今回はAFCチャンピオンズリーグ決勝1st Leg、アル・ヒラル戦のマッチレビューです。
難しい試合でしたが、貴重なアウェイゴールを得て引き分けという上々の結果を掴むことができました。
序盤に失点したように、試合の入りでは劣勢になったところから盛り返して、興梠のゴールまで繋がりました。
ゴールは確かにラッキーでしたが、その場面を作れたことは、決してラッキーでも偶然でもありません。
序盤の劣勢から盛り返した要因が同点ゴールにも繋がっているので、解説していきます。
TOPIC1 - ナーバスになった最初の20分
アル・ヒラルのメンバーですが、若干のサプライズがありました。
戦前の予想では中盤にクエジャールかカリージョどちらかを起用する4-3-3でしたが、好調を維持していたミシャエウを起用して、配置も変更。
4-4-2の配置で2トップにイガロとマレガ、右にミシャエウ、左にサレム・アル・ドーサリ。2ボランチにアル・ファラジとカンノで、左CBにはアル・ブライヒが復帰しました。
対する浦和はこのACLのために固めてきた、いつものメンバーの4-4-2です。
受けに回ってしまった前半15分
プレビューでも「最初に受けに回らないことが大事」とお伝えしましたが、結果的にはかなりナーバスな試合の入りになりました。
180分ある決勝、そしてアウェイでの最初の15分に対して慎重になること自体は問題ないと思います。
決して引いて受け止めるプランではなかったですが、スコルジャも「最初の15分は2タッチ以内」でリスク管理をしたようです。(参考:https://number.bunshun.jp/articles/-/857423)
しかし、蓋を開けてみれば相手をリスペクトし過ぎた結果となりました。
低くなるブロック
具体的にはブロックの位置が下がり気味になり、サイドハーフが1列目のプレッシングに参加することができませんでした。
この結果、2トップは前から追おうとするけど、後ろからの押し上げがなく、前からのプレッシングがかからない状態に。
こちらもお伝えした通り、アル・ヒラルはビルドアップの局面で中盤をブロックの外に出してボール周辺で数的優位を作り、そこから相手を押し込む盤面へと進めていきます。
浦和の2トップだけで相手のCB2枚とボランチ2枚を対応することは難しく、4-4ブロックはペナルティエリア近辺まで下がらざるを得なくなりました。
これはアル・ヒラルが普段の国内リーグ戦で戦い慣れた展開になります。
撤退時のブロックによるゾーン守備に安定感はあるものの、相手が主導権を握った押し込まれ方をすると奪ったボールを保持することも難しくなり、いわゆる殴られるづける展開となります。
その結果、13分に失点しました。明本がミシャエウの個人技で外されたことでゴール前にボールが入りましたが、この展開にしてしまうと十分にあり得る失点のパターンでした。
TOPIC2 - 徐々に取り戻した「普段通りのプレー」
興梠や西川、関根、酒井以外の日本人選手は初めて経験する相手と環境だったので、相手の力量を観察する必要はあったと思いますし、決勝の第1戦という性質上、わかっていても受けに回ってしまったと思います。
勇気を取り戻す浦和
しかし、15分すぎから20分あたりにかけて、浦和は徐々に勇気を取り戻します。
きっかけとなる最初のシーンは16分30秒の守備、ボール非保持の局面。
相手のゴールキーパーまでボールが下がったところに浦和は前からの追い込みをかけます。相手のボランチ、アル・ファラジまで敦樹が前ズレした結果、アル・マイユフは長めのボールを選択。
これにショルツが競り勝ったことで、個人個人のデュエルでもやっていけるという手応えを感じたのではないでしょうか。
その後、19分20秒のシーンではブロック外に出なかったアル・ファラジとカンノに対して、2トップとボランチの2on2で対応できたことで、いつも通り前向きの守備ができたのではと思います。
普段通りのボールを進める
また、ボール保持においても変化があったのはこの時間帯です。
プレビューでもアル・ヒラルの守備は構造的・戦術的な弱みを抱えていてるので、浦和が「普段通りのプレー」を出せれば十分にチャンスはあるとお伝えしました。
