試合開始から熱量を持って、今季のテーマを体現しようとした浦和。
東京のミスを誘う場面も多く、前半は上々の入りをしたように思います。
しかし、後半に入ると失速。2失点を喫して敗戦しました。
スコルジャ監督は「あまりにも違う2つの顔を見せてはいけない」と振り返っていますが、なぜ前後半で違ったゲームになってしまったのでしょうか。
まずは前半と後半をそれぞれ振り返り、その後に、なぜ後半に落ちてしまったのかを考えていきます。
TOPIC1 - 両面が出た前半の戦いぶり
開幕戦ということもあり、前半20分ぐらいまでは落ち着かない展開でスタートしたこの試合
浦和は前からのプレッシング、トランジション攻撃を含めた縦への意識、相手陣内でのプレーが今季の大きなテーマなので、そこを強調するようなプレーが目立ちました。
小泉が「90分持たせることは考えていなかった」と語ったように、浦和としてはかなり飛ばした試合の入りだったと思います。
その勢いを持ってして東京側のミスを誘う場面も多く、ピッチ・スタンド共に「行ける」という雰囲気は感じました。
前からのプレッシングを見てみると、リンセンと小泉の追い込み、そこに後方が追従する浦和の積極性は目立ちました。
プレッシングの成功と失敗
ただ成功した場面ばかりではなく、失敗する場面もありました。
特に今季の浦和がやろうとする守備の成功・失敗がわかりやすく出た場面があります。
それは13分40秒と15分15秒のシーンです。
両場面とも同じような構図で同じような守備をする場面で、前者が失敗、後者が成功です。
前から相手のボールを浦和の左サイドに追い込んでいく守備で、リンセンがボールサイドの追い込み、サポートに降りた東京のサイドバックに大久保が出ていく場面です。
東京側は東が横のサポートに寄って局面の打開を狙いますが、ここには浦和の小泉が背中からマーク。
13分40秒のシーンでは小泉は東の後ろ方向へのプレーを読んで「ボールを奪いにいく」守備を実行しましたが、それを逆手に取られました。
東は小泉のベクトルとは違う方向にターンし、東京は密集からボールを脱出させることに成功。
浦和は追い込んだサイドに閉じ込めることに失敗し、手薄な逆サイドに展開されます。
スペースを得たアダイウトンがスピードに乗って仕掛ける、もっとも避けたいシチュエーションが生まれましたが、この時は酒井の守備でなんとか凌ぐことができました。
しかし、高い位置でプレッシングを仕掛けてボールを奪い、相手陣内でプレーすることはできていません。
逆サイドに展開された時点で浦和は自陣に戻ることを余儀なくされました。
さらに酒井が奪ってからカウンターに出て行ったので、再び前へ、となり浦和にかかる運動量の負荷が大きい場面です。
一方で後者の15分15秒のシーンは高い位置でのボール奪取に成功します。
先ほどとほぼ同じような構図で、今度は小泉が東のプレーの選択肢をどれか一つに読んで「ボールを奪う守備」ではなく、サイドに展開されないように横から蓋をするような動きを見せました。
この結果、東は逆サイドへ展開する体の向きやボールの扱い方はできず、同じサイドでの縦パスを選択。
これを浦和はボランチの位置でカット、リンセンにつけてトランジション攻撃へと移行し、手薄な逆サイドに上がってきた酒井へと展開して最後のクロスまで到達しました。
尖ったプレッシングではない
プレビュー動画やシーズンプレビューでもお話しましたが、今季の浦和がやるのは何も前からガンガン人に詰めまくる、例えばマンツーマンのような尖った守備ではなく、チームとして追い込みをかけて奪う守備です。
その前提であれば、特定の場所に追い込みをかけた相手のボールを別の場所へ展開されることは防ぐ必要があります。
それはボールを奪えないから、ピンチに繋がるから、という理由でもありますが、体力を消耗するから、という理由もあります。
なぜなら手薄な場所に展開されて相手の選手が良い状態で前を向いた場合、対峙した選手がここに一発で飛び込むのは一番やってはいけないことで、ペナルティエリア付近まで撤退しながら味方のサポートを待つことになるからです。
つまり前からパワーを出してプレッシングを仕掛けた面々に、今度は自陣に全速力で戻ってきてもらう必要が出ます。
3つ目のトピックで詳しく触れますが、後半の浦和が苦戦した要因の一つは運動量が落ちて強度が下がったことです。
前半のプレッシングが成功した場面もありましたが、ボールを閉じ込めたい場所に閉じ込めることができず、長い距離を”仕方なく”戻らざるを得ない場面もそれなりにありました。
そしてこれはボール非保持の”ハイプレス”だけでなく、浦和がボールを失った時の切り替えの守備でも同様です。
