この記事でわかること
• 浦和のプレッシング、準備と修正
• 浦和の相手を揺さぶる攻撃
• 後半の試合の進め方
今回はJ1第5節、アルビレックス新潟戦のマッチレビューになります。
ホームに今季無敗と好調の新潟を迎えましたが、逆転勝利で3連勝を収めました。
あまり嵌まらなかったプレッシングの準備とその修正、2得点に繋がった浦和の意図的な攻撃と、リードを活かした後半のコントロールについて見ていきます。
TOPIC1 - 浦和のプレッシング、準備と修正
1つ目はプレッシングの準備と修正について見ていきます。
試合の入りは浦和がボールを持ってスタートするシーンが多く、まずはボール保持と攻守の切り替えの局面が多くなり、悪くない入りでした。
しかし一旦試合が落ち着き、新潟がボールを保持する局面からスタートすることが増えましたが、浦和の準備してきたプレッシングが嵌らない場面が目立ち始めます。
新潟対策のフラット維持
新潟は後方からのビルドアップで相手を引き出したり、サイドの密集から逆サイドへの解放でスペースを作り、攻め込むことに特長があるチームでした。
また、伊藤涼太郎が好調ということもあり、浦和は新潟対策を加えて試合に入りました。
通常であれば前からの誘導と規制、スイッチに合わせてボランチ2枚とも相手やサイドに寄ることも厭わず、布陣を崩してボールを奪いに行く浦和ですが、4-4-2の布陣をフラットのまま維持することが多かったと思います。
おそらく中央のエリア、涼太郎がプレーする場所を無闇に空けたくない意図があったのだと思います。
島田を捕まえられず
しかし、結果としては新潟のアンカー的な役割を担った島田を解放することに繋がりました。
フラットを維持するということは、後方からボールや人へアタックするタイミングが遅くなったり、合わなくなったりするリスクもあります。
もちろんそれを考慮した準備をしてきたはずですが、序盤はハマったとは言い難い状況でした。
ハイプレスがハイ
試合後の会見で「ハイプレスがハイになりすぎた」とスコルジャが評価していましたが、この試合の入り方的には2トップが追いすぎたという意味かもしれません。
新潟は4バックを維持しつつ、ゴールキーパーの小島とアンカーの島田で頂点を作る菱形を形成。
浦和は開いたCBとGKに2トップでプレッシングを仕掛けますが、2人の間・背後に位置取る島田を消すことはできませんでした。
新潟はGKから開いたSBへ付けるパスもあり、浦和は横の幅を2トップ+サイドハーフの1人を1列目とする3人で守る必要があったことも要因してはありそうです。
しかし前からプレッシングをかける以上、1列目の間を割られたうえで、前を向かれることは最も避けたいことです。
それを避けることができず、前からプレッシングを仕掛けているけど、新潟に回避されて前進をされる、という展開になりました。
10分に喫した失点も同様で、島田を消すことができず、サイドの密集から逆サイドへという、プレビュー動画でもお伝えした、警戒したい攻撃を許しました。
ゴール自体はディフレクションもあって不運でしたが、ゴール前までの持って行かれ方は不運ではなく、起こるべくして起こった展開でした。
走らされてイージーミス
失点後、無理して攻めなくて良い新潟が後方で繋ぎ、浦和を走らせるような展開が続いたことでミスも増えました。
しかし次のトピックで触れるボール保持局面からの攻守の切り替えで徐々に主導権を握り返しつつ、合わせてプレッシングの形も徐々に変更していきます。
具体的には4-4-2のフラットな布陣から、いつも通り布陣を崩しても良い、というバランスに修正したと思います。
陣形を崩して前へ
サッカーはゴールによって個人や全体の動きが変わることは往々にしてありますが、1得点目後の42分、相手のゴールキック時に敦樹がアンカーまで出て行ってそのままキーパーまで詰めているシーンは顕著な例です。
前に行くのは敦樹が多くはなりますが、それに合わせて2トップのどちらかや1列目に出たサイドハーフと役割を受け渡しながら嵌め込むこともあり、序盤のようにアンカーを使われて進まれるシーンは少なくなりました。
最終ラインはリスクをかける
