この記事でわかること
- 鳥栖の+1をどうするか
- ほぼマンツーマンへの対抗策
- 大胆な移動のメリットとリスク
- サッカーは常にトレードオフ
- 相性が悪い?
浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第4節、サガン鳥栖戦です。
前節・湘南戦でリーグ戦初勝利を飾り、勢いに乗っていきたい浦和でしたが、鳥栖の特徴的な攻撃と守備の前に苦戦。
運動量でも大幅に上回った鳥栖を相手に、好機を見出すことはできずに1-0の敗戦。
鳥栖が採用していたほぼマンツーマンディフェンス、それに浦和がどう対応したのかなど、解説していきます。
鳥栖の前後の移動、+1
各所で話題の鳥栖GK朴の立ち位置ですが、ボール保持時でDFラインに入ることであたかもフィールドプレイヤーが1枚増えたかのようになります。
現代サッカーにおいて、前線の守備は1人分の数的不利を抱えることが基本的には多いので、浦和は2人分の数的不利を解消しなければいけません。
また、鳥栖は全体的に前後のポジション移動が多い印象でした。
例えばWBが一番高い位置を取り、その高さを担保に1トップ2シャドーは降りてきてボールを引き出します。
一旦前進に成功すると、ボランチや左右のCBも積極的に前に飛び出していきます。
留められるSB
WBが非常に高い立ち位置を取っているため、浦和のSBは前に出づらい状況に追い込まれます。
サイドをオフサイドラインにすることは危険ですし、鳥栖ビルドアップ隊は常に数的有利を確保しているので、ロングボールで裏を狙える状態。
こういう条件下では最終ラインの押し上げが難しくなります。
したがって、浦和が前線からの規制でサイドにボールを誘導し、そのまま同じサイドに閉じ込める必要がありした。
前線4枚は今の浦和でこれを最大限遂行できるユニットでしたので、ある程度の成果は出ていたと思います。
しかし厄介だったのはシャドーの菊池。左サイドへの誘導に成功した場面は何回かありましたが、WBによって大畑が留められ、明本の背後で降りてくる菊地を出口に回避される場面が目立ちました。
高い位置に移動するWB、降りてくる1トップ2シャドーを出口にする鳥栖。
サイドに追い詰めて負荷をかけることで裏への選択肢を削り、前向きな守備ができる場面もありましたが、総合的には鳥栖の方が上手だったかもしれません。
ほぼマンツーマン
一方で鳥栖の守備も特徴的。マンツーマンの意識が高く、自分のポジションから前に大きくズレて人を捕まえに行くことを良しとしているチームでした。
浦和は前節の湘南戦同様、SBを低い位置に置いて相手WBから距離を取り、前に出てきた裏を取りに行く狙いはあったのかもしれません。
しかし、鳥栖はWBを採用する他のチームとは違いました。
1トップの宮代と、2シャドーの菊池・堀米どちらかが浦和のCBとGKを捕まえに行きます。
前から行かなかったシャドーはボランチを捕まえるとともに、WBが高い位置を取ってSBへ圧力を掛けます。
ある意味、前に出てきてもらっている状況ですが、最初から捕まっている状態で時間とスペースは少ない状況が多かったです。
一方でマンツーマンの特性上、浦和にとっては狙い所があります。
- 自分が動けば相手も動くので、意図的に相手を動かせる
- 相手を動かせば広いスペースでの1vs1を作りやすい
- 前後の反転が決まれば抜け出しやすい
といった側面があります。
例えば4:20はその狙いが見えた場面で、降りてきた関根がジエゴを引き連れてレイオフ( 落としのパス)、そのスペースへ江坂が走り込む場面がありました。
このように、自陣低い位置にマンツーマンを呼び込み、前線の選手がポジションを前後に動かすことで最終ラインに穴を空ける。
相手の特徴を逆手に取った攻撃です。しかし、最終ラインが出ていった裏のスペースをGK朴がカバーしていました。
鳥栖が積極的にマンツーマンを取り入れているひとつの要素でしょう。
SBを低い位置に置き、相手のWBを引き出す狙いは鳥栖のマンツーマンによって、むしろ彼らのやりたいことを助長することになっていました。
これに対して浦和は、20分前後から右サイドでSBの位置を動かし始めます。
18:50には酒井が大外の高い位置に立つことで対面のWBを押し下げたことで、シャドー裏の小泉が出口にして前進しました。
続く19:50では左サイドの低い位置で繋いで相手を引き出して中盤のスペースを生んでショルツからミドルパス。
スピードアップは不足
しかし、前から人を捕まえにきたプレス隊を裏返した後のスピードについては物足りない印象でした。
豊富な運動量で後方が前に出ていける鳥栖との差が出てしまったと思います。
大胆な移動とリスク
後半の修正では、マンツーマンの特性を逆手に取るポジション移動を本格的に導入することになります。
