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【レビュー】コントロールを取り戻す - 2021 J1 第30節 FC東京 vs 浦和レッズ


この記事からわかること

  • 浦和の主導権の握り方
  • 立ち位置で相手を縛りつける
  • 「ずっとこっちのターン」を生む循環
  • 焦らず慌てず、試合を掌握

「真実の時間」に突入した浦和は、ACL出場権獲得に向けてひとつも落とせない状況を戦っています。

前節・C大阪戦に完勝して迎えたアウェイFC東京戦。今回も相手が中2日と日程に恵まれている中で、きっちり勝ち点3を手にしました。

開始30秒で失点する厳しいスタートとなりましたが、浦和は「ゲームのコントロール」を自分たちの手中に取り戻し、戦術的な原則を粛々と続けたことが結果に繋がったと思います。

ゲームのコントロールを取り戻すこと、戦術的にやるべきことがどういったことなのかにフォーカスして振り返っていきます。

対極的な両者

FC東京はミッドウィークの名古屋戦でレアンドロが退場。中2日の日程もあり、長谷川監督曰く「浦和相手には走れなければいけない」という狙いのもと、ターンオーバーを敷いてきました。

2トップに永井と高萩、サイドに田川を置きました。彼らを中心にハイプレスやスピードを活かし、試合のテンポを上げることを狙っていたと思います。

試合中に浦和がピンチを迎えたのもそういう場面で、お互いの陣形が整いきっていない、オープンな状況では東京に分がありました。

翻って浦和は、ボールを持ちながら、ボールの失い方をデザインすることで良い切り替えに繋げ、回収して再びセット攻撃に移行するという、クローズドなサイクルを続けることが重要になります。


誤算だった開始5分

特徴や狙いが逆の立場になる両者の激突はいきなり試合が動きます。

開始30秒で森重のロングボールから田川が抜け出して東京が先制。パス、飛び出し、トラップが100%でないとゴールにならないような形でしたが、試合開始直後にいきなり実現してしまいました。

酒井や岩波としては一瞬の隙を生んでしまった場面だったとは思います。

ハイプレスを狙う東京はこの先制点で勢いづき、前からの圧力を強めます。蹴ったボールを回収されてカウンターに繋げられる、浦和としては避けたい試合の構図に開始5分間はなりかけました。

コントロール権を自分たちの手中へ

浦和は前から来る東京に対し、間と背後を取ってひっくり返していくことを狙っていたと思います。

6分頃までは狙い通り前進することもありましたが、一方で試合のテンポが速くなっていました。

速い試合展開の中で目まぐるしく攻守が入れ替わると、意図しないボールロストが発生してカウンターを受ける機会も増えます。

これは浦和にとって望む展開ではないので、まずは試合を落ち着かせ、コントロールを取り戻すことに注力します。

6分頃から主に小泉が相手のMFの手前、2トップの脇に降りてきてボール回しに加勢。ボールの保持に長けた小泉は前へと急がずに試合のテンポを落としにかかります。

ゴールへ迫ることを考えれば、なるべく相手の背後に人を残したいわけですし、平野が加入した今、小泉にはライン背後で仕事をしてもらう体制になっていますが、まずは人を増やして東京の勢いを吸収し、ボールを落ち着かせました。

ボールを持って徐々に東京の勢い吸収し、ハイプレスを抑制することに成功すると、12分あたりからはボールを持つ浦和、引いてブロックを築く東京、という構図に持っていくことができました。

ここから、30分前後のセットプレーなどからごちゃごちゃした局面を作られてピンチを迎えた時間帯以外は、いわゆるずっと浦和のターン。

ブロックを組んだ東京の背後と間に立ち位置を取り、中間で出し入れをしながら様子を見つつ、相手の動きに応じて中央とサイドを使い分けた試合運びは秀逸でした。

東京を縛り付けた浦和の立ち位置

具体的には平野と柴戸が2トップの背後を出入りする3−1のビルドアップに加え、小泉・江坂・汰木らが相手のボランチ脇を出入り。

そこにパスを入れては落としたり、戻したりしながら、相手の様子を伺います。

東京のMFからすれば、視界に捉えることが難しい背後から自分たちの間に顔を出す、複数の浦和の選手たちを注意する必要がある状況です。

パスの出し入れに寄り過ぎれば逆側のコースが空き、寄せきれなければターンされて自分たちのラインを越えられるというジレンマが常にあったと思います。

2トップがアンカーポジションに入る平野か柴戸をケアするなら横からショルツが運び、中央の収縮が甘ければターンやパスでラインを越えて、陣形が収縮してきたらサイドに振るという後出しジャンケンを続けていきます。

