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【レビュー】高くなった標準 - 2021 J1 第14節 ガンバ大阪 vs 浦和レッズ


この記事でわかること

  • 今節固めた浦和の役割
  • 人への意識を配置でかわす
  • カウンターが決まった要因
  • G大阪の弱点
  • "全方位"への道

連戦を終えて1週間のトレーニングを積んだ浦和は、敵地でのG大阪戦を迎えました。直前に宮本監督を解任したG大阪は再スタートとなる試合でした。

柴戸の怪我が回復し、スタメンに復帰。また、右サイドに関根ではなく田中が起用されました。

今節は珍しくボール支配率が低かった浦和でしたが、前半で3得点を奪うと危なげなく試合を進めて勝利を収めました。

得点シーンを中心に、なぜカウンターが多かったのか、低めの支配率でもその内容はどうだったのか、解説していきます。


人への意識は配置で利用する

宮本監督の解任でいわゆる「解任ブースト」が懸念されましたが、G大阪は意欲を持って試合に入っていたと思います。

前から積極的にプレスをかけることや、ボールを失った際の切り替えの意識などはその影響も伺えました。

序盤は相手の様子を伺うことが浦和の試合の進め方ですが、お構いなしに前から人を捕まえにきたG大阪。

しかし、早い時間帯から相手を見て前進することはできていたと思います。要因としては前節に引き続いて役割をある程度固定化したこと、G大阪のプレスが人を捕まえることに強く意識が向いていたことがありました。

今節は前節の後半から引き続き、西をビルドアップに組み込む形を採用。その分、今節スタメン起用された田中が幅を取る役割を行なっていました。

また、2トップ背後の定位置を効果的に取れる柴戸が怪我から復帰しており、その影響も大きかったと思います。

特に右サイドは何度も前進に成功していました。西がボールを持った時に柴戸が相手のボランチを、田中がWG的な立ち位置で相手のSBを留めており、コースの切り方が甘い宇佐美が前に出た裏のスペースを小泉が受け手として使える場面が多かったです。

小泉を含めて前の5枚を下げすぎず、ビルドアップの出口やMF背後での受け手としての役割に置けていたので1得点目も生まれました。

前から人を捕まえにくるG大阪をひとつずつ外して押し込んだ後、ビルドアップを開始。宇佐美の裏を小泉が使って前進すると、今度は相手を右に寄せて中央経由から逆サイドへ。

G大阪の右SH、チアゴは大外の明本を明確に気にする立ち位置を取っていましたが、その分空くスペースを取っていた阿部の前方に広大なスペースがあり、それを活用してユンカーのゴールまで辿り着きました。

G大阪としてはチアゴの立ち位置を良しとしているのかは少し疑問ですが、ベンチの目の前でしたし、それ以降も同じようなシーンがあったので良しとしているのだと思います。

つまり、人を捕まえることに強く意識が向いているということです。それを利用した立ち位置を取れば誰かが広大なスペースを享受できる、そんなシーンでした。

続く2得点目はユンカーの驚愕のサイドチェンジや明本の高速クロス、走り込んだ田中による得点でした。G大阪としては昌子が田中を長時間見失っていたことは誤算だったかもしれません。

次の局面への準備の重要性

今節は相手よりボール支配率が低い珍しい試合になりましたが、効果的に前進できなかったわけではありません。

G大阪の切り替えの局面(トランジション)に穴があったのでカウンターが容易にできたことや、早い時間帯でリードを取れたことがあったと思います。

G大阪はボールを持つと、大外にSBを張らせます。そこから中央で2トップとSHがボールサイドに密集し、狭い局面を突破していこうという傾向がありました。その密集にはボランチ2人とも加わることも多々あります。

そのまま最後のクロスや裏へのパスまで到達すれば、その密集を活かして切り替えを行い再び回収する、という圧力が加わります。

しかし、ボランチも含めて密集に参加するということは、攻撃の途中でボールを失った際の攻⇨守の切り替え(ネガティブ・トランジション)への準備が不足していることも意味します。

今節、いつもよりカウンターが頻発したのはここに要因があったと思います。3得点目もここから生まれます。

ボールサイドに密集したG大阪ですが、矢島がサイドチェンジを選択。発射した場所が右サイドの大外で、そこから左の大外を狙ったわけですが、これは相当強いキックがないと成功確率は低くなるでしょう。

