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Cover Image for 浦和は構造を変化させ、柏の構造を叩く - 2023 J1 第6節 柏レイソル 0-3 浦和レッズ

浦和は構造を変化させ、柏の構造を叩く - 2023 J1 第6節 柏レイソル 0-3 浦和レッズ


この記事でわかること

  • 浦和の攻守における事前準備
  • 柏の構造上の弱点
  • 試合中、ピッチ上の選手による試行と修正
  • 試合を決定づけたベンチワーク

今回はJ1第6節、柏レイソル戦のマッチレビューになります。

3バックの相手に3得点で快勝し、6年振りのリーグ4連勝を飾りました。

攻守における事前準備、試合中の試行と修正、そして試合を決定づけたハーフタイムについて解説します。

TOPIC1 - 攻守における事前準備

浦和は前回の試合からメンバーは変わらず、ベンチにモーベルグに替わってシャルクが入りました。

プレビュー動画では柏は噛み合わせを良くするために4-4-2のミラーゲームで来るのではと予想しましたが、5-3-2の布陣。

1列目は2トップ+マテウス・サヴィオという形で、2と3を行き来するような形でした。

2列目の3枚をなるべく2枚に接近させ、後方のレーンを埋めた5バックをベースに、サイドのスペースにはWBが前に詰めていくことを狙っていたと思います。

布陣が変わっても柏のやりたいことは変わらず、基本的にはコンパクトな陣形を維持しつつ、ボールの流れに制限をつけた後、人に狙いをつけていく守備です。

ただ浦和にとっても布陣が予想外だったわけではなく、3バックを予想していたことはスコルジャ監督の定例会見から伺えます。

また、対3バック用の準備もしてきたようですね。

定石通りの攻略を狙う

ボール保持の局面においては、まずは5-3-2攻略の定石通り、前の3-2の部分、中盤の脇のスペースを攻略することを狙いました。

このために浦和は4バックを維持気味にする配置で、どちらかというと昨年の4-3-3に近いような試合の入りだったと思います。

SBの立ち位置をそのまま空きやすい場所に設定しました。

ただ、これに対して柏の2トップ、特に仙頭がボールを横に移動する経路を塞いでくる追い込みを仕掛けてきました。

序盤の浦和はCBの距離も取ることができず、あまりサイドを変えるボールの動かし方ができず、狭い中での前進を図ることが多かったです。

同じサイドで進むとなると、柏の後ろの選手は予測が持ちやすく、WBが最終ラインを飛び出して中盤の横を攻略しようとする浦和の選手に襲いかかるシーンが目立ちました。

これに対して浦和は15分ほどでやり方を変える試みを始めました。これは次のトピックで解説します。

対3バック用の守備布陣

守備においては、相手の3バックに対して2トップを完全に縦関係にする4-2-3-1を準備してきました。

後ろの3枚に対して1トップ+サイドハーフで人数を合わせに行ったということですね。

また、サイドハーフは外を切る追い方をすることが多かったです。

4-4-2ベースのチームが3バックと対峙する際、相手のWBの場所でミスマッチが発生しやすいので、そこへのパス経路を遮断して中央への誘導が最大の狙いだったと思います。

