この記事でわかること
- 浦和が抱えていたビルドアップの問題点
- 決定力の前に考えること
- 10人での戦いを支えた流経コンビ
- 最後まで勝ちに行った采配
- 整理と光明と一体感
浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第7節、清水エスパルス戦です。
10人になった相手に得点が奪えず引き分けに終わった札幌戦から中3日、ホームで清水を迎えました。
前半に先制するも、後半早々に敦樹が退場すると10人の劣勢に立つと、失点して引き分けに終わりました。
10人での戦いは素晴らしかった一方で、満足できる結果ではありません。
また、前半はチャンスは作れていながらも、ゴール数の少なさに関連する問題点も感じたので、解説していきます。
整理しきれていない浦和の攻撃
浦和は前半、ボールを奪った際の切り替えから、ユンカーやモーベルグを活かす攻撃で何度かチャンスを作っていました。
その流れから一旦相手を押し込めば、最後の崩しの局面における両サイドのローテーションはスムーズで、敵陣の深くまで侵入して折り返すことに成功。
実際にPKを獲得して先制点も挙げました。
一方で、ボール保持時のビルドアップではやや整理がされておらず、前半の全体的な印象ほど、ゴールが近いようには思えませんでした。
ビルドアップ隊の役割分担
清水は4-4-2の縦横に狭いブロックを敷きます。中央を狭く閉めていることを担保に、SHを前に出して行くこと、SBが積極的に大外前方を捕まえにいくような守備でした。
これに対して浦和は、基本的な配置を馬渡を3人目とした3−2−5気味に設定。右サイドに大外が得意なモーベルグがいることもあり、昨年後半のスタイルに近い形でスタートしました。
ビルドアップの問題点
しかし、効果的な前進ができたかというと、疑問符が付くところでした。
気になった点は2点あります。
- ボランチが降りた際の関係性
- 最終ラインが運んだ時の前線の動き
まずは1点目、ボランチが降りた際の関係性についてです。
3バック気味で相手2トップに対して優位を得る配置でスタートしましたが、清水のブロックが狭いこともあり、中央を割って入るのは少し難しそうでした。
そのため、ボランチがボールを受けることが少なく、その試行錯誤の一環で岩尾や敦樹がブロック外に出てくる場面もありました。
しかし、この時に後ろの3枚と場所が被ってしまうことが多かったです。
ボランチが降りると、中盤中央で受け手になる選手が1人減るので、顔を出すのは江坂になります。すると、相手のMF背後から江坂がいなくなるので、代わりの人員を"補充"する必要があります。
例えば、SBが高い位置を取り、WGが中に入ってFW化するなどが考えられるでしょう。
ですが、この日の浦和は単純に最終ラインに1人増えるような形が増えてしまった印象です。
ゴールからの逆算 - なぜビルドアップが重要なのか
こういった状況を「後ろが重すぎる」と言われたりします。その理由は、ゴールまでの道筋を考えた時に、必要最低限の人員で相手のプレッシャーラインを越えていく必要があるからです。
サッカーでは基本的に、ゴールに到達するまでに相手の3つのライン(FW、MF、DF)を越えていく必要があります。
そして、それぞれのラインをいかに効率的に越えていけるかが、最後にシュートを打つ選手にスペースと時間という余裕を提供できるかに繋がります。
ボールは人より速く動くため、相手のラインを越える縦のパスが入っても、その先に十分に人が残っていなければ次の局面で人員不足に陥るからです。
つまり、相手のFWラインより手前に多くの人員を割いていると、パスが入っても、相手MFライン、DFラインで駆け引きできる人が足りなくなります。
そこから何とかシュートを打てそうな場面まで到達しても、やはり人が足りないので、確率の高いシュートを打てる体制を確保することは困難です。
この「ボールは人より速く動く」という覆らない前提がある以上、攻撃の出発点から「効率良く前に進んでいけるか」は、「シュートが決まる確率を高めることができるか」と密接に繋がっています。
今節はそういう場面が多く、例えば17:50では、相手の目線の逆をついた縦パスが岩波から江坂に入りますが、その先の人員が足りていませんでした。
運んだ時の前のアクション
2点目は運んだ時のアクションです。
2トップの相手に対して3バック化を行うと、左右のCBに入った選手は前方へドリブルで運んでいけるチャンスが増えます。
これは例えば相手をかわして抜いていく、というドリブルではありません。
