五輪による中断前最後の試合でした。前半は浦和がとったボール前進の配置に対して大分の準備してきたものががっちりと噛み合い、後半は浦和が配置を変えて大分のやり方を外した中でチャンスを決められず、飲水タイムで大分に再び対応されてしまったと、まぁざっくり言えばこんな内容でした。
どちらの監督も論理的にチームを作り、選手を動かすことを志向している分、そこの論理がかみ合ってしまえば簡単には状況を変化させにくく、同じような状況が何度も繰り返されやすいと思いますし、この試合はそういう試合だったのだと思います。
前半の浦和は前節の仙台戦に引き続き、外レーンにSB、内レーンにSHという配置でほぼ固定しています。これが上手くいった場面は見られませんでしたが、狙いについては25'50あたりで通訳の小幡さん?の指示から推測することが出来ます。
「コウヤ、もっと近づいて良いぞ」
「コウヤ、背中で良いよ、コウヤにかかればキャスパー空くから」
先に大分の守備の狙いから整理しておくと、浦和のビルドアップに対して5-2-3で並び、前の2-3で作られる五角形は狭めてボールが中には入らないようにしておきます。浦和は外側からボールを進めざるを得なくなるので、WBは外レーンのSB、左右のCBはハーフレーンにいるSHをマークすることでボールが出ていく先を潰しに行きます。
先制点は、西川がボールを持ったところからでしたが、長沢が西川の左足の前に立って槙野や柴戸へのコースを牽制し、下田が手前でサポートする敦樹を捕まえておくことで中は使わせず、外の西までボールを飛ばしたところへは香川が縦スライド、ハーフレーンを下りていた田中には三竿がついていったことでボールを奪っています。
ボールを奪われてから槙野が一度も自分の背中のスペースをチェックしていないように見えたのが気になりますが、大分側は自分たちのスタートポジションで相手の前進経路を限定して、思惑通りのボールが来たら一気にスイッチを入れて行くことが出来ました。
で、小幡さんと思しき人の汰木への指示について。浦和の方は意図的に大分のWBと左右CBに矢印を出させようとしていたのだろうと推測できます。
まず、「コウヤ、もっと近づいて良いぞ」の部分は果たして汰木が誰に近付いて良いのかになります。ハーフレーンにいる選手に対しての指示なので影響を与える対象の相手選手はシャドーの小林、ボランチの長谷川、CBの上夷のいずれかになりますが、その直後の汰木の動きからして恐らく上夷だと思います。「背中で良いよ」というのは汰木にとって自分をマークさせる相手である上夷をどこに置くかということを言っていると思います。
相手を背中に置く=相手の前にいることで、上夷は汰木への意識が強くなります。この状態のことを「コウヤにかかる」と表現しているのでしょう。そして、「コウヤにかかればキャスパーが空く」というのは、上夷が手前にいる汰木を意識してくれれば、その分背後のスペースへの意識を薄くさせることが出来るということかなと。なので、汰木が上夷にロックしてもらうことで、ユンカーが走り込むスペースが空くというのが狙いとしてあったのかなと、指示の言葉から推測できます。
リカルドは上手くいかなければ前半の飲水タイムから手を打っていくことが多いですが、前半の中では特に配置やボールの動かし方に変化をつけなかったのは、大分のアクションの起こし方が想定していたものだった分、選手たちがそれに慣れれば狙っていたプレーを実行できるのではないかと思っていたのかなと。
試合序盤も敦樹から手前にいる汰木の頭を越して背後へ走った明本までボールを出したり前向きなアクションを利用しようとするプレーはありました。しかし、そのアクションを利用するためにボールを出すところが詰まってしまっていました。
大分が五角形の中には入れさせない、外レーンにはWBが出てくるという状況なので浦和の最終ラインでの横パスが増えて行きました。この時に左CBが右利きだと、CB間のパスをするときには体の向きを前方向からパスを出す方向へ転換して、ボールの位置も後ろ側にしなければいけなくなります。槙野のこの動作が起きた時には大分の左シャドーの選手が岩波への縦スライドを狙っていました。なので、守備の強度には不安があるものの左利きの工藤を使うのもありかもしれないと思ったりはしました。
41'52にはフリーの岩波からハーフレーンの手前のスペースで受けようとする田中へボールが出たところに三竿が鋭く縦スライドしてボールを奪っています。序盤から相手のプレッシングを受け続けた岩波としては、フリーな状態になっても落ち着いてボールを持って運んでいくことが難しかったのかもしれません。