その分、例えば新潟の右サイドにボールがある場合は対角の涼太郎が浮きやすくなりますが、前から嵌め込んでいくことでそのコースを消せていたり、最終ラインが晒される形でもショルツが見ておくという分担になりました。
裁量権の大きい職場です
この修正が明確にベンチから伝わった様子は筆者が見た限り確認できませんでしたが、ピッチ内の選手で修正する意識もありそうです。
酒井のコメントとして、スコルジャは比較的選手に自由を与えるという記事が出ています。
方向性は示されているが、必ずしもそれをやらないといけない、とは言われないとのこと。
「自由」というと戦術や規律が薄いように感じるかもしれませんが、あくまで方向性、判断基準は示した上でプレー選択をしてもらう。
「自由」というより、選手に「裁量」が与えられている、という方がイメージしやすいかもしれません。
また、酒井が試合後に「選手が大人になってきた」というコメントもしています。
今回の修正もピッチ内の選手で動きに変化を加えて周囲と合わせたり、そういう流れだったのかもしれませんし、試合後の会見でスコルジャが「通常の守り方に戻した」と発言しているので、多少の指示はあったかもしれません。
いずれにしても選手に与えられた裁量と責任によって、自発的な修正や変更が出やすい側面がありそうです。
守備だけでなく攻撃など、裁量を与えられている選手たちが戦術の方向性を履き違えない範疇でどう振る舞うかは今後も注目すべきポイントでしょう。
TOPIC2 - 相手を揺さぶる攻撃
2つ目は相手を揺さぶる浦和の攻撃について見ていきます。
立ち上がりからチャンスを作っていたように、新潟に対する浦和の攻撃は良い形は作れるシーンも多かったと思います。
まず新潟の守備を見てみると、4-4-2のブロックを組み、前節と同様に2トップが縦関係気味になることも多かったと思います。
前節の川崎戦ではこれにスピードのあるサイドハーフが、相手の開いたCBやSBなどに猛然とプレスを仕掛ける場面もありました。
サイドハーフを抑制する
ただ浦和はそれを抑制することができたと思います。
その要因としては、サイドバックや相手の中盤に対する前線の立ち位置が挙げられるでしょうか。
プレビュー動画でもビルドアップの段階で相手のサイドハーフに複数の選択肢を与えて、プレッシングの勢いを削ぐ必要があるとお伝えしましたが、それがうまくできたと思います。
サイドバックの位置
今季の開幕直後は前への意識が強すぎたのか、サイドバック、特に酒井が早めに前線へ行ってしまう場面が多かったです。
しかしここ数戦では、よりボールと一緒に進むようなバランスが取れていると感じます。
この試合でも基本は2CBと岩尾を中心としたビルドアップにはなりますが、浦和はサイドバックやサイドハーフの選手らが新潟のサイドハーフのやや背後あたりにポジショニング。
背中をケアさせることで開いたショルツやマリウスに対して、新潟のサイドハーフが前に出て行くことを抑制できていたと思います。
岩尾も含めてビルドアップ隊が窮屈になってしまうようなシーンは少なかったと思いますし、岩尾が自身の場所を調整して新潟の1〜2枚の1列目に対して2〜3枚になることで、横のボール移動も実現。
相手を横に振りながら縦に進む機会を伺う、狙い通りの攻めができたと思います。
引き出して裏
次の攻略としては、特に前半は相手の中盤と最終ラインを引き出して裏を取ることが多かったと思います。
新潟は4-4-2、もしくは4-2-3-1を組んだところから、後方の選手を前にズラすことも許容して前に出ていく守備をしてきます。
浦和はこれに対して興梠や小泉が降りる動きで相手を釣り出してスペースを作り、前進を図る場面を出せていました。
また、ボールを横に移動して新潟のスライドを発生させた過程で生まれた相手の陣形の間に大久保や関根、潜っていく敦樹が受け手として振る舞うこともありました。
縦横に揺さぶった1得点目
同点ゴールのシーンでは縦関係になる新潟の2トップに対してマリウスがしっかりと距離を取ることができていますし、最初の段階では小泉が新潟のサイドハーフ裏で顔を出せています。
その分、明本は一番高い位置にいます。
この後、興梠が降りてきて相手のボランチを引きつけると、その裏に小泉も降りてきて相手のサイドバックを引き付けます。
