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Cover Image for 【戦術レビュー】「陣形の間」はどこにあるのか - 2022 J1 第12節 柏レイソル vs 浦和レッズ

【戦術レビュー】「陣形の間」はどこにあるのか - 2022 J1 第12節 柏レイソル vs 浦和レッズ


この記事でわかること

  • 「陣形の間」を巡る攻防
  • 左サイド岩波の是非
  • 柏の修正と浦和の対応
  • 平野のジェスチャーから探る可能性
  • 悪くはないけど良くもない

浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第12節、柏レイソル戦です。

ACL6連戦を終え、無事に帰国した浦和はアウェイの柏に乗り込みました。

リーグ戦で出遅れた浦和は、再開初戦から勝ち点3を奪って波に乗りたいところでしたが、スコアレスドロー。

最初の25分ぐらいは江坂を使った前進で優位に立っていましたが、徐々に柏の修正に押された印象だったと思います。

なぜ浦和が序盤に優位に立てたのか、柏の修正と浦和の対応、改善しているところや課題など解説していきます。

引き出して「間」を使う浦和

柏の布陣は5-3-2で、縦にコンパクトにしながら前へのハイプレスを仕掛けるチームでした。

ボールを奪ったら前線の推進力を武器に、シンプルなカウンターに移行します。

柏のプレスは2トップから始まりますが、その脇を埋めるのはインサイドハーフのマテウス・サヴィオ、中村の役割です。

まず浦和が狙っていたのは、このインサイドハーフを前に引き出してアンカーの周囲にスペースを作り、そこに江坂が入ることでした。

そのために浦和は、4バックを維持しながらビルドアップを行う時間が多かったです。

場合によっては平野がCB間に降りたり、岩波の左に柴戸が降りることはありましたが、元々のSBの位置で柏のインサイドハーフを引き出すためでしょう。

試合の序盤はこれが奏功し、江坂がアンカー周囲で受けて反転、というシーンがいくつか作れました。

また、このように相手を引き出して最初のプレッシャーラインを越えたあと、スピードアップが足りないという課題がACL前から浦和にはありました。

しかし今節、特に試合序盤は、相手の背後で前を向いたら前線は相手の裏を狙う、という改善が見られたと思います。

また、ボランチを下げないことが多いので、柏2トップ背後で平野が前を向いて、前線への縦のパスが入るシーンも作れました。

ネガティブ・トランジション(攻→守の切り替え)局面に移行した際に、柴戸が切り替えの守備に参加できる位置にいるというメリットもあります。

間を消す修正をする柏

アンカー脇の江坂、というパターンからいくつかチャンスは作り出しましたが、25分あたりから、柏は江坂に対するケアを修正したように思います。

マテウス・サヴィオと中村は、2トップの脇をケアしようと早めに動く傾向がありましたが、まず中央を締めることが増えました。

また、インサイドハーフの裏に江坂や関根が来るなら、CBが積極的に前に出てマークして良いよ、という変更もありました。

2トップが、背後に位置する平野へのコースを消す意識も向上したように見えます。

4バックを維持した形から中盤の「間」を空けて、江坂が受けて前進していた浦和ですが、「間」とそこに立っている「人」を消される形になりました。

これに対して浦和は、35分にサイドハーフの関根やモーベルグを外側に張るような指示が出ていました。

これは、インサイドハーフの横のスペースを使って前進することを試みたからでしょう。

平野からパスが入ることが何回かありましたが、インサイドハーフが中央を締めてから出るということは、今度はその横が空きやすくなります。

そこを起点とするためにも、柏の布陣で大外を守っているWBを前に出させないために、サイドハーフを高い位置に配置してピン留めする狙いがあったと思います。

リカルドが試合後会見で言っていた、「江坂をケアする配置を取ってきたら他が空く」うちの一つでしょう。

ただ、中央で遊びのパスを入れるなど、相手の陣形を十分に縮小できていないので、明本にパスが入った際もマテウス・サヴィオの寄せが間に合っていました。

なので、柏の修正を効果的に、逆手に取れていたかは微妙なところでした。

岩波を左に置くことの是非

さて、この日のCBの配置は、右がショルツ、左が岩波でした。

これまでの試合では、最終ラインが3枚気味に可変する際に、+1を置いた結果、岩波が中央にズレるように左右の配置を取っています。

