今回はJ1第8節、北海道コンサドーレ札幌戦のマッチレビューです。
シン・埼スタに札幌を迎え、4-1の勝利を収めました。
札幌との試合では別の試合とは違ったものが必要になりますが、試合展開も含めて色々と違うものになりましたね。
その中で浦和は攻守ともにしっかりと札幌対策をしてきましたし、十分に表現して機能もしていたと思います。
11人vs11人、11人vs10人、10人vs10人と試合を時系列で追いつつ、浦和が札幌のマンマークに対して何を準備してきたのか、そしてゴールに共通する点などを解説していきます。
動画でのレビューはこちらをご覧ください。
TOPIC1 - スペースを事前に用意した浦和
1つ目は、11人vs11人の時間帯において、浦和がどのようにマンマーク対策を準備してきたのかを見ていきます。
札幌は1人が1人を担当してマークする、マンマークディフェンスを採用しています。
札幌が相手の時は少し特別な準備が必要になります。
対マンマークの前提
まず、マンマークの前提ですが、フィールドプレイヤー10人で相手のフィールドプレイヤー10人を見ることになります。
マークされている状況が基本なので、素直にパスを受けたり出したりするだけでは受け手の時間やスペースを確保できません。
味方のポジションを様々な方向でに入れ替えたり、落としのパスですね、いわゆるレイオフを絡めて、一人では前を向けなくても複数人で前を向く流れが必要です。
また、人に付いてくるということは、こちらも人を動かせばスペースは生まれやすいということです。
浦和の準備
プレビュー動画でこのようなことをお伝えしましたが、浦和はこれらを実行するための準備をしてきたと思います。
岩尾は捕まっているので、普段よりビルドアップの調整を行うことはできません。
一方で、単純に考えてゴールキーパーが参加すれば味方の人数が増えて1人は空くので、西川がボール回しに参加して数的優位を確保することが多かったです。
札幌はこれに対してキム・ゴンヒか浅野が自分の担当を消しつつ、状況を見て西川までプレッシングを仕掛ける形でした。
レイオフでフリーマンを作る
西川からの一手目のパスでそのフリーマン、例えばショルツやマリウスに出すことは難しいですが、レイオフを絡めれば二手目、三手目で前を向くことができます。
しかし、そのためには一手目のパスの受け手が問題なくプレーできる必要があります。
札幌もマンマークですが、自分の担当以外は誰も見ないというわけではなく、状況や場所によってマークの受け渡しやチャレンジ&カバーでボールを奪うことはします。
そのため、前の選手が背負った形でボールを受ける際に、狭いスペースで複数人からプレッシャーを受ける形は避けたいわけです。
つまり、浦和は受け手がプレーするスペースを作る必要がありました。
引き伸ばしてスペースを準備
そのために浦和が準備してきた内容ですが、前線の4枚のスタート位置に特に現れていたと思います。
主に興梠・小泉・関根・大久保が相手の最終ライン付近、高い位置で張り付いたような位置からスタートすることが多かったですね。
これにおり何を狙っていたかというと、次にプレーするスペースを作ることです。
浦和が西川を起点にしつつ前進を図る際、4バックやボランチは引くような動きも見せて札幌のマーカーをボールに近づけさせます。
一方で浦和の前線はまず前方に張り付いていて、中盤のスペースを空けておきます。
これにより、まずは一手目のパスを受けてプレーするスペースを確保していました。
ここで一手目のパスを受ける選手が降りてきて、そのスペースを使いながらレイオフを絡めて前を向く人を作っての前進を狙います。
スペースを使う人は流動的
降りてくる選手は傾向てきに小泉や興梠、関根が多かったですが、いつも決まっていたわけではありません。
人が決まっていれば札幌もマークに付きやすく、後ろからの強いアプローチ、さらにはインターセプトも狙いやすいからですね。
DAZNの画角に映っていたかは微妙ですが、浦和の前線の選手は入れ替わり立ち替わり、全員がかなり頻繁にポジションを動いていました。
スタートの位置で作ったスペースに、流動的に人が入ることで、西川で作った優位を起点に一手目のパスを受け、それをレイオフで前を向く、という流れは機能したという印象です。
また、引く動きには札幌の最終ラインから人が付いてくるので、その分手薄となった数的同数の最終ラインへ裏抜けのボールを出すこともよくありましたね。
良い攻撃は良い切り替えに繋がる
レイオフや裏を多用したことで、浦和の攻撃から守備への切り替え、ネガティブ・トランジションも安定したと思います。
例えば12分50秒のシーンでは、ショルツから岩尾への横のパスからダイレクトで裏を狙います。
大久保を狙った裏へのボールは通りませんでしたが、札幌は後ろ向きのプレーを強要されており、味方への繋ぎやクリアの距離を稼ぐことはできません。
また、岩尾がパスを出す瞬間の敦樹の動きに注目してください。
手前に引いて相手を引き出していた敦樹は、岩尾が蹴る前に、反転して前に向かう動きに切り替わって走り出していました。
