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Cover Image for 【戦術レビュー】手応えと危機感 - 2022 J1 第28節 鹿島アントラーズ 2-2 浦和レッズ

【戦術レビュー】手応えと危機感 - 2022 J1 第28節 鹿島アントラーズ 2-2 浦和レッズ


この記事でわかること

  • 想定外の前半
  • ミスマッチを作る改善
  • ハーフタイムでの修正
  • 戦局を変えた柴戸投入の一手
  • アルヒラルを倒せるのか?

浦和レッズサポーター間での議論活性化を目標に戦術を解説するマッチレビュー。今回はJ1第28節、鹿島アントラーズ戦です。

ACLの激闘からやや期間が空いてのリーグ再開初戦でしたが、2-2の引き分けに終わりました。

コンディションの面でアクシデントが多い中、2点のビハインドを追いついたことは手応えを感じます。

一方で、過去と未来を見据えた時に、勝たなければいけない試合を勝ち切れなかった危機感も募りました。

その両面について、戦術的な側面以外も含めて振り返っていきます。

想定外の形と裏目に出た可変

まずは想定と違った前半について見ていきます。

岩政体制の鹿島を見ていると、ダイヤモンド型の中盤で4-4-2を組んでくる想定をリカルドはしていたはずです。

この日の鹿島の陣形は形容するならクリスマスツリー型。トップ下を置くのではなく、中央に位置を取る3トップの真ん中に鈴木優磨、右に仲間、左にカイキという並びでした。

守備の際に中央の鈴木優磨が岩尾を監視するような役回りで、カイキと仲間がCBをケア。

ただ、形は想定とは違っても本質的には事前の予測と大きくは変わらず、浦和のSBを浮きやすいことに変わりはなかったです。

特にゴールキックも含め、岩尾が降りつつ彩艶も関与して繋ぐ時には、SBを解放するボールをつけることができていました。

彩艶のディストリビューション(配球)がかなり良かったですね。

もっと強気で良い

岩尾が鈴木優磨に見られているので、最終ラインに逃げつつショルツを押し出したり、岩尾が空けた場所に小泉が降りてフリーマンになることを狙っていました。

ただ、どうしても宮本ところで前に進んでいけなかったり、パスを出した後のサポートを含めて、選択肢が近くや内側の味方を使うことが多かったかなと思います。

もちろん10:20の関根から松尾への展開が通ったシーンなど、宮本を解放したことで良い展開が生まれた場面もあります。

ただ全体的に、もう少しボールを持てた時にチャレンジするというか、リスクを取って運ぶ、自分で相手のファーストラインを越える選択肢が欲しかったかなという印象です。

思惑通りの失点

失点シーンを振り返ると、鹿島の思惑通りの攻撃経路を進んでしまった印象です。

カイキと仲間を比べると、守備でも献身的に仕事をこなせるのは仲間で、宮本がボールを持った時に小泉の横から押し込むようなプレッシングを行なっています。

宮本はそのまま小泉にパス、近くに寄ってサポートをする選択をしました。

リターンをもらって左サイドに展開する経路が見えていたかもしれませんが、小泉の選択は前に進むことでした。

ただ、このシーンでは浦和が右サイドに閉じ込められた格好になり、鹿島側からすれば体の向きや視線を同一の方向のままプレーできる環境で、思惑通りに絡め取られてしまいました。

この時、岩尾は最終ラインに下がっており、敦樹は前線に潜っています。

そのため、ボールを失った時に中盤のフィルターがかからないという問題もありました。

意図的なマッチアップ

2失点目は少しアクシンデントが重なったものの、結果的にはロングボールのマッチアップで前進されました。

鹿島は前節・川崎戦でも登里に鈴木優磨をマッチアップさせて長いボールを狙い撃ちすることはやっていたので、同じような構図をカイキと宮本で作られて失点したのは残念かなと思います。

非保持は5枚気味にする選択もあったと思いますが、4枚で内容と結果が出ている継続性を優先したということで、リスクの方が強く出てしまったのかなと思います。

ミスマッチを作る配置に変更

2失点目の前後で浦和は布陣を少し変更して、4-1-5から可変する形から3-2-5気味に変更します。

最初は4枚から監視されている岩尾の位置調整を基準にした可変での前進を狙っていました。

盤面を大きく動かすので、ある意味で強気の姿勢だったと思いますが、そのリスクの部分で失点したことも事実です。

なので、鈴木優磨が岩尾をに付くことを前提に、カイキと仲間に対して最終ライン3枚を作り、ミスマッチを生む方法に変更します。

これにより、小泉が降りることを防いで右のハーフスペースでの役割、相手のポケットを取りに行くタスクを担ってもらい、左に押し出されるショルツは相手のファーストラインの脇から運んでいけるので、5レーン+1枚での攻撃を仕掛けるためにも、前に潜っていく役割が適任な敦樹を左に配置します。(クロス対策の意味もあったかもしれません)