サイドに振ってからは、それぞれが立ち位置を循環するローテーションを実行。相手の守備者が「誰を見るのか?」という基準をズラし続けることで相手を移動させます。

東京のハイプレスを完全に抑制し、ラインを後退させ、崩しの局面ではポジションのローテーションでMFを後ろ向きにする展開を継続。

これにより、ボールを失った瞬間は浦和は前向き、東京は後向きの状況になるので、切り替えのプレスでボールを回収して再びセット攻撃へ移行する循環が形成されました。

これを続けて最後はサイドの酒井や明本を解放し、そこからクロスが入る展開を作り出しましたが、最後にクロスで合わせるタイプを起用していない浦和。

ゴールのためにはもうひとつサイドを抉る一工夫が必要だと感じていましたが、その一工夫が1得点目に繋がります。


ローテーションでハーフスペースの奥を取る

ハイライトの映像では最後の崩しの部分しか映っていませんが、その前のビルドアップから詰め将棋のように相手を追い詰めていきました。

先述の通り、浦和は相手の間と背後に立ち位置を取る3−1+ボランチ横の配置で相手の間を取ります。

この時はボランチ横に明本と小泉が入っていました。

ここに出し入れして相手の様子を伺いつつ、ショルツから平野へのパスから再びスタート。

2トップの間が空いていることを見た平野はターンして、ボランチ間を通すパスで背後の江坂に届けます。

小泉と明本が青木と安部の横にいて、中央には江坂がいるわけで、東京側からしたら2人で3人を見る形になっています。

MF背後で江坂が前を向くと、東京は中央を固めて撤退することになりますが、浦和は空いた右サイドへ振って今度は東京の陣形を拡げます。

そこから酒井・平野・柴戸で立ち位置を循環するローテーションを実行して、中央とサイドで揺さぶりに揺さぶって空けたハーフスペースを陥れました。


この時の東京のラインの低さ、陣形の崩れ具合を見れば、ゴールに繋がらずにボールを失ったとしても、浦和が切り替えのプレスでボールを回収できた可能性はかなり高いと思います。

最初の立ち位置で相手に複数の選択肢を突き付けながら中央から進出、相手が撤退して絞ったところをサイドに振り、ローテーションで相手の配置を破壊する。

前節・C大阪戦の先制点は前から来る相手に対するベストゴールなら、今回は引いた相手に対するベストゴールだったと思います。

東京の武器であるカウンターの体制は整っておらず、ボールを失っても再回収できる算段が立っているのでリスクある攻撃を仕掛ける。

試合のスタートは誤算でしたが、5、6分でコントロールを取り戻し、12分ごろから続けていた循環が実を結んだゴールでした。

相手を観察して、ダメージを与える

東京は後半からディエゴ・オリベイラと、浦和の攻撃の循環で明らかに疲弊した渡邊に代えて東を投入。

自陣に張り付けられた前半から、再び前から行くためにもSHを前に出して捕まえに行く姿勢が見られました。

これに対して浦和は、酒井が下がり気味になり、その背後を小泉や関根、江坂のトライアングルで前進するパターンを48:00、50:40と連続して成功させると、再び押し込む展開を増やすことができました。

