この記事でわかること
- 緊急事態の浦和がとった選択
- 「質的優位」を活かす
- 布石の必要性
- 一辺倒にならないために
浦和レッズの戦術を分析して試合を振り返るマッチレビュー。今回はJ1第1節、京都サンガ戦です。
COVID陽性判定選手を抱えた浦和は厳しい事情の中、京都へ乗り込みました。
結果は1-0の敗戦。内容については事情を鑑みても悪くはなかったと思います。
ただし、いつもより積極的にロングボール蹴った印象があるのではないでしょうか。
それにはリカルドが採用したゲームプランがありました。
その狙いと、プランをより効果的に活用するために必要だったこと、小泉投入後の変化を中心に解説します。
京都の守備、浦和の選択
昇格組の京都はチョウ・キジェ監督のチームらしく、ハイプレスを仕掛けてくるチームでした。
4-3-3の配置からスタートはしますが、縦に分割した5レーンの中央レーンを基準に狭く、そして高くプレーエリアを設定します。
他の選手のような運動量があるわけではないウタカも合理的に組み込まれており、前線からのチェイスはWGがウタカを追い越して行う仕組み。
どちらかというと右WGの武富が一番前の守備ラインに参加することが多く、左のIHもが上がり気味で浦和のアンカー捕まえます。
常に前向きな守備を標榜し、そのために陣形を縦横に狭くする。当然、一旦外されたら大ピンチなので、相当な運動量でプレスバック・カバーすることも課されています。
浦和の選択
これに対する浦和の選択は、長めのボールを多用すること。
相手のSBに対し、高さや強さで勝る明本と酒井を意図的にマッチアップさせ、質的優位(選手同士の力量差や特徴の差で得る優位性)を発揮させました。
京都のハイプレスを真正面から受ける、つまり相手の土俵に立つことは避けたわけです。
この選択の裏には当然、COVID陽性判定の影響でメンバーが揃わなかったこともあります。
特に平野と岩尾、どちらも起用できない状態であったと推測できることは、ゲームプランを構築するうえでの大きな要因になったでしょう。
筆者は現地観戦しましたが、ピッチ状態が良いとは言えない状態だったので、試合が始まってからのプレー選択にも影響を及ぼしたと思われます。
相手チームと自チームの状況や戦力、特徴を比較したうえでの今回のゲームプランは一定の成果を残したと思います。
相手のハイプレスに正面から嵌ってしまうことはなかったですし、相手が人数をかけたいエリアを飛ばしてしまい、特長を発揮しづらい状況にある程度持って行けたのではないでしょうか。
明本や酒井は空中戦や裏抜けの場面で1vs1になる場面が多く、そのほとんどを制し、実際にシュートの場面まで繋がることもありました。
プランを活かすための布石
一方で、質的優位を発揮できた割には良い攻撃に繋げ切れない場面も見受けられました。
明本や酒井が競り合ったあとのセカンドボールを京都に拾われる場面も多かったです。
セカンドボールの競り合いは球際の強度や反応の早さなど、選手個々人の意識が課題として挙げられます。
しかし、その前に回収できる準備ができているかどうかが重要です。強度やスキル、反応はその後の話で、回収部隊となり得るポジショニングが取れているかが出発点になります。
準備の内容を箇条書きにすれば、以下のようになるでしょうか。
- 回収部隊となる味方が、競り合いポイントの近くに立ち位置を取れているか
- 回収部隊の準備ができている状態でロングボールを蹴る選択できているか
- 相手の回収部隊を競り合いポイントから引き離せているか
特に、相手の回収部隊と競り合いポイントの距離を十分に離すことができていたか、という点では課題が残ったと思います。
相手をこちら側に十分に引き出す前に長いボールを蹴ってしまうと、ただでさえプレスバックの速い京都の中盤が良い状態でセカンドボールの争奪戦に参加することができます。
逆に、相手を十分に引き出せていた14:00や20:21のシーンでは実際にチャンスに繋がっています。
右サイドから岩波や西川までボールを下げてロングボールを蹴ることで、明本のアイソレーション(あえて孤立させ、1vs1の局面を作る戦術)や、馬渡のインナーラップによる2vs1の数的優位を得たシーンです。
ロングボールを受けやすいだけでなく、サイドや前に圧縮に出かけた京都の中盤には戻ってくる時間が必要なため、次の崩しの局面でも大きなスペースがあり、シュートまで持っていきやすい状況でした。
構造上空きやすい場所
WGの質的優位+相手を引き出すことができると、別の効果もあります。
散々ロングボールを当てられているSBが、縦にズレていくことを抑制できること。
特に浦和の左サイドでは明本がこの試合のプランによって高い位置をキープしていたので、いわゆるピン留めの状態になる場面が多かったです。
この状態で相手を前に、つまり京都右WGの武富を浦和のDFラインへ引き出すことができれば、その背後が空きやすくなります。
中盤がその裏をカバーする役割を担っていそうでしたが、3人でピッチの横幅を埋めることは難しいので、時間とスペースが出来やすいのは事実。
42:00のシーンでは右サイドから西川へバックパスすることで相手のハイプレスを引き出し、馬渡がその場所でフリーになりました。
この事象はこの後解説する後半のチャンスシーンとも密接に関わっています。
ロングボールを活かすために
こういった結果を見ると、ロングボールを活かすための前段階として、もう少し繋いで相手を引き出すことにトライしても良かったのかもしれません。
これはピッチ内に感じていた選手もいたようでした。
25分前後にゴールキックが3回ほど連続したシーンで、西川は全てロングボールでスタートしました。
そのうちの3回目に印象的な出来事がありました。江坂が「繋げるから繋ごうよ」という趣旨の声がけ。
セカンドボールの回収で完全に上回っていたかと問われれば答えはNOなので、こういったトライも必要だったと思います。
