この記事でわかること
- 鮮烈の開始15分
- 意図したボール保持
- 課題の残る前からの守備
- "人数合わせ"は選手と役割のミスマッチ
浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第23節、川崎フロンターレ戦です。
ホームに王者・川崎を迎えた一戦は3-1で勝利。
これでリーグ戦3連勝で、上を目指していける土台が徐々に整ってきた感じですね。
ただ、川崎のメンバーの事情もあったので、そこは差し引いて考えつ必要のある試合でもありました。
開始15分の複数得点や、川崎相手にできたことや課題として残った守備などを振り返ります。
前へ前へとかけた圧力
試合開始10分〜15分は試合の大枠の様相が定まらないことが多いのですが、まさにそこが定まる前に一気に攻勢に出て先制することに成功しました。
直近の直接対決の内容を考えれば、ボールを持てばおそらく上回れる予測はあったと思います。
だからこそ川崎からボールをどう取り戻すか、が試合を決める上で大切だったと思いますが、その構造が出てくる前に1得点目を取り切りました。
相手陣内で前へ前へ
キックオフ直後、酒井に向けたハイボールでスタート。
まず相手陣内でのプレーからスタートすると、そこから切り替えの守備における圧力と最終ライン裏を狙う優先順位をかなり高めに設定して、前への矢印を強く出しました。
川崎はコンディションの問題もあったと思いますし、両方のSBが本職ではないこともあったと思います。
また、縦に蹴るだけでなく、右はモーベルグ、左は関根や流れた江坂などで幅も大きく使えたことで押し込むことができました。
そのまま3分間、川崎陣内でプレーし続けて先制ゴールということで、開始の入りで完全に上回った勢いそのままに、先制点取れたのは良かったです。
狙い通りのボール保持
2得点目はやや落ち着き始めた17分、意図的なボール保持からの得点でした。
ボールを持てばそれなりにやれるだろう、というところで、4-3-3のアンカー脇を狙った前進でした。
浦和は4バック維持の形からスタートして、川崎のプレッシングに対して間を使っていく体制が整えられていたと思います。
最近の定番である岩尾のアンカー化、そしてアンカー脇を降りてくる松尾・江坂・関根、潜っていく敦樹を中心とした配置です。
それでいてモーベルグや関根・江坂が最終ラインに影響を与える高い位置にいるので前ズレを抑制していましたね。
数的有利と位置的有利
そのことで、川崎で最初のスイッチを入れるのはダミアンが担うことが多いですが、序盤はマルシーニョが酒井を見る傾向が強かったこともあり、優位性を保てていました。
狭めに位置する岩波と知念がダミアンに対して数的優位を確保。
さらに背後に一番防ぎたい岩尾が立っており、ここに川崎のインサイドハーフが前ズレすると、アンカー脇が空くので誰が見るのか?という位置的優位を確保。
ダミアンが不満を表すことも多かったように、川崎は序盤、浦和の配置に対する守備の基準が整えられなかったと思います。
狙い通りの2得点目
2得点目のシーンもこの形で、プレスの基準が定まらない川崎に対して、岩波がダミアン横から侵入、アンカー脇に降りた松尾が受けて前進の流れでした。
松尾は偽9番的に降りましたが、その場所より前に関根・江坂・モーベルグがいて、配置のバランスが取れています。
松尾に対して川崎の最終ラインがズレにくく、松尾がうけた後の崩しへ移行する際の浦和の人数も不足しません。
6月の中断期間、そしてここ数試合でさらに改善した人数と配置のバランスの良さが出たゴールでした。
依然として残る守備の課題
20分間で2得点を奪うことに成功した浦和ですが、その後は川崎が徐々に押し返してきました。
相手を見ての前進はできた
20分あたりから浦和がボールを持った時、マルシーニョが岩波を担当するような基準を川崎は設けたように見えます。
これに対して浦和は、あえてその内側を通し、中央を経由して裏の酒井を解放することはできてました。
その後に同サイドの前進になってしまった感はありますが、相手を見ながら全身はできていました。
ですので、試合を掌握しきれなかった要因は守備の面にありそうです。
前からの守備
前節の清水戦でも前からの守備が嵌りきらず、この2週間のトレーニングではそこに時間を割いていたようです。
しかし、その成果を出せたかというと、微妙なところ。
川崎の前進における肝は中盤になりますが、アンカーがいるので浦和はそこをいかに消しながら追い込めるかが問われます。
浦和のスタンスとしては、2トップがケアをするものでした。
その分、横幅が狭くなるのでサイドハーフを高めの位置からスタートすることを狙っていたと思います。
ただ、インサイドハーフへのコースを一番消したいので、そこを気にしながらの立ち位置になります。
そうなるとSBやWGへのアプローチが遅れます。
WGに入ったときにSBが出れば、SB-CBの間をインサイドハーフが抜けてくるという、川崎の得意パターンも発揮しやすくなります。
特にモーベルグは川崎相手にやる時に求められるサイドハーフの運動量や連続性のタスクに少し苦労していたかもしれないですね。
バックパス・やり直しを防ぎたい
あと、清水戦と同様ですが、最初の規制・誘導した後にやり直しをされてしまう場面がまだ目立ちました。
逆のCBやGK、アンカーや降りてきたインサイドハーフを通じてサイドを変えられてしまうところです。
誘導したサイドに閉じ込めきれないので、前に進ませることもできず、ボールを奪えない時間が長くなりました。
"人数合わせの可変"は選手と役割がマッチしてこそ
前から積極的に嵌め込みたい、となると、ボランチをアンカーまで押し出した方が合わせやすそうでした。