相手が前から出てくるならその裏、出てこないなら間を通して相手を動かし、手薄な場所に振る。

相手を見て、相手にもっともダメージを与える選択を採って試合を優位に進めていく、最大の狙いを出すことができていました。

美しいプレス回避

63分に浦和はユンカー、東京はアダイウトンに続いて三田を投入します。この交代直後、東京は再び前からいくためのパワーを補充したような印象でした。

直後の浦和ボールに前から圧力を強めます。ここでの浦和の対応も完璧で、焦って前に蹴り出すのではなく、良い立ち位置をそれぞれが取り、西川を使ってプレス回避。

全員が良い立ち位置取ったことで相手の裏を取り続けた前進はとても美しく、見直す価値のあるものだと思うので、ぜひDAZNで振り返ってみてください。

この攻撃は跳ね返されますが、クリアボールを回収すると65:00、逆転ゴールへと繋がります。

東京の切り札の裏

東京のディエゴ・オリベイラとアダイウトンは馬力があり、その強さと速さは脅威ですが、守備面では課題を抱えています。

プレスをかける際、後方が楽になるような規制や誘導、方向づけではなく、人を捕まえにいくような動作になります。

61:20でもプレスにきたディエゴの裏に平野がパスを通していましたが、この場面でもディエゴとアダイウトンが直線的にプレス。

彼らの背後を岩波・酒井・平野のトライアングルで簡単に前進。さらにアダイウトンはプレスバックをしなかったので、東京の中盤は3枚となり、必然的に逆サイドにスペースができました。

SH脇に立ち位置を取った関根のミドルシュートから江坂のゴールで逆転に成功。


アダイウトンのプレスバックがなかったことを含め、東京が全体的に足が止まった場面でした。

前から行くぞ!と決意した直前のハイプレスを綺麗に外せたことで、ある意味心を折ることに成功していたのかもしれません。

相手が前から来るのか、どこから来るのかに応じてスムーズにボールを前進し続けていた浦和の粘り勝ちだったと思います。

理不尽への対抗

一方で、飛び道具を持っているのが東京。直後の飲水タイムで、長友の運動量を担保にやや5バック気味に変更。

スライドやプレスバックの必要性を少なくするとことで、強さと速さを使って前への圧力を強めてきます。

最後はウヴィニを前線に投入してパワープレー。試合をクローズドに進めて勝利することを目的としたチームが、実際に試合の大部分をコントロールしながら、相手の”理不尽さ”で失点して勝ち点を落とすことはよくあることです。

浦和もこれを避けなければ、上位争いには生き残れません。83分ごろにはセットプレーも含めてバタバタする場面もありましたが、槙野を投入して跳ね返しながら無事に勝ち点3を獲得することができました。

まとめ - 焦らず慌てず、試合を掌握する

前節のC大阪戦に続いて、手応えのある内容で勝利となりました。

いきなり先制点を許してしまいましたが、今季の浦和が持っている思想の通り、試合を落ち着かせてコントロールを取り戻すことができ、それ故にボールを持つ時間が長くなりました。

ボールを持てば相手の陣形の間と背後に人が立ち、複数の選択肢を突きつける。そのことで、相手の陣形を乱していき、ボールを失った瞬間の状況で優位に立って回収する。

相手が意図的に動けない状況を作り出したうえで、様子を見ながら相手の逆を取り続けていく様子にチームの成長を感じました。

もちろん、結果と内容がついてきていることもあるでしょうが、ビハインドでもシュートや前へと急ぎすぎず、辛抱強く試合を進められたこともポジティブです。

前へと急がない振る舞いに感じる成長

今季前半のアウェイC大阪戦では「あとは決めるだけ」の状況でゴールが奪えずに時計の針が進むと、徐々に前に急ぐ場面が増えてしまい、相手が良い状況でカウンターを発動する状況を自ら作ってしまっていました。

今回はそういう場面はほとんどありませんでした。セット攻撃を良い状態で進めながら、リスクのかけどころをコントロールする。

焦らず慌てず、狙いを粛々と表現した浦和の価値ある勝利でした。

次は神戸との直接対決。勝ち点6の価値を持つ、いわゆる6ポインターのゲームになります。

ACL出場権獲得に向けて、絶対に勝ちたい試合。勝ちを期待します。

トラブル的な失点にも動じず、試合の主導権を握って逆転勝ちした今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!



浦和レッズについて考えたこと

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