前半も後半も極端にテンションが振れた試合だったので感想をまとめるのも難しいですが、まずメンバー選考のところから見て行くと、昨年11月のホーム戦ではマリノスの保持の完成度へのリスペクトから4-5-1の並びにして、非保持をベースにしたプランで挑みました。
この試合では非保持は4-4-2かつ、自分たちもボールを持ちたいというスタンスから試合に入ったので、イメージとしては昨年3月のアウェー戦のリベンジという見方も出来そうです。また、江坂と敦樹がメンバー外ということで中2日での鹿島戦も睨んでいたでしょう。
浦和はCBが右ショルツ、左岩波になりましたが、この試合では岩波を左に配置している理由がきちんと前半から表現されていました。10'55は馬渡が裏に抜け出すときにファウルを取られてしまいましたが、内側に絞った右SHの小泉へのボールの差し込み方を見ると、対マリノスのプレッシングに対して用意してきたものが見えたと思います。先に図を出しておきます。
マリノスは前線の4人が積極的に前向きにプレッシングをしていきますが、矢印は基本的に縦方向になることが多いです。前からプレッシングを受けるときになるべくボールを相手から遠ざけて持とうとすると、縦パスを出すことは難しく、斜めか横のパスが増えやすくなります。
岩波が右足を引いてボールを持つと、パスを出せる方向が右サイドに限定されはするのですが、小泉をトップ下ではなくSHでスタートさせたことによって、前線中央からハーフレーンに下りながらではなく、中盤の外からハーフレーンに入ってくるというのが大事なポイントですね。平野がへその位置にいることと、トップ下にシャルクがいることで中央に人がいる状態になり、喜田と渡辺は中央を埋めるところからスタートしたくなると思います。
マリノスのCHを中央へ引き付けつつ、岩波が相手から右足を遠ざけてボールを持つと小泉への花道が出来るので、10'55は馬渡がちょっと早めに小池に近づいてしまったのでぶつかってファウルになってしまいましたが、ビルドアップの形としては狙い通りだったと思います。
失点後の13'20には、小泉がターンできなかったもののレイオフで平野に前向きでボールを持たせることに成功しています。ただ、この場面は平野と馬渡の呼吸が合わずにボールを失ってしまいました。このように、狙っている場所でボールをつけることは何度かで来ていたのですが、それがなかなかチャンスにならない間に2失点してしまったことはとても痛かったですね。
非保持は4-4-2の並びでスタートしつつ、押し込まれると関根が早めに最終ラインの外側に落ちて5-3-2のような形になることが多かったと思います。WGが高い位置で幅を取ることでハーフレーンを開けようとするマリノスへ対抗しようとしたのかなと。
左は関根が下りてくるので明本が外に開かずに済んでハーフレーンは埋まりやすいのですが、右は馬渡と小泉のどちらが外をケアするのかは定めていなかったように思います。
そこは、岩波とショルツを比べた時にショルツの方が広範囲にカバーリングできるよねという点と、小泉と関根を比べた時に関根は昨年もこのようなSH兼WBのタスクをこなしてくれているので、後ろ向きに何度も走らせるような高カロリーなタスクは関根の方が良いよねという点があったのでしょう。
ただ、失点はいずれも内外の役割が決まっていない馬渡&小泉のサイドからでした。1失点目はシャルクとユンカーの間のところで喜田を経由して逆サイドへ振られてしまったというのがそもそも痛かった点ですが、マリノスおなじみの高い位置で幅を取るWGにボールを当てることで広がった相手DFの隙間に選手が飛び出していくという形に持っていかれると、最初からハーフレーンを埋める担当が決まっていない浦和の右サイドは後手に回りやすかったと思います。
それでも、上図のようにマリノスは内側に多くの選択肢を持つようなポジションを取るので、浦和が得意とする相手をどんどん外レーンへ追いやっていくプレッシングが出来た時にはSBが内側にボールを入れようとしたところを平野、柴戸で回収できる場面を何度も作れていました。
2失点目は浦和から見て左から右へボールが移動してきたときに小泉がこのリサイクルを押し返す(ボールが来たサイドへ戻させる)のではなく、内側にポジションを取った小池へのコースを埋めてから外にいる宮市の対応に行きました。小泉が少し後ろ向きになりながら対応するなら、内側を小泉が塞いでいる状態で外の宮市へボールが入ったのだから、馬渡が外へ前向きに出て行った方が矢印の出し方が良かったのでは?と思ったり。
23分あたりにボールが切れたタイミングでスタートから5-3-2になるように配置変更したように思いますが、これに合わせて保持でも明本を最終ラインに残しながらビルドアップをするようになりました。
浦和の2CBに対して西村とアンデルソンロペスが寄せて、浦和の両SBが早めに外へ開く分、マリノスはWGが前を覗く意識が少なく済むのもあって徐々に岩波→小泉の花道が塞がれてきたことも配置変更の要因としてあったかもしれません。
ただ、マリノスは相手のビルドアップが3枚になるならCF+WGの3枚でハメに行くというプランBをきちんと持っているので、浦和の配置が変わってからの対応も早かったと思います。前がハメるのが早い分、喜田や渡辺など後列の選手は次にボールが出ていきそうな場所の予測もしやすくなり、浦和が手前から繋ごうとすればするほどマリノスは前向きな守備がしやすかったのだろうと思います。