いわゆる「運ぶドリブル」であり、簡単にパスを出さずに自身が相手のラインをボールと一緒に越え、前線に人員を残しておくための重要な動作です。
ショルツはこのプレーが特徴的で、この試合でも複数回見せていました。しかし、この動作に対する前線の反応が少し鈍かった印象です。
相手の視点から見ると、自分に向かって運ぶドリブルをされると、その対応と自身の背後を同時にケアすることを迫られます。
それが浦和の良い攻撃、つまり相手のライン背後に人を残しておきながら、相手に複数の選択肢を突きつけて次の局面へ繋げることができます。
しかし、前線で待っている選手や、運んでいる選手と一緒に前へに移動する選手の呼応した動きがあまり見せられませんでした。
中央のサポート
また、ボランチが中央にいる場合も、サイドからの横向きのパスを受けられる立ち位置取りが不足していたと思います。
清水のブロックが中央に狭いので、外回りになる場面も多かったです。
一発で中央を割れたら最高ですが、それが叶わなくても、サイドにボールが回った時に中央のサポートがあれば別のルートで進んでいけます。
しかし、このサポートができていない場面がありました。
ボランチが降りたり、最終ラインとの流動的な関係性のところなど、最初の出発点でスムーズに行かない時があることも起因しているかもしれません。
このサポートがないと、ブロックの外を迂回しているだけになり、清水にとっては怖さもなく、SBが前に出ていく予測もつきやすい状況だったと思います。
後述しますが、後半に安居が入ってからここの改善は見られました。
決定力不足の前に考えること
確かに、ユンカー、モーベルグはスピードもゴールへの推進力もあるので、多少人員が少なくてもチャンスになりそうなシーンは作れます。
でも、彼らがもっとゴールを奪うために、もっとゴールに近い位置で彼らに時間とスペースを提供してあげる必要があります。
いかに効率的に、必要最低限のリソースで、シュートが入りやすい場所にボールと人を運んでいけるか。
それがゴールに繋がる「確率」を上げる作業であり、チームとして狙っていくところです。
シュート数に対する枠内シュート数やゴール数、シュートを外した場面だけを見て、「決定力」という曖昧な言葉でゴールが少ない理由を片付けてしまいがちです。
それは、やれることをやった最後の最後に、シュートを打つ個人の能力に求める原因であり、チームとして改善する場所はまだまだあります。
まずは攻撃の出発点であるビルドアップの改善に鍵がありそうです。
「勝ちに行った」10人での戦い
いくつかのボール保持の問題点を抱えていた浦和でしたが、試合展開自体は危なげなく、前半を1−0で折り返しました。
しかし、53分に敦樹が2枚目のイエローカードで退場。三度ホームゲームで10人の戦いを強いられます。
冷静に布陣して選手交代
前回10人になったG大阪戦では、10人になった直後に失点しました。
この時は10人になったのにも関わらず、11人いるかのような守備を行ったことが要因でした。
今回は冷静に布陣を確認し、江坂をボランチに落とした4-4-1でバランスを取ることで、選手交代による立て直しまで時間を進めることに成功しました。
10人の戦いに慣れるのは何とも言えない気持ちですが、同じ失敗は繰り返さず冷静に対処できたと思います。
チームを踏み留まらせた流経大コンビ
58分にユンカー、馬渡に変えて安居と宮本を投入。
江坂を1トップ気味にした4-4-1で、両翼に推進力のある松尾とモーベルグに陣地の回復を行なってもらう想定だったと思います。
また、交代時点で30分以上の時間が残っていたので、ただ跳ね返すだけでは耐えきれないと踏んでいたのでしょう。
ゴールキックなどでも、1人少ないながら繋いでいく意志を見せた浦和。ここで安居の能力がフルに発揮されました。
ボールタッチの安定感はもちろん、立ち位置を広くとったCBや西川のパスコースとなれる角度に安居が立ち続けること、そこに相手が出てきたらフリーになる味方を認知して指示することや、次のスペースを見つける早さ。
認知が早いので移動も早く、SBへの横のサポートにも素早く入れており、リカルドのサッカーにおけるボランチ像を体現していました。
これらを移動を止めずに行なっており、特に60:00に迎えたモーベルグの決定機には、安居の特長が詰まっています。
後方で繋ぐ際に安居が立っている位置の角度が良く、スペースや味方の認知でボールホルダーに逃げ場を提供。
左から右へとボールが移動しても宮本に対する横のサポートに入れているので、浦和のボールがサイドから中央を経由して再びサイドの奥に侵入できています。
