この記事でわかること
- 前半に苦戦した要因
- 主導権を握り返した試合中の修正
- 明本へのしわ寄せ
- マリノス戦を経た浦和の縦方向のバランス
浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第14節、鹿島アントラーズ戦です。
壮絶な試合を経た横浜F・マリノス戦から中2日の浦和は、そこで半ば強制的に引き出された早めの展開からやや継続性を持たせて試合に入ったと思います。
前半早々に失点するも徐々に引き戻すことができ、勝利まで後一歩のところまで来ましたが、ドロー決着。
浦和が準備してきたことと、マリノス戦後半から通常時の重心に反映したことなど解説していきます。
主導権を握れなかった序盤、時間内の修正
鹿島の特徴
鹿島の特徴としては、前線への縦のボールを早めに入れてくることが多く、それを前提としたポジションを取っていることです。
最も特徴的なのは、樋口の相方となるボランチ(今節はピトゥカ)で、攻守ともにトップ下することが多く、絞り気味のサイドハーフを加えて中央に多くの人員を配置。
2トップの強さを軸に、浦和のDFラインを後ろ向きでプレーさせ、セカンドボールを拾ってからさらに攻撃を仕掛けてきます。
+1の確保のための配置
浦和はこれに対して、試合後のショルツも話していたように、2トップに対して3枚を確保するような配置で試合に入りました。
完全な3バックかというと、少し違うかなという気はします。
関根の稼働範囲を広げるとともに、明本をペナルティエリアの幅の内側でプレーさせて、2トップへのダイレクトなボールに対してチャレンジ&カバーの人員を常に確保することを狙ったのでしょう。
重心をズラした今節
浦和のスタンスですが、横浜FM戦の後半に追い詰められた結果として、半ば強制的に引き出された裏への意識・アクションへ少しバランスをズラしたようでした。
リカルドの試合後会見でも言及されているので、通常時の場合では適切なバランスではないものの、得るものも多少はあったのでしょう。
少なからず良いイメージみたいな、裏にアクションを起こしたり、そこに実際にボールを入れたら、何かを起こせるかもしれない、という心理はあったかもしれません。
横浜FM戦後半では許容範囲以上のリスクを背負って裏をどんどん狙っていましたが、そこまでやってしまうと試合がオープンになってカウンターの打ち合いになってしまうので、ちゃんと相手を引き出して、50%ぐらいの確率なら積極的に入れていくイメージですね。
ボールホルダーがオープンにボールを持ったら相手最終ライン裏へのアクションを起こして、そこに実際にボールを入れること自体は、横浜FM戦以前よりは増えた印象です。
鹿島の土俵で戦ってしまったか
ただ、試合序盤は主導権を握れませんでした。
鹿島の守備もダイヤモンド型を維持することが多く、アンカーポジションに入る岩尾にピトゥカがマンマーク気味に対応。
試合開始後、浦和がボールを持った時は、ショルツ、岩波、明本の3枚を軸に、岩尾を加えた形で前進を試みていました。
この3-1のビルドアップがスムーズに行えず、鹿島の配置的に捕まってしまう場面が多かったのと、明本にビルドアップ隊の一部として振る舞ってもらうのは少し厳しい部分もあるかと思います。
サイドハーフも含めて積極的に前へとズレてくる鹿島のアンカー脇を狙っていたとは思いますが、岩尾にボールを入れづらい側面があり、少し早めの縦のボールが増えた印象です。
鹿島のハイプレスにいきなり捕まることを避けたかもしれませんが、試合序盤はゴールキックも繋がないことが多く、十分に引き出す前の長めのボールも少し増えてしまい、それが鹿島に主導権を奪われる要因でもあったかなと思います。
セットした競り合いは不利
裏を狙うこと自体は良いですが、長いボールでも、鹿島がセットした状態で最終ラインの手前あたりでの競り合いになると、分があるのは鹿島です。
セカンドボールを拾えないとカウンターを打たれて後退せざるを得なかったり、ボールを奪った鹿島がシンプルに前につけて、セカンドボールを前提とした布陣を取っている部分で遅れをとることになりました。
その中で失点してしまったのは痛かったです。
5-3-2気味になってしまう時間が多く、3の横をフリーにしてしまい、斜めのパスを刺されました。
おそらく完全な3バック・5バックになる時間を増やしたかったわけではないと思うので、試合の入りで主導権を握り損ねた時間帯、後から見ればやり過ごしたかったですね。
課題だった試合中の修正が効いた前半
今季は飲水タイムがなく、困った時にハーフタイムまで困ってしまうことも多かったですが、この試合では前半のうちに修正を効かせられました。
