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Cover Image for 【戦術レビュー】補強戦略が生む役割の分担と交換 - 2022 J1 第22節 清水エスパルス 1-2 浦和レッズ

【戦術レビュー】補強戦略が生む役割の分担と交換 - 2022 J1 第22節 清水エスパルス 1-2 浦和レッズ


この記事でわかること

  • 清水の「やり直し」で嵌まらなかった守備
  • 安定した撤退守備
  • 取り戻しつつあるビルドアップのバランス
  • 補強戦略で現出する「ローテーション」
  • チャンスの質に差がある

浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第22節、清水エスパルス戦です。

FC東京戦に快勝した浦和はアウェイに乗り込んで清水戦を迎えました。結果は2-1の勝利。

2点先行したものの、最後は守り切る姿勢でなんとか勝ち点3を獲得しました。

複数得点に繋がった点や、前節のように完全な勝利とはならなかった理由について解説していきます。

疲弊を招いた守備

まずは浦和の守備、清水のボール保持について見ていきます。

前節の東京戦ではハイプレスも含めて浦和の守備が嵌った試合でしたが、この試合では前線から嵌め込むことはできませんでした。

これは清水がビルドアップに人数を多くかけることや、バックパスで逃げ道を常に確保されたことが原因でしょうか。

清水の仕組みとしては、左SBの山原は前線へ上げ気味、最終ライン3枚が広めに布陣しつつ、アンカー気味の宮本や、パスコースがなくならないように白崎も頻繁に顔を出します。

これに対して浦和は4-4-2で、サイドハーフを高めに配置してサイドへの追い込みを狙いますが、機能したとは言い難い状況。

清水は、常に横のサポートをする動きを見せていた宮本、頻繁に顔を出す白崎に降りてくるサイドハーフ、そして権田へのコースが常に確保されていた点で、積極的なやり直しを厭わないチームで、その「やり直し」を防ぐことができませんでした。

前節のFC東京戦では、こういった「やり直し」を目的としたバックパスを防ぎ、浦和が準備した場所に「縦に進ませた」ことでボールの回収ができていたので、この点が違いになります。

非保持での疲弊

浦和は宮本を松尾か小泉で牽制、徐々にサイドに追い込んでいくこと自体はできていました。

ここで横のサポートをする宮本を2トップのどちらかが切ることになるのですが、そうなると松尾と小泉が縦関係気味になります。

その間を横切るパスや、権田へのバックパスで再び中央に戻されるシーンが多くなりました。

サイドに追い込んだ後にバックパスをされると守備側は再びやり直しになり、なかなかボールを奪えない中で再び追い込みのスプリントからスタートすることになりました。

そのことで浦和の前線は守備での疲労感があり、試合終盤の10~15分で完全に守勢に回った要因の一つでしょう。

清水のメリット・デメリット

それでも清水の決定機は少なかったです。これには、清水がビルドアップに人数を多くかけている事実があります。

サッカーでは人よりボールの方が早く動くので、後方から縦のパスが入った際にボールより前にいる人が少ないと、ビルドアップの次の場面で人数不足になります。

清水の崩しの手札が少なかったこともありますが、浦和の撤退守備も安定しているので、危険な場面は作られませんでした。

清水のシュート13本のうち、ペナルティエリア内でのシュートは3本程度。

ブロック手前からのミドルシュートやクロスがほとんどでした。

エリア外のミドルシュートはそもそもゴールにつながる確率が低いですし、今季の西川やセンターバックのパフォーマンスを考えれば相当スーパーな(実際に失点した山原のような)シュートか、完璧なピンポイントクロスが合わない限り大丈夫、という展開でした。

