この記事でわかること
- 1列目を越えた後、不足する次の一手
- ハマらない浦和の守備
- オープンスペースを創り出せるか
- リカルドの志向と浦和のコンセプト
浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第12節、サンフレッチェ広島戦です。
前半悪くはなかったものの、広島の強度の高い守備に対して徐々に打つ手がなくなり、スコアレスドロー。
試合後の平野から、非常に解像度の高いコメントが出ているので、これを下敷きにしながら解説していきます。
次の一手を出せるか
前節からアンカーを採用した広島は、3-5-2で縦にコンパクトネスを維持しつつハイプレスを狙うことが基本のチームでした。
ただ一辺倒というわけではなく、浦和がボールをオープンに持った時には背後のスペースをケアするラインコントロールをしつつ、GK大迫もリベロ的なゴールキーパーとしてカバー範囲を広げていて、柔軟性のある組織化されたチームでした。
それに対して浦和も、特に前半は最初のプレッシャーラインで引っかかることはなく、広島の1列目を越えていくことはできていました。
アンカーの立ち位置に入る平野を基準にしつつ、元々の位置をキープするCBの左右を通常に戻したこと、引き出した相手の裏で小泉が受ける、敦樹が前に出るなどのローテーションがうまくいっていたことが要因でしょうか。
一方で、その次の一手に効果的に移行して、決定機まで持っていけるか、という課題は引き続き残っていた印象です。
相手は5バックなので、最終ラインから最低1人、可能であれば2人は動かさないと穴は空きづらいです。
そのために浦和はWBやインサイドハーフを引き出して、その裏や横のサポートでCBを引き出して・・・という動きまではありましたが、その次は?というところで不足していたのが、課題が現出した要因かなと思います。
2トップや中盤脇にいる浦和の選手に、広島のインサイドハーフやWBに出てきてもらい、次の連鎖で左右のCBに引き出すことはできていました。
そこを超えた後、次に空くスペースに入っていく人数や、そこにボールを届けるためのサポートの角度などは十分か?というところで、足りない場面が目立ちました。
次の展開をサポートできるか?
25:45はゴールキックからの流れで、西川も関与しながら相手のCBまで引き出して小泉に前を向かせた場面ですが、次の場面で、小泉より前にいるのはシャルクのみ。
最終的にはシャルクへのパスから先に繋がらず、可能性の低いミドルシュートでした。
例えば小泉に落とした段階で明本が一緒に高い位置に越えていけたら、大外からさらに奥に侵入、遅れて入ってくる敦樹や関根へのマイナスのクロスという展開も選択肢として持てたかもしれません。
28:30なんかは、斜めのパスがシャルクに入るところまでは良いけど、次のスペースを取ったり、シャルクとコンビネーションを発揮できる位置に人がいない、というイメージです。
このように、最初に空きやすい場所の立ち位置を適切に取って、それをベースに相手を引き出すことはできています。
問題はその先で、引き出した相手を越えるぞ、越えたぞ、という瞬間に次の崩しに関わる位置にもう1~2枚はいて欲しいな、という場面が多かったです。
相手を引き出す、そこに寄ってもう一人引きつける、まではできているけど、次の展開で少し遠くの空いた位置で受ける人、ボールを届ける手段がない、というシーンが決定機の少なさに繋がっている気がします。
また、広島のラインコントロールも秀逸でしたが、後方でオープンに持てた時にもう少し裏を狙うボールがあっても良かったかもしれません。
これは後半開始直後にその狙いが増えたので、修正が入ったと思います。
広島の強度の高い守備に対して、ボールを保持しながら最初の前進はできるし、危ない失い方もしないので危険なカウンターを受ける回数も少ないけど、浦和も決定機を作れない、という感じの前半でした。
課題に向き合う後半
その後半、広島は3-4-3に変更、中盤と前線の形が変わりました。
陣形の空きやすい場所や、相手を引き出すための場所は前半と変わるので、浦和はまた別の攻略が求められます。
相手の修正への対応という、これも今季の課題に向き合うことになりました。
しかし、結果的には困ってしまい、困ったまま時間が進んでしまったなという印象です。
1トップと片方のシャドーがCBを捕まえるようになったので、浦和のCBが前半よりは余裕が持てなくなりました。
すると、低めに位置する浦和SBにボールが回りやすくなり、広島WBも予測を持って早めに前に出てくるので、詰まってしまう局面も増えたかと思います。
その中でも55分にクイックリスタートでチャンスを迎える前のゴールキックで、選手の移動からスペースを創出して前進したシーンは良かったです。
ハマらない守備
また、ボール非保持時のセット守備もあまり良くはありませんでした。
浦和は昨年から、中から外に追い出す守備を行うことが多いですが、外を切って内側に誘導する守備も併用しています。
特に3バックの相手など、ボール保持時に幅広く立ち位置を取る相手を苦手としていて、中から外に追い込んでも、WBの幅を使われてしまうことが多いからかもしれません。
前節の柏戦もそうでしたが、外に追い出す時と、外を切って中に追い詰める時の意思疎通がイマイチな気がしています。
関根が外を切ってるけど外のWBに明本が出ているとか、内と外どちらを切るかという判断と、それに合わせた正しいプレッシングコースを取れているか、という点で疑問を感じるシーンもありました。(43:00、53:20)
今節もあまり「守備がハマった」感覚は持てませんでした。
前から追うのは準備ができてから
さらに55分〜70分あたりは組織としての連動も落ちていたことが気がかりです。