左にポジションを移した関根と右の酒井がWG的な立ち位置を取って高さを維持し、後方はボランチ、主に敦樹をSBの位置に落とすことで相手にマンツーマン相手の受け渡しを強要します。
前後にポジション移動することで相手の前後を分断し、中盤に大きなスペースが出来やすい構造に持ち込み、そこを出口として前進する。
また、大きなスペースというアドバンテージを持ちながら鳥栖最終ラインとの球際勝負に持ち込めるので、明本をトップの位置に置いたのはそういう意図があったからでしょう。
特に後半開始直後は機能していたと思います。
移動のリスク
一方で、このやり方にはリスクもあります。
各選手が前後に移動しているため、ボールを失うとトランジション(攻守の切り替え局面)で、それぞれの選手が本職の場所に立っていることが物理的に不可能という点です。
相手を押し込んだり、ペナルティエリア内の侵入やシュートまで行けば問題ないですが、それ以外でボールを失うと、特にボランチの位置が低く、プレッシングが単発で終わってしまう場面が散見されました。
ただ、立ち位置的にカウンタープレスが可能でも単純な強度や球際の強さで後手を踏んだ印象があるので、そういう面も大きいかとは思います。
トランジションでボールの主導権を握られると、カウンターで有利なのは鳥栖。マンツーマンで前に人数をかけていますし、運動量の面でも後手を踏んでいた浦和は試合のスピードを落とすことはできず。
いわゆるオープンな展開が頻発することになり、これで分があったのは鳥栖でした。
71分にビルドアップのミスから失点。昨年の湘南戦でもあったように、繋ぐチームにとっては年に何回かはある宿命です。
しかし、酒井は高い位置を取っており、サイドに降りていた敦樹をサポートできる人員は居ませんでした。
本来、浦和のクロス対応は安定していますが、それはボランチ2枚が中央にいて、状況に応じてペナルティエリア内のゾーンを埋められる状況にいるから。
垣田のヘディングは技ありでしたが、この時は岩尾しかゾーンを埋める人員がおらず、例えばCBの岩波が敦樹のサポートに出ていくことも難しい状況でした。
サッカーは常にトレードオフ
サッカーは常にトレードオフです。何かを得ようとすると何かをリスクとして差し出すことになるので、失点の原因は大抵の場合、複合的です。
このようなリスクを回避しようとすれば、相手のマンツーマンに捕まって前進がままならず後半の盛り返しもなかったわけで、後半から強調したポジション移動をやらなきゃ良かったかというとそうでもありません。
何かをリスクとして許容しなければならず、そのリスクが実際に顕在化してしまったシーンでした。
強いて言うなら、この試合における戦術的に差し出したリスク的には、失ってはいけない場所で失ってしまったということでしょう。
ただしこの失敗が、相手の出方に応じてボールを前進させるための配置を取る、という戦略に影響は及ぼしません。
安定的かつ継続的に勝利する確率を高めるという戦略目標は、一度の戦術的失敗で変更する必要はなく、次節以降も続けていくことは間違いないでしょう。
まとめ - マンツーマンは相性が悪いか
昨年の札幌戦で、マンツーマンは相性が悪そう、という趣旨のことを書いたのですが、今回もそういう面が出てしまったと思います。
前述の通り、マンツーマンを逆手に取るためには、こちらのポジションを動かしてしまい、マーカーを引き連れてスペースを生み出す手法が効果的です。
一方でこれは、今の浦和が大切にしている「正しい立ち位置」を崩しかねないほどの大胆な移動になり得ます。
ただ、プレッシングをひっくり返した後のスピードアップが遅かったこと、マンツーマンがゆえに多発する1vs1に負けることが多かったこと、単純な運動量の差でトランジション(攻守の切り替え)局面で後手を踏んだことが大きかったとは思います。
マンツーマンの比重が高いチームは札幌だけでしたが、今節の鳥栖を見る限り、ある種特別なことをやらなければいけない試合が増えたように思います。
やはり1週間のブレイクがあったとはいえ、キャンプからの上昇に失敗したコンディションの差はあったでしょうが、運動量や球際の強度では負けないという、どんなサッカーにおいても重要になってくる部分は必須であることは間違いないので、改善を期待したいです。
来月からACLも始まるのでなおのこと。
これまでの試合とは違い、妥当な敗戦だったと思います。
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📝戦術分析レビュー
— KM | 鳥栖戦レビュー書いた (@maybe_km) March 18, 2022
トレードオフ - J1 第4節 #サガン鳥栖 vs #浦和レッズ
⏰読了まで:約6分
◆鳥栖の特徴的な攻守に苦戦
◆マンツーマンへの対抗策
◆ポジション移動のリスク
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