清水のサイドハーフが手前に引く狙いとしては、浦和のSBを前にズラした背後をつく狙いもあったと思いますが、ここは岩波とショルツがシャットアウト。

なので、浦和としては前からは嵌まらないものの、その先の展開では問題ないだろうというのがこの試合でした。

策はあるが、どこにリスクを抱えるか

ただ前から嵌まらないということは撤退が主になるので、疲労も増えた試合終盤は完全に撤退せざるを得なくなりました。

こういうビルドアップに対しても前から嵌め込むために、通常より前にズレる選手を作る、例えば中盤をダイヤモンド気味にしてでも前から人数を合わせていく手段もあります。

ただスーパーカップの川崎戦のように事前にしっかり準備する時間があれば別ですが、リカルドがそこまでのリスクを背負うことはあまりないです。

当然、前にズレる分のリスクは自分達のゴールに近いところで背負うことになるので、これはバランスの問題ですね。

この辺りは中断期間で少し整理するかもしれません。

スムーズな入れ替わりを見せるビルドアップ

意図的にボールは奪えないものの、浦和のボールから試合が再開する場合は意図的な攻撃ができていました。

特にビルドアップの配置については徐々に最適解を見つけつつあるのかもしれません。

清水は4-4-2の布陣から守備を始め、サイドに追い込んでいくことが基本だったと思います。

これに対して浦和は、基本通り相手の2トップに対して+1を作ることから始めます。

最近多い布陣である、岩尾をアンカー気味、敦樹を相手MF背後に潜らせる3-1-6、4-1-5気味の配置から始めることが多かったです。

ここから相手を見ながら前進をしてく訳ですが、レベルアップしつつあるのは、人が固定された配置のパターン化ではなく、ピッチ内での役割の分担や交換がスムーズに行われて+1を作れていることです。

例えば、+1 を作るために岩尾が最終ラインに降りた場合、敦樹が2トップの背後の位置に入りますし、小泉が人数を補填しに下がってくることもあります。

その一方で、松尾に加えて明本や酒井、関根とモーベルグが高い位置をキープ。小泉と敦樹も、どちらかが降りたら片方は相手の背後に潜るなど、なるべく逆方向の入れ替わりになります。

逆に、酒井が+1になる場合は岩尾がアンカーの位置をキープすることで、小泉や敦樹は相手のMFラインの背後にいることが多いです。

CBのポジションを前後に動かすことは難しいですが、相手の第一のプレッシングラインに対して+1を確保する役割を担う人が複数いながら、同じ役割でバッティングしないような役割の分担、交換が非常にスムーズに行えています。

必要最低限のリソースによるビルドアップ

この役割の交換がもたらす清水との違いは、ビルドアップを必要最低限の人数で完結できる点です。

次の局面につながる場所、つまり相手のMF背後、最終ラインの近くに十分な人数を確保しているので、ビルドアップから前進に成功した後、相手の最終ラインをブレイクしていくための十分な人数を浦和は確保できています。

最終ラインに影響を与える選手が多いということは、そこから裏を狙う動きを見せたら「深さ」を作れるということ。

これで手前も開くので、西川から岩尾、岩尾から関根や小泉など、相手の背後・背後と前進するシーンがあるのは、相手の最終ラインを押し下げているからこそでした。

中断前との違い

今季序盤ではこういう役割の分担や交換、特に前後の入れ替わりがうまくいかず、浦和の最終ライン近辺に人数が重くなってしまい、前線の人数が少なくなっていました。

それでも前線にパスが入ったら、モーベルグやユンカーを中心にゴールまで向かいましたが、やはり人数が足りないので、本当の意味で決定的なチャンスが作り出せない、だからゴールが生まれないという流れでした。

このあと解説する崩しの局面での成果もありますが、中断期間を経て試合を重ねる中で、徐々に最適解となるバランスになってきていると感じています。

補強戦略の成果が現出しつつあるか

必要最低限のリソースによるビルドアップができると、例えば相手の背後を取ったら一気にゴールに迫ることもできます。

一方で、相手を押し込み、相手陣内で攻撃をセットして崩していく展開も増えることになります。

その中で浦和の攻撃が機能している要因として、ポジションのバランスを維持しながらポジションを入れ替えていく「ローテーション」があります。

ローリングと呼ばれたりもしますが、特にサイドで、3人がポジションを入れ替えていく動きがスムーズに行えています。

各選手がポジションを入れ替えることで内と外、手前と奥に入る選手が次々に入れ替わって相手の目線を外し、最終的には裏を取っていく動きが良くなっている印象です。

この狙いは相手に判断を強いることです。

相手からすると、自分が担当すると思っていた浦和の選手が自分から離れて、別の場所から別の選手が入ってくるし、背後に消えたと思った選手がボールを受けに背後から出てくると同時に、横にいた選手が自分の裏を取ってくる、その間にもボールは動いているといった具合です。

実際に、2得点ともこのローテーションから生み出されています。

1得点目のローテーション

1得点目は左サイドのローテーション、関根と明本がポジションを入れ替えたことで清水SBの原に判断のミスを与えています。

ビルドアップでショルツが+1になったので、運ぶドリブルを見せる、それに合わせて関根や明本がMF背後に移動する、つまり必要最低限のリソースで相手のプレッシャーラインを越えることができました。

