試合の結果への捉え方は難しいものになってしまいましたね。これまでの対3バックの試合と比べると、攻守ともに一番準備してきたものが表現出来ていて、内容としてはポジティブな部分が多く見えた試合だったと思います。だからこそ、この試合の勝ち点が3でもなく、1でもなく、0になってしまったというのはとても痛かったかなと思います。
浦和のSHが大久保と田中ということで、リーグ戦が空いた間に行われた天皇杯の富山戦と同じ組み合わせで、あそこで問われた課題に対する回答をすべく試合の序盤からこの試合でいかに湘南の5-3-2の陣形を突破するかというのが表現されていたと思います。
そもそも、多くの3バックのチームはフィールドプレーヤー10人のうち、左右のWBだけが外側のレーンでプレーし、それ以外の選手が中央でプレーするため、4バック相手には有効な外と中央の間(ハーフレーン)を使うことで外か中のどちらかから人を動かしていくという手法が使いにくいです。
そこで、浦和が取った方法はSBとSHを外レーンに配置することで、湘南のWBに対して前と後ろの2択を突き付けることでした。天皇杯の富山戦ではSBに対して縦スライドしていく相手WBに対してSHの選手が一緒についていってしまって、どんどん選択肢が手前になってしまうような場面もありましたが、例えば3'40なんかは狙ったプレーが出来たのではないかと思います。
SHが外レーンの高めにいることで湘南のWBが前に出にくくなることでSBが空きやすくなり、SBがフリーな状態から前向きに進んでくることでWBが対応のために出て行くと、WBが空けた裏のスペースへSHが流れて行くということが上手く表現できたのかなと。
また、6'50には、今度は浦和の右サイドでも似たような展開が行われました。岩波がボールを持った時に西が外レーンの低めの位置にいたわけですが、ここに対して高橋が縦スライドして出て行ったことで、その奥にスタンバイしていた田中達也が空き、岩波はそこまでロングボールを飛ばします。
5-3-2を採用するチームは、ボールを逆サイドへ展開されるときに3MFの外側のスペースはどうしても空いてしまうので、そこに対してWBを早めに縦スライドさせて疑似的に4-4-2のような形を作ってボールを押し返そうとすることがよくあります。湘南もこのスタンスで守備をしているので、高橋としては普段通り浦和が左から右へボールを流して前進するところを押し返しに行ったわけですが、浦和の方はこの動きを把握していて、意図的に高橋の縦スライドをひっくり返すボールを出せたのだと思います。
左利きの大久保が左SH、右利きの田中が右SHという順足のセットであるだけでなく、彼らの特徴は狭いスペースで器用に動くことではなく一発のスピードとドリブル突破ということで、今季ここまで関根や汰木がやってきたようなハーフレーンに絞ってきてターンしたり周りの選手とポジションを入れ替えたりするような動きは求めず、外レーンで純粋に縦突破を狙うことを求めていたと思います。そしてこれは、リカルドがMARCAで連載している記事で書いていた14番目、15番目のポジションがいよいよ組み込まれてきたということになるのだろうと思います。
リカルドが想定している16ポジションはこんな感じかな?それとなくポジションごとに人をはめてみた。 https://t.co/I8oEhnUq9c pic.twitter.com/csxNHmcJGT
— ゆうき (@y2aa21) May 3, 2021
vs3バックについては、プレッシングでもこれまで上手く嵌め込むことが出来ずに後手に回ってしまうことが多かったですが、それに対してもこの試合では上手く振舞えるシーンが多かったと思います。
10'35~を例に見てみると下の図のようになります。
湘南の3バックが大きく開いていない時には片方のSHが縦スライドすることで2vs3の数的不利を解消し、さらに小泉とユンカーが相手の進行方向を制限するのが上手なので外へ外へ誘導することが上手くいっていたと思います。
また、32'50~も湘南がキーパーの谷も加えてビルドアップしていましたが、ユンカーが方向を限定して追い始めたところから、手前へ下りて行く直輝には金子が、タリクには岩波がぴったりとついて行くことで自由を与えることなく挟み込んでボールを奪うことに成功しています。
湘南が割と早めにウェリントンめがけてボールを入れてセカンドボールを拾おうとしたり、4バックの外側から裏へ抜けようとする畑まで飛ばしたりと手前からのビルドアップにこだわっていないこともありましたが、この試合では浦和のプレッシングが空転することはほとんどなかったと思います。
さて、この試合では明確なミスと思われるプレーによって結果が変わってしまったので、そこについては見て行かないといけないですね。