38分、モーベルグがループシュートを狙った決定機はその形でボールを奪ったところから始まっています。
敦樹がシミッチまで出ていったあと、ゴールキーパーまで詰めたことで、2トップが川崎のCBへアプローチできる距離を保てており、ボールを奪いました。
ジェジエウのミスがなければ中盤が晒されているので、大きなリスクと紙一重な感じはありますが、スーパーカップではこの形を採用して一定の成果を出しています。
役割と選手のミスマッチ
後半も含めて、ボランチを1枚あげていく運用は確かに嵌りそうではあったのですが、それをやるには出ている選手とタスクのミスマッチがあったかなと思います。
この運用をする場合、ボランチの片方はベースの位置を保ちつつ、スピードを持ってアンカーまで出ていく必要があります。
また、その場所をボールが越えた時に、今度は方向を変えて元々の立ち位置に戻る能動的・動的な移動が求められ、それにはクイックネス、敏捷性みたいなものが必要です。
ただ、敦樹はベースのエリアにおける球際の強度、奪う力、そこからカウンターで前に出ていくことに特徴がある選手で、縦横無尽に動き回るタイプではありません。
さらにサイドハーフには、2トップに参加して第一のプレッシングラインになる役割と、ボランチがアンカーまで出て行った時に、中央を閉めるインサイドハーフ的な役割に変化する役割を担う必要があります。
関根は問題ないですが、モーベルグにこの役割を担ってもらうには、ややミスマッチなのは想像できると思います。
必然的な柴戸の投入
スーパーカップではこの可変を使いましたが、この時にサイドの役割を担ったのは関根と敦樹でした。
そして、前に出て行ってトップ下化するボランチを担ったのは柴戸です。
なので意図した形でボールが奪えない中、65分に敦樹と交代出場したことは、こういう側面があったと思います。
実際に柴戸は、シミッチや、2トップ脇あたりに顔を出す脇坂まで一気に出て行って潰しに行く役割を遂行しており、ボールを奪う位置を高くすることができました。
上下左右に大きく動き回るというタスク・役割ではやはり柴戸が得意とするところ、というわけですね。
何を得て何を捨てるか
もちろんサッカーでは「全部取り」はできないので、守備の嵌り具合だけでなく、全体的な収支の判断でこのスタメンを選んでいます。
リカルドが会見で話していたように、相手に合わせるよりは自分達の形をこの試合では優先したわけですね。
今までやってきた連係、つなぎ、崩しの部分は継続してやっていきました。今回に関しては何かを変えるというより、今やれていることをしっかりと継続し、そこに安定性を持たせる、というところでした
柴戸はPKの献上はしましたが、岩尾と敦樹のコンビが固まりつつある中で別の強みを見せたと思います。
カウンターの精度と、行かないという判断
試合を掌握しきれなかった点については、カウンターの局面で縦に急ぎすぎたなという印象もあります。
川崎に押し込まれた中で、自陣でボールを奪ってもカウンターを狙ってすぐに失い、再び川崎の攻撃、という展開が少し多かったかなと思います。
前半終了間際、43分ごろから2分近くボールを持っていましたが、もう少しそういう展開の時間を増やせたら楽だったかもしれません。
ただ、3得点目を奪えていたら試合を決定的なものにできていたことも事実。
カウンターを発動した際、参加する人数や運動量が足りないようにも見えなかったので、ロングカウンターの精度、ボール保持者とその前にいる受け手、そして受け手同士の動きの連携はもう少し上げたいところです。
危なっかしい5-4-1
浦和は1点差に迫られた後、柴戸をCBに置く5-4-1にしましたが、正直危なっかしいなという印象でした。
失点直後のシーンとかは、全体的に5-4の立ち位置にやや不慣れな印象。
4バックのノリで守っているのかな?という感じでちょっと危なかったなと思います。
CBの控えが不在の中、酒井が負傷後退と5枚化する最終ラインを担う人材が不足していた影響もありました。
なので、最近改善したスローインから、関根と岩尾の執念で奪った3得点目はとても大きかったです。
まとめ - "クラブ"として出した、開始直後の勢い
川崎がかなり厳しい状態だったことはありますが、キックオフ前の雰囲気作りが乗り移ったかのような勢いで、試合開始直後に一気に優位に立ったことは、プレーだけでなく、クラブとしても良かったと思います。
順位は変わりませんでしたが、着実に上位に近づいています。
この試合の内容が3-1の勝利に値したかどうかは微妙なところですが、そもそも6月中旬からベースの内容や機能性が向上しているので、上位進出を狙うのは十分に現実的かと思います。
いつも繰り返しになりますが、内容と結果は相反するものではなく、長い期間で安定した結果を得るためには、内容の向上が不可欠です。
どれだけ良い内容でも結果に繋がらない場合もありますが、結果を得る確率を高めるためには、内容を高めていくしかありません。
そして、今の浦和はシーズン序盤に比べて、その確率を徐々に高められています。
8月は名古屋と磐田にしっかり勝ち、得意のACLで勢いを付けて、9月の上位直接対決が続く試合へ向かっていきたいですね。
冒頭からの複数得点で王者から勝ち点3を奪った今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!
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— KM | 川崎戦レビューアップした (@maybe_km) July 28, 2022
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