TIPOC2 - 後半の失速と失点の要因
後半に入ると東京は4-2-3-1気味に布陣を変更。
これは浦和がアンカーの脇を使った前進を成功させていたことに対する対処もあったと思います。
東京はウイングに外を切らせながらプレッシングをかけますが、アダイウトンの内側をショルツがパスを通し、アンカー脇に降りるモーベルグとその代わりに裏に出る小泉で前を向くことができていたからです。
ビルドアップの出口や横のサポートをする人員を増やしたり、浦和のサイドハーフの背後に松木や小泉が入りやすくする狙いもあったかもしれません。
浦和はボランチがサイドハーフの裏に出ていくことが多かったですが、ボランチのスライドをより強要しつつ、横のサポートに入る人員を確保すれば密集からの脱出やディエゴ・オリヴェイラへの斜めのパスを入れやすくなるからかなと思います。
この辺りの変更で、浦和は前からのプレッシングの狙いを曖昧にされた面もあったと思います。
ただ浦和が後半に苦戦した根本的な要因は運動量と強度が不足していたことかなと推測します。
前から追い込むのであれば組織全体をコンパクトにして押し上げたいのが今季の浦和。
ハイプレスを成功させるためには同じサイドで閉じ込める必要があるからで、そのためには前半の小泉がやっていたように、2トップが前からの追い込みだけでなく横の展開に蓋をする働き、ボランチの選手の可動域の広さ、逆サイドのサイドハーフの絞りが必要になります。
後半の運動量低下
しかし後半はこれらを実行できないことが多く、1失点目もそういう場面からでした。
この時はリンセンと大久保が前の2枚で、ボールの追い込みを始めています。
しかし組織全体のコンパクトさは欠けており、簡単に2トップ背後でボールを持たれると、ここにも強い制限をかけられませんでした。
ここで敦樹がやや前に出るわけですが、この状態になっている時点で不利な局面になっており、最後のゴールまで不利な状態を引き継ぎます。
左の大外に展開されると酒井が出ていきますが、ここで空くのはお馴染みのチャンネル、SBとCBの間です。
ここのカバーにはCBが出ていくか、ボランチの選手が降りることが基本方針だと思いますが、敦樹が戻りきれていないので、瞬間的に誰もいない状況が生まれました。
この場所を攻略することは今のサッカーにおいて何も特別なことではありませんが、特に力を入れている東京からすれば誰も侵入しないことはあり得ません。
安部がこの場所に侵入した時に松崎が気付き急いで戻りますが、その力を逆に利用され、切り替えされてオウンゴール。
小泉があの場所に戻っていたこと自体はチームの約束事なので問題ないです。
局面だけを切り取ると、松崎が抜かれなければ、という面もあると思います。
ただサイドハーフである松崎があの場所のカバーに遅れて出ていること自体、組織としてのエラーのはずです。
それがなぜ起こったのか?というと、組織のコンパクトさが失われた状態で2トップの追い込みがスタートして、後方はそれに連動できず、東京にプレッシャーを与えることができず、一番狙われている場所を空けてしまったことにあるでしょう。
この失点の前に仲川のシュートがクロスバーを叩いた場面がありますが、これも同じような状況で、敦樹がチャンネルをカバーできない状況における対応は今後に向けて整理が必要かもしれません。
2失点目は東京のスローインからでしたが、これも根本的には同じサイドに閉じ込めることに失敗したことが要因だと思います。
また、それまでの展開としても相手陣内での安定したプレーもできておらず、ボールを失ったりプレッシングを仕掛けた時に裏返されて撤退するような場面が目立っていました。
運動量や強度、そして連動と時間の経過と共に落ちてしまったことがやはり痛手だったと思います。
なので次はなぜ運動量が落ちたのか、という点を考えて行こうと思います。
TOPIC3 - “2つの顔”の要因
運動量が落ちた原因として、飛ばし過ぎたという点も当然あると思いますが、試合後にスコルジャ監督が話していたことを確認すると「ボールをキープすることができなかった」ことが要因の一つとなります。
縦や裏への意識は今季の大きなテーマの一つですが、この試合においてはその意識が強すぎた側面があると思います。
これは小泉が試合後にコメントしていたことです。
「まずはもちろん裏を狙う、ゴールに直結するショートカウンターは意識するけど、それが確信をもってラストパスやシュートを高い確率だと思ってやれているのかは判断しないといけない。そうでないなら、ハイプレスに行ってペースが上がっている分、1回ボールをキープして自分たちが整える時間を作らないと。あまりにもアップテンポだとギャンブルになるので、リーグ戦で勝つ確率を高めるにはゲームをコントロールする時間も必要だと思う」
