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【戦術レビュー】プレー選択の基準と優先順位 - 2022 J1 第17節 浦和レッズ vs 名古屋グランパス


この記事でわかること

  • 浦和が優位に立った初期配置
  • 中断期間改善考察 裏の使い方
  • プレー選択の基準と優先順位の落とし込み
  • もうひとつの"補強"前迫コーチ
  • 立場を考えた試合のコントロール

浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第17節、名古屋グランパス戦です。

2週間超のブレイクを経てリーグ戦が再開。ホームに名古屋を迎えた浦和ですが、3−0の快勝を収めました。

良いトレーニングが積めているコメントはよく出ていましたが、その成果が発揮できたのかなと思います。

名古屋に緊急の選手交代を打たせるまで追い込んだ要因、中断期間で何が変わったのか、を中心に解説して行きます。

初期配置で優位に立つ

浦和がボールを持つ展開が予想されましたが、その通りになりました。

名古屋の守備陣形は5-3-2からスタート。

中央を締めて外にボールを動かし、WBやCBも積極的に前にズレて前向きな守備を行う。そこからカウンターに繋げていくことが大きな狙いだと思います。

浦和はこの名古屋がやりたい守備を許さずにボールを保持したことで、試合序盤からの攻勢、セットプレーの獲得に繋ぎました。

初期配置は宮本と関根を大外の高い位置に配置した3-2-5気味。WBを高い位置でピン留めして前ズレを抑制します。

2トップに対しては大畑を加えた3枚気味+背後と間に立つ岩尾で数的優位を確保しつつ、空きやすい脇の位置を起点にすることを選択しました。

その2トップ脇を取るために、3枚で足りたらそらで良いですが、横幅的に足りない場合は敦樹が降りる場合もありました。

名古屋はこのスペースに対してインサイドハーフかWBが前にズレようとしていました。

浦和はこれに対して、シャドーポジションにいる大久保と江坂が名古屋の陣形の間や外から顔を出します。

ここに一発で縦のパスが入って、前を向けたらそれはそれで良いでしょう。

特にこの日は大久保が絶好調で、ターンから相手最終ラインに向かってドリブルで仕掛けることができていました。

中断期間の成果を探る

裏への意識

中断期間から改善した点として、裏への意識を重点的に確認したというコメントが出ています。

最前線に明本がいる影響もあると思いますが、確かに裏への意識は、この試合の攻撃を支えていました。

ただ、単純に裏への動きを出して、そこに長いボールが入れば良いかというと、そうではありません。

「今から裏を狙うよ」と相手にもわかっている中でのロングボールは「わかっていても止められない」レベルの理不尽さがないと、ただボールを捨てるだけになります。

複数の選択肢を常に持つ

ボールを持つことが多く、ポジショナルプレーを取り入れている今のサッカーでは、相手の守備者に対して、複数の選択肢を連続的に突きつけることができるか、が鍵だと思っています。

つまり、裏と手前、縦と横と後ろなど、複数の選択肢を同時に持ち、その手持ちの選択肢から裏を選択する、というプロセスが必要ということです。

この日の浦和はそれができていたと思いますし、それを実現する立ち位置や特徴的な仕組みがありました。

隣のレーンを活用する

それは裏を狙う直前に"5レーン"のレーンを変える横のパスを入れる、という流れです。

名古屋のインサイドハーフが内側を閉めている時や、浦和の最終ラインがプレスを受けている時、次にボールが動くのはの外側になることが予想されます。

この場合、名古屋はWBが積極的に前にズレてきますが、ここからボールを出した最終ラインに戻す選択肢しかないと、Uの字で迂回してしまうことになります。

そうなると相手の陣形の間を使えないので、ゴール前まで効果的に迫れず、最後の崩しで何か無理を効かせる必要が出てきます。

横の味方に前を向かせる

ここで重要なのは横でサポートできる立ち位置に味方がいるかどうかです。

この試合ではシャドーの江坂や大久保、ボランチの岩尾や敦樹を中心にこの関係性が構築できていました。

例えば江坂が下がる位置なんかは、積極的に前にズレたい名古屋のCBに対して「ここまで付いてきますか?」という位置だっと思います。

外にボールが動いた時に、隣のレーンでサポートできる選手がいることが多く、そこへの「落としのパス」で前を向く。

最終ラインから最初にパスを受ける選手、いわゆる「ビルドアップの出口」となる選手は体が後ろ向きかつ、相手に背中から圧力をかけられる可能性が高いです。

ですが、横にいる選手にそのパスを落として反転すれば、ついてきた相手の運動方向の逆を突くことができます。

実際に、落としのパスを受けて前を向いた選手から即座に裏へのボールが出ることや、明本のポストを挟み、反転したサイドハーフやボランチ・SBの選手が追い越して裏を狙うことが多かったです。

良い立ち位置を取ることで複数の選択肢を確保しつつ、相手の動きを見て逆を取っていく。今のチームに求められる基本的かつ最重要な狙いが表現できました。

ゴール前でも同じ原則

さて、この隣のレーンを使って縦にパスを入れる、というシーンは、ゴール前でも「ワンツー」という形で現出する回数が多かった印象があるのではないでしょうか?