距離が遠くてそもそも届きづらいというのはもちろん、距離の分だけボールの移動にも時間がかかるので、西にとっても落下点へ移動する時間が確保できるからです。

そうしてボールを奪います。この時、矢島が右の大外、井手口がそのサポート、左の大外をSB黒川が担当しており、その分の配置の入れ替えなどもありませんでした。

つまり、浦和から見て右サイドの中盤に誰もいないことを意味します。

広大なスペースでボールを受けた田中はトップスピードに移行するための時間を十分に確保できました。

少しドリブルがズレましたが、フィルターなしのトランジションでゴール前まで行けば、ユンカーの見せ場ということになりました。

序盤の8分でもそうだったのですが、G大阪の攻撃時における攻守の切り替え、ネガティブ・トランジションへの準備不足をうまく利用した攻撃でした。

サッカーの局面を攻撃・守備・攻守のトランジションの4つに大きく分けられると思いますが、それぞれの局面は独立しているわけではありません。

攻撃している時はボールを失って攻⇨守のトランジションへ局面が移行する可能性が常にありますし、逆もまた然りです。

浦和はこういった、次の局面への準備が不足している状態での攻撃を避けようとしているので、翻ってその大切さが浮き彫りになったと思います。

修正の手がないG大阪

3点リードした浦和。G大阪も後半からもう一度ギアを入れて前から人を捕まえにきますが、後半最初のプレーから簡単に宇佐美の裏を取って前進に成功します。

宇佐美が中央から西に寄せているにも関わらず、中央の柴戸へのコースを切れないのはG大阪からしたら辛いはずです。外側では黒川が田中についているのでサイドへ誘導しなければいけない場面だからです。

もちろん、体を外に向けながら中央へパスできる西の技術、前に出た黒川の裏を狙って矢島を引っ張り、柴戸にスペースを与えた小泉など、浦和側の良い部分もあります。

しかし、前半から続いている守備の穴を修正できないG大阪のパフォーマンスは悪いと言わざるを得ず、浦和としては直近の試合よりは簡単な試合だったことを意味していると思います。

そんな状況もあって、中2日で迎える絶対に勝利が必要なルヴァン杯も見据えてユンカーや小泉らを交代する余裕も持てました。

その分、ペースダウンというか、多少は受けに回るような場面も増えたと思います。クリーンシートを意識した66分ごろからは2トップがリトリートする回数も増えました。

反面、スペースがさらになくなったG大阪は選手がボールを触りにブロックの外に出てくる状況も頻発。

ボールを触りに人が近寄ってくるとどうなるかは、停滞していた時の浦和を振り返れば納得がいくと思います。

失点するとしたら、パトリックや宇佐美らの個人技や、難易度の高い狭い局面でのボールタッチが連続的に成功した場合、PA内に放り込まれたクロスから事故的な展開が発生した時ぐらいだったと思います。

また、浦和の守備は前から誘導・規制をして特定のエリアに追い込み、複数人でボールを奪う形が表現できています。

前からプレスをかける場面も多いですが、完全に人を捕まえに行くわけではなく、進ませたい方向への誘導や、その誘導を元にした予測で後方が支援することができていました。

G大阪のパフォーマンスの悪さというか、仕組みが不足している部分に助けられた側面もあると思いますが、浦和はこういった守備ができていることも試合をコントロールできた要因です。

ある意味、人を捕まえることに強く意識が向いているG大阪とは対照的なやり方ですが、浦和がその守備を利用できた69:00のシーンは典型的でした。

こういったチームに対しては、効果的にボールを運ベルようになっている浦和。

興梠に取らせたいような場面も何度かありましたが、危なげなく完封勝利を収めました。

まとめ - 上がった標準と"全方位"

珍しくボール支配率は相手より低い試合となりましたが、終わってみれば完勝でした。

相手の稚拙さもあったと思います。ボールを持って相手を外していくことに関しては、そういった相手だとしても同じようにトライしていた昨年は苦労していたので確実に進歩しています。

C大阪戦も同様でしたが、誘導や規制、ユニットやチームでボールを奪う概念より人を捕まえることに強く意識が向いてる今節のような相手ならば、相手を見て前進していくことに関して概ね問題なく表現できるレベルには到達していると思います。

こういう相手ならこのぐらいはできるよね、という標準の高さが少しずつ上がってきていると感じます。

また、G大阪の攻撃における密集ゆえに、そのまま攻⇨守の切り替えの圧力を受けた時に保持しきれない場面もありましたが、その分カウンター対策の不備を利用できました。

リカルドの試合後会見の通り、理想はもっとボールを持ってコントロールすることだったと思いますが、別の形を見せられたこと自体はポジティブなことだと思います。

まずは自分たちが一番力を発揮できる展開へ持っていく力、そこで力を発揮する練度を高めることは大事です。しかし、それだけではいずれ勝てなくなったり、別の局面での強みを求められます。

全ての局面で高いレベルでプレーするいわゆる全方位型のチームが究極の理想であり、まだまだ先の話ではあるものの、目指しているものの先では求められることだと思います。

ですので、今節はボールを持つことだけではない展開での武器も見せられたという意味でも良い試合でした。

中2日でルヴァン杯、横浜FC戦です。必ず勝利が必要ですし、怪我人も全員復帰したとのことでメンバーも楽しみです。

その後、再び中2日で神戸戦と厳しい日程が続きますが上位戦線も見えてきたので、このまま調子を維持していきたいところです。

人への意識を利用して完勝した今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!



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