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【レビュー】時間の経過と質の維持 - 2021 J1 第12節 アビスパ福岡 vs 浦和レッズ


この記事でわかること

  • 福岡のゾーンを掻い潜るために
  • 徐々に下がる質
  • 立ち位置と運びの重要性
  • 時間の経過とともに現れる課題

リカルドが苦手としている長谷部体制の福岡でしたが、その通りの結果となってしまいました。

前半は7割以上の支配率を記録しながら、最後のクロスが合わない場面が多く、決定的なシュートシーンに持ち込めず。西川の珍しいミスで痛恨の失点を喫しました。

後半は時間の経過とともに立ち位置の部分における質が徐々に低下。相手のブロックを動かすための配置や、ボールを失うリスクのある攻撃を仕掛けてもポゼッションを回復する、という循環にもあまり入ることができませんでした。

ミスを差し引けばさほど問題はなかったように思える前半と、後半の閉塞感。組織的なゾーン守備を敷く福岡を割ることができなかった要因を探っていきます。


ゾーン守備の網を掻い潜れるか

昨年、浦和が苦労しながら導入していた、4−4−2のゾーンディフェンスを綺麗に敷いてくるのが福岡。

味方の位置を基準にして斜め後ろに立ち、常にカバーの関係性を担保することで相手のボールにアタックする準備を整えている福岡に対し、浦和はボールを持ってその網を掻い潜ろうとします。

バランス良く選手を配置して網の中に追い込もうとする福岡の組織を片方に寄せて逆サイドに展開したり、間でクッションを挟んで配置をズラしながら空いた場所をついていく狙いが見えました。

最初の進入経路はやはり構造上、2トップ脇。いつも通り柴戸が相手2トップの間や背後に立ち位置を取って中央へ収縮させると、その脇に起点を作っていきました。

2:15のシーンでは岩波が2トップの脇でボールを持ち、運んで相手の2トップと同じ高さまで進出。逆サイドや背後へのボールを出せる位置に自分を置いているので、得意のサイドチェンジを発射することができました。

残念ながらパス自体が長くなってしまいましたが、相手のブロックに対して最終ラインが2トップの脇から運び、そこから同サイド・背後・逆サイドを射程圏内に収めて複数の選択肢を突きつけながら攻撃できたシーンでした。

その後も浦和がボールを持ちながら相手を探っていきますが、8分になんでもないクロスを西川がミスしてしまい、失点。試合展開や相手のやり方を考えても痛恨のミスだったと思います。

ビハインドを背負った浦和ですが、やることは引き続き変わりません。

相手の中盤の間に興梠らが顔を出すことで相手を収縮させ、2トップ背後で前を向いている柴戸にレイオフ(落としのパス)する動きもありました。

また、相手のSH周辺に立ち位置を取って誘き寄せることで、背後の武藤や関根にパスコースを提供していたのは西。35:00のシーンでは自身が柴戸へ落とすことで逆サイドへの展開を実現しました。

このシーンでも福岡の右SB、サロモンソンが小泉の立ち位置に影響を受けた関係で裏にスペースが生まれ、明本がそこを使う形。立ち位置によって4バックを攻略する基本的な連動は問題なく行えていました。

敦樹が担う左サイド

左サイドでは敦樹が最初の起点になる役割を担うことが多かったです。その分、槙野が中央へ立ち位置を取ることが多く、全体としては3−1の形になることが多かったのではないでしょうか。

39:00の決定機も敦樹が2トップ脇から運んだところから生まれています。空いている2トップの脇から運び、相手の背後かつ間で待っている小泉へ。しかし、最後の明本のクロスに誰も飛び込めませんでした。

前半は2トップの脇から相手陣内に進出し、右は関根や武藤、左は小泉と明本でハーフスペースと大外をうまく使えていました。

しかし、いずれも最後のクロスのところで合わずにシュートまで辿り着けず。この辺りは試合後会見でもリカルドが課題として挙げていますが、最後のズレの解消や、決め切るところが合えば得点を取れていてもおかしくなかったと思います。