その結果、高い位置へと侵入した大外の明本が空いたことで相手陣内の奥まで侵入に成功。
マリウスのボールの持ち方、右足も使ったボールコントロールも見事でした。
相手陣内の奥に侵入すると、新潟はもちろん撤退してきます。
つまり縦軸で移動してくるわけですが、これに対して次はサイドチェンジで横に振ります。
横のスライドを強要したのち、酒井から再び逆側方向への横パスで敦樹に渡ると、この瞬間に新潟の陣形、サイドハーフとボランチの間に穴が開きました。
ここですかさずそのコースに入った大久保へ縦のパス。関根も落としのパスを受けるためのランニングができていました。
ここで一発でシュートまではいけませんでしたが、その後の酒井のゴールまで繋がります。
少ない人数でビルドアップをしながら、新潟のブロックを前に引き出して裏を取り、相手陣内の奥からサイドチェンジを絡めて相手のブロックに穴を開けると縦に刺して一気にスピードアップ。
こぼれ球を拾えて、関わった選手のシュート意識も高い、という流れです。
もっと再現性高く、確率の高そうなシュートまで繋げるためのクオリティはまだまだではあるものの、浦和が今季目指していることや、新潟の弱点と思われた部分を突いた良い攻撃でした。
ガチャガチャしたとこで負けない
また、この試合を通してですが、こういったガチャっとなった局面で負けないことが多いのもポジティブです。
個人個人の強さもそうですが、いわゆるこぼれ球に対してアプローチできる味方を近くに配置できていて、回収しているというのは「次のプレーを予測することが重要」「すぐにボールを奪い返す。なるべく相手陣内の奥で」とスコルジャが就任会見で話していた狙い通りのはずです。
相手陣内でプレーした2得点目
2得点目のコーナーキックはフリーキックからの流れで獲得したものです。
そのフリーキックを獲得した時の攻撃 (43分30秒あたりから)も、CBに加えて岩尾と明本や小泉でサポートを調整しつつ最終ラインがプレーする時間を得ることができています。
相手のMFラインの間から興梠らが顔を出して実際にパスを入れる部分と、それによって相手のサイドハーフに影響を与えられているので、外に開いた最終ラインの味方、この場面ではショルツが余裕を持ってプレーできています。
アンカーポジションに人も置けているので新潟の2トップは縦関係になっており、新潟のサイドハーフに対しても前に出づらい状況を作れています。
裏に切り替える動き
ショルツは運ぶドリブルを開始した際には、それまで新潟のMFラインの間で顔を出していた選手たちが一気に裏を狙う動きを出せています。
これによって新潟のブロックを一気に押し下げられ、ハーフウェイラインあたりから相手陣内に浦和がセットできました。
岩尾から酒井に縦パスが入った段階でボールを失うリスクのある攻撃を仕掛け、ボールを失いますが、相手陣内で切り替えの守備を実行できます。
狙い通り回収して再び相手陣内でプレーすると、フリーキックを得て、ショルツの惜しいヘディングシュートまで。
そこで得たコーナーキックから逆転に成功しました。
狙い通りのセットプレー
新潟はゾーンとマンマークの併用でしたが、他のコーナーキックも含めてファーサイドを重点的に狙っていました。
セットプレー担当である前迫コーチのデザイン通りだったでしょう。
TOPIC3 - 試合の抑え方
3つ目は後半の試合の抑え方について話していきます。
リードして後半に入った浦和ですが、試合の運び方、抑え方が良かったと思います。
リードを活かす
こちらもスコルジャの試合後会見で言及されている通り、浦和は例えば最初からゴールキーパーまでプレッシングに出ていくのではなく、ミドルゾーンで構えて機会を伺いながらプレッシングを仕掛ける体制になりました。
新潟が良い攻撃をする時は相手を手前に引き出したり、サイドの密集で寄せたりした後に、広いスペースへ展開した時です。
リードしている浦和がわざわざそのスペースを提供するようなリスクを積極的に差し出す意味はありません。
もちろん受けに回ってしまうと低い位置でのプレーが増えるので、ミドルゾーンで構えながら例えば相手のプレー方向、バックパスに対して一気にプレッシングラインを上げていくことなどは狙っていたはずです。