試合の入りではリスク管理のためにセーフティーに蹴ることが多かったですが、「普段通りのプレー」にトライし始めたのもこの時間帯です。
4-4-2で入ってきたアル・ヒラルですが、プレビューでお伝えした4-3-3の守備のやり方や構造と根本的には変わりません。
中盤からどんどん前に人を出して相手を捕まえに行く一方で、その裏のスペース管理やプレスバックは甘く、最終ラインの手前、アンカー周囲にスペースができる弱点があります。
この試合では2トップのイガロとマレガが浦和のCBを見つつ、岩尾に対してはアル・ファラジが前にズレて中盤はダイヤモンド型になることが多かったです。
ミシャエウとサレム・アル・ドーサリを浦和のSBで外に引っ張ることができれば、アンカー的に残るカンノの周囲にはスペースが発生し、出口として活用できます。
自信を取り戻したチャンス
これを浦和が最初に活用できた場面がおそらく17分30秒のシーン。
後方で繋いでショルツにボールが渡った浦和ですが、敦樹に対してアル・ファラジが積極的な前ズレで捕まえにきます。
そこに酒井・大久保のローテーションを加えて相手のサイドバックとサイドハーフを引き付けると、カンノの周囲にはスペースが生まれます。
ここに興梠が入ると、ポストプレーで反転した小泉へ。カンノに対して2vs1の局面を作って優位を確保したことで、遅れたカンノに対する小泉のフェイントも成功しました。
相手のアンカー脇のスペースで前を向く局面を作れば、最終ラインにズレが発生しやすいこともプレビューでお伝えしましたが、やはり興梠の抜け出しが決まって決定機を迎えました。
浦和がこの3年間で積み上げてきた、相手の配置とやり方を見て有効な場所を取りに行く「普段通りのプレー」でチャンスを作ったことで、ボール保持面での自信も持つことができたと思います。
続く21分40秒のシーンでも、前に出てくるアル・ヒラルに対して繋いだ浦和が効果的な前進に繋がりそうな展開を作れました。
明本にボールが入った際、小泉がサイドに流れることでアンカー的な役割を担うカンノを引っ張り出し、興梠がポストプレーできるスペースを創出。
アル・ブライヒが付いてきてファールで止めますが、十分に優位を確保したうえで、カンノの周囲のスペースを出口にする前進を見せました。
このような展開は次のTOPICで解説する先制点にも大きく繋がっています。
他にも岩尾が最終ラインに降りることで前に出てくるアル・ファラジに対して「どこまで付いていくか?」という選択肢をチラつかせて、敦樹・大久保・小泉などの3枚で相手の2ボランチに優位を取る前進も前半から見せられるようになりました。
配置を変えるアル・ヒラル
攻守ともに「普段通りのプレー」を出せるようになった浦和は、28分に前からの守備で敦樹がボールを奪ってショートカウンター。
こちらもプレビューでお伝えした通り、アル・ヒラルのビルドアップは相手の組織を見ながら全体で優位を取って前に運んでいく、という傾向が薄い部分を咎めた場面でした。
2ボランチがボール回しのためにブロック外に出ると中継地点がいなくなる、という面で、出しどころがなくなったアル・ブライヒのパスをカットできたわけです。
恐らくこの場面を作られたことで、アル・ヒラルは30分過ぎから配置を変更。
マレガを右、ミシャエウを左に回した4-2-1-3気味で、トップ下にサレム・アル・ドーサリを配置しました。
サレム・アル・ドーサリが中盤で動き回るシーンが多くなったと思いますが、アル・ヒラルのボール保持で不在になりがちな中継役を確保する狙いだったと思います。
アル・ヒラルのこの変更や、前から行けるようになった浦和の守備の裏返しとしてピンチを迎えそうな場面はありました。
詳しくは後日アップする予定の第2戦のプレビューで触れようと思います。
TOPIC3 - 「狙い通り」の貴重なゴールと後半の展開
失点をしたものの、徐々に「普段通りのプレー」を取り戻しながら0-1でハーフタイムを迎えることができた浦和。
後半の入りからはその傾向をより強めていきます。
最初のプレーから狙いを表現