まずは1失点目ですが、これはゴールキックを繋いで始めたところからでした。彩艶がチョンとボールを蹴って金子が前向きにボールを持ったところからスタートするわけですが、この時に槙野と岩波はボールをほぼ同じ高さかつ、ペナルティエリアから少し外に出るくらいのポジションを取ります。
湘南はウェリントンと池田が岩波と槙野を監視するようなポジションを取っていますが、岩波はウェリントンよりも外側にポジションを取れているため、この位置で岩波がボールをもらうことが出来ればそのままウェリントンの脇をドリブルで運んでプレスを外せたかもしれないし、岩波から彩艶へボールを戻してプレスに出てきた湘南のFW、MFの背後にボールを落としたりできたかもしれません。
岩波のポジションは間違っていなかったですし、それを認知して岩波へパスを出そうとした金子の判断も間違っていないと思います。認知、判断、実行の3段階でプレーが行われるうち、このプレーにおいては実行(技術)のミスだったと言えます。
そもそもゴールキックを繋いで始めるという場面については、3月の鳥栖戦では岩波のポジショニングが相手につかまってしまう位置までしか開けていなかったというプレーの前提部分でのミスがあったことを思い返すと、ミスの内容自体が上のステップのものに変わってきているのだろうと思います。
ただ、金子が最初は槙野の方へ運ぼうとしたが、タリクがそちら側から寄せて来て方向転換を強いられたため、ボールを強く蹴られる位置に置けなかったのかもしれません。そういう点で言えば湘南の方が上手くプレッシングをかけて浦和のミスを誘発したとも言えそうです。
続いて2失点目。
これは浦和が自分たちから見て左サイドで密集を作ったにもかかわらず逆サイドへボールを逃がされてしまったところからでした。右サイドへボールが一気に展開されると、外レーンで西vs畑が1vs1の状況になります。さらに、ボールが素早く展開されたことで岩波と槙野のスライドが間に合っておらず、西と岩波の間には大きくスペースがあったため後ろから大野が猛然とそのスペースへ走り込み、関根がその対応に回ったため西のヘルプに行けず。
クロスが上がったところに彩艶が出たけども先にウェリントンに触られてしまったわけですが、どちらかというと槙野のポジショニングの方が気にはなりますし、これは5月の福岡戦の2点目(ジョンマリのゴール)と似ているような気がします。
槙野は対人能力に自信があるからかゴール前でのクロス対応時には、味方との距離感よりも相手との距離感の方を優先する、相手選手をピタッとマークすることを優先する方が多いと思います。まずは5月の福岡戦の時の図がこちら。
この時の雑感でも書いたのですが、ゾーン守備の原則で言えば、ゴール幅にDF3枚を揃え、それぞれがニア、中央、ファーに入り、前の選手の頭上を越えたら自分がはじき返すという意識になります。そして、DFの前のスペースはCHが埋めてマイナスのボールであったり、インスイングで曲がりすぎたボールであったりを対応する役割になります。
なので、この湘南戦で言えばニアに岩波、中央に槙野、ファーに明本が等間隔に並ぶことが理想の配置です。しかし、槙野はそのバランスよりもウェリントンにしっかりマークにつく意識の方が強かったため、畑がクロスを入れる時にウェリントンが一歩ゴール方向へ踏み込んだ動きに釣られて重心をゴール方向へ動かされてしまったことで、ウェリントンが岩波との隙間に入っていくのを許してしまいました。
自分はキーパーについての知識はほとんどないので、この場面での彩艶のポジショニングやクロスを弾きに行くという判断が適切だったのかは正直分かりません。(知ってる人がいたら教えてください)
味方とのバランスで守るのか、相手を自由にさせないことで守るのかは、どちらが正解でもないので難しいところです。今まで特にACLで輝きを見せたことがあったように、槙野はドシンと構えて競り合いで勝負するタイプのFWに対してはかなりの強さを発揮できる反面、小林悠であったり、この場面のウェリントンであったり、相手を出し抜く動きをする選手には脆さがあるのも事実。個人的には彩艶よりも槙野の対応の方が気になったなと言うのが2点目でした。
そして、最後に3失点目。
槙野からのパスを受けた彩艶がワンタッチで敦樹に出そうとしたのが上手くボールを繋げずに相手にプレゼントしてしまった場面でした。見返してみると彩艶がボールを蹴る直前にボールが跳ねて上手くミートできなかったように思えます。
