今回はJ1第13節、G大阪戦のマッチレビューをやっていきます。
優勝争いに加わるためにも勝利が必要だった浦和はG大阪をホームにを迎え、3-1の勝利を収めました。
前半に新しいシステムや組み合わせを採用しつつ、しっかりと逆転勝利を収めたことは大きかったですね。
メンバーの組み合わせ意外に、浦和は主に攻撃面で何を狙っていたのかという点や、ACL決勝を終えたチームが本当の意味でスコルジャ監督のサッカーへと移行していくのでは、という展望も話していきます。
TOPIC1 - 浦和の”前半の実験”
コンディション面も考慮してのことですが、浦和はメンバー、そしてシステムの変更を行いました。
最も大きなトピックは興梠とリンセンの2トップにしたことです。他には敦樹に代わり安居をボランチ、大久保に代わり小泉をサイドで起用した4-4-2でした。
これまではACL決勝を見据えて、メンバーは固定気味、戦術的な面も緩やかな移行に留めいていたスコルジャ監督。
この決勝が終われば様々なアイデアを実行していくことを示唆していましたが、試合後会見によれば、今回の布陣もそういったアイデアの一つだったようです。
安定感のあるボール非保持
まず守備面においてはやることは変わらなかったです。
ガンバの4-3-3気味のボール保持に対して、2トップでアンカーを消しながら外に追い、1列目となるサイドハーフやスライドするボランチ、サイドバックと合わせて圧縮していきます。
全体的に上手く守れていたかなと思います。
2トップがアンカーを消しながらプレッシングを仕掛けていたので、山本に直接パスが入るような場面はほとんどなかったですね。
するとG大阪のサイドバックにボールが流れることが増えますが半田に小泉が詰めて奪うシーンも作れていました。
ある程度割り切った?G大阪
ただ一方で、G大阪はある程度割り切りもあったのかなという印象です。
試合の序盤は落ち着きづらいので、無理して繋がない方針もあったとは思いますが、割と早めに繋ぎを諦めて長めのボールが入ることも多かったです。
失点シーンもそのような流れで、浦和は左サイドにボールを追い込み、半田に対して小泉が詰められている場面です。
小泉は横からプレッシングを仕掛け、定石通り前に進ませる守り方をしました。
そこから長いボールをジェバリに収められてシュートまで打たれてました。
ショルツと明本で止められなかったのは浦和としては少し誤算だったかもしれません。
ただ、守備の構造を壊された失点ではなかったので、次からも抑えられたら問題ないだろう、という失点でした。
攻撃面では、失点後に少しミスが増えてしまって、思い通りにいかない展開が多かったのはもったいなかったです。
前へのベクトル
ただ、チーム全体として重心を前に移す狙いがあったと思いますし、2トップ起用でそれを引き出す側面もあったと思います。
例えば岩尾が最終ライン降りて調整することも少なかったですし、それに伴い興梠や小泉が前線から必要以上に降りてくることも最近と比べて少なかったと思います。
なるべく前に人数をかけて、相手のMFやDF、その背後に圧力をかける狙いでした。
当然、そこに何でもかんでも蹴っても何かが起きる確率は低いので、相手の守備の矢印を後方で外しつつではありますが、裏や前へのベクトルを強めた攻撃を狙っている印象でした。
この攻撃面でのスタンスの違いは、鳥栖とG大阪の守備のスタンスも当然、影響しています。
G大阪は守備に関しても普段よりやや保守的といった印象でした。
4−4−2を維持しつつ、前から捕まえに出るような場面は少なかったです。
その分、浦和のボランチを中盤3枚で抑えつつ、ジェバリは浦和のCB間のボール移動を阻害する追い方でした。
これにより、浦和は最終ラインでの横移動を分断されるシーンもありましたね。
一方で、同じサイドから中央を経由して逆に振るという展開自体は出せていたのかなと思います。
27分40秒のシーンでは、この辺りを表現した攻撃です。
ボランチ2枚を使いながらサイドを分断しようとするG大阪に対して、浦和は右サイドから安居を経由して逆の岩尾へ展開。
次は裏を狙った興梠へのボールを出して、相手に跳ね返されますが後ろ向きにプレーさせているのでクリアの距離は出ません。
すかさずカウンターのプレッシングを仕掛けて相手陣内でボールを奪うと、再び縦につけて二次攻撃に移りました。
そこからサイドチェンジで右に振って小泉のミドルシュート、宇佐美のハンドでFKを獲得。
また、鳥栖戦から感じることですが、シュートを打つ意識も上がっているように思います。
ただ、右サイドの幅を出せていたらより良い選択肢を持ちながらのシュートだったかもしれません。