立ち位置を取ってビルドアップに関わりながら、その後に前へ出ていけたり、切り替え守備の早さも含めて宮本も良かったです。
確かにヴァウドに競り負けて同点を許しはしましたが、10人になりながらも完全な劣勢にならなかったのは、この2人の貢献が大きかったでしょう。
残り10分で勝つための切り札
とはいえ、10人の戦いは激しく消耗します。
70分過ぎからは、撤退守備も行いながら、単独での陣地回復や最前線へのスプリントを担っていた両翼の運動量が落ちてきました。
その結果、サイドからの圧力を強める清水に対して5〜6枚が最終ラインに吸収される場面も増えます。
そろそろ交代かなとも思っていましたが、残り10分まで引っ張ったリカルドは勝つための一手として関根と明本を投入。
彼らの役割は多岐に渡りました。
まず、撤退せざるを得ない状況を改善するべく、両翼の2人が前線からのプレッシングを担当。
それでも自身を通過した際はプレスバックして大外を埋めつつ、ボールを回収したら単独だとしても前線へ運んで陣地回復。
また、明本をロングボールの的にして前へとボールを進め、そのこぼれを拾った江坂を起点にして、関根と明本が再び裏へとスプリントしていく役割も担っていました。
明本へ対角の長いボールを岩波が蹴ることができるように、CBのサイドも変えたのでしょう。
最後の爆発で勝利を狙った
残り10分まで、清水の交代が終わるのを待つという駆け引きもあったかもしれません。
ここまで来ればまずは失点を防いで引き分けでも御の字の展開です。
しかしここで交代選手に二役も三役も課して奇襲的に、でも明らかに「勝ちに行く」采配を見せました。
それができる2人の投入でしたし、実際に勝てるチャンスは十分にあったと思います。
しかし、ゴールまでは奪えず1−1の引き分け。またも10人で戦うことになり勝ち点を逃しました。
まとめ - 必要な整理と一体感
ユンカーやモーベルグがいると、多少不利な局面でもゴールに近そうな雰囲気は出せますが、もっと前に人員を残せるようにしないとゴールの確率は上げられないでしょう。
ビルドアップの役割整理が必要かなと感じています。
もう少し前進を効率的かつスムーズにしたいところで、ゴールの確率を上げる余地はまだまだありそうです。
厳しい中でも光明
安居と宮本は10人になってからの出場でしたが、彼らの特長を十分に発揮してくれたと思います。特に安居は次節のスタメンもありそうなレベルだったという印象。
安居や宮本のパフォーマンス、最後の奇襲を担った明本と関根を中心に、10人になってからの戦いぶりは素晴らしかったと思います。
感情が交差した試合後
それでも、今季ホーム5試合のうち退場者を出したのは3試合目。その全ての試合で、10人になってから失点し、勝ち点を落としている事実は重いです。
これは明確に「NO」を突きつける結果だと思います。
この試合がどうか、というだけでなく、これまでの経緯も含めて様々な感情が生まれそうな試合でした。
なのでサポーターも選手も、その感情の違いでぶつかることになったのかなと考えています。
でも、そうやって擦り合わせてきたクラブでもあるので、取り返しのつかないぐらいバラバラにならなければ、糧にしていけるクラブだと思っています。
幸い、今季のJ1は混戦模様です。優勝争いに加わるチャンスはまだまだあります。
ここで踏みとどまるために最もやってはいけないのは、浦和レッズの仲間なのに「あいつらの考えてることは理解できない」と突っぱねて分断することではないでしょうか。
ここで一番やっちゃいけないのは、仲間のはずなのに「あいつらの考えてることは理解できない」つってお互いで分断を進めて放棄することだと思う。
— KM | 札幌戦レビュー書いた (@maybe_km) April 7, 2022
阿部ちゃんが苦しい時にやってきたのはそういうことでしょ、と個人的には理解している。
次節はACL前最後のリーグ、東京戦です。様々な意味で踏ん張りどころです。
3度目の退場で引き分けに終わった今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!
📝戦術分析レビュー
— KM | 札幌戦レビュー書いた (@maybe_km) April 8, 2022
決定力不足の前に考えること - J1 第7節 #浦和レッズ vs #清水エスパルス
⏰読了まで:約7分
◆ビルドアップの問題点
◆決定力不足は最後の話
◆最後まで勝ちに行った采配
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