28:30ぐらいにマンマーク気味で捕まっていた岩尾が最終ラインに降り始め、この時に柴戸がアンカーの位置に入るようにリカルドから指示が出ているので、この辺りから調整が入っていました。
30分ごろからは4枚回しも併用し始めて、ショルツをよりSB的に押し出すことなど、ハマる配置から人を移動、鹿島の守備者に「付いていって良いか?」という選択肢を突きつけます。
これにより、鹿島のプレスに遭う→やや余裕が取れない、という流れで、早めに前へのボールを刺さざるを得ない状況から脱却。
ゴールキックも繋いで始める割合が増え、相手のハイプレスをサイドに迂回してから、手薄なアンカー周囲を突く狙いが見えました。
25:00ではそれでチャンスを作りかけました。やはり、ここは鹿島がリスクとして許容している部分で、鹿島から同じような形で3得点を奪った広島も突いた展開なので、弱点だったと思います。
今季はこういった修正がハーフタイムまで効きにくい部分もあったので、修正を行いながら徐々に劣勢を押し戻していったことは良い点です。
基本を実行できたPK獲得
PK獲得もその調整から生まれました。
この時は柴戸が3枚目となって明本が前へ移動。
サイドハーフの和泉は積極的に前にズレていましたが、それまでプレッシングを掛けていた相手である明本が自身の背後まで来たことで、迷いを与えられました。
柴戸がオープンに持つと、ビルドアップからの前進に求められる原則的な動きをそれぞれが実行できました。
- 柴戸がすぐにパスをせずに、ドリブルで運ぶ
- 運びに合わせて前線も徐々に移動する
- 関根と明本の引く動きと裏を狙う動きの連動
前半のうちに追いつけたことは良かったですし、チーム事情的には仕方ないですが、明本は受け手で前線の選手であるな、と感じました。
ジリジリと鹿島を追い詰めた浦和
後半に入ると関根の稼働範囲を狭めてなるべく前に配置することにした浦和。
カウンターを含めて縦に入った時に最後の崩しに関われる人員を増やせることや、高い位置で幅を取ることで、内側のアンカー脇を広げる狙いがあったかもしれません。
一方で、ボールを持っていない時のサイドの幅が手薄になるので、ここからピンチを迎えることは増えました。
やはり、何かを得ようとすると、何かをリスクとして差し出す必要があるのがサッカーです。
"流経コンビ"、右サイドの関係性
また、宮本が内側に入ることも増えました。
これは前半最後の方にも少しありましたが、岩尾を降ろして鹿島のハイプレスをまともに受けることは回避したものの、代わりに中盤中央で顔を出すのは江坂となっていました。
江坂は左サイドの方が得意ですし、縦や裏に刺すことが増えているので、なるべく前の方にいて、ユンカーをサポートしてほしい側面もあったからだと予想します。
ただ、そういう移動の中で崩しに入った時、サイドアタッカー的な動きを求められた敦樹にとっては、少し役割がマッチしなかったかなと思います。
可変にはリスクもある
ビルドアップに関しては、岩尾を中心に状況に応じて可変しますが、結果的には明本が下り目の位置にいることが多かったと思います。
大胆なポジション移動は確かに相手に選択肢を突きつけますが、攻守の切り替え時に「その場所にいてほしい本職の選手がいない」というリスクがあります。
浦和に攻→守の切り替えが発生した時、鹿島は積極的にカウンターを狙ってきますし、そこが強みでもあります。
それを防ぐためにも、柴戸が最初のフィルターになれる位置にいた方が良いので、その辺りを嫌ったのかもしれません。
徐々に浦和のゲームに
その中でも、岩尾の出入りを中心にしながら相手の2トップ脇でショルツらを解放、空きやすい鹿島のアンカー脇、SB-CBの間を取っていくことが増えたと思います。
右サイドは敦樹と宮本のコンビネーションで内外を使い分けしつつ、左は基本ポジションを前にした関根が幅を取りながら、江坂が間で受けていくような役割分担でした。
ただ、江坂の調子がいまひとつに見えて、いつもと比べれば江坂のところで失う場面が多かったです。最近の欠場は温存ではなく、コンディション的な問題を抱えていたのかもしれません。
ピンチはありつつも、鹿島もハイプレスで展開を早くしてプレーエリアを相手陣内に設定できないと打つ手が少なくなる印象で、概ね浦和のゲームに引き戻しつつありました。
鹿島を追い詰めはしたが
74分にシャルクと大久保、80分に松尾と知念を投入して、より裏や縦への圧力を強める浦和。
知念は明本が苦戦していたビルドアップを担う存在として力を発揮しましたし、守備面でも鈴木優磨とのエアバトルに勝利するなど、攻守ともにリスクとしてあった左サイドを補完しました。