失点時にサイドハーフのサイドを交換しましたが、関根と小泉は内側に入ることが多く、大外の幅を取る人が少ないという問題はあったのかなという印象です。
"実験"の割を食った2人
試合後会見でスコルジャが「練習時間は少なかった」と話したように、この日程の中で、新しい選手の組み合わせとシステムを合わせる時間がなかったことは事実ですね。
リンセンの交代もパフォーマンスというよりは、新しいシステムにしたことによって不足した連動の面で割りを食ったという感じで、小泉もそんな感じでした。
ただ、鳥栖戦のレビューで不足していたと話していた、約束事のチャンネルランニング(CB-SB間を抜けていくランニング)や、荻原のベクトルが前に向いているシーンが増えていたのは良かったです。
TOPIC2 - いつものメンバーで前への圧力
ややラッキーな判定でPKで追いついたものの、後半でメンバーを交代。
安居をトップ下に据えた、いつものメンバーっぽい並びになりました。
大外をドリブルで外す選択肢が持てる大久保、そしてビルドアップを助けながら前に入っていける敦樹が入ったことで、特に右サイドが活性化しました。
いつものメンバーっぽくなり、連携面の向上や、前半の失点後の技術的なミスも減って主導権を握り返せたと思います。
前への圧力
その中でも狙い自体は前へのベクトルを強めたままでやれたかなと思います。
後半開始直後、45分40秒のシーンではそれが現れたシーンでした。
ショルツがボールを持ったところで、G大阪は宇佐美が岩尾をケアするような4-4-1-1の形です。
ジェバリが横の移動を阻害するような立ち位置ですが、岩尾が降りることはなく、ショルツが徐々に運びます。
敦樹が潜っていくことで2ボランチに対して安居・関根と数的優位を確保して出口の選択肢も持ちつつ、明本もMFライン背後に位置を移します。
これにより、G大阪のMFライン背後に同じサイドに6枚、逆サイドの荻原も合わせると7枚いることになりました。
この状況でショルツから縦のパスが大久保に入ってサイドを変えて荻原へとつながった場面です。
最初の時にもう少し最終ライン裏を狙う選手がいても良いと思いますが、前の人数を増やして圧力をかけており、ボールを失ってもすぐにカウンターのプレスを仕掛ける準備もできています。
人数の負荷を掛けた場所からサイドチェンジをして相手を揺さぶり、クロスを狙う、引っ掛かったらまたサイドを変えて、チャンネルランニングをしながらポジションをローテーションし、最後は大久保が抉ってクロスと、狙っている攻撃ができたシーンかなと思います。
その後、非保持の時間が少し続いた後、自陣からのカウンター気味のシーンを作ってコーナーを獲得。その流れから逆転ゴールを奪いました。
さらに相手のゴールキックを前から嵌め込んで追加点。正直、G大阪のビルドアップのクオリティが低い面もありましたが、しっかりと守備を見せられた結果です。
前に重心を移した弊害
少し余裕ができた浦和ですが、後方の繋ぎの部分でミスが出たことも事実です。
前へのベクトルを強めるとはいえ、そこにボールを出すために出し手が前を向く場所や、相手の組織を動かす場所を作る必要があります。
そのため、後方で繋ぎながら相手の守備の矢印を誘発して空く場所を作る、そこにボールを届けることは必要です。
60分過ぎは荻原のミスがあったし、69分40秒では岩尾のパスがカットされて危ない場面がありました。
最終ライン特に岩尾のシーンでは弊害が若干出た感じはしていて、最終ラインをなるべくCBだけで完結しようとする分、岩尾にボールが出た時点で斜め後方のサポートがいない状況でした。
後方の逃げ道という選択肢がない状態で体の向きも悪くなり、相手も狙いを付けやすい状況になっていましたね。
そういう場面があったものの、62分にガンバ大阪が選手交代によって4-4-2にした後は前からの守備の質が落ちたこともあって、簡単にボールが回せました。
フアン・アラーノが飛び出して埋める人がいないからそこにボールを展開するとか、80分過ぎからは西川を絡めて数的優位を確保すると岩尾のアンカーへの回答も持っていないG大阪のプレスを簡単に剥がして、相手のFWを置き去りにしたうえで中盤で前を向く人を作り、縦に行くことができました。
カンテの幻のゴールは惜しかったですね。
TOPIC3 - スコルジャサッカーの始動
無事に勝利を収めましたが、この試合の大きなトピックとしては、前半に新しいシステムを試したことだと思います。
これまでの会見やこの日の試合後会見で話していた通り、ACL決勝後からスコルジャが本来志向しているサッカーへと舵を切るというか、その移行度合いを強めていくことになるはずです。
その点を少し展望しておこうと思います。