とはいえ、最後の部分は開幕してからずっと抱えている課題でもあります。連戦中でトレーニングは難しい時期ですが、勝ち点を上積みするうえでは改善が必須になります。

時間の経過とともに

再び相手のブロックをどう崩すかという問題に直面した浦和。後半は柴戸が怪我の影響で交代を余儀なくされます。

引き続き、ボールを持てる時間は確保できましたが、小泉が2トップを引きつける役割を引き受けます。ボールをもらいに下がらず、我慢して立ち位置を取ることは問題なくできていましたが、一方で彼の能力を相手のMF背後、最後の局面から取り除くことにもなりました。

また、いくら2トップを引きつけても、CBがその結果として空いている場所に立ち位置を取ったり、そこからブロックに向かって運べないと、相手を動かすことはできません。

前半は何度かチャンスを作っていましたが、後半は時間の経過とともに、最終ラインの立ち位置の部分での稚拙さが現出し始めます。

特に終盤は相手のFWラインを越えるような動きが減少。ボールを持っている場所からDFライン背後や逆サイドまでの距離も遠く、福岡の組織はボールが移動している間にスライドすれば良い状態でした。そのため、脅威として相手に突きつける選択肢が少なくなってしまいます。

特に連戦中は時間の経過とともに、立ち位置を取り続けて運ぶ動作が減ってしまう傾向にあります。

75:00前後はその象徴的なシーンで、岩波が適切な立ち位置を取れていないので相手のFWラインも越えられず、福岡のブロックを意図的に寄せたり、間を作り出したり、ということができていません。

小泉が2トップの間と背後に立ち位置を取って脇のスペースを生み出そうとしていますが、岩波が立ち位置を取れていないので、有効活用できませんでした。

立ち位置として相手のFWから距離も近いうえに、ラインも越えられていません。この場所でボールを持っても、逆サイドやDFラインの裏の選択肢は持てないため、福岡に対して特に脅威を与えることはできないのです。

ゾーンの原則通り味方と連携して立ち位置を取れている福岡にとっては、ボールが来るとしたら同サイドであるという予測がしやすく、平たく言えば簡単な守備だったと思います。

このシーンの直前では、起点としたい2トップの脇に西や武藤に入ってほしいようなジェスチャーを岩波が出していましたが、西は関根の交代後、サイドの幅取り役を担っていました。

この役割分担をしている以上、西をビルドアップに参加させるとリソースを前に残せません。大外を取る選手がいなくなるので、福岡の組織は中央を固めて武藤をケアすれば良いだけです。前半の左サイドのように、小泉がSBを引きつけて大外を明本が取る、そんな攻撃が物理的に実現しえないからです。

ですので、ここは岩波に担って欲しい場面でした。

数的有利のはずなのに

続く81:00では、ブルーノ・メンデスが治療のためピッチを離れており、浦和は数的有利の状況。しかし、稚拙なビルドアップで自ら数的不利に陥るような状態でした。

福岡は4−4−1にしてブロックを組みますが、後方は小泉がボールを引き取って全て自分でやってしまうような形に。1トップの脇からボールを運んで前線へパスをつけますが、CBのふたりは参加していないも同然です。FPがひとり少ない9人の福岡に対し、浦和はFP8人でやっているような状態でした。

これでは、優位を効果的に作ることはできません。小泉はボールを引き取り、その後ろにいるCBが1トップに対して優位を取ることをチームとして放棄していては、いくら相手が少なくても何も生まれません。

終盤、福岡にとってはボールが組織のはるか前方を移動している状態だったと思います。手薄になりがちな逆サイドや一番危険な背後を狙われても、ボールの移動に時間がかかります。ボールが移動している間に自分たちの組織も移動すれば良いだけです。

そうなると、同サイドの縦パスに対する予測や準備が行いやすく、網の中に入ってきたボールに対して前向きにアタックしやすくなります。そこで奪えればボールが進む方向が反転して福岡の選手が有利になりますし、2トップも前方に残せているので難なくカウンターへ移行できるわけです。