柏もボール保持がそこまでできるチームでもないので、ミスマッチの場所を使わせなければ大きな問題にはなりませんでした。

前半の危ないシーンはサイドハーフの外切りが機能せずWBへの展開を許した時で、そこへ遅れて出たSBの裏を柏の前の3枚が使う、というシーンが多かったです。

あとは試合開始直後で落ち着きがまだない時の切り替えのところでしょうか。

浦和のボール保持面で前半はそこまで良くなかった点も影響していたと思います。

TOPIC2 - 前半、ピッチ上の試行錯誤

前節・新潟戦のレビューでもお伝えしましたが、今季の浦和は試合中、ピッチ上での解決能力に期待ができます。

TOPIC1でお話ししたように、浦和は柏の3バックに対する準備をしてきましたが、4-3-3気味の配置はあまり上手くいきませんでした。

15分、一つ目の試行

そこで16分あたりから岩尾を最終ラインに落とす3-2-5気味の配置を試します。

トレーニングで「この形もあるよ」と提示されていた、とのことですが、それを実行に移しました。

柏の前の2枚に対して3枚を確保して柏のインサイドハーフを釣り出し、残りの2枚の中盤を留めながらその脇を攻略する意図があったのではと思います。

また、岩尾がCB間の中継地点になることでボールが横に移動する経路を確保する狙いもあったでしょう。

実際に、3-2-5を始めた直後のシーンではサイドに開いたショルツにボールが渡ると相手のインサイドハーフを釣り出し、空いたMF-DFライン間に斜めのパスを刺してスルー&落としのパスで良い前進ができました。

プレビュー動画でもお伝えした通り、人への意識が強い柏ですのでこういったポジションを横に変えていく動きは有効です。

ただ3枚への可変段階でCBの距離が開ききらないなどの問題や、ボランチの立ち位置に入った小泉と敦樹が相手を留めてはいるけど、自分たちもフリーになれないということで、有利には働いたけど決定打になるような修正ではなかったと思います。

30分、二つ目の試行

次の段階として30分ごろから3-2-5と3-1-6の中間、のような配置を行き来するようになったと思います。

岩尾が最終ラインに降りることはありますが、あくまで状況を見て横の移動経路を確保するためにして、2.5枚のようなイメージにします。

また、小泉が完全にボランチの位置に下がるのではなく、マテウス・サヴィオ、つまりインサイドハーフ裏のスペースを狙い始めました。

0.5列上げる

3-2-5をセットしたままだと、脇をとっても前線5枚で柏の5枚の迎撃守備を剥がす必要がありました。

しかし、この修正で今度は小泉が相手のインサイドハーフとWBに影響を与えることができるようになったと思います。

岩尾と小泉が0.5列ずつ上げたようなイメージですね。

5-3-2の3の裏や脇に入ってくる小泉に対して、柏のWBが迎撃に出れば最終ラインを4枚に減らすことができ、それを5枚で攻略するチャンスが生まれます。

出てこなければ、柏はわずか3人でピッチの横幅をカバーしなければいけないので、相当な不利を被りますし、かなりの運動量が要求されます。

33:50のシーンではまさに、その位置でボールを受けた小泉から興梠への裏抜けのパスが通りました。

このシーンでもファールを取られたように興梠はこの日の主審とちょっと相性が悪く、リズムを掴めていないかなと思いましたが、前半終了間際に先制点。

整えた構造

最終ラインを経由して右サイドから左サイドへ、横のボール移動ができたことで、相手の陣形にスライドを強要させました。

柏の5-3-2というシステム上、中盤から前で横のスライドを補うのは難しく、インサイドハーフ横に入った小泉に対してWBの戸嶋がチェックする動きを見せます。

この結果として柏の最終ラインは横へのスライドをしながら4枚に減っている、という盤面が出来上がりました。

ここでマリウスから明本へのパスが入り、一個ずつズレた柏の最終ラインの間を使ってゴール。

もちろん個人の技術も詰まっています。

しかし、その個人の技術が発揮される場面が作られまでのプロセスとして、試合の入りから15分、30分と経過する中で試合展開を見極めつつ、ピッチ上の選手たちがトレーニングで提示されていたものを試しながら攻略を図った成果だと思います。

狙い通りのサイドチェンジ

また、スローインなどから逆サイドに振って相手を動かし、その結果空いた陣形の間や裏を攻撃するというのは今季狙ってやれていることで、今回も同じことができたのは非常にポジティブです。