3点目が入った後のビルドアップでは再び明本が前目の位置をとって柴戸が左に下りる形を取りましたが、これも奏功しませんでした。保持でなかなかチャンスを作れなかったことと、浦和の守備を裏返すようなボールを出された時に連続して失点したことで、徐々に攻守両面でアクションが弱くなってしまったように感じました。
0-3で後半を迎えるにあたって選手交代をしなかったことは少し驚きましたが、後半キックオフ直後に左サイドで柴戸がオープンにボールを持った時に逆サイドで小泉と馬渡が手を上げてボールを呼び込もうとしていたり、結果的にはファウルになりましたが、流れてしまったボールを関根が最後まで追いかけていったりと、チーム全体で前を向いてプレーをしようとしている姿勢が見えました。
そしてこのFKを岩波が拾ってユンカーのゴールを早々に取れたことで、選手たちもスタジアムも「やれる」という空気を作れたかもしれません。得点直後のマリノスのキックオフに対するプレッシングの勢いも前半とはまるで違いました。前半からそのテンションでやってくれよと思ったことは内緒です。
前半はユンカーやシャルクはマリノスのCHを意識しながら、中を埋めながら、というプレッシングでしたが、後半はまずCBまで出ていくという意識づけに変わったように見えました。「埋める」よりも「出ていく」という感覚に変わったことでより強くアクションを起こしやすくなったのかもしれません。
また、保持でもビルドアップ隊はCBと平野、そこへ小泉と柴戸も絡む程度という感じで、出来るだけ前に人数を残して、より相手の裏というのを意識したように見えます。その結果、マリノス側は最終ラインと前線の距離が空きやすくなって、浦和は54'55~のようにマリノスのプレッシングラインさえ超えることが出来ればそこからどんどん運んでマリノス陣内へ攻め入ることが出来るようになりました。特に63'03の柴戸がカラコーレスで渡辺を外して50mくらい一気にドリブルで持ち運んだのは興奮しました。
図にしたように右SBの馬渡はもうビルドアップ隊には加わらずに外から裏を狙うというタスクになっていたので、途中の選手交代で関根、モーベルグが右SBに入るというファイアーフォーメーションを組んだとしても、保持では特に違和感は無かったと思います。非保持ではさすがにショルツが早めに外に出たり、CHが早めに斜めに下りたりしてモーベルグが穴にならないように気を付けていたように見えました。
終盤になってくるとビルドアップでのショルツが可動域が広くなりましたが、その分、途中交代の岩尾がショルツのいた場所へ下りていて、2点目はその岩尾からのロングボールがきっかけでした。もうこの時間帯になるとかなり出入りの激しい展開になっていて、83分には目の前で明本が倒された後にリカルドがスタンドを猛烈に煽るなど、前向きなエネルギーが放出されまくりで、3点目の大久保の突破もそうした流れの賜物だったと思います。
マリノスが好戦的なチームであることが3点差を追いついた大きな要因の1つであることは間違いないと思いますが、後半に挑むにあたってリスクを冒さないといけない状況が浦和の選手たちのアクセルを踏んだとも言えます。嫌な言い方をすると、やるしかない状況になったからやっただけであって、自分たちからアクセルを踏めたわけではないということです。
シーズン終盤に残留争いをするチームが最後のあと一歩で足を出して勝ち点をもぎ取るという試合を見かけることも多いと思いますが、「それをやる力があるなら最初からやってくれよ」と多くのサポーターは思うのではないかと思います。この試合の浦和はそれに近かったのかなと。そもそも強いチームは「状況」ではなく「自分たち」がアクセルを踏みます。追い込まれる前に自らやるべきことを果たすのです。
前節の雑感でも書いたように、いつ、どのように、自分たちでリスクを冒すのかが上手く整理できていないことが5試合連続ドロー、3試合連続無得点という結果につながっているのではないか?と思います。リカルドのチーム作りは基本的に不確実性を減らす、保持も非保持も安定してプレーすることで試合全体を自分たちの思惑の中で進めることを目指しているだろうと思います。
この試合の後半はちょっとリスクを冒しすぎだったと思うので、次の試合以降でこのような展開になることはないだろうと思いますが、それでも瞬間的に「今だ!」という判断のもとリスクを冒してゴールを奪いに行くことは必要です。オープンな展開にしなくても強いアクションは起こせるし、そういうプレーにスタンドは沸き立つはずです。
ここ数試合が、ゴールが取れていないから先に失点すると挽回が難しいという消極的な気持ちからチャレンジを避けていたとするなら、この試合の後半は「状況」がアクセルを踏んでくれたとはいえ、リスクを冒し続けて3得点0失点でやり切ることが出来ました。この試合で勝つところまで行けなかったものの、積み上げてきた形とは違うゴールの仕方ではあったものの、アクセルさえ踏めばやれるんだ、という自信を取り戻してくれていることを願いたいです。
ただし、次の試合はまた0-0から始まります。「状況」はアクセルを踏んでくれません。「自分たち」がアクセルを踏む必要があります。優れた戦術も、それをやり抜くメンタルが伴わなければ意味がありません。ホーム3連戦の最後は勝って自信を確信に変えられることを期待します。
今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。