デザインされたキックオフからいきなりチャンスを作ると、直後の45分40秒のシーンではボール保持から浦和の狙い通りの展開を作れました。
再び4-4-2に戻したアル・ヒラルに対して西川がボールを保持した場面。岩尾に対してはやはりアル・ファラジが積極的に前にズレてきます。
西川が右足でボールを持った時点で、アル・ファラジのマークを受けていない敦樹がフリーに。
ここへしっかりと繋ぐと、酒井が相手のサイドハーフを引っ張れる位置にいることと、アル・ファラジが前に出ていることで生まれたカンノの周囲のスペースに関根と大久保が入って前を向くことができました。
やはり、普段通りのプレーができれば、こういうシーンを作ることはできます。
ただの偶然でも幸運でもないゴール
そして待望のアウェイゴールが生まれたのは51分10秒から。浦和のボール非保持、つまり守備から始まりますが、サイドハーフが1.5列目から1列目への守備に参加してブロックの押し上げもできています。
サイドで追い込みを掛けて圧縮を試みた浦和ですが、これも普段通り小泉がプレスバックでブロックの構造を維持したことで、ボール奪取に成功。
その後も怖がらず繋いだことで浦和のボール保持局面に移行しました。
右と左を行き来する過程で、最後はマリウスのロングボールから。
岩尾を中継したことで、やはりアル・ファラジが前に来ていて、関根の落としに対して浦和がプレーできるスペースがカンノ周辺にありました。
やはり前に出たアル・ファラジのプレスバックは遅いので、再び岩尾が余裕を持ってプレーできます。
カンノの周囲にできたスペースに入った大久保に縦パスを付けることができると、前半の興梠の抜け出しと同様、最終ライン手前で前を向く展開になりました。
ここでも興梠の選択は裏抜けで、大久保のパスにアル・ブライヒが足を伸ばしてカットを試みました。これがディフレクションすると、転がったボールはポストで跳ね返り、興梠の前にこぼれて同点ゴール。
確かにゴール自体はラッキーが重なりました。しかし、この場面を浦和が作ったことはラッキーでも偶然でもなくて、アル・ヒラルが抱える戦術的な弱点を攻撃することができたからです。
アル・ヒラルの中盤が前に出ていく守備をすること、その裏のスペース管理やプレスバックが甘いことは戦前から分かっていたことで、それを咎めるボール保持攻撃を「普段通り」できれば十分にチャンスはあったということ。
前半途中からそれを徐々に取り戻した浦和が、相手の最終ライン前、カンノの周囲のスペースで前を向く人を作り、相手の最終ライン裏を狙うという局面を複数回作れたことが、このゴールの要因だと思います。
アル・ヒラルがやりがちなミスを誘発
得点で勢いに乗った浦和はサイドハーフを前に出す守備も引き続き行うことができていました。
前からの誘導をしつつ、同じエリアに閉じ込めることができれば、アル・ヒラルのビルドアップは稚拙さが露呈しやすく、イージーなミスが出始めます。
これは国内リーグ戦でも見られることでした。
繋がりが薄いアル・ヒラルのトランジション
また、アル・ヒラルは攻撃で中盤が自由に動き回るという性質上、ボールを失った時のフィルターが薄いこともお伝えしていましたが、この試合でも同じでした。
浦和はボールを奪っ時には中央に大きなスペースがあり、カウンター攻撃だけでなく、興梠や小泉がボールをキープできたことで「ゴール前に貼り付けになって、殴られる続ける」という展開も阻止できました。
また、互角のデュエル勝率を記録したように、特に最終ラインでのマッチアップでも不利にならなかったことも大きかったです。
明本も最初こそミシャエウに突破されましたが、その後はほぼ抑えることができました。
打開される個人の力
とはいえ、中盤で個人に剥がされて強引にサイドチェンジを許し、ピンチになりかける場面もありました。
また、60分過ぎからはさすがに2トップに疲れが見え始めて、プレッシングラインが下がり始めました。
スコルジャとしても、早めにカンテと安居を投入して強度を保とうとしたと思います。
しかし、カンテのプレッシングが若干怪しいのと、足を攣った選手が多かったように、全体の疲労、そしてアル・ヒラルの攻勢もあって、時間の経過とともに徐々に下がらざるを得ない場面が増え始めます。
