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役割の多様化と明確化のバランス - 2022 J1 第8節 FC東京 vs 浦和レッズ


この記事でわかること

  • リカルド vs アルベル、配置のやり合い
  • 岩尾の真骨頂
  • 浦和がスピードアップできない要因
  • 「誰かが」の「誰」をどの程度明確化するか
  • 役割のバランス

浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第8節、FC東京戦です。

敦樹の退場で勝ち点3を逃した清水戦から中3日、ACL前最後のリーグ戦となりました。

酒井が怪我から復帰し、前節ベンチ外だった小泉と柴戸もスタメン復帰。

同じスペイン人指揮官で、配置を大事にするサッカーを志向する両チームの対戦は、非常に興味深いものでした。

攻守において昨年から取り組んでいる浦和に分があり、試合は概ね支配できたと思います。ただ、その割には決定機は少なかった印象でしょうか。

浦和が試合を支配できた理由、決定機の少なさに繋がる問題点について解説していきます。

見どころ満載の配置のやり合い

スペイン人監督同士の対決となった今節では、試合開始からビルドアップの配置で細かい攻防が行われていました。

東京の守備はWGが外切りで追い込み、ディエゴ・オリベイラと松木が浦和のボランチに対応する形が基本形。川崎と似ている気がしますね。

特にショルツに対しては警戒が強く、永井がすぐに距離を詰めるので、ここから動きが出る流れが多かったと思います。

浦和としては外から内側にプレスする東京WGと、ボランチを捕まえようと前に出るインサイドハーフ裏でボールを受けて反転できればひっくり返せます。

岩波に対して、酒井のコースを切りながら前に出るのは紺野なので、その内側から岩尾を経由して酒井を解放することはできていました。

これは川崎との対戦時に何度も再現できている方法なので、今の浦和なら問題なくやれる前進方法でした。

松木を翻弄する岩尾の立ち位置

また、岩尾がボランチの位置から微妙に下がって岩波とパス交換したり、そのまま最終ラインに下がる動きを頻繁に見せていました。

構図としては、松木が岩尾を担当することが多かったです。岩尾が捕まえられそうで捕まらない位置を浮遊することは、松木を前に引き出すための"エサ"でもあったと思います。

