チーム全体の機能美に定評のある福岡の4-4-2に対して、確かに相手に攻め筋を与えなかったものの、かといって勝つべき試合だったかというと首を縦に振りにくい、なんとも難しい試合でした。もう16試合経過したわけですが、お互いに試合数を得点も失点も上回れないチーム同士、要はお互いに手堅い試合ばかりやっている、ということがよくわかる内容だったと思います。
試合の展開的には浦和保持vs福岡非保持が90分の大半を占めていたので、攻めきれなかった浦和と守り切った福岡という見方で問題ないと思います。浦和は前節から3人入れ替えましたが、相手が引き続き4-4-2だったということもあって、選手は変わったものの各ポジションに割り当てられるタスクは左CHと左SB以外はあまり変わらなかったように見えました。
CFはユンカーから松尾に代わりましたが、ここは基本的には相手の裏を狙って最終ラインを押し下げる役割、右SHは関根から明本に代わりましたが、ここは右SBの宮本とともに相手左SBに対して裏を狙いつつ、空いた方がスペースを利用するイメージなので、これは前節とあまり変わらず。
そして、左CHは平野から敦樹に代りましたが、敦樹はビルドアップでの立ち位置が最終ラインに下りることは少なく、岩尾の脇でスタートしながら手前から奥までを広範囲に動くタスクになったため、左SBの大畑が最終ラインでスタートしつつボール前進に合わせて前へ出ていくというタスクに変わりました。平野と敦樹を比較すればお互いに違う長所があって、よりビルドアップで相手を外す、相手を留めるというところを見込める平野と、相手の背後でボールを受けつつ前へ飛び出していくところを期待したい敦樹、という違いからの変更だと思います。
福岡はこれに対して序盤は山岸がアンカーポジションを取る岩尾をケアして、クルークルが大畑、フアンマが岩波を狙い、縦スライドが間に合うなら田中がショルツを狙うという構図だったと思います。
浦和が迎えた最初の決定機である4'53~は左から前進しようとしたところを阻まれて右へ展開してからでしたが、田中が外から上がっていく宮本をケアするために後ろに引いたことでショルツがフリーになり、田中が外へ開いた分だけ前がスライドして空いた中村との間を通すことに成功しています。
福岡は徐々に右CHの中村が岩尾の脇に立つ敦樹まで出るようになっていていましたが、山岸が岩尾を気にしたときにはショルツがどうしても空いてしまうという状況が出来ていたり、山岸が岩波の方を気になった時には前が岩尾、中村が敦樹を気にするのでCHの間を通して小泉までボールをつけたり、序盤は浦和の方が上手く相手に影響を与えるポジショニングと、それによって空く場所を利用できていたと思います。
28'00は小泉からのバックパスを岩波が受けましたが、山岸が岩尾ではなく岩波へ意識を向けていて、福岡の両CHがそれぞれ岩尾、敦樹へ意識を向けており、2人がどちらも中央へ絞らなかったことで岩波から小泉へのルートが開通しました。岩尾と敦樹が上手く相手をコントロールできただけでなく、きちんと中間ポジションを取った小泉まで岩波がボールをさせた良い場面だったと思います。
岩波からのパスが少しバウンドしたこともあって小泉のトラップが浮いてしまいますが、福岡の2CHに対して小泉、岩尾、敦樹で3vs2を作れているので、この局面を外して前嶋の外側にスタンバイしていたシャルクまで前進できました。
また、クルークスは早めに大畑まで内側を切って出ていく傾向がありました。内側を切るので当然これは外への誘導になるわけですが、44'04~はシャルクが大畑のサポートのために外側で手前に下りるアクションを起こしてこれに前嶋がついてきました。これに対して小泉がクルークスが出て行った背中、この時は右側にいた前の脇から前嶋の裏へ飛び出して行って、左利きの大畑はシャルクへの方向を餌にしてクルークスと前嶋の間を通して裏抜け下小泉へボールを出すなど、相手のアクションを利用する場面はいくつもありました。
後半に入ると浦和はビルドアップ隊の左側は前半より流動的になったと思います。岩尾か敦樹が左に下りて大畑を前へ押し出す回数が増えて、それによってクルークスの注意をビルドアップ隊からそらして浦和の2CB+2CHvs福岡の2トップという状態にしてそこのラインを越えたり、シャルクが少し高めに張り出して大畑まで縦スライドするクルークスと前嶋までの距離を空けてその間に小泉が入ってきて中村を引き付けて岩尾か敦樹を空けたり、岩波は割とオープンにボールを持てることが多かったので宮本か明本のうち志知が対応できない方へロングボールを入れたり、福岡のプレッシングを越えるところについてはほとんど詰まることは無かったと思います。