最終ラインの課題

これは、浦和がゴール前の課題と同じかそれ以上に抱えている問題でもあります。残念ながら岩波と槙野が得意なプレーではなく、昨年からずっと改善を要求されているところでもあります。もちろん、その意識は見えますし、実際にできている時間帯もあります。

しかし、もう一歩チームが進むためにはビルドアップにおける更なる改善が求められます。改善策としては、成長を待つ、できる人に替える、仕組みとして隠すといった選択肢が挙げられます。

ルヴァン杯を見る限り、このビルドアップの部分で一番成果を期待できるCBは工藤です。しかし、守備や強度への耐性という、ビルドアップよりも大事な部分に関してはJ1のレベルではまだ耐えきれないという判断は当然だと思うので、現実的ではないでしょう。

当然、2人の成長やトーマスの復帰にも期待はできますが、現状の浦和のリソースと照らし合わせて即効性のある方法は、最後の仕組みで隠すということになります。

それがこの試合における、左サイドの敦樹でもあります。彼が進入経路の2トップ脇に立ち位置を取ることで、槙野をその役割から解放することになりました。しかし、2人分を仕組みで隠すとなると、リソースを相手の背後に残せません。ですので、全て他の仕組みに任せるということもできないのです。

CB陣を槍玉に挙げるような形になってしまいましたが、彼らが90分間ずっと、全くできていないということではありません。

改善の意識はあるし、先述したように前半では立ち位置を取って運べているからこそ決定機の創出や、効果的な攻撃ができています。

連戦中は時間の経過とともに稚拙さが目立ってきてしまう印象ですので、できている時間帯で得点を奪い切ってしまえるか、という部分が大切になってくるかもしれません。

また、トレーニングの期間が取れれば、4月の鹿島戦のように再び基礎的な部分を表現できる時間帯が増えるかもしれません。いずれにしろ、現状のリソースと抱えている課題、ここに向き合いながらどう勝ち点を拾っていくかということには変わりありません。

後半は徐々に効果的な攻撃ができなくなった浦和。最後はジョン・マリの力技で押し切られて2失点目を喫すると、そのまま敗戦しました。

まとめ - 時間の経過と、現段階の課題

組織的なゾーン守備とカウンターでJ1でも好成績を残している福岡を相手にした今節でしたが、残念ながら敗戦してしましました。

しかし、前半は適切な配置と役割分担で福岡の組織を横に振りながら最後のクロスに到達したり、中央を割れそうな場面もいくつかありました。明本や小泉のクロスに興梠や関根が合わせきれていたら、1点は入っていたでしょう。

後半は柴戸が交代しましたが、ボールを失った時のカウンター対応も含め、柴戸が担っていたアンカーの役割を他の誰かが全て同じように担うことはできません。

2トップを引きつける立ち位置に関しては小泉が担いましたが、それは彼の位置が低くなってしまうということでもあります。得点を取るという意味では、やはり前半のように相手MF背後、最後の局面で小泉の能力を発揮させたいところです。

また、時間の経過とともに、全体の立ち位置の良さも減少してきてしまい、終盤は効果的な攻撃ができませんでした。前半と終盤を見比べると、立ち位置やボールの持ち出し方の部分で違いがあることは明白です。

今回はイージーなミスもあって試合を難しくしてしまった側面もありましたが、浦和自身のクオリティの問題も結果に影響してしまったと思います。

鹿島戦のレビューで、連戦の中でもクオリティを維持できるかという主旨の文章を記載しましたが、今節はその懸念が表出してしまいました。

引き続き、ルヴァン杯を挟んでの連戦です。時間の経過とともにクオリティが下がってしまう傾向のある現在の浦和。次節の仙台戦では一定以上のクオリティを試合を通して維持できるでしょうか。

それとも、早い時間帯やセットプレーでゴールを取り切ることで勝利を引き寄せることができるか。

どちらかは担保できないと、勝ちは拾えない可能性があると思いますが、チームはまだ構築途中なので長い目で見ていきたいと思います。

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浦和レッズについて考えたこと

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