もし、ここで岩波が落ち着いて相手を見ながらボールを運べていたら、その間に三竿が縦スライドして空けたスペースを外から西、中からユンカー、ユンカーの手前から小泉のいずれかが狙えたかもしれないです。
また、飲水タイム以降は33'55のように田中がハーフレーンでより高めの位置に入り、小泉がその手前のスペースに入った時にはそこへ三竿が縦スライドするので、三竿がいなくなったスペースへ田中が流れようとする動きもありました。しかし、この場面はボールが出て行かなかったですし、大分の方も残っている2枚のCBがスライドしてここを埋めています。
で、矢印は思惑通り出させていても、そこにボールを届けられなかったので、今度は大分に矢印を出させない方向へプラン変更したように見えました。
大きな変化としては、CBまでプレッシングに出ていた大分のシャドー付近に敦樹と西を立たせて前半のようには前へ出にくくしたこと、左サイドは明本と汰木が、中央では2トップになったユンカーと健勇が流動的に動くことで、大分の選手が誰をマークするのかの部分をぼやかそうとしたことだったと思います。
また、前半の途中からハーフレーンの深い位置がスタートポジションになっていた田中ですが、やはり外から縦に抜けて行くのが彼の一番の魅力なので、やっぱりその位置で使ってあげるのが良いよねということもあったと思います。
この配置の変化によって46'50には敦樹からのスルーパスに田中が香川の背後へ抜け出し、そこからのクロスに明本が詰めたり、中央で小泉がボールを持って町田を引き付けると、その脇のスペースへ敦樹が入り込みんで明本が外から裏へ抜け出してクロスを上げたりと、明確に状況が変わりました。健勇のミドルシュートもそうでしたが、浦和とすればこのどれかの場面でゴールを決めることが出来れば。。というところでした。明本のシュートはむしろ右利きの汰木が入っていた方がボールをミートしやすかったかもしれないですね。
飲水タイムを挟むと大分は小林に代えて伊佐を投入し、5-3-2の配置に変更し、浦和のビルドアップ隊との噛み合わせを良くして大分が再び主導権を取り返しました。
後半に入ってからの攻勢の中でゴールが奪えず飲水タイムに入り、ここで対応されたら嫌だな。。と思っていたタイミングで的確な対策を打たれてしまったので、片野坂さんお見事でしたと讃えないといけないかなと思います。
ユンカー、汰木に代えて興梠、関根を入れて少しブーストをかけようとしましたが、最後の10分弱は再び槙野を前線に残してのパワープレーでした。他の試合のところでも書いていますが、最後まで諦めずに闘うのは当然だけど、パワープレーという博打要素の高い手段を行うのはどうなの?という疑念が続いています。それでゴールが決まって引き分け、あるいは勝利まで出来たとしたら手のひらを返してしまうのかもしれません。
リカルドの声が聞こえなかったので、リカルドの指示なのか、選手たちの判断なのかは分かりませんが、そういうプレーに長けた選手がピッチ上にいるわけでも、そういうプレーを積み上げてきているわけでもないと思うので、この非効率はプレーを何度も選択しているのは気になります。
後味の悪い試合が続いたところで中断期間に入ることになりました。江坂はすでに練習に合流しているものの、ショルツの来日や酒井の合流がいつになるかはまだ分からない状況。選手が新しく入れば、またチームを作りなおすことになるといったことをリカルドは言っていますが、「相手を見ながら」を志向しているのなら、相手の対策への対策を打てるようになってもらいたいですし、ここまで試合に出てきた選手たちの中でもそこの部分が積み上げられると良いなと思います。
◆最後に
2020シーズンからの三年計画も折り返し地点を越えたので、ここで月ごとのまとめではなく、三年計画全体を俯瞰するような振り返りをこの中断期間中にやろうと思っています。追って詳細は出そうと思いますが、いろんな方の意見を聞きつつやりたいと思っていてアンケートをとる予定です。以下のような項目を考えているので、ちょっと心の準備をしておいてもらえたらと思います。
・現時点での満足度
・チームコンセプトと実際の試合の整合性
・改善すべき点
・期待している点
アンケートの結果は、stand.fmを使った音声配信(ライブ配信?)や記事での紹介を予定していますので、その時はTwitterなどで告知します。
自分でここまでの流れを思い出すために簡単にまとめたので良ければ参考にしてもらえればと思います。
今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。