岩波の左側に+1(例えば大畑)を降ろす可変をするなら岩波は左、右側に+1(例えば酒井)を降ろす可変をするなら岩波は右、といった具合です。

これには以下の2つの理由があります。

  • 岩波が、右足から強くて速く、精度の高い長距離のパスを出せる
  • ショルツの方が、相手の脇から運んで持ち上がっていくプレーが得意

岩波を中央に配置することで、左右両サイドへの長距離パスを射程圏内に収めることができますし、ショルツを相手の脇のポジションとなる位置に配置することで、運ぶドリブルで持ち上がる経路を確保するためです。

今節は4バック維持の左

しかし、今節では4バックを維持する時間が長かったです。

左で起用された岩波がそのまま左にいることが多く、ここで右足を塞がれる追われ方をすると、どうしても運びを求められるケースがあります。

右利きで、右足でオープンに持ってこそ強みを発揮する選手なので、運べたとしても、その先で左足からバシッとパスが刺せるかというと、厳しいところです。

ACL最終節の山東戦では、右サイドで起用された知念が同じような悩みに直面しましたが、この時は出場機会確保が最大の狙いだったので、多少の歪さは許容していたはず。

今節はそういった事情もないので、別の狙いがあっての左サイド起用なはずです。

予想できるのは、右サイドのモーベルグや、その内側で顔を出した江坂らへ対角のサイドチェンジパスを刺したいということでしょうか。

実際に10:56、16:25、21:00などは、岩波から2トップ背後の平野や江坂、さらに奥で相手最終ラインの裏を狙うモーベルグや馬渡に対角のパスが入っています。

岩波が右足で持って、ショルツへ迂回するパスを出すような体の向きから対角に刺しているので、相手の逆を突く形になりました。

徳島時代のリカルドの試合で、右利きの岩尾を左、左利きの小西を右に配置したのを見たことがありますし、昨年の序盤も槙野と岩波のサイドを逆にする時もあったので、対角へのパスを意識した配置なのかもしれません。

このあたりの狙いは、実際にリカルドに聞いてみたいですね。

縦関係2トップなら、どこが空く?

後半に入って柏は、2トップを縦関係にして、中央の経由を徹底的にマーク。

浦和のボールが同サイドかつ外回りに限定されるような布陣です。

浦和としては前半にあったように、外に回っても、平野が横のサポートに顔を出してサイドを変えるキッカケを作れたら良いですが、主に細谷がついてくるので防がれました。

また、2トップ横並びではなく、1トップとその背後という形なので、1トップの森の位置が少し前になります。

そのため、CBを横からアプローチすることが増えて、CB間でのボールの移動が難しくなり、より同サイドから出づらくなったと思います。

平野のジェスチャー

柏の配置変更により、やや停滞が見えていた浦和の攻撃ですが、66:45に平野がCBの幅をもう少し狭めよう、というジェスチャーをしています。

これがどういう意味だったのか考えてみます。

1トップの森がサイドを限定する追い方をしてきますが、CBが幅を取ると、その中継に平野が降りる必要があります。

幅を取ったCB間でのボールの移動は時間がかかるので、その間に入られたり、インサイドハーフによる受け手のCBへのアプローチを許してしまうためです。

すると、浦和の陣形は3−1の形となりますが、今度は1トップとインサイドハーフの正面に立つことになり、さらにアンカーの柴戸には細谷がマンマーク気味になります。

柏は前に出たいチームで、前に出やすい配置になっていたかもしれません。

また、残された選択肢はサイドのSBにパスを回すことになるので、柏に予測を持った守備を許すことになります

サイドを限定して追い込む相手には、中央を経由してサイドを変えたり、パスの流れる方向を変えたりすることが有効ですが、浦和はそれができない状態でした。

なので、CBの距離を近づけることでボランチが降りる必要性をなくし、柏が変更した陣形に合わせて、「間」に人を配置する狙いがあったのかもしれません。

もう一つは、アンカーをマークする細谷に対して、脇に平野と柴戸の2人で立つ可能性を模索した可能性です。

実際にこの直後のプレーでは、アンカーをケアする細谷に対して平野と柴戸の2枚で優位を得たことから、平野が前を向いたシーンが作れました。

平野交代後の策

ただ、この後に平野は交代します。

怪我明けなので、プレータイムの制限が60分程度であったと予測されますが、平野がいなくなってからは、再び柴戸を落とすか、馬渡が下がり気味の3-1になるような時間が長くなったと思います。