陣形をセットして、全員が行動できる準備が整ってから前線の誘導を開始しなければ、簡単に回避されてしまいます。
しかしこの時間帯、前線は早く追って誘導したい、でも後方の準備はまだ、というシーンが多かったです。
前線が追ったけど後方が付いてきていないので、1列目を越される、越させた後にプレッシャーをかけられず、全体が下がらざるを得ないというシーンが目立ちました。
新加入選手の合流から、しっかりと仕込む時間が取れていないこと、ACLでこういう守備をする必要がなかったことも影響しているかもしれません。
この時間帯、劣勢に立った原因の一つでした。
焦りとオープンな展開
80分以降はお互い疲労から強度が落ち、オープンな展開が少し増えた印象です。
ただ、浦和からは焦りも感じられました。
例えば75:00など、モーベルグが確率の低すぎる局面かつ後方の押し上げが間に合っていない状態で、強引に突破を試みてボールを失い、カウンターを受けて・・・という展開。
また、強引に中央突破をしにいく場面も少し目立ったかなと思います。
82:00はセットプレーからの流れでポジションがズレていた側面はありますが、幅を取る人がおらず、とにかく前に縦に割って入ろうとするだけでした。
行ったり来たりは意図していない
こういったオープンな展開は、無駄に体力の消耗を招いてしまいます。
カウンターに出ていこうとスプリントした時にボールを失い、カウンターのプレスが物理的にかけられないので相手のボールになってしまう。
前に行こうとスプリントをした味方は、今度は自陣に戻るスプリントをする、という展開です。
松尾が自陣最も低い位置に下がって守備をしてから、間髪入れずに相手陣内の奥深くまでカウンターすることを求められたシーンもありましたが、あれでは最後まで力を残しておくのは難しいでしょう。
アディショナルタイムのユンカーのスローインで、周囲がスプリントして押し上げる力が残っていないのも必然です。
オープンスペースを創り出せるか
一方で、後半はカウンターからのチャンスが増えたのも事実です。
途中から入ったユンカー、松尾を含め、スペースが多い時に力を発揮する選手が多いので、最後のパスなどの細かい質が揃えばゴールを奪えた可能性の高いチャンスはありました。
じゃあカウンターに寄せれば良いか?というと、それだけで勝てる時代はもう終わっているので、ボールを保持しながら自分達でその「オープンスペース」を創り出すことが必要で、そのための試行錯誤が続いています。
まとめ - コンセプトとのチューニング
適切な立ち位置を取るだけでなく、その立ち位置を取る人を流動的に変えながらも前進していける力量は今の浦和にあります。
これは割とレベルが高い印象ですが、問題はその先ということで、今節も解消するには至りませんでした。
その原因は平野の言葉を借りると「前線が過疎化している」ことであり、その解消に必要なのは、前線に人を残すための配置だったり、前線の少し遠い場所にボールを届ける仕組みだったり、いつ縦に急ぐのかという試合展開のコントロールだったり、次の展開への予測に自信を持てるかだったり、ということでしょうか。
特に、ゴールに迫る決断をする、あるいはゴールに向かっていく決断をする判断基準の捉え方の部分が大きいかなと思います。
遅い展開から何度もやり直すことを厭わないことがリカルドの理想・志向である一方、直線的なプレーが良しとされる浦和の文化を反映したコンセプト(とそれを基に連れてきた選手の特徴)があります。
この間のバランス、落とし所をチューニングする作業をしているのは、ACLセーラーズ戦の岩尾の会見からも明らかで、それがまだ結果に繋がっていない印象です。
何でもかんでもリスクをかけることが正しいとは思いませんし、リスクをかけた分だけリターンが返ってくるわけでもありません。現に失点数の少なさは、この試合展開のコントロールから生まれているものです。
必要なのは正しいタイミングで正しいリスクをかけること。これが「今行く」という決断を、チームで共有し切れていないという西野TDのACL総括に繋がっているかもしれません。
ミスマッチ?
監督の志向とクラブのコンセプト間でのチューニングが必要な状況自体に疑問を感じてしまうかもしれませんが、個人的には、このアプローチ自体に非論理性は感じていません。
監督の志向を全面的にバックアップして、それに合わせた選手を連れてくる、というやり方で、監督が変わっても浦和レッズが継続的に勝利していけますか?という疑問・反省を踏まえて現体制があるためです。
また、監督自身の理想から、クラブの文化や抱えている選手の特徴に合わせて調整を入れることは当然のアプローチであると、林舞輝分析コーチの著書にも書かれているわけなので、この辺りに歪さや、無理難題さは感じていません。
勝利しながら調整を行えたら理想的ですが、現状は負けてはいないながらも勝ててもおらず、当初の目標からすれば結果が出ていないと捉えられます。
これが後半にあったような焦りに繋がりつつあるので、どうにか負のループは抜け出したいところ。
ホームとはいえ、横浜FM・鹿島と今後も厳しい相手が続きます。
再びスコアレスドローだった今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!
📝戦術分析レビュー
— KM | 広島戦文章アップした (@maybe_km) May 14, 2022
調整が結果に出るまで - J1 第13節 #浦和レッズ vs #サンフレッチェ広島
⏰読了まで:約6分
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◆ハマらない守備
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