これでボールを失った際に、中盤での人数不足発生を防ぐことにも繋がりました。

1点を返したシーンでも、一回はボールを失っているものの、中盤での切り替えの守備が効いて再び浦和の攻撃にして、右のハーフスペースに移った小泉の裏抜けからゴールを奪っています。

ユンカー起用の負の側面と柴戸投入

ハーフタイムではさらにハッキリとした修正を行います。

ボールを持っているときに3-2-5の傾向が強くなったことと、守備面において、特に鹿島のメインの攻撃であるSBの幅を使ったアーリークロスに対してハッキリ対応しようということで、5-3-2気味に変更しました。

ボールを持っていない時には関根に安西、大畑に広瀬をケアしてもらう5枚気味です。

蓋を開けてみたら鹿島は4-4-2にしてきましたが、中央のレーンに3トップを置いて負荷をかけてくることに対して、中盤の厚みを補強する面もあったと思います。

また、前線からの追い込みの面で、ファーストラインとなるユンカーがネックになる部分も多く、その可動域と言いますか、担当するエリアを狭める狙いや、今となっては中央で力を発揮する松尾の配置調整の意味もあったかもしれません。

ボールを保持した時の形はあまり変わらず、鹿島が4-4-2にしてきたこともあって、宮本か岩尾が下がって3バックを形成することが基本となりました。

試合後のコメントを読むと鹿島がペースを落とさざるを得なかった面もありますが、関根と大畑を大外に置いた5レーン活用で、相手のSHの内側や幅を使った攻撃、ボールの前進はできていたと思います。

プレッシングのスイッチ

ただ後半開始10分ぐらい経つと、どうしても守備の問題が顔を出して、徐々に押し込まれていきます。

この辺りはユンカーのデメリットの部分が大きく出てしまって、2トップの追い込みの基準作りが足りなかったのかなと思います。

ファーストラインが数的不利になるのは基本なので、プレッシングや規制をかけるためには、動きを止めずに二度追いする連続性が求められます。

ユンカーは背中で消しながら一人で二人を見る、ということをやってはいるのですが、相手に何かしらの判断やアクションを強要するまでの追い込みはできていません。

ボールを持ってる側の視点から見て、自らの判断でプレーするのではなく、相手が迫ってきているからパスなりドリブルなり、何かをしなければいけない、という状況に追い込めているか?というと、それができていない印象です。

なんでもかんでもスピードを上げて追うのは逆に危ないのですが、背後を消して追い込みながら、どこかでファーストラインにいる一人目がスピードを上げて相手に迫れないと「奪うための追い込みを始める」という基準が作れません。

いわゆるスイッチを入れるってやつですね。

これがないと、守備ブロックを構えたところから、構えたままになってしまって、相手の侵入を待つ形になります。

特に5-3-2ですと、どこかでスイッチが入らないと後ろに重たい、自陣に篭るような形になりがちです。

陣地回復もできない

すると、ボールを奪ったり跳ね返したりする位置が低くなります。

となると、ボールを奪った時にプレーエリアを前に押し上げる、いわゆる陣地の回復が求められますが、その場合は相手を背負ってもボールを収めて時間を作ってしまう、そういう選手が必要です。

ユンカーや松尾はそういうタイプではなく、前向きな出し手を作れた時に、相手の背後を一気に襲うことで価値を発揮するタイプです。

こういった流れで55分あたりからの約10分間は鹿島がボールを持っているところで5-3-2を構えている、そんな時間が続きました。

浦和としては能動的にチャンスを作っていくことが難しかったわけですね。

柴戸投入で打開

なので、67分に柴戸を投入して、ファーストラインを松尾と小泉に変更したことは、これを打開する一手でした。

関根や大畑が相手のSBを監視するタスクは継続しつつ、2トップの追い込みを強化。

鹿島はCBとピトゥカのビルドアップに、和泉や樋口がヘルプに降りてくる形が多いので、そこに対して前に出て行ってボールを奪うことができる敦樹と柴戸がインサイドハーフ的な役割を担いました。

この2人は単純にボールを奪えるという面もそうですし、プレスバックや逆サイドにボールがあるときに絞って対応できる強度や運動量があります。

見方によっては4-4-2に戻したという感じですが、フォーメーションの数字はそんなに気にしなくて良いと思います。

守備のファーストラインを松尾と小泉にすることに意味がありますし、その脇で、2-1のビルドアップにヘルプに降りていく和泉や樋口を捕まえに行きながらも破綻しないのが柴戸と敦樹であり、構えたまま押し込まれていた構図からの脱却を図った一手でした。