中央にいるのは柴戸で、敦樹は右サイドでインサイドハーフに対してあえて近づく立ち位置を取っているように見えました。

インサイドハーフの前ズレを牽制し、ショルツが持ち運べるスペース創出を狙った可能性があります。

課題の運びに合わせたアクション

実際に運ぶシーンも増えますが、運んだ時に前線がアクションを起こせるか?というのはまた課題として挙がってしまいました。

72:50のシーンではショルツが運ぶも、受け手となりそうな関根との連携が合っていない様子でした。

MF背後に関根がいるものの、前に出るCBがアプローチできる距離にいるので、裏へのアクションを起こして欲しかったのかなと予想します。

これは清水戦でも見られたことなので、改善はしてほしいところ。

深さを取れないと、手前が空かないというのはACLの大邱戦で挙がった課題ですが、今一度直面したかなという印象です。

この後、松尾をトップに据えたり、交代で出てきた宮本が早速裏へのアクションを起こすなど、その改善目指した様子はありました。

ただ、浦和の方が疲労の度合いが強く、80分ごろからは走り負けたり、判断の力が減っているような、いわゆる"頭の疲労"も感じました。

最後まで両チームともにゴールを奪うことはできず。スコアレスドローに終わりました。

まとめ - 悪くはないけど良くもない

修正への対応

試合序盤は優勢に進めるも、柏が対策を打つにつれて、徐々に勢いを失ったような試合になりました。

最近はどのチームのベンチにもタブレット端末が置いてあり、ピッチレベルにいるコーチングスタッフが映像を見ながら修正の手を打つことで、相手の変化が早くなってきている印象です。

浦和は最初に優位に立った後、修正に対する対応を求められることが多いです。

それを含めて悪い内容というわけではないですが、とても良いとも言えない、という試合が続いています。

ボールを持ちながら修正するのと、守備を修正するのでは、後者の方が簡単な気がします。

いつ・どこで頑張るか

ただ、それを差し引いても、時間の経過とともに前半はできていた裏を狙う動きが少なくなったように思います。

それには、ビルドアップ隊がなかなかオープンに持てなくなったことや、中央を経由しづらくなったこともあります。

無駄走りになりそうな時に何回も走るのは、90分トータルの体力配分を考えても厳しいので、どこでそれを行うか、というチームの共通の認識が必要になるかと思います。

これは西野TDによるACL総括コラムで話されていたことですね。

疲労の差が出る前に

また、終盤は身体的な疲労の差だけでなく、頭脳面での疲労の差も出たかなという印象です。

帰国してから中5日はありましたが、超過密日程を戦ったうえで丸一日かけての移動・帰国、国内空港では長時間待たされると噂の検査、そこから家に帰れるわけではなく、3日間ホテルで暮らさなければいけない、というのは想像以上の疲労とストレスだと思います。

なので、その差が出てくるまでの時間帯でリードを奪っておくべき試合でした。

あとは、試合後会見でリカルドが言及している通り、最後のパスとか、そのひとつ前のトラップとかがちゃんと決まれば、決定機を作れそうな場面は何度かありました。

この辺りが合わないのはキャンプからレポートされている通りです。

こういう部分は実際にプレーしているプロの選手の中でしか分からないことな気がしますが、結果が出ないことでさらに悪循環に入ってしまわないか、少し心配です。

次は中4日でフライデーナイトの広島戦から横浜FM、鹿島のホーム3連戦、その後、ミッドウィークC大阪戦から中2日で福岡のアウェイ連戦と、かなり厳しい日程と相手が続きます。

ここで結果を残さないと、いよいよまずいことになってくるので、ホームでしっかりサポートして、勝ちの波に乗っていきたいところです。

序盤に攻勢を強めながらも勝ち点1に終わった今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!



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