実際、岩尾が松木に捕まってしまうことは0に近く、立ち位置によって相手に影響を与える岩尾のIQの高さが如実に出た試合でした。

江坂・小泉同時起用の狙い

前に引き出した東京インサイドハーフの裏は浦和が前進するポイントとなる場所です。

そのため、両サイド共に間で受けられる江坂と小泉を配置していました。

今節は左SHに小泉を起用していたので、江坂は普段とは違って右サイドでした。

ビルドアップで相手のインサイドハーフやWGを引き出し、その裏を狙う。狙った場所に入るのはその役割が最も得意な2人というわけです。

4バック可変で足を止める

また、岩尾が完全に最終ラインに降ることを契機に、4バック化する可変も随所に見られました。

浦和は右から酒井、岩尾、岩波、ショルツが幅を取った4バックのようになります。

陣形や立ち位置、そこに入る人を変えることで下記のような判断を相手に強要させます。

  • 酒井を切りながら岩波に出ていた紺野は、同様に岩尾に外からプレスをかけるのか
  • 松木は岩尾に追従して一番前まで行って良いのか

こちらが動くことで相手に選択を強要することができており、東京のプレッシングが止まり、迷いが出ているような場面を多く作れました。

実際に紺野の内側から縦のパスが通ることも多く、江坂が右にいる狙いも発揮。

これに対して東京のアルベル監督は、34分前後に松木を完全に前に出した4-4-2気味にするなど、配置のやり合いは前半から細かく行われており、面白い部分でした。

全体的に浦和が上回っていて、ビルドアップの部分で相手のプレッシングに捕まることはほとんどありませんでした。

誰かが入れば良いけど誰もいない

ただ、浦和の問題はその先にあり、清水戦から引き続いて前に人がいないことが多かったです。

例えば28:00、岩尾が徐々に最終ラインに降りていくシーン。

東京は「誰が誰(どこ)を見るか」の判断で手一杯で、「誰がプレッシングのスイッチを入れるか」という段階まで到達していません。

よって、最終ラインは余裕を持ってボールを保持できています。

ここで岩波から縦のパスが江坂に入りますが、そこからスピードアップすることはできませんでした。

この時、4枚気味に可変かつ、余裕を持てているので、酒井は前線へ上がっても良かったかもしれません。

そうだとしても、浦和としてもまだ3→4への可変中で、酒井の立ち位置を前に上げるにも時間が必要。

例えば岩波と岩尾で緩いパスの交換をして酒井が前に上がる時間を作れたら、次の局面に関わる人員を増やせたかもしれません。

確かに、縦のパスを入れる余地はありました。しかし、前に急ぐと味方が布陣する時間も稼げないので、次の局面に繋がりづらくなります。

「前に急がない」、「ゆっくりやること」のメリットを考えるシーンだったと思います。

"5レーン攻撃"をするには

続く32:00でも、「前に人が足りない」という現象だったと思います。

最終的に小泉のクロスから酒井のヘッド、江坂のバイシクルの決定機に行き着きますが、もっと上手くやれそうなシーンなので取り上げておきます。

まず、ビルドアップからの前進は非常にクリーンでした。

東京を食い付かせるようなビルドアップを始めた浦和は、徐々に最終ラインに降りる岩尾など、ポジション移動とパス交換で相手を引き出します。

この時、酒井が高い位置を取れていて、長友に影響を与えています。

岩尾を中心とした可変で相手の基準もズレているので、紺野が迷いながら岩尾に外切りプレスをかけている格好でした。

ここで江坂が青木を引き連れて下がってきているので、その背後でモーベルグがフリーに。

江坂も指示を出しながら、岩尾からパスが出た瞬間に反転してるので、意図的に自分を囮にする狙い通りの動きだったでしょう。

この後モーベルグから左サイドへ展開、明本・小泉・柴戸のパス交換からクロスに繋がります。

もっとスピードアップできた可能性

一方で、昨季のサッカーを考えても、モーベルグが受けて前に進む段階で、前線を5レーンを埋めておきたいのでは?と感じました。

前進に成功した段階で左サイドの大外に誰もいない状況で、モーベルグが逆サイドに展開した時、明本はやや下り目の位置でボールを受けました。

モーベルグに対する横、あるいはビハインドサポート(斜め後ろ)には柴戸が入れる位置にいました。

ですので、明本が大外の一番前まで立ち位置を動かせていたら、東京の4バックに対するセオリー通りの5レーン攻撃ができた可能性があると思います。

この攻撃時の明本は4バック化の左を担っていましたが、次の展開の予測や、モーベルグに縦パスが入った時点でスプリントを掛けられていたら、と感じました。

この試合だけでなく、今季は全体的に、前進に成功した後のスピードアップに物足りない印象があります。

前進に成功したあと、相手のDFラインとの勝負になる際にピッチの横幅を使える状態で中央にも人がいるのが理想的です。

これを実現するために効果的なのが5レーンを埋めることだよね、特に4バックの相手には複数の選択肢を突きつけられるから。という文脈だと思うので、最後の部分で相手に多くの負荷を与え、より確率高くゴールに迫りたいところです。

このシーンでも、せっかく越えた相手の第一、第二のプレッシャーラインが再び戻ってくる時間を与えているので、少し気になりました。

役割が多様化して人がいない場合があるという仮説

この原因について、役割が多様化していることが一因かも、と一つ仮説を立ててみます。

昨季から今季にかけて、浦和の編成方針には特徴があったと思っていて、得意不得意がハッキリしている選手を放出し、「色んなことができる」選手で陣容を固めました。

やることや狙いは変わらないけど、相手によって「やり方」は変えるリカルドのサッカーにおいて当然の流れだったと思います。

試合の中で個々に課せられる役割も多様化していて、配置についてもより流動的な、「正しい立ち位置に誰かが入ればOK」という傾向が強くなっていると思います。

制限が奏功していた?