この場面では、もちろん敦樹がフリーでポジションを取れているので、そこへ一発でパスを出して町野のプレッシングを外してしまうという判断は正しいです。ここでパスが通っていれば、おそらく敦樹はターンしてそのまま前へボール運んでいこうとしたと思います。強いボールをバシッとつけようとした分、ちょっとボールのバウンドがずれたことでキックが狂ってしまったのは残念というか、不運というか。
また、梅崎からのクロスはファーで明本が触ったことで町野のシュートは免れましたが、4バックの外側に岡本が待ち構えていたためシュートを打たれてしまいました。この構造自体は4バックで守備をするチームだと起こり得てしまうものなので割り切らないといけないものではあるのですが、クロスボールの跳ね返し方のセオリーとしてはボールが来た方向へそのまま跳ね返すことです。
ボールが来た方向と違う方向へ跳ね返してしまうと、守備側は体の向きを変えないといけない上に、ボールがこぼれた先へアプローチする人が変わってしまうので守備陣形が崩れやすくなったり、対応が遅れたりします。明本は間一髪ファーサイドのクロスを対応したところまでは良かったのですが、その対応の仕方はよろしくなかったかなと思います。頭の振り方から、意図的に逆側へ弾こうとしているように見えますし。
SB1年生なので多くを求めるのは酷なのかもしれませんし、むしろ今の時点でここまでやれていることは素晴らしいですが、こうした小さなミスが大きな違いを生んでしまった訳で、この失点については明本も反省すべきところかなと思います。
失点シーンを一気に振り返ったのでちょっと暗い気持ちになってしまいますが、内容はポジティブなものが多かったですし、これまで苦しんでいた3バックのチーム相手に確かな成長を見られたことは忘れてはいけません。というか大いに評価すべきだと思います。
WBに対する数的有利の作り方に加えて、プレッシングに加勢する湘南のアンカー田中が空けたスペースへ小泉が上手く入り込み、スピードのあるユンカー、大久保、田中が背後のスペースへどんどん出て行こうとするのは、これまでとはまた別のオプションを手に入れたような気がします。
正直言って、1失点目と3失点目はこのやり方をしていればどこかで起きるような出来事だったと思いますし、それが1試合で2回起こってしまったのは残念ですが、次はもっと正確にプレーできるようにしようと割り切るしかないと思います。納得のいかない外野が何を言ってもリカルドが監督のうちはこのやり方を変えることは無いと思うので。
(試合内容は素晴らしかったと思うが、前半の最初から、GKからのボール回しですごくリスキーなプレーが多かったと感じた。しっかり組み立てることと、自陣のペナルティーエリアでリスクを冒すことは違うと思うが?)
「もちろんリスクを冒してやっているというところもあると思いますけど、ただ我々は前線に蹴ってもそこで勝てず、そこから相手にゴール前まで持っていかれるというシーンがこれまでもあったので、そういったところに関してはそれぞれの考え方があると思います。ただ我々はそこのリスクを冒しているだけではなく、どうやったら相手のゴールに迫っていけるか、そういう攻撃を後ろからしているので、何がチームにとって最善なのか、そういった考えを持ってやっています。もちろん、今日の失点シーンのようなことも起こりうると思います。ただ我々としては、どういった崩しをしていきたいのか、それを考えながら進めていました」
ただ、気掛かりなのは最後の方に健勇を入れてからパワープレーにかじを切ったこと。4月のセレッソ戦でも槙野を前に残してパワープレーに打って出ましたが、5月のルヴァン杯柏戦では最後まで自分たちが最も効果的にボールを進められる、しっかり繋いでいくというスタンスで劇的なアディショナルタイムでの同点劇を演じました。その時にセレッソ戦を引き合いに出してコメントしていたので、ロングボールを放り込むという方法はもう封印したのかなと思っていました。
試合後会見では触れられていなかったようなので真相は分かりませんが、あと少しでとどめが刺せるかもしれないという展開だったはずが、逆転を許すという想定外の状況になり、残り時間が10分もないということで苦肉の策だったのかもしれません。ただ、それならクロス砲台の山中を入れても良かったのでは?と素人考えでは思ってしまいますが、どういう意図だったのでしょうかね。
久しぶりの敗戦かつ、ちょっとショッキングな負け方なので引きずらないことを願いたいですね。それにしても、試合が終わってすぐにリカルドが選手たち一人一人に寄りそっていて、3月の川崎戦の大敗のあともそうでしたが、情熱とやさしさの表現がストレートで良い人だなって思いますね。
次は中2日で柏戦。ルヴァン杯では勝てていないものの、調子はなかなか上向かない相手ですから、この試合で落としてしまった勝ち点を挽回してもらいましょう。
今回も駄文にお付き合いいただきありがとうございました。