神戸戦の敦樹のゴールもこの形ですね。

チームとして狙っていることを実現するための「引き出し」はトレーニングで提示されていて、試合が始まれば展開に合わせて選手がチョイスして試していく。

今はその循環が良い結果をもたらしています。

TOPIC3 - 試合を決定付けたベンチワーク

前半のうちにピッチ内で修正をかけながら得点までできた浦和ですが、修正によって完全に試合を優位にした、とは言えない状況ではありました。

しかし、ハーフタイムを経るとその優位はより強くすることができたと思います。

柏がビハインドになったことでボールを奪いに出ていく必要があるという要素もありましたが、後半から浦和は相手のインサイドハーフ周辺をより狙い撃ちします。

移動距離を長く

そのために、浦和は柏を自陣深くまで釣り出しを狙いました。

前半に比べて、ゴールキーパーの西川の位置まで戻す回数が明確に増えます。

中央の中継地点を西川と岩尾で分担しつつ、CBをよりサイドに開かせることが増えました。

これにより、柏のプレッシングは移動する距離が長くなります。

もちろん2トップだけでは無理なので、インサイドハーフが1列目に参加することが増えるわけですね。

すると次は、その周囲のスペースが空きやすくなるわけで、柏としてはWBかCBを迎撃に出したいはずでした。

しかし浦和は代わりにSBの立ち位置を最前線に上げることが多く、柏のWBを牽制。

相手のインサイドハーフの飛び出しが合図

さらにインサイドハーフ周囲に最初から配置するのではなく、インサイドハーフが前にいったことを合図に、小泉や敦樹が大胆に移動して並行のパスを受けるやり方でした。

横に移動して縦のパスコースを確保する、フットサルなどで”パラレラ”と呼ばれる動きのようですが、スコルジャ体制下ではこれをトレーニングから仕込んでいるという情報もあります。

また、ボールサイドには逆のサイドハーフが中央に入ることで相手のCBに人数を合わせ、前ズレを抑制できていました。

例えば右からの前進が多かったですが、左サイドハーフの関根が中央に位置していることが多かったです。

これにより、インサイドハーフ周囲に横の移動で入ってくる小泉や敦樹、そして前後の動きで入ってくる興梠と大久保に対して、柏はアンカーの高嶺が頑張るしかない、という厳しい状況に追い込むことができました。

負担をかけ続けた

ハーフタイムの修正は非常に効果的で、後半開始直後から相手に長い距離を追わせることができましたし、前半もある程度走らせていたので、柏の選手、特に中盤から前の選手は55分あたりから運動量がガクッと落ちました。

興梠に頼りすぎない前進経路を安定して確保できたこともあり、これを見たベンチはすぐにリンセンを準備、さらにシャルクと安居を投入して前への推進力をより高めます。

選手交代後も柏の構造を直接叩くような攻撃は問題なくやれていました。

同じ狙い・構図で追加点

2点目は大きく開いたショルツに、インサイドハーフの山田が出てきたことを合図に敦樹が中央から横へ移動、大久保とのコンビネーションで中盤を打破した場面です。

3点目は明本にマテウス・サヴィオが出たことを合図に、これも安居が”パラレラ”の動きで横移動で入ってきます。

ここに付いてくるのはやはり高嶺でしたが、アンカーの選手がここまでスライドをせざるを得ない時点で後手になることは明白です。

安居がかわして前進、そこから裏へ、前へ、の意識も素晴らしく、最後は明本の2試合連続ボレーで締めました。

この時の高嶺の様子を見れば、浦和がかなり大きな負担を押し付けることに成功していたことがわかると思います。

まとめ

昨年のホームに続き、複数得点で6年ぶりのリーグ4連勝となりました。

ネルシーニョ監督は構造の変化で修正を加えるよりは、人を替えることで補強していくタイプの監督です。

なので、その構造自体を効果的に攻撃できれば何度も同じような形でチャンスが生まれますし、浦和は構造を変えることでその狙いを実現していけるチームなので相性が良かったと思います。

岩尾と小泉の影響や貢献は大きそうではありますが、前節でもお伝えしたようにピッチ上での解決が進んでいることは非常に見応えがあります。

浦和は次節のアウェイ名古屋戦を経て、ついに埼スタに帰還します。5連勝して最高の雰囲気で迎えたいですね。




浦和レッズについて考えたこと

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