ただこちらもスコルジャの評価を見れば、想定通りとはいきませんでした。
雨によって想定以上に疲労があった側面もあると思いますし、失点のやられ方も含めて前に出づらかったかもしれません。
ただ島田を始めとした相手のボランチへの対応も前半の修正によって継続できていましたし、前から行こうとした場面もそれなりにありました。
ただそこで嵌めきれない場面は多いかなという印象。しかしその後の対応においては、逆サイドの絞り方、回避された人の戻り方も含めてほぼ問題を起こさずにできたと思います。
根本的には前から嵌め込み切れるクオリティがもっと必要ではあります。
ただそれができなかった時の対応に安定感が出てきたことと、自陣守備の強固さをベースに失点してしまうことも減ってきました。
それにより、勝ちながら改善していけることに越したことはないですね。
セカンドボール回収は準備次第
ボール保持においても、後半も安定したと思います。
入りは酒井への長めのボールの比率が増えたように思いますが、この辺りのチーム内の認識のズレは開幕のころに比べて少なくなっています。
もちろんビルドアップはしますし、ショルツとマリウスに岩尾が調整に入ることをベースにしていますが、長めのボールを蹴るタイミングも合わせられていると感じます。
この試合では敦樹や大久保らがセカンドボールを回収するための位置取りができていることで、実際に回収できています。
セカンドボール、こぼれ球の回収の成功率は、それに対する準備で変わります。
セカンドボールが発生しそうな攻撃を仕掛けるタイミングをチームで共有できていれば、その場所に人を配置して回収に備えることができるからです。
個人個人のデュエル、球際の強さも重要ですが、この試合では概ね相手に勝っていたと言えると思います。
前半の良い部分は継続
ボール保持面では引き続き、相手を横に動かしながら相手の間に入って縦にいく部分や、引き出したボランチの裏に落としていくことなどもできていて、相手陣内への侵入はできていたと思います。
そこから切り替えの守備で次の攻撃に繋げることなど、選手交代によって運動量や強度を確保して継続できていました。
やはり足りないのはそこから決定的なシュートに繋げる部分であり、これは引き続き改善を見守っていくしかないでしょう。
時間の経過とともに落ちてくる新潟
新潟はもともと時間の経過とともに運動量が低下し、攻守ともに立ち位置の取り直しや技術的な精度が落ちてくる傾向があったのはプレビュー動画でもお伝えした通りです。
時間の経過と、選手交代によってゴメスとネスカウが入ったことによりプレッシングの精度や連動性が落ちたことに対して、浦和は岩尾を中心に地上戦で繋ぎながら無駄走りさせるような展開も作れていました。
ゴメスの西川へのファールはそのストレスの表れでしょう。
前半から相手のサイドハーフの抑制にも成功していましたし、相手のハイプレスは抑えることに成功したと言って良いと思います。
本当に強いチームになるために
後半はリードした展開を活かして試合を進められたと思います。
特に後半は新潟にチャンスらしいチャンスは作らせず、良い試合の収め方、試合展開の作り方ができたと思います。
繰り返しにはなりますが、シュートまでのクオリティが上がってくればこういう展開で3点目、4点目を仕留めて試合を終わらせることができるはずです。
そうすれば、本当の意味で強いチームになっていけると思います。
まとめ - 大人なチームに
またも無敗の好調チーム相手に勝利、そして逆転勝利という展開で3連勝となりました。
試合後にスコルジャが話していたように、全ての面においてクオリティはまだまだだと思います。
ただその改善を勝ちながら行えるに越したことはありません。
自陣のブロックを組んだ守備は昨年から安定感はありましたが、それをベースに勝ち点を積みながら進めていることはポジティブですね。
そして選手により裁量を与えらているということは、責任も与えられるということです。
酒井の言葉を借りれば、「大人な選手」にみんながなっていくことで、ピッチ上で能動的に行動していける、強者のチームになっていくことを期待します。