3得点目に象徴されるように、この関係性はゴール前の崩しでも維持できていました。

スーパーなミドルシュートが決まらない限り、流れの中からゴールを奪うためには、1回は相手の最終ラインを破ることが基本となります。

そのために、隣のレーンにいる味方を利用してから裏を狙うという動きがありました。

横方向へボールを動かすことで相手の目線と体の向きを移動させ、その結果「相手の背中側」になった選手が裏を取ってラインブレイクを狙う、という形です。

これは3得点目以外でも数多く見られた現象で、再現性高くできていました。

また、天皇杯の明本のゴールに繋がる流れや、57:30の大久保→関根に繋がりかけたシーンなど、サイドから斜めのパス→戻しのパスを入れながら横に移動していく動きも、「相手の移動方向と逆を突いてフリーマンを作る」という意味では、同じ狙い中の別の方法の一つでしょう。

プレー選択の基準と優先順位

リカルド的なチーム作りを考えれば、ポジションや人を固定した完全なパターン化ではなく、原則的な共通認識を全体で共有しているイメージでしょう。

得点時のように、ポジション柄、敦樹が出し手になる回数は多かったですが、違う組み合わせの選手同士で同じような動きができているシーンが多くありました。

これは中断期間の一つの成果として捉えて良いと思います。

  • 隣のレーンでサポートできる立ち位置に味方が入ること
  • 中盤以降では、ボールが動く方向を斜めか、横と縦(裏)でなるべく交互にすること
  • 横方向の運動で相手の「背中側」を変えさせること
  • その「背中側」にいる人が裏に抜けること
  • 裏に抜ける選手を使う優先順位を高めること

ピッチから見えた現象から勝手に予想するとしたら、こういった原則でしょうか。

これらに再現性を持たせることができるか、つまり、別の試合でも相手に合わせて同じようなシーンを作り、得点に繋げられるかどうかは、まだ「いける」とは言えません。

ただ、中断明け1戦目でまずは一つ、関根のゴールという形で成果となったのは今後に向けて非常に良かったと思います。

逆に名古屋の攻撃を制限した浦和

これを踏まえたうえで、逆に浦和の守備視点から見ると、名古屋に対して横方向へのボールを制限できたことが良かったのではと思います。

名古屋はWBを高い位置に張らせて、3バック+レオシルバでビルドアップをしつつ、前線の幅を使った攻撃が狙いの一つだったと思います。

これに対して浦和は、レオシルバに対して2トップの一角を当てて警戒を強めました。

サイドのCBに対してはFWを追い越して関根と大久保が、背後のシャドーへの経路を切って出ます。

これでボールが大外へ移動するよう誘導することができます。

すると、名古屋のWBはCBの逃げ道確保のために、ポジションを下げざるを得ません。

これには予測を持っている浦和のSBが付いて行けます。

ここから隣のレーンにいるレオシルバを経由されると、逆サイドの大きなスペースで待っているWBまで繋がれてしまいますが、2トップの片方が封鎖できていたので、名古屋の選択肢を裏へのボールに絞ることができました。

特に右サイドでは、SBとSHが前にずれていく分、裏へのボールに対して敦樹が下がる連動ができていました。左はどちらかというと岩尾も前にズレていく感じはありました。

それでもピンチを作られることも

その中でクロスまで持って行かれたシーンを考えれば、34:20など、左右のCBからレオシルバにパスが入ってしまった時です。

あとは、裏へのボールだけに選択肢を絞ったとしても突破されてしまうマテウス、ボールを失った時の切り替えの守備で囲めているのに、全ていなされて前を向かれてしまうレオシルバなど、個の力で負けた時でした。