ホームでの勝利が欲しいアル・ヒラルはサイドバックも高い位置に上げて圧力を掛けます。前に出たい浦和のサイドハーフの頭を越えて、大外に展開する場面も増えました。
これにより、浦和は関根が最終ラインに吸収されて5バック気味になってしまうことも増えました。
75分あたりからはその傾向も強まりましたが、カンテと安居が前でポイントを作って浦和の時間と陣地、つまりプレーするエリアを回復できたので、とにかく跳ね返し続ける展開とまではならずに済みました。
86分、明らかにフラストレーションを溜めていたアル・ヒラルは、サレム・アル・ドーサリが報復行為。車屋よろしく一発退場しました。
数的有利は活かせず
とはいえ、浦和も数的有利を活かして2得点目を狙うための出力は出しきれませんでした。
むしろ前に行くことで、最終ライン近辺でスペースを与えてしまうこともあり、相手が一人少ないながらも同点で終えることを優先せざるを得なかったです。
難しいアウェイの環境で貴重なアウェイゴールを得ての引き分けという結果を得ることができました。
一歩とまでは行かずとも、半歩のアドバンテージを獲得したと言って良いと思います。
しかし、油断は禁物です。第2戦のプレビューでその理由に触れる予定ですが、アル・ヒラルは依然として強敵ですし、僕たちはまだ何も勝ち取ってはいません。
まとめ
今回のまとめです。
- アル・ヒラルは外国人枠にミシャエウを選び4-4-2を採用
- 浦和はACLのために固めた4-4-2で試合に臨んだ。
- 試合の入り、浦和はかなりナーバスになった
- ラインが低く、2トップが孤立する形に
- アル・ヒラルが国内リーグ戦のように押し込む展開
- ボール奪取後もボール保持をすることが難しかったミシャエウの個人技で外されて失点
- 個人で外されたが、展開的に避け難い失点だった
- 15分から20分あたりで、徐々に勇気を取り戻した
- サイドハーフを上げた前向きな守備や相手の構造を見たボール保持にトライ
- アル・ヒラルの守備は構造的・戦術的な弱みを抱えていた
- 4-4-2だったが、4-3-3とやり方や構造は根本的に変わらない
- 中盤から前に人を出す一方で、裏のスペース管理やプレスバックが甘い
- アンカー周囲にスペースができる弱点があった
- ここを狙った攻撃を前半途中から徐々に出せた
- 前半から徐々に「普段通りのプレー」を取り戻した
- 後半に入ってから、より普段通りに
- 待望のアウェイゴールはその守備と攻撃から
- サイドハーフが1列目に参加する守備と小泉のプレスバック
- ボール奪取後に繋いでボール保持に移行
- アル・ヒラルの中盤を前に引き出して最終ライン前のスペースを利用
- 選手交代で運動量と強度を担保した
- しかし、全体の疲労もあり数的有利を活かすことはできず
- アウェイゴールを得て引き分けに持ち込んだ結果は上々
- ただ、まだ何も勝ち取っていない
戦前に注目していたいかに普段通りのプレーを出せるか、という点で、徐々に出せるようになったことがこの結果を掴むことに繋がったと思います。
とはいえアル・ヒラルの個人の力は圧倒的で、1発でひっくり返される可能性はあります。
その点、試合の入りはナーバスになりましたが、総じて良い戦いはできたと思います。
ただ、まだ何も勝ち取っていませんし、アドバンテージも半歩といったところです。
後日アップ予定の第2戦のプレビューで詳しく触れますが、油断は禁物です。
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♦️戦術分析レビュー
— KM | ACL決勝レビューUP (@maybe_km) May 1, 2023
ゴールを呼ぶ「普段通り」#ACL決勝 1st Legアル・ヒラル vs #浦和レッズ
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◆日常を取り戻した過程
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