直後に柴戸が和泉からボールを奪った流れから大畑がフリーキックを獲得して、同点に追いついたのは全てがうまくハマった感はありますが、成果と言って良いと思います。

この後も、鹿島SBの幅を関根と大畑で制限しつつ、ファーストラインの追い込みによってプレーエリアの前方へのシフト。

それによって鹿島が蹴ったボールに対して中盤が球際で制圧することができ、浦和がボールを持つ回数や時間が増えました。

ボールを持てば3枚回しからサイドの幅と、陣形の間をついていく前進ができていましたし、この柴戸の交代から試合の流れを取り戻しました。

時間の経過とともに鹿島は受けるしか手立てがなくなって5-3-2にしますが、脇のスペースからボールを前進させる構図は変わらず継続できたので、浦和の方に勝機がありました。

まとめ - このままでACL決勝を戦えるか?

2失点したものの、後半の修正や選手交代で浦和の流れに引き戻して結果的には2-2の引き分けでした。

この試合だけ見れば、主力が欠場したアクシデントの中で2点ビハインドを取り返したゲームだったかもしれません。

ただあえて言いますが、今回の試合は勝たなければいけない試合でした。

もちろん相手が鹿島であることもそうですが、鹿島の現状のレベルを見てもそうです。

直面した課題

もう一つの文脈として、昨年10月前後に、狭い場所を作って高い強度を出してくる相手に、実力を出せるか、個人個人が相手より上にいけるか?というのを問われて、まだ足りないね、となった経緯もあります。

ちょうど、アウェイの鹿島戦や神戸戦でその課題に直面しましたよね。

そのような文脈を考えても、同じようなことを問われそうなのがこの9月の連戦で、そういう面が要因で失点したのは残念です。

個人のレベルアップ

個人攻撃をしたいわけではなく、結果として主力が出ていない分で不足してしまったところや、小泉がコメントしていたように、主力として出ている選手でも、こういう時にチームを勝たせることができるか?という面で足りないところが出てしまったことは事実です。

うまくいっているチームや選手の組み合わせ、その役割を完全にリプレイスするのは全く同じ人が何人もいなければできないので、人が変わった時にどういうチームの解答を出せるか、という点も重要です。

松尾と小泉のセットと、ユンカーや江坂のセット、今回のようにそれぞれの組み合わせが変わった時にどうやって良い内容に繋げていくか、という面ではチームとしての課題になると思います。

見据えている場所はどこなのか

主力が欠場するアクシデントがあった中で、ビハインドからよくやった、というのは事実ではあるものの、だから勝てなくても仕方ないでは済まされません。

なぜなら、このチームが見据えているのは今季の3位であり、来年のリーグ優勝であり、ACLの決勝です。

この程度では、主力とされる選手のコンディションがシーズン中維持されて離脱者が少ない、などの相当な運の良さを味方に付けないと優勝できません。

そしてみなさんも強烈に覚えていると思いますが、2019年のアル・ヒラルを基準として置けば、今回の状態では到底太刀打ちできないと感じます。

決勝はオフ明け最初の試合になることが予想され、全員のコンディションがトップを維持している保証はない一方で、西側のチームはシーズン中、決勝の1〜2週間前にトーナメントを戦ってきます。

そして現状のルールの解釈では、浦和がこの冬に獲得する選手は出場できません。

今回直面した課題としては、昨年の10月とは一段上がっている課題だし、シーズン序盤の大量の引き分けの時期と比較しても、チームとしての型や役割の分担、相互理解といった課題もクリアしているので成長はしています。

今回はひとつの最適解が出たうえで、別の選手が出た時にどうなるか?ということでした。

誰が出ても一定の基準をキープする点はこれからの伸び代でもあるけど、今回の試合の基準だと来年の優勝やACL決勝までにクリアできるのか?という危機感は募ります。

目標は持ち続けたい

また、今季の3位、最低でも4位の目標すら、危ないものになってしまう怖さがあります。

これは2020年や2017年なんかを思い出してほしいのですが、何もかかっていない試合というのは、選手も人間ですから、モチベーションの持っていき方が難しい面が当然あります。

シーズン序盤の悩みは解消して成長を見せたことは事実ですが、それと同時にチームやクラブのフェーズとしては、メンバーが変わろうが今の鹿島のレベル程度だったらやれないとダメだし、そういうことを継続して上位陣相手に見せなきゃいけない9月だと思っています。

とはいえ、じゃあ明日から急激にレベルアップするか?というとそれはあり得ないので、目の前の1試合に向き合いながらやっていくしかないです。

主力の不在がどうとかは関係なしに、9月の上位陣との対決でどこまで基準を上げていけるかはしっかり求めていく必要があると思います。

そして今回出場した選手たちももっとできると思っていますし、2019年末から考えれば随分と成長して強くなってはいるので、その歩みを速めていければと思います。

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