これが札幌が岩尾のボールを跳ね返した瞬間にはそれを回収できる位置にいることに繋がっていますし、実際にボールを奪うことに成功しています。
札幌は奪ってから前線への速い攻撃が一つの特徴ですし、それによって生み出されるオープン気味の展開によって打ち合いに持ち込まれるケースが多いことはプレビュー動画でお伝えしていました。
それを防ぐための浦和の攻撃から守備への切り替えは非常に重要でしたが、良い攻撃をできたことで、大きな問題を抱えずに済んだと思います。
TOPIC2 - 狙い通りのポジティブ・トランジション
2つ目は、ゴールに繋がっている守備から攻撃への切り替え、ポジティブ・トランジションについて見ていきます。
浦和は札幌に対する守備と、その守備から奪った攻撃への切り替えも整理できていたと思います。
札幌はお馴染みのミシャ式可変からフリーマンを作り、金子へのサイドチェンジや裏へのボールを積極的に入れてきます。
積極的な守備
浦和はこれに対して、前から嵌め込みに行きました。
この試合では福森を最終ラインに下げて荒野がアンカーとなる4-1-5気味の可変。
浦和はこれに対して2トップで見つつ、幅のカバーが足りない場合はサイドハーフが積極的に1列目まで上がる守備でプレッシャーをかけました。
さらに特にボールサイドのボランチの積極的な運用があり、シャドーへのパスコースに立ちながら、降りてきたシャドーに対しても潰しに出ていくことが多かったです。
金子へのサイドチェンジ、前線のスピードや高さを活かしたダイレクトなプレーは札幌の武器ですが、出しどころにプレッシャーを仕掛ける形でよく防げていたのかなと思います。
退場者が出たこともあって、守備機会自体が少なかったのですが、ハイプレスの準備としてはこのような形だったと思います。
撤退守備と金子対策
ただ、切り替えの局面やロングボールも含めて、金子に高い位置で持たれる場面もありました。
その際は荻原の対応に合わせて、田中の上がりには関根が、そしてボールサイドのボランチである岩尾が荻原やハーフスペースのカバーの役割を担うことが多かったと思います。
その際、中央が空きやすくなりますが、小泉などトップ下の位置に入った選手がプレスバックをして埋める仕組みだったのかなと思います。
金子がカットインしてインスイングのクロス、というシーンはほぼ作らせなかったですし、右足でクロスが入るようなシーンもエリア内の人数を確保できていました。
狙っていたカウンター
それだけでなく、自陣深い位置で奪ってからカウンターで仕掛けることもできていて、退場の場面も含めて狙いを持ってやれていたと思います。
木曜日の定例会見でスコルジャは守備から攻撃への切り替えの場面、つまり浦和のポジティブ・トランジションの時は相手がマンマークに付きにくいのでチャンスになると話していました。
興梠が中村を退場に追い込んだシーンはまさにそうですね。
また奪ってから前に進む過程で、奪った選手がそのまま追い越して前に出ていくことで、札幌のマーク担当が戻って来れないかつ、最終ラインの選手にマークを判断させる、ということができました。
先制点のショルツやPK獲得シーンの荻原のようなシーンですね。
このような攻撃は前半の15分あたりから複数回あったので、狙いは表現できたと言って良いかと思います。
TOPIC3 - 引き出せなくなった10人の相手
3つ目は札幌が10人になった時間帯、そして10人vs10人になった部分について、どう戦い方が変わったのかを見ていきます。
34分に中村が退場したことで、11人vs10人の時間帯が訪れます。
マンマークは1人が1人に付く前提なので、数的不利となった札幌は前線で1人が足りない状況になりました。
継続したマンマーク
札幌は後方のマンマークを継続しつつ、前線の数的不利は受け入れるような形でしたが、ハーフタイム前後で振る舞いがやや変化したかのと思っています。
前線は浅野と駒井という形となりましたが、前半は浦和のショルツ・マリウス・岩尾に対して2人で受け渡しをしながらプレッシャーをかけに行く傾向が比較的強かったと思います。
中盤あたりにはまだスペースがあり、浦和としては敦樹の1回目の決定機のように裏へのボールを出せたりもしました。
用意してきた策は使えない
とはいえ、さすがの札幌も西川までは出て行かなくなったので、11人の時のように西川が絡みながら札幌の前後を引き延ばしてスペースを作る、という展開は厳しくなりました。
もちろん後ろの3人のうち、誰かが空くので、運んでからの裏へのパスやクロス、前線のポジションの入れ替えを絡めて少ないタッチでズラしていくことはできました。
ただ、単純なハイクロスは前線のキャラクターを考えても期待値がやや低かったかなと思います。
また、押し込んだ、というよりは押し込まざるを得ない状況になり、札幌陣内に人が増えたことで自分たちが作るスペースや相手を動かすスペースが少なくなりました。
大久保のスペシャルなプレーが出て敦樹の2回目の決定機もあったように、相手のペナルティエリア内まで近づくことはできましたが、スペースに余裕を持ってシュートを打てるシーンは作りづらくはなったとは思います。