残り10分から始まったゴール裏の巨大ゲーフラによる素晴らしいサポートに応えるように、アディショナルタイムにかけて猛攻を仕掛けるも、惜しくもゴールは奪えず。
鹿島は82分に中村、87分にキム・ミンテを投入したあたりから、ダイヤモンド型のプレッシングをやめています。4-4-2で構えつつ、鈴木優磨が守備に戻る場面もありました。
これはおそらく、失点の危険もあって押し戻しもできないので、引き分けもOKという姿勢で、首位争いをしているチームをそこまで追い込んだことは事実です。
とはいえ、またしても勝利は掴めず。7試合連続のドローで終わりました。
まとめ - しわ寄せと縦へのバランス
システム的なしわ寄せ
試合序盤の攻撃面や後半のピンチを見ると、ビルドアップにおける明本の立ち位置や役割がクローズアップされる面はあるかと思います。
ただ、これを明本個人の責任とするのは酷でしょう。
確かに様々なポジションをこなせますが、やはり本質的には前線の選手であり、受け手なわけです。
SBで起用されるとしても、左肩上がり的に前に押し出していった方が、明本にとっては良いでしょう。
ただ、そのためには右SBをCB的に設定するとか、その場合は右のサイドプレイヤーは大外を取る選手の方が良いし、となるとその内側でプレーする選手、例えば江坂や小泉を右のサイドに置く必要があるとか、全体のバランス調整が必要になります。
もっとも、大畑が起用できる状態であれば、今節の明本の役割は彼が担えます。
連戦中で起用できる選手に限りがある中、どこかにシステム的なしわ寄せがくる状態で、この日はそれが明本だったと思います。
知念に期待
ただ、残り10分で知念が見せたパフォーマンスは非常に良かったので、左側のビルドアップ隊・出し手を担える選手としてスタメン候補に入ってくるかもしれません。
犬飼が離脱したことで、CBはショルツと岩波が出ずっぱりの状況でもあるので、知念の台頭にも期待したいです。
裏や縦へのアクションのバランス
横浜FM戦を経て、縦や裏へのアクションが増えてきたのはポジティブに捉えて良いかなと今のところ考えています。
相手が4バック続きなので、そこまで手前に引き出さなくても、裏のスペースがあり、相手の人数が少ないという面はあるかもしれません。
5バックが相手だと、まずは手前で相手の最終ラインを1〜2枚引き出す必要があるので、その過程でどうしても手前への意識が強くなってしまう側面はあるでしょう。
ただ、ここから5月連戦終わりまで4バックの相手なので、裏や縦へのアクションが起こりやすい試合にはなると思います。
そういう展開で力を発揮する選手が多いので、チャンスになる確率も確かに高そうです。
状況判断には気をつけよう
一方で、西川から繋ぐのか、前に蹴るのか、という判断で、岩波との認識が合わないシーンがあるのが少し気になります。
また、無謀な仕掛けからボールを失う場面も複数回ありました。
カウンターの局面とか、相手の攻撃を守り切って西川がボールを持った時など、いずれもスタジアムの雰囲気は早く縦に行け、仕掛けろ、という雰囲気になり、仕掛けないと落胆するみたいなことも多かったです。
相手が整った状態で4~5枚の守備者を置いているところに、例えば2人で突っ込むのは成功確率があまりにも低く、相手にカウンターのチャンスをプレゼントするだけになるので、そういった状況判断はサポーターも含めて必要なことかなと思います。
例えば数的不利の状態でも突破を期待できる大久保や松尾、関根が、相手陣内の一番奥で仕掛けるのは失敗した時のリスクが小さいので良いと思います。
一方で、「最後の1/4」に入っていない状況で、1vs2の状況にある宮本に仕掛けを期待するとか、守備に戻るために力を使った後、相手が4~5人で待機している中、浦和の選手が1~2人の場所に西川のディストリビューションを期待するのは酷というか、その判断自体がシンプルに悪手かなと思います。
浦和のコンセプトとそのプロファイルをもとに編成された選手たち、リカルドの志向、サポーターの好みなど、まだまだ調整は必要そうですが、バランスを裏や縦に少しズラし始めた今、「行かない」という状況判断がより重要になってくるはずです。
時間の経過とともに勝利に近づいていった今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!
📝▶️戦術分析レビュー
— KM | 鹿島戦RV文章&動画アップした (@maybe_km) May 22, 2022
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