江坂や犬飼からはそういった意思を感じました。
事前のゲームプランは織り込みつつも戦況を見極めながら少し違うことをして様子を見る選択肢を取れるようになれば、より相手を見て、相手にダメージを与えられるのではないでしょうか。
ボールを奪う守備のリスク
そんな中、後半開始早々に失点。
スローインから、ちょうどスーパーカップで浦和が得点したような流れでした。
自陣ゴール付近で2回、ボールを取りに行く守備をして前方に外されてしまっては、失点シーンのような場面が作られるのは当然でしょう。
守備にはゴールを守る守備とボールを奪う守備があるとよく言われますが、ボールを奪いに行ってしまい、ゴールを守る守備ができずに失点してしましました。
ゴール以外の仕事も高いレベルでこなしながら、少ないチャンスを決め切るウタカの凄さも当然ありますが。
小泉投入後、繋ぐ浦和
リードを許したこと、60分に無理にでも繋ぐ小泉という個が入ったことで、浦和はビルドアップを地上戦から始めることに切り替えます。
前半は明本や酒井へのロングボールが第一の選択肢となっていましたが、西川から始まる際もまずは繋ぐことを目指しました。
その結果は交代直後から現れます。
61:30のシーンではボールを持った西川から繋いでスタートします。
京都のハイプレスを誘った結果、前述した構造上フリーになりやすい中盤横で、酒井が浮くことに成功しました。
そこから外→外で関根が相手SBと1vs1の状況になり、独力突破。
このように晒す状況を作れば、浦和の選手の方がクオリティは上なので質的優位を存分に発揮することができます。
以降、74分のゴールキックや、粘り強くやり直して繋いだ75:30など、後方での繋ぎを"エサ"にして浮いたSBを経由して前進していく方法は可能性を感じさせました。
しかし、82:00の小泉のシーンなど、最後の局面に差し掛かるところでコントロールがズレることが多く、ゴールに繋げることはできず。
0-1の敗戦を喫しました。
まとめ - 一辺倒にならず柔軟性を持てるか
リカルドは様々な要素を考慮してこのゲームプランを採用しましたし、それで結果を残せる可能性は十分にあったと思える内容でした。
一方で、ロングボールを活用することが第一の選択肢になりすぎたような、プランに引っ張られすぎた印象もあります。
当然、岩尾や平野がいなかったこと、劣悪なピッチコンディションなどの要素から、事故的な失点をしていればそれはそれで失敗となるでしょう。
しかし、明本や酒井の質的優位を活かしたロングボールを最大限活用するためにも、もう少し相手のハイプレスを誘発した方が良かったという印象です。
複数の選択肢を持つ、突きつける
相手に複数の選択肢を突きつけることがリカルドのサッカーの狙いのひとつですから、ハイプレス空転のロングボール、質的優位の発揮を狙ったプランでも、それをより活かす誘いは必要だったと思います。
後半からサイドバックが浮きやすくなったように、最前線と手前での前進方法を突きつけることは、相互作用を生み出します。
特にバックパスによるやり直しをもっと利用しても良かったでしょう。
この試合に至るまでの経緯、それを考慮したプラン、ピッチ状態など、ナーバスになる要素は多分にありましたが、保持して相手を引き出す比率は高めるべきだったという認識だと思います。
ただ、ポジショニングについては攻守両面において少しよくない部分がありました。もう少し忍耐強くボールを保持できればというところでしたが、相手のハイプレスがある中でのプレーでもありました。
小泉佳穂選手が入ってからは、ボールを保持することができたのですが、勝ち点3を得ることができませんでした
ただし、そこで事故が起きて失点していたらそれはそれでゲームを壊してしまう可能性があるので、あくまで結果論ではあります。
最大限の強度
本文中では触れませんでしたが、攻守の切り替えと中盤の強度で勝れば一気にチャンスを迎える場面も多かったです。
これは京都のプレースタイルと浦和の選択により、中盤での切り替えが多発したいわゆるトランジションゲームの様相を呈していたからでした。
この局面において、互角以上の戦いはできていたと思います。週1日目のトレーニングの中止を余儀なくされた中で、最大限の戦いを見せてくれました。
今季の狙いは優勝
一方で、今季の浦和が目指すものは優勝です。
試合後のリカルドが話していたように、我々は浦和レッズであり、このような状況下だとしても勝ち点0は失敗です。最低でも勝ち点を奪わないと到底叶う目標ではないからです。
過剰にネガティブになることは良い結果を生まないと思いますが、今季の目標を考えれば勝ち点は奪わなければダメだという雰囲気を作ることは大事だと思っています。
サポーターがやることとしては、今年は当然優勝だよな?って雰囲気をシーズン中ずっと維持していくのが大事になりそうだ
— KM | 浦和戦術分析 (@maybe_km) February 17, 2022
もっとも、現場が一番わかっていることでしょう。
選手離脱の要因上、厳しい過密日程が続く3月中旬までメンバーの復帰は見込めません。
しかし、優勝を目指すうえでホームでの勝ち点3は「当然のこと」になります。
これ以上の離脱者が出ないことを祈りつつ、ホーム開幕連戦での「結果」に期待したいと思います。
厳しい事情ながら、勝てる試合を落とした開幕節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!
📝戦術分析レビュー
— KM | 浦和戦術分析 (@maybe_km) February 22, 2022
柔軟性を持てるか - 2022 J1 第1節 #京都サンガ vs #浦和レッズ
⏰読了まで:約5分
◆京都の守備と浦和のゲームプラン
◆プラン活用へ布石の必要性
◆優勝するためには
♦️京都戦RV、書きました。感想・意見ぜひ引用ツイートで!#urawareds #sangahttps://t.co/2ucIrOMm4c