浦和はどんどんゾーン2、ゾーン3へと前進してくことは出来ましたが、福岡の方は各自が自分のラインを越えられた時に後ろのスペースを埋めるのが早かったです。特にCHの2人はまずは中央のゴールに直結するスペースを埋めてから、浦和が外回りになった時には外から入ってくるコースの壁になるようにポジションを取れていました。65'20~を象徴的なシーンとして取り上げておきます。
これだけ非保持で後ろ向きのエネルギーを使うので、その分福岡はチーム全体で前へ出ていくことは難しくのなるのですが、浦和に決定機を作らせないという点においてはとても機能していました。
イージーパターンで言うとACL初戦のセーラーズ戦前半のように守備側がラインを越えられた後にポジションを埋めに戻るアクションが足りないので、一つ外せば芋づる式に空く場所が生まれていくのですが、福岡はそうはいきませんでした。
しかも、今の浦和はゴール前でターゲットになるようなサイズのある選手がいないので外からクロスを放り込んでも簡単にはゴールにならないでしょう。そうなると、ゴール前から相手がいない状況であったり、中の選手が相手の前にスッと入ってボールを触れるような状況を作らないといけません。
そうなるとポスト直撃かつオフサイド判定になった69'20~の敦樹の飛び出しのように、相手がゴール前にいないタイミングでさっさと裏を狙うことになります。明本や松尾の右ハーフレーンから裏に抜ける動きに対してだけでなく、シャルクに対しても彼の動き出しと合わなくてもロングボールが出ることがありました。
セレッソ戦の後に岩尾が自分が走ってほしいタイミングで走ってくれていなかったということを話していましたが、それへの取り組みとして、走っていなくても自分が出したいタイミングはこれだよということを示すためにボールを出すということをトライしているように感じました。
全プレーで成功を目指すべきだという見方はありつつ、90分の中で成果を上げるために今回は上手くいかなくても自分の意思を明確に示すことで擦り合わせていく作業があっても良いはずです。口頭では話を合わせていてもそれがピッチ上で出来るかは別の話ですし、ましてや連戦の最中なのでピッチ上での擦り合わせは試合でしか出来ないのが実情でしょう。
これはゴール前での崩しの局面も同じようなことが言えると思います。広島戦の雑感で「リカルドはここまであまり最後の1/4、1/3のエリアでの崩し方(≒リスクのかけ方)についてパターンを作らず、その部分は選手たちに委ねているような印象を受けます。」ということを書きましたが、これについてもトレーニングの中でパターンを作って成功率を高めるべく擦り合わせをするような時間は取れなかったはずです。
リカルドが浦和に来てからで言うと、ビルドアップで相手のプレッシングラインを確実に越えられるまでに半年以上かかり、ある程度成果が出始めたころでシーズンが終わって選手の大幅な入れ替えが敢行され、今季に入るところはコロナショックに始まりACLも含めた連戦によって、これまで積み上げてきたものについては言葉で伝えても全体で共有できるレベルまで引きあがってきたかもしれませんが、着手できていない(していない)部分についてはそうはいかない、というのが実情だろうと思います。
前節後半の停滞感を大きな反省として、この試合ではスタメンの人選も松尾と明本という裏を狙える選手を前で使ったことだけでなく、序盤からビルドアップ隊には加わらず右外で明本と裏を狙うタスクをになった宮本のところには関根、左で前嶋を押し下げつつこちらも縦方向にアクションを起こすことの多かったシャルクのところには大久保、それによって空いた中盤でプレーした小泉のところには江坂、といった具合に試合の骨格を崩さず運動量をリフレッシュする交代策を打つことが出来ていました。
水曜の天皇杯が終わればようやくブレイクタイムになります。4月に手術をした4選手のうち大畑はこの試合に出場できたものの、ユンカーはセレッソ戦で負傷、犬飼は今季絶望で酒井もまだ復帰は先、さらにはモーベルグもベンチ外が続いているので負傷している可能性もあります。ACLでの移動も含めた連戦でのダメージは想像している以上に大きかったのでしょう。それがこの結果を招く言い訳にして良いということではありませんが、実情としてはそうなのだろうと思います。
このモヤモヤは一刻も早く晴れて欲しいですが、リーグ戦での負債はリーグ戦でしか取り返せないので、それは代表ウィーク明けの名古屋戦で晴らしてもらうとして、今は次の試合で勝ち点3を取れるために全力を尽くすことだけなので、まずは天皇杯で確実に勝ち上がってもらいましょう。5月の試合はこれですべて消化したので月報記事も近いうちに書こうと思います。
今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。