前方への圧力をかける
サッカーは22人が影響を与え合うゲームなので、相手のスタンスとの兼ね合いは当然あります。
とはいえ、前方に負荷をかけ、多少ボールを失うリスクがあっても前や裏への攻撃やシュートを行い、ボールを失ってもトランジション局面で奪い返してまた前や裏、もしくはサイドを変える、というスタンスは、シーズン前にレフ・ポズナンの試合を見て予習していたスコルジャのサッカーです。
ACL決勝を見据えて、ある程度メンバーを固定していた、というのはスコルジャから語られている通りです。
特に攻撃面いおいては、昨年までのスタンスを活用して、かなり慎重にチームを移行していたと思います。
ビルドアップは現代で必須
ボールを持ちながら相手の構造や立ち位置、守備のスタンスを見て、空いている場所を使って逆手に取っていく、いわゆるポジショナル的な要素は現代サッカーでは標準的に必要なことなので、これを捨てるわけではありません。
一方で、スコルジャが志向していそうなサッカーは今季の浦和と比較して、もう少し相手の背後への圧力を強めるタイプです。
TOPIC2で取り上げた45分40秒のシーンのように、サイドバックだけでなく、ボランチの片方も相手の背後に潜っていき、裏へのボールや縦のボールを刺し、失ってもすぐに回収、次のプレーの一番高い優先順位は再び裏、といった感じです。
選手たちが「キープ・ザ・ボール」と監督からよく言われると答えている通り、何でもかんでも縦に、というわけではありませんし、相手にボールを渡してカウンターだけ打ちますというわけでもないです。
それが強すぎるとゲームのコントロールを失いますし、それこそ、後半にガス欠を起こした開幕戦のFC東京戦のようになります。
相手との兼ね合いもあります。鳥栖のように前から人を捕まえにくる相手に対して、低い位置からただ長いボールを蹴っていたら、失ったボールを取り戻せない時に、ボールはすぐに浦和のゴール前に返ってきます。
いつもお伝えしている通り、これは繋ぐか縦か、ボールを持つか持たないか、といった二元論ではなくバランスの問題なのですが、ACL決勝を終えた今、そのバランスが徐々に前へと向かっていく予感があります。
対策への回答
また、バリエーションを持つという点も見過ごせません。
例えば、最終ラインでボールを横に動かして相手を揺さぶり、縦のパスや裏のパスを入れる攻撃は、浦和が3月・4月で見せていた攻撃のパターンです。
C大阪戦での安居のゴール、神戸戦の敦樹のゴール、柏戦の興梠のゴールなんかはこの形です。
しかし、最近は浦和の最終ライン間での、ボールの横移動を阻害する守り方をしてくるチームが増えていると感じます。
今回のG大阪の守り方もそうですが、今のJ1ではすぐに対策されるので、同じやり方ばかりでは通用しないという印象を持ちましたし、そのためにも今回のアイデアを試したの思います。
メンバーを固定していたこと、過密日程でトレーニング時間が取れていないこともあるので、まだまだこれからです。
ただACL決勝も終わり、そういったサッカーの実現へ、より舵を切っていくことを少し予感させる一戦でした。
そして何より重要なのは、優勝争いを狙う中で喫した敗戦後、絶対に勝利が必要なこの試合で、ある意味”実験”をしながら勝ち点3を掴めたことだったと思います。
まとめ
今回のまとめです。
- 興梠とリンセンの2トップによる4-4-2の新布陣
- 守備に関してはやることは変わらず、問題なくできた
- 攻撃面ではより前・裏への圧力を強めたい狙いか
- 少し想定外の失点をした後、ミスも増えた
- 後半はいつものメンバーが増えて、連携面の改善
- 相手の背後への圧力は維持できた
- その分、ビルドアップ時の逃げ道確保が少ない場面がある
- ACL決勝まではかなり慎重なチーム移行をしていた
- ACLを終え、全体バランスをより相手陣内にベクトルを向けた設計にしていく予感
- 3月や4月の攻撃パターンが対策されているので、バリエーションも重要
- 練習時間がなかったことは事実なので、ユニットの練度などは今後に期待
- “実験”をしながら勝ち点3を得たことは戦略上重要
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♦️戦術分析レビュー
— KM | G大阪戦レビューUP (@maybe_km) May 15, 2023
スコルジャサッカー2.0始動 - J1 第13節 #浦和レッズ 3-1 #ガンバ大阪
◆"前半の実験"
◆前への圧力
◆スコルジャサッカー移行の展望
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