセプトですから、適材適所で起用出来るようになっていることは良いことですね。ただ、平野に代わって敦樹が入って役割が変わってからもネガトラでしっかりセレッソの選手の前に立ちはだかることは継続していて、彼自身がスケールアップしていることを感じさせてくれました。
後半に入ってすぐに小泉、江坂がどんどんプレッシングをかけてキムジンヒョンからのボールを関根がカットしたり、積極的なプレッシングは試合終盤まで継続しました。
セレッソは61分に2トップと両SHのアタッカー陣を総入れ替えして形勢逆転を図りますが、アダムタガートと大久保がゴール前で勝負をしたがっていてもそこまでボールを届けるには至らず、さらに終盤になるにつれて右SBの松田陸がどんどん前に出て行きます。それによってセレッソは前後分断気味になってしまってボールを失った時に中盤から後ろが手薄になり浦和がボランチの位置でボールを奪うとすぐに中央から縦、縦にボールを進められていました。
83'18でも大久保が内側でフリックしたボールを柴戸が前向きに拾うと一発でCHの間を貫くボールをユンカーへ通したシーンなんかは象徴的かなと思いますが、平野は自分のところでボールを拾った時に一発で前にボールを出せるのがここまで何度もあって、良い意味でその刺激を受けて柴戸も敦樹もポジトラで前を見ることの優先順位や、それを選択して遂行する技術が高くなってきているように思います。
「ボールを奪ってから最短距離でゴールまで」がまだまだ課題だと6月に西野TDが言っていましたが、それについて言えばこの試合は課題が克服されてきていることを感じられたのではないでしょうか。
この試合について内容はかなりポジティブでしたが、結果、特に得点数については少し物足りなく感じましたかね。上位チームの中で得失点差が少ないという状況を考えると試合の勝敗だけでなく取れるところで取っておくというのは大切です。2点目の岩波の「タッチダウンパス」を汰木が決めたゴールはかなり難易度の高いプレーだったと思いますが、それよりは決められそうだったんじゃない?というシーンが5回はあったと思うので、それを全部とは言いませんがせめてあと2点は、、という欲張りな感想を持ってしまいます。
さて、セレッソとは10/6、10/10にルヴァン杯準決勝で再び対戦することになります。この試合でセレッソに与えたダメージは大きかったと思いますが、試合中に見られたようにセレッソの小菊監督はチームとしての前提をきちんと設定しようとする指導者だろうと思います。だからこそ浦和の方は同じようなやり方で、同じようなチャンスシーンが何度も作れたということにもなります。
ここからもセレッソは連戦が続いたままルヴァン杯での再戦になりますが、その時にはプレッシングの原則を変えたり、はたまた配置そのものを変えたり、何かしらの対策を講じて同じ轍を踏まないようにしてくることが考えられます。
川崎との2試合の後の横浜FC戦で厳しくプレーできたので、次の対戦時になめてかかるということは無いだろうと思いますし、リカルドはそこはかなり気にして声をかけるとは思います。これだけ無失点を続けられるのは技術的な面だけでなく精神的な面でも強くなっているからこそ、ギリギリのところで足を出したり体を張ったりできている訳で、そこについては頼もしさがどんどん出てきていると思います。
最後まで緊張感のある試合をするためにも次のFC東京戦もきっちり勝ち点3を積み上げてくれることを期待します。
今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。