例えば昨季、左SBは山中が入ることが多かったです。しかし、明本のように内側やペナルティエリア内に入って行くとか、大畑のように最終ラインのビルドアップ隊として振る舞うとか、色んなことができる選手ではありませんでした。

一方で、彼には左足のクロスやスプリント能力というスペシャルな武器があり、大外の一番奥から最後のクロスを上げる役割は山中にうってつけでした。

そのため、最後の大外に誰がいるか?は基本的に固まっていたわけです。

また、右から作って左へ、というパターンも、「そうするしかない」がゆえに明確でした。

「できないこと」があるがゆえに役割を絞らざるを得なかったが、それが個々の役割の単純化・固定化・明確化に繋がる。

その結果として、いるべき場所に人がいるという現象に繋がったという見方もあるかもしれません。

ただ、優勝を狙う、レベルアップをしていくためには、固定化ではなくて「誰かがいる」状態になれたらより相手に選択肢を突きつけられて良いと思うので、この方向性の成熟を期待したいとは思っています。

後半は役割を明確化

記載したような課題感・判断があったかどうかは分かりませんが、後半の浦和は「誰がどこにいるか」をより明確化しました。

松尾投入までは明本を大外や前に押し出す形が多くなり、酒井を大外の高い位置にいてもらうことが増えたと思います。

63分にモーベルグに代えて松尾を投入。松尾のアイソレーション(あえて孤立させて1on1の舞台を用意する戦術)に比重を置いた配置に。

サイドから1on1やコンビネーションで突破を期待できる松尾には大外で幅を取る役割を担ってもらい、明本が最終ラインに入るシーンも増えてきました。

また、CBのサイドも変更しました。この役割分担で3バック気味になると、ショルツが中央、岩波が右になります。

そのままの配置だと、前にスペースがあれば運んでいけるショルツと、長距離レンジの幅を使うパスを出せる岩波の特徴が発揮しづらくなるので、サイドの交換を行なったのでしょう。

また、小泉が右に移動したので江坂も左に移動し、相手の背後・間で受ける2人を両サイドに置いておく配置は継続しました。

より幅を使うことを意識したと思いますし、実際に松尾から奥深くまで侵入できるシーンも複数回ありました。

81分にはシャルクもデビュー。少ない時間でしたが、相手陣形の間でボールを受けながらコンビネーションで裏へと抜けていく連続性を見せてくれました。

岩尾のフリーキックはスウォビィクに阻まれ、疲労も見えた浦和は最後までゴールを割ることはできませんでした。

まとめ - 役割の明確度をどっちに振るか

概ね試合は支配しつつも、やはり最後の質、特にスピードアップの部分では物足りなさが残った浦和。

一つ決まってれば、という印象もありますが、試合を支配した割には決定的なチャンスは多くはなかったと思います。

清水戦に引き続き、ビルドアップの後に、いてほしい場所に人がいないという面が大きい気がしています。

その解決には、後半に行なったように、「誰かが遂行しなければいけない役割」の「誰」の部分を明確化する方向に振ることかもしれません。

または、「誰」の部分を臨機応変に「誰かが」やれるように成熟度を高める方向かもしれません。

どちらに重みを付けて振っていくのか、チームとしてバランスを見つけていく必要があるかもしれません。

当然、どちらの場合でもメリット・デメリットはあります。

前線のコンディションと非保持守備の質

本文中では触れなかった非保持の守備ですが、よく機能していたと思います。

特にユンカーはコンディションが上がりつつあるのではないでしょうか。

90分プレーしたこともそうですが、今季あまり見られなかった守備の追い込みの連続性が上がっているように思います。元々スピードはありますし、コースを切りながらの追い込みも、昨年の万全の状態の時には質の高いものを見せていたので、今後に期待が持てそうです。

モーベルグも連動した追い込みはできますし、江坂・小泉は言わずもがな。

この試合では、東京に意図的な前進を許すことはほぼなかったのではないでしょうか。

小泉もコンディションを落としていたというか、試合に出るレベルに戻る前に出ずっぱりになった影響があったと思います。前節、完全休養して少し戻ってきた印象でした。

チームはACL連戦に入ります。中2日6連戦という試合間隔はもとより、移動自体にも相当な負担を強いられます。

ただ、様々な選手を起用できるチャンスでもあるので、思うようなキャンプが送れなかった分、ゲームの中で改善を進めて完成度を高めていきたいところです。

※ACLのマッチレビューは簡略化したものでも毎試合お届けできれば・・・と思ってはいます。思ってはいます・・・。

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浦和レッズについて考えたこと

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