これで崩しの人員を確保しながら、次は関根と明本がポジションをローテーション。

原に「どちらを見るか?」という判断を強要して、外側に注意を向けるエラーを誘発しました。

クロスは合わなかったものの、相手の最終ラインの裏を取ったことで相手は背走、ペナルティエリア内までラインを下げさせています。

そのことで、ミドルシュートを放つ関根が入る手前が空いていながら、最終的にこぼれ球を押し込む松尾が権田のすぐ近くまで侵入できています。

清水にも多かったミドルシュートと比べて、相手陣内の一番奥を取った状態からパスを戻した後のシュート、という違いが大きな差を生んでいます。

シュートを打つ状況の質が違うのです。

美しい2得点目

2得点目の右サイドの崩しは美しかったですね。

江坂も加わった4人のローテーションと、相手が動いた根元の部分、相手が動いた結果として空く場所に対して、浦和の選手が過不足なく次々と入っていったことで完璧な崩しになりました。

相手のCBを定位置から引っ張り出したうえでのクロスに明本が飛び込んでオウンゴールを誘発。

これも、チャンスの質を上げたうえで最後のシュートを打つことができています。

バランスは崩さない

こういったローテーションでは、バランスを崩さないことも重要です。

例えば相手の裏や前に複数人が突っ込んでいく動きではありません。

いるべき場所に人はいながら、そこにいる人が入れ替わっているので、ボールを失った時のカウンタープレッシングの人員も確保できます。

リーグトップレベルの失点数の少なさですが、その要因は守備陣の奮闘だけでなく、バランスを崩さないことによる、試合のコントロールによるところも大きいです。

特に右サイドの酒井、モーベルグ、敦樹のローテーションにはここ数試合、個人的にかなり手応えを感じています。

モーベルグの個人技で押し込める部分ももちろん活かしつつ、3人でのローテーションで相手の背後を効果的に取っていく連携がかなり良いと思います。

補強戦略の成果

こういった連携について、ビルドアップの面でもそうですが、今季の補強方針の成果が出始めていると思います。

浦和の編成は尖っている選手、何かスペシャルな武器を持っているけど、できないこともある、という選手を放出して、最低限色んな役割をこなすことが出来つつ、武器も持っている選手に切り替えました。

それぞれ得意なプレーや得意なプレーエリアがあるものの、例えばサイドの選手なら内側でも外側でもプレーができるし、サイドバックならビルドアップにも崩しの局面にも関わることもできる、そういう編成になっています。

これがスムーズな役割分担やポジションのローテーションを可能にする、という成果になりつつあると感じています。

ミドルシュートやクロスが多かった清水とは対照的に、11本のシュートのうち枠内は8本、それもエリア内からの数が多かったと思いますし、1得点目の関根のように、ミドルシュートだとしても相手の奥を取ってから戻したパスであったり、確率を高めた上で最後のシュートを打てていると思います。

チャンスの質が上がっていて、ゴールになってもおかしくないシーンを作れていることが、ここ最近のゴールに繋がっているのでしょう。

中断期間前でも決定力不足などと言われていましたが、チャンスの質が不足していて、決定力が問われる場所までは来ていなかったかなと個人的には思います。

そういう意味で、ここ最近の試合では、決定力が問われるフェーズに入ってきたと感じています。

まとめ - 取り戻しつつあるか

大雨の中で最後は耐え忍ぶ展開になりましたが、こういうゲームで勝ち点3を奪い切ったという点も大きいことですし、今季初の連勝を飾ることも出来ました。

正直、役割の分担や交換、バランスについては想定より時間がかかったなという印象ですね。

ビルドアップにおいては、昨年のメンバーでの役割の分担や交換はできるようになっていたので、足りなかった崩しの部分を今季プラスしていけば勝つ確率の高い内容を披露できると考えていました。

それが新加入選手と思うように構築できず、トレーニングの時間も取れない中で半分以上が過ぎてしまいましたが、攻撃面ではやっと良いバランスを取り戻しつつあるのかなと思います。

そこに、組織としても個人能力としても昨年よりレベルアップしている、さらに強化していける可能性を感じる崩しの局面があります。

前からの守備については課題が残りますが、ようやく浦和の逆襲が始まりそうです。

2得点で今季初の連勝飾った今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!



浦和レッズについて考えたこと

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