引き気味になる札幌
後半に入ると、札幌は引き気味の傾向がやや強まったかなと思います。
浅野と駒井の前線は変わらないものの、浦和の3枚に対して構えるようなバランスとなり、駒井は岩尾を気にしながら中盤のヘルプに参加できるような位置取りになったかなと思います。
これにより、「相手を手前に引き出してスペースを作る」という展開は難しくなりました。
一方で、脇から侵入するマリウスやショルツなどがアタッキングサードの位置まで進めることも増えました。
そこからのクロスや相手の最終ライン裏を取るような攻撃に参加することはできましたが、8~9人が人に付いているということで、スペースがないことが多かったですね。
縦への抉りを狙う
手前からのクロスは増やせるので、63分のホセ・カンテ投入はそれを期待してのことかなとは思いますし、同時にサイドハーフも順足に変更しています。
カットインしても人はいるので、クロスや縦を抉るための変更だったのかなと推測しています。
前半から狙っていたカウンターでゴール
そんな中でゴールに繋がったのは押し込んだ攻撃ではなく、相手のカウンターをさらにカウンターで返した流れでした。
前に出て行こうとした札幌の切り替えを逆に利用できたので、札幌のゴール前に人が少ない状態でシュートまで行けました。
TOPIC1でも触れたように、前半から狙っていたカウンター時の追い越しにより、青木にショルツをマークさせる形にズラせたのも良かったですね。
ショルツは言わずもがな、関根のポジションの取り直しとパスも素晴らしかったです。
再びスペースが生まれる
札幌の視点からするとリードを許したので、前に出ざるを得なくなりました。
浦和からすると、ゴール前に人がたくさんいる状況から、人数が少ないながら前に出てくる相手の裏を取ること、そのためのアクションも起こしやすくなりました。
敦樹がハーフウェイラインあたりから興梠へのボール、そらして関根と、それまでの展開と違ってスペースがある状態で攻撃できた結果でした。
振る舞いは良かったが・・・
しかし、VARでゴール取り消し後のプレーでホセ・カンテが退場。危ないプレーでしたので、妥当な退場だったと思います。
ただ、VAR取り消し時の選手の振る舞いを見ていると、ここでの切り替えで流れを持っていかれないようにもう一度締め直していたので、それ自体はポジティブでした。強く出過ぎてしまったかなと思います。
10人vs10人の時間となり、札幌も前に重心を移しました。
やはり金子を経由する攻撃で押し込むと、浦和もコーナーキックの守備対応を迎えますが落ち着いて処理。
奪ってからの速い攻撃、追い越し
その後、再びボールを奪ってからの速い攻撃でPKを獲得しました。
金子を狙ったボールを荻原がカットしたところから、大久保に預けて追い越す動きです。
奪った荻原が追い越すことで元々の担当である金子は付いていけませんし、代わりとなった駒井の出足も遅れたのでマークを振り切ることができましたね。
疲れが見えた終盤
そのまま試合を終わらせたら良かったですが、さすがに疲れが見えてきた時間帯に攻撃からの守備への切り替えが発生しますが、関根が走り切れない状態になっており、戻り切れませんでした。
その中で同サイドに閉じ込めてボールへのアタックを試みますが外されて逆サイドへ、という展開。
一度目は防げたものの、少し勿体無い失点だったかなと思います。
選手交代で締め
モーベルグと安居を入れて運動量が落ちた部分を補強。結果的にこの2人から追加点が生まれて無事に勝つことができました。
ゴールキックのこぼれを拾った岩尾からモーベルグにつけると、安居とのワンツー、パスアンドゴーのシンプルな攻撃で裏を取れました。
だいぶ時間が深いので、札幌の体力的な面も差し引く必要はありますが、マンマーク相手に対する有効な攻撃方法の一つで裏を取れたかなと思います。
まとめ
今回のまとめです。
- マンマーク対策として西川を起点にして数的な優位を確保
- ビルドアップ隊は引く動き、前線の4枚は相手の最終ライン付近からスタート
- 中盤のスペースを予め空けておいた
- 一手目のパスを受ける選手がそのスペースを使い、レイオフを絡めて前進
- 降りる動きと裏抜けもバランスよく行えていた
- 切り替えの守備にも好影響を与えた
- 浦和は守備からの攻撃への切り替えでの攻撃を狙っていた
- 深い位置も含めて、奪ってから札幌のマークが決まる前にカウンター
- 奪った選手が追い越すことで、マーク担当の判断も強要した
- 11人vs10人になると、前に引き出してスペースを作ることが難しくなった
- 後ろの3人のうち誰かがフリーになるが、前は動きづらくなった
- 後半、札幌は引き気味の傾向が強まった
- ゴールは「人がいてスペースがない状態」になる前に完結できた
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
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