また、後半を見るとシャルクとモーベルグが入ってからは少しこの守備が機能しなかったかなと思います。

連携の部分でも日本人選手との息が合わないシーンもあるので、ターンオーバーがなければ、2人をスタメンで使うにはもう少し時間が必要になるかもしれません。

もうひとつの補強、前迫コーチ

この試合を振り返るうえで、早い時間に2得点を奪ったことは欠かせない要素です。

前述した要素によって攻勢を強めることができた結果、数多く獲得したセットプレー。それを得点に繋げることができました。

その背景には、十分な準備期間が取れたこともあるでしょう。

必然のセットプレー得点

ゾーンで守る名古屋に対して4~5パターンは準備できていたと思います。

コーナーキックでは江坂あたりからキッカーの岩尾に、ハンドサインを出しているシーンがよく映っていました。

最初のコーナーキックではショートコーナーを見せつつ、その後はショルツと明本をキーパーの近くに置く立ち位置からスタート。

そこから、私自身が確認できるだけでも3パターンぐらいはあったと思います。

  • ボール合わせて後方から走り込む
  • ボールが蹴られる直前にキーパー周囲に入っていく
  • 明本がニアにズレてフリックする

最後の2つが実際に得点に繋がりました。

必要だった準備時間

今季、セットプレーの得点力不足改善を目指して徳島から前迫コーチを獲得しました。

その成果はすぐに出ていて、シーズン序盤の浦和はセットプレーが大きく改善。しかし、5月の連戦に入るとその成果が出づらくなっていました。

やはり連戦続きだと回復のトレーニングが基本となり、セットプレーを仕込むには十分な時間が確保できなかったのだと推測できます。

特に、数多くセットプレーがあったのにも関わらず、可能性を感じなかった前節・アビスパ福岡戦と比較すると、今節の期待感は大きかったのではないでしょうか。

逆の立場になった浦和の選択

前半で3-0でリードした浦和ですが、ついこの前、逆の立場から追い付いたことを考えれば油断はできません。

後半に入ると名古屋はWBの森下の立ち位置をかなり前にして、早い段階で大畑まで出てくることが増えました。

前線の規制をベースにして前にズレていくことが本来の狙いだと思いますが、どちらかというと最初からズレていき、最終ラインが5枚から4枚に横に移動しながら減少するリスクを許容したのでしょう。

浦和としては前から人数を合わせられる形になるので、ゆっくりパスを回していくことは難しくなる一方で、相手の最終ラインが手薄になるので長めのボールや縦・縦に行く攻撃が成功する確率が高まります。

ですが逆の立場の時に、この展開に横浜FMが乗っかってきたからこそ、追いつけたことを忘れてはいけません。

スローダウンという選択

そういう視点から見ると、名古屋がプレッシングを変えてから2つ目のプレーだった48分〜での浦和の選択は重要なものだったかもしれません。

WBの森下が積極的に前にずれてハイプレスを仕掛けてきた名古屋ですが、これを自陣低い位置で外すことに成功した浦和。

しかし、その後に急ぎすぎず、ボールを保持する展開にスローダウンさせました。

勝利という目的に対する立場と展開を考える

ここで一気にスピードアップしてゴール前まで行ったら、ゴールを奪えた可能性はもちろんあります。

ただ、攻撃が成功する方が少ないサッカーにおいて、その過程で、その確率通りにボールを失う可能性も十分に考えられます。

しかも、一気に縦・縦で行った攻撃は、味方の押し上げが物理的に間に合わないので、切り替えのプレスを機能させることは厳しく、「悪い失い方」になります。

さらに、前からのプレッシングをかけた名古屋の選手たちが浦和陣内に残った状況でなので、カウンター攻撃を仕掛けられたらゴール前まで撤退する必要に迫られることが予測できます。

また、名古屋としては、奪う形がどうであれ、後半からリスクをかけて前へと重心を移した最初の数回でボールを回収、ゴール前の攻撃シーンを作れたら「まだいける」と思えるはず。

そういう意味で、この浦和の後半序盤の選択は、勝ち点3を確実に掴むための一つのキーポイントだったかもしれません。

60分以降はゲーム体力という面で少し運動量や強度が落ちた印象でしたが、危なげなく勝利を収めました。

まとめ - 準備時間と連戦

休養とトレーニングの時間を確保することが、いかに重要かを感じた試合でした。

数日間のオフでは各選手、身体的な疲労回復はもとより、頭の疲労回復や内省が行えたようですし、1週間超のトレーニング期間では、重点的に取り組んだ崩しの部分や原則の共有(=コンセプトのリマインド)についても成果が見られました。

大久保のように練習で良かった選手にチャンスが与えられるという、昨年のサイクルに似たような形にもできました。

セットプレーからの得点も準備期間の成果そのものでしょうし、本文では触れませんでしたが、クロスに対する入り方や人数も変化があったかなと感じています。

もちろん、後半のメンバーが変わった以降の時間帯など、チームが完璧な状態で完璧な試合ができたとは思いませんし、別の試合でも同じことができるかは、まだわかりません。

それでも、結果が出ないと徐々にやるべき内容が引っ張られてしまうこともまた事実なので、中断明け1戦目からゴールと勝ち点3という形で結果が出たことは今後に向けて非常にポジティブです。

連戦中の向き合い方

次は1週間後にアウェイ神戸戦ですが、ミッドウィークに大槻監督と再会する天皇杯があるので、ターンオーバーと回復用のトレーニングでコンディション確保の比率が高まるでしょう。

メンバーが変わったとしても、直前の準備期間が少なかったとしても、この試合の、特に前半にできていたことを違う相手に対して再現できるか。

今後も連戦期間はあるので、結果は当然として、そういった面にも期待したいと思います。

中断期間を経て3-0の快勝を飾った今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!



浦和レッズについて考えたこと

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