ボールを奪った時に一気に相手のゴールに迫るのか、それとも密集地帯から抜け出して一度整える時間を作るのか。
前からのプレッシングで相手陣内かそれに近い場所で奪えたら一気にゴールに迫ればゴールの確率は高まりそうです。
ただ自陣の深い位置で奪った際も、直線的に縦に行きすぎた面はあったかなと感じています。
もちろん東が退場していてもおかしくない場面を作っていたわけなので、一定の成果は残していますし、自陣からのカウンターを避けるべきというわけではありません。
ただこの試合においては、そのバランスが縦に振れすぎていて、トータルの損得で見れば損をしてしまったのが実情かなと思います。
行く・行かないの判断のところで、ボールをキープして整える時間をもっと作って試合をコントロールする、試合の主導権を握ることが必要です。
今季なりのゲームのコントロール
相手陣内に早く侵入することもテーマの一つですが、相手陣内でプレーする時間を長くすることが今季のチームにおけるゲームのコントロール方法です。
前のトピックで触れたような、ハイプレスや切り替えのプレッシングを抜けられて自陣に戻らざるを得ない場面も含めて、結果的に浦和は体力の消耗があまりにも激しすぎたのだと推測します。
最後の崩しのクオリティ
そしてもう一点、ゴールに迫るならシュートまで完結することが望ましいのですが、そこが不足していたと思います。
これは小泉が言うように、あまりにも縦に急ぎすぎた結果として確率の低い攻撃に終始してしまった面もあるでしょう。
実際の数字で見ても、シュートは4本しか打っていません。
縦への速い攻撃を仕掛けたものの、最後の崩しでシュートまで行けなかったり、最後のパスが引っかかってまた自陣まで戻る、という循環はやはり体力の消費を招いたと思います。
痛かったコーナーキック0本
攻撃を完結できないと、当然ですがセットプレーも減ります。コーナーキックが0本なのは浦和としては痛手でした。
昨年に大きな成果を残した、前迫コーチがデザインするセットプレーを実行する機会がなかったことを意味します。
昨年までもこの局面、つまり最後の崩しは課題であり解消もできなかったものです。
新体制になってある程度のパターン化、約束事の仕込みを行なっている情報はありましたが、やはりキャンプのメインは守備や切り替えのところで、開幕までには追いついていなかった、ということだと思います。
1試合目から全ての要素を100%でできたら苦労しないので、当然と言えば当然なのですが。
縦に速い攻撃が実際に決定機になる回数が増えればいくらか印象も変わってくるでしょう。
前半のリンセンのシュートが決まるだとか、大久保や酒井のクロスが直接キャッチされないとか、そういう場面が増えたら良いなと思います。
まとめ
まとめると、テーマとなる前からのプレスや切り替えのプレス、そして縦への意識などはまずまずといったところです。
ただ試合全体を見ると、体力の消耗を招いたことが後半の失速に繋がり、コンパクトネスを失って苦戦を強いられたと推測されます。
その要因・課題としては、まだまだプレッシングに失敗する場合も多くて上下動が多くなったことや、ボールを奪った際の縦への意識とボールをキープしてコントロールをするバランスとその判断、そしてシュートまで完結させるための最後の崩しの質、といったところでしょうか。
その改善アプローチがどうなるかは、これから見てみよう、ということになります。
ただ「ボールをキープする」といっても、その目的はボール支配率を上げることでも、後方でじっくり回しながら相手が出てくるのを待つこともなく、ベクトルはあくまで相手陣内に向けながら、ということになります。
いずれにしても、やはりバランスの問題というわけですね。
個人的な感想としては、今季のテーマが強調されすぎたことは1試合目なのでごく自然なことかなとも思いますし、プレシーズンマッチは最後の1試合の情報がないことを除けば全勝しているので、こういうバランスになったのも頷ける気がします。
逆に、前半に岩尾がそうしたように積極的にシュートを打ってしまうような場面が増えると予想していましたが、ここは昨年のベースがまだ強く残っているのかも、とも思いました。
幸いにも、昨年とは違って序盤は1週間に1試合のペースで試合が進んでいくため、トレーニングする時間はあります。
ただ次の対戦相手は王者・横浜FMですので難しい試合になることは間違いありません。
結果がある方が何かと楽になるので、理想としては勝ちながら改善していきたいですね。